追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

外堀を埋められる前に(:淡黄)


View.クリームヒルト


――あのイチャイチャぶりを私がするのは遠慮したい、かな。

 黒兄とヴァイオレットちゃんのイチャイチャを思い浮かべ、私とティー君であのポジションのどちらかに私を当てはめて考えようとしたら脳が拒否した。
 見ている分には喜ばしく思う。なにせ前世では私や何処かの母のせいで良縁には恵まれなかった黒兄だ。黒兄が良い相手と幸せそうにしている、という事は偶に辟易する事はあっても喜ばしい。

「あはは、生憎と私とティー君の仲は良好だよ。あんな風にまではイチャイチャはしないけどね」

 だが私があのようにするのは私の性格的に合わない。
 私とティー君はなんというか……友達みたいに「ヘーイ!」とする感じだ。甘い言葉をかけられてもなんぞそれ状態になるだろう。

「ふふ」
「どうしたのスカイちゃん、急に笑って。自慢の筋肉がデカ過ぎて固定資産税がかかりそうになったの?」
「どういう意味ですかそれ。そうではなく、“仲が良い”というのを否定しない事につい嬉しくなりまして。以前ならなにかと否定したりしていたでしょう?」
「む」

 ……そういえばそうだ。以前の私であれば、私に相応しくないほど立派な相手だからと、仲が良い事を否定をしていた。いつかは気持ちが冷めるか、周囲が認めないから周囲に冷やかされても、あくまでも友達として話せる程度の間柄だと言い、付き合うという意味での仲は認めなかった。少しでもそう思われるたびに否定したものだ。
 けど今の私は黒兄達のようなイチャイチャはいかなくとも、あんな風に“まで”はしないと、仲良くやっている事を認める様な発言をしていた。
 イケない、心を引き締めないと駄目だ。それにティー君は第四王子という立場なのだから、婚約者に正式に決まった訳でも無い異性と付き合うかもしれないという事を、私が認める発言はしないようにしないと。

「あはは、そうそう、仲が良いんだよ仲がー。友達だからねー」
「そう誤魔化さなくとも良いですよ。今この場には私しか居ないんですから」
「誤魔化してないよ」
「はいはい、そうですね」

 私は体を起こしつつ否定すると、スカイちゃんは「分かっていますよ」と言わんばかりに微笑んだ。……見透かされている感じがあるなぁ。でも私達は本当に付き合っては居ないんだけどな。

「私にはクリームヒルトがクロとヴァイオレットが仲良くしているようになるものだと思いましたが。流石は私と違って、魂で繋がっている妹から兄妹で似ているな、思ったんですが、勘違いだったようですね」
「……あはは、スカイちゃん、結構言うようになったね」
「なんの話でしょうかー?」

 最近のスカイちゃんは本当に吹っ切れた感がある。
 今までは何処か心残りがあった……チャンスが少しでもあるのなら諦めない、と言うような、想う気持ちは捨てきれないと言うような心情があった。それはそれでスカイちゃんらしいので別に問題無いとは思ってはいたが、スカイちゃん自身がそれを良しとせずに気持ちの区切りをつけた感じがある。ある意味ではシャル君と同様である。
 ……以前であれば“黒兄とヴァイオレットちゃんが仲良くしている”という辺りで心にダメージを勝手におっていそうなものだったけど……なにかのキッカケで吹っ切れたようで良かった。流石に今の黒兄とスカイちゃんの恋仲は応援できないからね。
 と、それよりも付き合っているという事を否定しておかないと。

「私達は付き合ってないよ。確かに前、王妃様に“息子に相応しいか私に見せてみろ!”と勝負を仕掛けられたけどさ……」
「待ってください、なんですかそれ」
「あはは、前の休みの日にクレール君に呼び出されたから“なにかなー”って行ったら聖槍片手に持ったコーラル王妃様が居たってだけだよ」
「なんだかコーラル王妃の前にも気になる言葉がありましたが……何故そんな事が?」

