追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

急な用事(:紺)


View.シアン


「な、なんの御用かなクロ、アイ君。己が行動を鑑みて懺悔にでも来た?」
「そ、そういう事なら話を聞くぞ。さぁ、ドンと来い」
「見ろクロ。羞恥で誤魔化しているぞ。お前らもそうだったが、カップルは皆ああなるのか」
『やかましい』

 ス――神父様が腕を離し、平静を装い対応する。しかしアイ君は私達を揶揄う発言をしたのでその場にいるアイ君以外の全員が言葉を揃えて黙るように言う。否定が出来ないのでそう言うしかないのである。

「で、本当にこんな夜になんの用? というか何処から聞いてたの二人は」
「聞いていたのはそこの神父が“シアンを母親にしてやる!”という発言辺りからだが」
「捏造するなアイボリー」
「俺が来た用は週一の祈りのためだ。もう少し早く来るつもりだったのだが、今日は急患が入ったからな」

 ああ、いつものヤツか。アイ君はあまり見えないけれどクリア教の信仰者としては割と敬虔な信仰者である。なにせ外は雨の中の今も来ているくらいだ。
 まぁ信仰者というよりは神父様とはシキに来る前からの知り合いみたいだし、お仲間と言った方が良いかもしれない。けど同じお仲間でも私や神父様とは別の住み分けに居る気もするが……ともかくアイ君は毎朝祈りを診療所の方で捧げているようだし、こうやって礼拝堂に来て祈りも捧げるのである。

「で、クロは? 私達を笑いに来た?」
「そんな事する暇あったらヴァイオレットさんと話している。そうじゃなくて、なんか俺が説明した内容が神父様に上手く伝わっていないようだから、改めて来てみたんだよ」
「ん? という事はクロもアイボリーも一緒に来たのは偶然か?」
「そうなる」

 クロは今日のマーちゃんに対する会話の神父様の反応についての自信の至らなさを、申し訳なさそうな表情で言っていた。
 けれどわざわざこのような時間、しかも雨の中わざわざ来る辺り別の要件も有る気がするが。

「それじゃ、俺は祈りを捧げるからそちらは勝手にしておいてくれ。なにを話しても俺は聞かないように――ん?」
「どうしたのアイ君?」
「長椅子などの拭き方がいつもと違うようだが……なにか新しい掃除道具でも仕入れたのか?」

 アイ君は相変わらずな態度でいつも祈りを捧げている場所に行こうとすると、なにか引っかかったように長椅子や窓などを観察して私達にそう尋ねて来た。
 普段怪我に関わるという事で清潔さにかけては人一倍気に掛けるアイ君だ。週一で来る礼拝堂の違う綺麗さを気にしたのだろう。

「道具は普段と変わらないぞ。今日ここ掃除をしただろうヴァイスかマゼンタが丁寧にしたと言うだけだろう」

 しかし道具類は仕入れてはいない。私や神父様が普段使う同じ道具にも関わらず、アイ君が気になる程に綺麗な理由はマーちゃんが掃除をしたからだろう。
 マーちゃんは過去の経歴を考えると床拭き等の掃除をした事はなく、下手でもおかしくはなさそうなのだが、「前から掃除は自分で多少していたからね」と笑顔で言う彼女の掃除は見事という他ない。
 というかマーちゃんって全体的に家事スキル高いんだよね……料理も掃除も洗濯スキルも高水準だ。……特に料理に関しては教会にマーちゃんが入って現シキ料理スキルベストスリーが並んでいるに近いから、私としては若干焦ったりもしていたりする。バーン君やアンちゃんがいるからトップスリーかは微妙かもしれないが……うん、色々と思う所はあるのである。

「マゼンタ? 新しいシスターでも来たのか?」
「あれ、アイボリーは知らなかったのか? 神父様やシアンに紹介はされてない?」
「聞いてないな」
「前に案内しなかったのか、シアン?」
「あー……そういえば診療所の場所は教えましたけど、丁度留守していて結局それきりですね」

 流石に留守の診療所の中に入る訳にもいかなかったし、他にも紹介すべき所があったのでそのまま、という感じだ。なんだかんだでマーちゃんが来てからアイ君とは会っていなかったようである。

「ふ、クロ。これでシキのシスターは“男共を惑わす小悪魔的なシスターしかいない”などと評されずに済むな。領主として良かったじゃないか」
「残念だったなアイボリー。新たなシスターもシアンに影響されてのスリットシスターだ」
「おいそこのシスター。お前は後輩になにをしている」

