追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

どうしようもないもどかしさと、真実の愛(:淡黄+)


View.クリームヒルト


「婚約者居た事あるのか!?」
「ま、まさか黒兄が財政難のシキでの領主生活を続けるために、アプリコットちゃんを娘として引き取って変態貴族に差し出そうと……!?」

 そう、慣れない領主生活であらゆる事がままならず、精神的に追い込まれた所をつけこまれ財政難にあった黒兄が、多額のお金を受け取る代わりに娘として差し出そうとしたというのだろうか!

「クリームヒルト先輩。分かっていて言っているであろう」
「あはは、まぁね」

 うん、黒兄は間違ってもそんな事はしないだろう。貴族の立場が危うくなり、貴族として救う代わりにアプリコットちゃんやグレイ君を差し出せとか言われたら間違いなく断るし、「身分? じゃあ捨てるわ。じゃあな貴族生活!」とか言いそうだ。もしもクリ先輩のような他の家族を人質に取られた場合は……多分、グレイ君達の今後を信用できる誰かに預けた後、単独でその脅して来た相手を可能な範囲で“事”を起こす。“準備をする”黒兄はそういう性格だろう。ようは間違っても家族が望まぬ婚姻を果たす事を望まない。

「我の婚約者とは、元の実家の方に居た頃である」

 そしてそうなると、アプリコットちゃんの場合の婚約者とは、実の娘が自分より才能が有るからと嫉妬して奴隷として売った腐った親が居る家に居た頃の話になる。
 ……けれど、確かアプリコットちゃんって十一、二歳くらいの時にシキに来たような気がする。まぁヴァイオレットちゃんも五歳の時に婚約者としてヴァーミリオン殿下と結ばれはしたようだから、不思議ではないのかな……?

「アプリコットって、前の家は十歳くらいの時に出たって言ってなかったっけか?」
「そうであるな。貴族の真似事で、貴族と繋がろうとした哀れな愚親の愚策だ」
「恨みがましく言うんだな。当然と言えば当然かもしれないが……」
「……当然である。我が八歳で既に興奮して“今から好みに育てるという趣向も有りか”などと言う、親より一回りは年上の他に妻が数名居る男だぞ」
『うわぁ……』

 それはなんというか……うん、絶対怖い。子供ながら恐怖を感じ、トラウマになってもおかしくないレベルである。

「それで、どうなったんだその後?」
「父……血だけは繋がっている男に嫌だと逆らって、逆上したから魔法で圧倒した。その時点で僕――我はアレを超えていたからな」
「八歳で親を超えたのか……凄いなぁ。僕が八歳の頃は僕の力を追って来る五名の襲撃者を追い払おうとして、力を暴走させてふっ飛ばしていたくらいだよ」
「十分凄いと思うのだが」
「お父さんは倍の数ふっ飛ばしてたし。でもあの頃一気に力が増して、お父さんにドンドン追い付いていった気がするよ」
「あ、私もそのくらいで成人男性をめっちゃ殴ってめっちゃ倒して黒兄に喧嘩を売りに行ったなぁ。あの年齢って成長感じやすいよね!」
「ああ、分かるぞクリームヒルト!」
「…………」

 今世でもそうだけど、あの位だと成長も感じられて楽しくなったものだ。
 喧嘩を売りに行った後は黒兄も優しくしてくれるようになり、稽古もつけて貰った。その度に自分が強くなる感じがとても楽しくて――む、なんだろう。アプリコットちゃんが複雑そうな表情で私達を見ているね。

「で、我の昔の婚約者は良い。スカイ先輩の婚約者の話であろう?」

 あ、また話が逸れそうだったから複雑そうにしていたのか。
 いけないけない、ちゃんと話をしないと。

「それで。クリームヒルト先輩はどうしたいのだ?」
「どうしたいって?」
「スカイ先輩が家の事を考えてしまい、気持ちを我慢して無理な婚約をしないように相談に乗って気持ちを切り替えさせるのか。あるいは相手を調査し、怪しいのなら多少無理にでも無かった事にしたいのか」
「両方」
「言い切ったな」
「即答だね」

 その二つは確実にするというか、無理な婚約を前提にしているから私は両方する。
 余計なお世話かもしれないけれど、スカイちゃんにとって少しでも好ましくない事ならば放っておけない。なにせ……

