追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
夫婦で今後の事を
「ほう、なるほど。だからクロ殿はやけに濡れていたのか」
「結局濡れ損な感じはしますがね」
「だがクロ殿が居なければ……そうだな。可愛い弟分にある意味で先を越されて、焦り空回りするシアンが見られただろうな」
「それは……はは、そうですね。間違いなく空回りしますね」
「そう思うだろう? それに、どちらにせよマゼンタさんが良い方向に変われたのなら、良かったよ」
「ええ、とても良かったです。そこは俺やヴァイス君が変えるかは関係無いですね」
「そうだな。クロ殿が全てを変えられる訳でもあるまい」
「はい。それは自意識過剰にもなりますね」
さて、勝てない云々は置いておくとして。
結局はヴァイオレットさんとお風呂に入る事になった。そして今日の出来事を説明中である。
嬉し恥ずかしであり、今も若干羞恥は勝るし、本当にヴァイオレットさんは湯着を着て俺だけ裸という状況なのでとても複雑な気持ちである。
ヴァイオレットさん自身、俺と同じで羞恥は多少あれども、一緒に裸で入る事くらいは出来るだろう。けれどあえて湯着を着ているのは……まぁ、怒ってはいないが、不満の表れとして抗議しているような感じなのだろう。
――これはこれで……いや、それは考えないようにしよう。
サウナの湯着とは違う湯着を着て、透けはしないが濡れて肌に張り付いているのが、ある意味では裸よりもそそられるという感じはある。けれどそれを表に出すとヴァイオレットさんが恥ずかしそうにしてふくれそうなので表に出さないでおこう。……そんな表情も見たいと言えば見たいが、我慢だ、俺。
「しかし、これからマゼンタさんとヴァイスはどうするのだろうな」
「と言うと?」
「ヴァイスは単純に付き合う……求めれば相手は価値があると思ったから、告白した訳だ」
「そうですね」
あまりにも単純と言えば単純かもしれないが……ヴァイオレットさんも俺と結婚した当初、というか初夜は、貴族の妻としての義務感も有るが、孤独を紛らわせようとして抱かれにやって来た。あながち“求めるから貴女には価値がある”というのは間違いでは無かったとも思う。
「だが、ヴァイスは好意自体は持っていても、付き合いたいといった好意ではないだろう?」
「……そうですね」
とはいえ、今回は上手くいったとはいえ、本当に付き合いたいと思っている相手でも無い相手に告白するのは良くない事だが。……まぁ、なにもしなかった俺がとやかく言える事でも無いか。
「それにヴァイスはマゼンタさんの年齢や身分を勘違いしているようであるし、その年齢差も……」
「ヴァイス君より年上の子供がいる訳ですからね」
「だろう? ……それにマゼンタさんは付き合うというよりは、その……」
「……俺に誘っているように、発散とかそういう類ですからね」
「……シュバルツも……」
「……。……なんとかなりますよ」
「……そうだな」
……というか、マゼンタさんは良い方向に行きそうとはいえ、違った方向に問題はありそうだな。
俺は同意さえあれば年齢差も身分も些細な事だとは思ってはいるし、遊びでも良い。けれどマゼンタさんの場合は問題が……問題が多い……!
「ま、問題は多くとも、俺達は付き合いというのならば、可能な限り補助はしますよ。ヴァイス君は良い子ですし、年齢差も身分差も気にはしても、相応しくあろうとするでしょう」
とはいえ、ヴァイス君は多分実年齢を知ったとしても、本気で付き合うとなれば気にしないと思う。なにせ夫と子持ちと言っても気にしていないというか、「それを含めて好きになる!」とでも言わんばかりで、さらには相応しくあろうとしていた。売り言葉に買い言葉に近いとは言え、あの心意気は本物に近い強さだから大丈夫だろう。
問題はこの世界では学園に行かない平民なら十五程度で結婚、子持ちも不思議では無いので、そういった意味でも年齢を勘違いしていないかという事だが。
後は引っ込み思案であるので勇気を出すには時間はかかるかもしれない、と思う位か。
「付き合うかどうかはこれからですから、俺達はどう判断しても良いように見守っていきましょう」
「そうだな。過干渉もよくはあるまい」
しかしそもそも付き合うか付き合わないかは分からない。
ヴァイス君は真面目なので一度言った以上は付き合おうとするかもしれないが、その辺りはシアン達に任せた方が良いだろうし、ヴァイオレットさんが言うように過干渉も良くはない。相談があれば受けて、本人同士が納得するような場を整えられるようにしよう、と言うのが俺達のスタンスで居るとしよう。
「……とはいえ、マゼンタさんが手を出さないように気はつけましょう」
「……そうだな。未成年淫行は良くない」
問題はこの世界では成人していない未成年に手を出すのは犯罪という事だ。そこは平民貴族関係無い。
ヴァイス君は成人していないので、マゼンタさんが手を出せばもちろん犯罪だ。そしてマゼンタさんはそれを理解した上で躊躇い無く交わろうとしているので……うん、気をつけよう。いくら前を向く方に行ったとはいえ、今回の件をキッカケに少年に目覚めてそっちにいっても困る。この十日程は大人しくしていたようだけど、さっきはついに爆発してしまったのかと焦って止めたからな……
――あれ、そういえばシアンが……
そういえばシアンがマゼンタさんは結構選り好みするとか言っていたらしいんだっけ。
――それにマゼンタさんも……
夢空間でマゼンタさんは自身の種族、夢魔族の特徴で、相手をして子を成す条件の事を……
それにマゼンタさんは自分の事を最低の親と……
「クロ殿、お湯を流すから目を瞑ってくれ」
「あ、はい」
……その辺りを考えるのは今はやめておくか。
俺はヴァイオレットさんに香油で泡立った髪を流して貰いつつ、今は先程話し合ったように、止める時は止め、見守っていく、とだけ決めたから今日はもうそれで良いと判断した。
それに髪を洗って貰った事により大分スッキリしたし、ヴァイオレットさんに感謝の言葉を述べるとしよう。
「ありがとうございます。俺はスッキリしましたし、今度は俺がヴァイオレットさんを良い母親にするために綺麗にしますね」
「!?」
間違えた。間違えていないけど、言い間違えた。
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