 私もあった時は驚いたものだが、以前の騎士団での戦闘以降仲良くなったシャル君のお父さんにして騎士団長のクレール君に生徒会宛てで呼び出しを受けた。
 またあの強いクレール君と戦えるのかなと思いつつウキウキで行くと、何故かコーラル王妃がいたのだ。なんでも半月ほど休みをとったらしく、休みを使って子供達と仲を深めるのと、子供達が好意を抱いている相手とも交流を図っているそうだ。
 そしてその対象が私になったらしく、王妃名義だと色々言われるためクレール君経由で私を呼び出し、話合おうとしたそうだ。

「で、戦うか一緒にお風呂に入るかの二択を差し出された」
「なにやっているのでしょう、コーラル王妃……」
「私はあの私の身長の三分の二はありそうなダイナマイトボデーに興味はあったけど、メアリーちゃん達と一人で渡り合った強さの興味が勝ったから戦闘を選んだんだ」
「選んだんですね。……ダイナマイトボデーってなんです?」
「えっと……ロケットなお胸?」
「ロケット? ……まぁそれは後で聞きましょう。その後どうなったんです?」

 その後は文字通り死闘が繰り広げられた。
 最初の内は笑ったりしながら戦うように、変な風に戦わないようには気を付けた。変な相手を好こうとしていると、ティー君の心証を下げないように気を使っていたのである。しかしそれをコーラル王妃に見破られ、最終的には私も笑いながら楽しくバトルを繰り広げたのである。

「そして最終的にはコーラル王妃様の護身符の耐久が先に切れて、私が勝ったよ。イエイ」
「勝ったんですか……私達は全員で抑えきれず、ヴァーミリオン殿下とメアリーのお陰で勝てたのですが……」
「まぁその時と違って聖鎧? も無かったし、あくまで模擬戦だったからね」

 それに聖槍の真の力も発揮してなかったっぽいし、万全ではなかっただろう。それでも充分強かったけど。

「それで、勝てたクリームヒルトは親公認で付き合う事になったんですね」
「……余程私とティー君を付き合う事にしたいみたいだね、スカイちゃん」
「護衛の立場からすると、強いクリームヒルトがティー殿下と付き合えば私も安心できますよ」
「あはは、私に護衛ね……」

 間違いなく合わないだろうなぁ。心が庶民の私はいかにして独りになるかを模索しそうである。
 スカイちゃんが一緒に居れば気は楽だろうけど、いつも同じ護衛と言う訳でも無いだろうからね……。
 ……女騎士が護衛、か。

「女騎士の格好……ミニスカ……お腹出し……ノースリーブ……何故か切り取られている内腿の衣装……前垂れレオタード……」
「あの、護衛の騎士になにを着せるつもりですかクリームヒルトは」
「大丈夫。ただ日本に居た頃の女騎士の格好を思い出しているだけだから」
「本当に貴女達は騎士をなんだと思っているんですか!? そんな露出の格好の女性騎士が居る訳ないでしょう!?」
「なにを言っているの。私が居た日本の女騎士の中には、パンツショーツ丸出しだったり、胸を紐といっても過言ではない細さの布で隠しているだけの女騎士が居るんだよ!?」
「それは騎士ではありません!」

 まぁ勿論それは女騎士の衣装の中でも、年齢層が上がったモノだったり、ソーシャルなゲームで男性陣を釣るための衣装だったりするけどね。
 でもスカイちゃんが着たら……うん、ある意味に合いそうだ。どの格好でも筋肉が女騎士感を際立たせて良い感じになるだろう。

「あはは、私がティー君と付き合えば、スカイちゃんには私の魂の故郷にならってそんな格好をして貰うかもしれないよー? それでも私を付き合ってると言って良いのかなー?」
「あー……それは……」

 と、私が脅しなのかよく分からない事を言っていると、スカイちゃんが妙な反応をした。どうしたというのだろうか。

「実は私、ティー殿下の護衛から外れる可能性がありまして。その心配は無用ですよ」
「へ、なんで?」

 私はスカイちゃんの言葉を聞き、つい間の抜けた返答をしてしまう。
 スカイちゃんは結構前からティー君の護衛として一緒にいたはずだ。公共の場でも大抵傍に居たと言う。それが何故急にそんな話が来たのかと思っていると。

「えっと……私に婚約の話がありまして。婚約が結ばれると、護衛から外れるのです」

 スカイちゃんは少し寂しそうに、そう言ったのであった。

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