追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

気持ちの問題(:淡黄)


View.クリームヒルト


 結婚相手の継承権を得るため。
 経済的支援を得るため。
 同盟目的の人質扱い。

 私の周囲は自由恋愛をしている貴族ばかりだったので忘れかけていたが、貴族の結婚は政治的な部分が多く占める。いわゆる結婚する当人同士の気持ちなど関係無い、政略結婚だ。
 ……納得は出来ないが、理解は出来る。そういった結婚もあるだろうし、戦争を回避するためや混乱を生み出さないようにするために時には必要だろう。それに利益を得るために愛の無い結婚をするなど、貴族という身分が無くなった私が居た前世の日本でもよくあった事だ。それが間違っているとは言えないし、間違いだと否定して認めないのはただの害悪としか言えないだろう。

「で、スカイちゃんの政略結婚についてどう思う、シルバ君」
「……なんで僕に聞くんだよ」

 だからと言って友達であるスカイちゃんが、望まぬ結婚をするというのなら思う所もある。そう思った私はスカイちゃんと色々と話した後別れ、丁度食堂のバイトが終わりだったシルバ君を捕まえて、一緒に夕食を取りながら聞いてみた。

「そりゃ僕も思う所はあるけどさ。お貴族様の政治とか、根っからの平民である僕にはよく分からないよ」

 シルバ君はまかないである鶏肉のステーキを食べながら、私の言葉に同意しつつも曖昧な返答をする。何処か苦々しい表情なのはシルバ君も愛の無い結婚に思う所があるのだろうか。単に付け合わせのブロッコリーが苦手だけど成長するために鶏肉と一緒に食べたけど苦かっただけかもしれない。

「大体相談する相手間違っているだろ」
「え、なんで?」
「なんでって……クリームヒルトはスカイの政略結婚をどうにかしたいと思っているんだろ? だったら僕じゃ無くて、それこそお兄さんのエクル先輩とティー殿下とかに頼めばいいじゃないか」
「あの二人にも相談出来たらするけど……あまりする気にはなれないかな」
「なんでだ? 発言権のある伯爵家の実質当主と、王子としても力を持っている第四王子だ。大抵の事は解決できるじゃないか」
「え? ……あ、そっちか」
「?」

 私が二人に相談する気になれないというのは、どちらかと言うとこういった類は同じ平民生まれで比較的価値観が似ているシルバ君だから気軽に相談できる、という意味で言ったのだけど、シルバ君は違う意味で言っていたようだ。
 どうやらシルバ君は兄であるエクル兄さんと、私を好いている事を隠そうともしないティー君なら私の頼みを聞いてくれる上に、権力などを使って大抵の事は解決できるという意味だったようだ。

「あはは、そりゃ明らかに相手が酷くて、どうしても使う必要があるのなら使うけどさ。権力でどうこうしたい問題じゃないんだよね」
「そうなのか? よく“ふはは、貴族としての権力が凄い! 平民である私には勝てないのか!”とか言ってたくせに」
「私そんな風に笑ってたっけ」

 まぁ笑い方はともかく、私はよくそういった事は言っていた。
 今はメアリーちゃんの活躍によって改善はされてはいるが、入学当初とかはノワール学園長先生という学園のトップが対立を煽っていたのも有り、見えない身分差別……というか、言葉に表せられない空気が学園に流れていた。
 それらを改善するにあたってエクル兄さんとかヴァーミリオン殿下とかアッシュ君とかが、うるさい貴族、裏工作をしていた貴族などを己が身分の高さによって言い訳無用の状態に追い込んでたりした事は多くあった。
 例えば今シルバ君も言ったが、ある一件で「公国と繋がっていたヒト達はどうなったの?」とシルバ君がアッシュ君に尋ねた所、「知りたいですか?」とにこやかだけど怖い笑顔を向けた時があった。あれこそ平民の私達が知るべきでない事であり、まさに高い身分の権力は大抵の事が出来るのだと、私は茶化しながら思ったものだ。
 そして今の私は新参とはいえ身分で色々と出来る伯爵令嬢になったし、ティー君も私がどうにかしたいと言えば喜んで出来る範囲で力を貸してくれるだろう。

「というか私は本当は庶民だし伯爵家の権力を乱用する気は無いよ。大体使うんだったらこうして平民御用達こっちの食堂を使わないし、シルバ君とかにも色々言うだろうし」
「まぁ、そうだな。クリームヒルトはそうだよな」
「それに……特にティー君の方の力を借りるのはしたくないかな」

 だけどスカイちゃんの一件に関わらずとも、フォーサイス家もだが、特にティー君の第四王子としての身分の高さの力を借りるのは……したくない。

「なんでだ?」

 なんでと聞かれると、上手く言語化するのが難しい。
 必要な時は出て来るだろうし、私も知らない内にその威光にあやかっているかもしれない。というか今の私はエクル兄さんの力や、私達の間柄に勘付いて文句を言いたい他の貴族が居ても、ティー君が知らない所で頑張っていたり、ヴァーミリオン殿下の庇護のお陰でなんとかなっている状態かもしれない。
 そんな既に権力の恩恵を貰っている立場かもしれないけど、ティー君の立場を頼るのは……

「……なんかイヤ」

 ともかく、イヤなのである
 我が儘だとは自覚しているのだけど、その感情が私の中に湧いて来る。
 平民という身分に関係無く、両親や生まれ故郷にはあのような扱いを受けているのを見て、戦闘中の私の笑いを見た上で――

『え、えっと……クロさんのために頑張って解決しようと無心でいようとしたけれど、優しい心が耐えられなくて泣いている女の子に見えましたが……』

 ……そして、雪が降っていたあの日の夜。
 血に染まった私を忌避もせず駆け寄って抱きかかえ、優しい女の子などと言ってくれた彼の立場に縋る事はしたくない。……それをしたら、私の事を好いてくれている彼に顔向けできなくなる。
 なんとなくだけど、そう思ってしまう。だからイヤだ。

「ふーん。……ふーん?」
「……なに、その表情」

 私が“なんかイヤだ”と言った事に対し、シルバ君は先程のスカイちゃんの「分かっていますよ」的な視線を向けられた。
 ただ違うのはスカイちゃんは分かっていた事を再確認して微笑ましく思っていたのに対し、シルバ君は意外に思った後に「ほほう」と私を観察しているかのようだ。

「いや、別になんでもない。ただクリームヒルトも女の子なんだな、って思っただけ」
「あはは、今まで男の子だと思っていたのかな。そしてどういう意味かな。言わないと伯爵家と王族の権力が待ってるよ」
「使うのがイヤだと言ってたのは何処行った。まぁ、言える事があるとしたら……恋は良いよな、見えなかった景色が見えて来るもんな」
「分かった様な事を言うシルバ君には、鶏肉ステーキ一切れ頂くよ!」
「あ、コラ! だったら僕はそのミートボールを貰う!」
「お貴族の食事に手を出すと不敬だよ! 極刑、そして島流し!」
「身分を乱用しない話は何処へ行った!」

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