 なにをしているもなにも、可愛いを普及させようとしているだけであり、マーちゃんは可愛いを分かってくれた立派な友達兼後輩シスターだ。それ以外の何物でもない。
 あと評判に関しては思い出させないで欲しい。スイ君を守るためとはいえ、あっさりその噂が通った事に複雑な気持ちを抱いているんだから。

「良いじゃない可愛い上に動きやすくて。マーちゃんだって毎日のように深さとか裾とかの位置を変えて、可愛いの研究をしているんだから!」

 深くしたり浅くしたり、スリットにフリルを付けるのも良いのではないかと話し合いもした。マーちゃんと可愛いの話し合いはとても楽しいモノである。

「え、そうなのか。毎日変えているのか……毎日見ているが気がづかなかった……」
「ほう、神父。お前は愛する女がスリットを入れているから、スリットフェチに目覚めて毎日見て興奮しているのか?」
「違う、興奮していたとしても、俺の興奮する女性はシアンだけだ!」
「神父様!?」

 なにを言っているのか神父様は。私に雨の中走らせようと躍起になっているのだろうか。

「あー……すまん。流石に無神経だったな」

 アイ君は言われて顔が赤いだろう私と、言った後に自身の言葉に気付いて顔を赤くする神父様(可愛い)を見て、自身の軽口に謝罪をした。
 割と仲の良い神父様とアイ君だから出た軽口なのだろうが、流石に今のは……今のは……スノー君の本音を引き出してくれてグッジョブ!

「毎日研究、か」

 そして私達が照れたり感情の発露と抑制に忙しい中、クロだけはなにか別の事を考えていた。詳細は不明だけど、その考えている内容はクロが今来た理由にも含まれている気がする。

「しかし、可愛いと思ってシアンと同じ格好をするシスターか。まぁいずれ会うだろう。その時は掃除のコツでも教えて貰うとするか。……ええと、名前はなんだったか。すまないがクロ、教えてもらえるか」
「別に良いが何故俺?」
「そこの二人は俺のせいで未だに立ち直れてないからな」
「……そうみたいだな」

 なんだクロ。そんな生暖かい表情で私を見ないで欲しい。クロだってヒトの事言えないくせに……!

「マゼンタさんだよ。ヴァイス君より小柄で、紫と赤の中間の様な髪色の子。他の特徴は――……」
「どうした、クロ?」
「……なんでもない。可愛いや綺麗の中間、って感じの子だ」

 クロがマーちゃんの特徴について説明していると、クロは何処かを見て一瞬なにかに気を取られていたようだけど、すぐに持ち直して説明を再開した。

「すまないが詳細は明日にでも説明するよ。あとちょっと用事を思い出したから、俺はこれで失礼する」
「クロ、お前神父に用があるのじゃ無かったのか」
「その前に済まさなくちゃいけない用を思い出したんだ。すまないが俺はこれで!」
「あ、クロ!?」

 クロは明らかになんでもなくはない様子で礼拝堂の扉を開け、雨の対策をする事無くそのまま飛び出て行った。一応扉は閉めたのだが、勢いよく押したからとりあえず閉まった、というような閉め方である。

「……さて、神父。シアン。あの自称なんでもない領主を放っておくか?」

 そしてシンと静まった礼拝堂にて、アイ君は私達に尋ねてくる。
 外は夜な上に雨であり、クロは何処に行ったかも分からない。目的も分からないのに追い駆けるなど余計なお世話になる可能性の方が高いし、邪魔になる可能性だってある。

「ま、放っておくわけにはいかないでしょ。どうします、神父様?」
「俺はすぐに追い駆けるが、シアンはヴァイスやマゼンタの傍に――」
「傍に、なんです?」
「……ええと、ヴァイスかマゼンタのどちらかに留守にする事を伝えて、追い駆ける事ができたら追い駆けて来てくれ」
「了解しました」

 神父様は私に念のためにスイ君に傍にいるようにというつもりであったようだけど、私の「独りでまた勝手に行動する気ですか?」という表情に言葉を変えた。傍にいるように言うのは場合によっては間違いではないけど、私だってクロの様子は気になるのだ。留守は悪いけどアイ君に任せるとしよう。それかスイ君に任せれば良いだろう。
 そう思いつつ、私達は行動を開始するのであった。

「……スノーホワイト。お前、将来シアンの尻に敷かれそうだな」
「やかましい」




備考 教会組の家事スキル上手さ順
掃除スキル
マゼンタ ≧ スノーホワイト > ヴァイス > シアン

料理スキル
スノーホワイト ≧ マゼンタ ≧ ヴァイス >> シアン

買い物スキル
シアン > マゼンタ > ヴァイス >>> スノーホワイト

洗濯スキル
ヴァイス ≧ マゼンタ ≧ シアン > スノーホワイト


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