「スカイちゃんはさ、ティー君の護衛を辞めなければならないかもと言っていた時、何処か寂しそうだった」
「……スカイのヤツ、前もずっと護衛としてティー殿下に仕えたい、って言ってたもんな」
「うん。その時の笑顔が私は好き。騎士として誇りを持ち働く……それこそが昔からの憧れだったんだ、みたいに言っていたのを覚えている」

 だからこそ、自分のやりたい事や喜びを抑える必要があるかもしれない今回の婚約の件について思う事があるのである。
 スカイちゃんの実家はローズ殿下のお陰でなんとかなっているらしいけど、それでもあまり裕福でない事は確かだ。そこにつけこむ輩が居ないとは思えない。

「スカイちゃんは美人だし、スタイルも格好良いし、性格も真面目かつ相手を立てる事が出来るし、料理もそこそこで掃除は……ヒャッハーだけどとても上手いし、正直狙う輩が多いと思うんだよね」
「掃除ヒャッハー?」
「スカイの奴、とても汚れた所を見ると“楽園だ……!” と言いつつ掃除をしたくなってすごい勢いで掃除をしだすんだ。その時の強さはメアリーさんを凌ぐよ」
「何故掃除をするのに強くなるのだ……?」

 ちなみにスカイちゃんはマイ掃除道具を持っており、名前を付けて可愛がっている。そしてヒャッハー状態になった時は何故か戦闘力が上がるのである。本当に強くてかつてその状態で勝負を挑んだら決着がつかず仕舞いで後には綺麗になった周辺が残ったのである。

「ともかく、間違いなく良い子だから、権力でものを言わせようとする……それこそ親より上の変態とかが狙うかもしれない。けど……」
「けど?」
「……例え凄く年上でも、実は良い相手になるかもしれないし……スカイちゃんは年上好きっぽいし……最初は愛が無い契約結婚でも後から上手くいくかもしれないし……」

 すごく年上でも娘のように大切に扱い、無理を好まない相手かもしれない。
 悪い噂があっても、黒兄のように噂だけかもしれない。そして黒兄達のように最初は唐突な愛の無い結婚でも、後々あんな風にラブラブになるかもしれない。
 だからこそ額面だけを目にして邪魔をする、と言うのはなにか違う気がする。

「ようするに、なにも出来ない事にモヤモヤしている、という事であるか」
「……そうなるかな」

 ……私ながら情けない話ではあるけど、結論を言うとそうなる。
 ああ、もう、もっと分かりやすい話だったらいいのにな……

「もういっそ、“真実の愛を見つけた!”作戦で行く?」
「なんだそれ」
「スカイちゃんを良いヒトを出会わせて、婚約が正式決定して夫婦になる前に婚約破棄をさせる……?」
「何処かの領主夫婦の妻の方を思い出すな、それ」
「だよね……でもその妻が寝取られた真実の愛を見つけた方は、見つけた癖に愛をまだ結びきれていないよね」
「そこの所どうなのだ、同じ相手に対し真実の愛を見つけた四名の内のシルバ先輩。真実の愛は結べそうであろうか」
「やかましいよ!」
「真実の愛ってなんだろうね」
「少なくとも男を四名侍らせたり同時に付き合うような悪女のような事はしない事は確かであろうな」
「最後の真実の愛を掴めるよう頑張ってね!」
「余計なお世話だ!」
「真実はいつも一つだって私の初恋の人が言ってた!」
「それを聞いてどうしろと言うんだ!」
「シルバ先輩、大声を出すものでは無いぞ」
「そうだよ、シルバ君。静かにね」
「お前ら……!」

 私とアプリコットちゃんがシルバ君を揶揄い、ふてくされてしまったので謝罪もした。
 スカイちゃんの件はなにも進展ないけど、今の私達にはどうしようもない。これからスカイちゃんの動向と相手に関して気をかけるだけにしよう。
 そう思いつつ、私達は食堂が締まるまで楽しく会話をしたのであった。







View.メアリー


 生徒会室にて、アッシュ君が真剣な表情で私達にとある事を言いました。

「アプリコットがどうやらハートフィールド家の財政難を救うために、一回り年上の変態婚約者を見つけ結婚し、真実の愛と両方を得るために同時に付き合う悪女となろうとしているようです」
「なにがあったのです」

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