追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
挿話:純白の困惑-朝-(:純白)
挿話 純白の困惑
View.ヴァイス
――僕は、健康的な男児だ。
僕の名はヴァイス。
身長は百五十台中盤くらいで、体型は同年代と比べると大分細い。
勉強がそれなりにできるけど、運動方面は血を開放させて僕のもう一つの側面のシュネーを呼び起こさない限りは悪い部類だ。
そして肌は髪と同じほど白く、日の光には強くない。この特徴から、僕とは違って真っ当に美しく、とても清楚で綺麗なシュバルツお姉ちゃん以外の相手にはほとんど避けられて来た。
「あ、ヴァイス。おはよう。すまないがシアンとマゼンタを呼んで来てもらえるか。まだ余裕はあるが、そろそろ朝ごはんだってな」
「おはようございます神父様。分かりました」
けれどこのシキでは外見に関しても今までの様に避けられる事は無く、僕に流れている半分の血の危険性を知っても、皆が受け入れてくれた。
今しがた朝の挨拶をしてくれた神父様や、今朝雨漏りが発生したので修理をしているシアンお姉ちゃん、そしてシキの領主のクロさんなどは、僕に対し「外見で避ける要素……?」とでもばかりに、そもそも気にする云々以前のように接してくれている。
つまり僕が気にし、今までの周囲が避けていた要素に関して特別な要素という疑問を持っていない。せいぜい「白くて綺麗な肌だね」程度である。
このような地は他にはそうそうないだろう。僕はこの地に来てから幸福だと言える。
――けど、最近……
そんな僕は、最近困っている事がある。
その原因を作っている一人は、先程言ったシアンお姉ちゃん。
お姉ちゃんと呼んではいるが実の姉ではなく、単に親しみを込めて呼んでいる、綺麗なお姉ちゃん。実の姉のシュバルツお姉ちゃんも綺麗ではあるけど、シアンお姉ちゃんは違う種類の綺麗さだ。
そしてもう一人。シキに来てから半年と経っていない修道士見習いの僕ではあるが、先週後輩が出来た。名をマゼンタちゃん。年齢は聞いてはいないけど、多分僕と同じくらいだと思う。
マゼンタちゃんは可愛く、明るくて愛されやすい性格の子。多分僕より遥かに優れて仕事も出来るだろう子。なのに僕を先輩として慕ってくれている、優しい子だ。そして先ほど挙げた二人のお姉ちゃん達とは違う種類の綺麗さも兼ね備えている。
――シアンお姉ちゃんとマゼンタちゃん……
そんな、種類違う綺麗さを持つ魅力的な女性二人。
この二人が僕の最近の悩みである。
「シスター・シアン。修理は終わりましたでしょうか?」
「あ、スイ君。うん、終わったよー。まぁ簡単だったからね。それともしかして、朝ごはんのために呼びに来た感じかな?」
「はい、そうです。まだ余裕はあると言ってましたから、シャワーを浴びるくらいの時間は有ると思いますよ」
「うーん……確かに朝から汗かいたし、濡れたし……うん、入って来る」
「はい、では後片付けは私がやりますので」
「ありがとね。――よっ、と。ああ、それとスイ君、朝くらいはその話し方じゃ無くても――どしたの?」
「……なんでもありませんよ。早くお風呂場に行ってくれると助かります。というか行って下さい」
「?? うん、分かったよ……?」
シアンお姉ちゃんは基本服装はシスター服だ。シスターなので当然と言えば当然なのだが、その格好がとても困る。
僕達クリア教の教会関係者は下着の着用が基本的に禁止されている。当然僕もシアンお姉ちゃんも着用していない。
別にそれだけならば良い。下着を着用しない人なんて、あまり裕福でない家庭であれば珍しい事でも無いんだ。
――なんで、あんなに無防備なんだ……!
しかしシアンお姉ちゃんはシスター服にスリットを入れている。しかも結構深い。なにせロングスカートとも言える服の下から股上まで入れているのだ。
……下着を着用している時や、下になにかを履いている場合ならそういったスリットを入れる女性も居るには居るだろう。
だがシアンお姉ちゃんは下になにも履いていない。しかも今しがた少し高い所から軽快に降りた様に、よく動く。
ようするにスリットから……その、女性特有の、目を奪われてしまう肢体が見えてしまう。
シアンお姉ちゃんは無自覚のようだが、彼女はとても健康的で綺麗で魅力的だ。
「あ、スイ君。寝ぐせついてるよ」
「え、本当ですか? どのあたり――」
「私が直すからジッとしててー」
「え」
「……うん。これでオーケー! じゃ、私はシャワー浴びて来るね!」
「……は、はい……」
……そしてこの距離感だ。
あちらは僕を弟のように扱い、男とは分かっても異性として意識していないので、本当に距離が近い。今も僕に近付くのを躊躇わなかったし、お陰で近くに色んなものが迫った。
去る際にもスリットの影響でフワッとスカートがなびいて足はよく見えるし、本当に困る。
男としては嬉しい状況なのかもしれないけど、不埒な目でドキドキしながら見ている事に気付かれたら嫌われるのではないかと思うと困る。……ただでさえ初恋の女性であるのに、このように接されると本当に……本当に、困る。
――僕は、健康的な男児だ。
さて、後片付けも終わらせ、その間に落ち着いたので次はもう一人の悩みの種であるマゼンタちゃんを探すとしよう。
彼女は優秀で、気が付けば働いており、その全てが素晴らしいとしか言いようがない働きをする子だ。
一応先輩として色々と教えてはいるが、正直言うと先輩としては立つ瀬が無いほどである。それでも頑張るつもりではあるが。
――部屋に居るかなぁ……マゼンタちゃん、よく働く子だから部屋に居ない事も多いし。
だけどよく働き、先輩として立つ瀬が無い事が悩みの種という訳では無い。いや、それも悩みではあるのだが、あの子対しては別の悩みがある。
それは……
――マゼンタちゃん、結局スリットやめなかったな……はぁ。
そう、マゼンタちゃんも何故かシアンお姉ちゃんと同じレベルのスリットをシスター服に入れているのである。
マゼンタちゃんはシアンお姉ちゃんと同様に「可愛い!」ということで入れているようなのだが、ハッキリ言うなら目のやり場に困る。
下半身部分だから普段から顔を見て話せば別に困らない? なにを言うか。近くで話す分にはそうかもしれないが、視界の端でこれまた無防備に晒される魅力的な肢体を前にまったく目が行かないほど、僕は出来た男ではない。
いや、一応は耐えられている。目を逸らしたりする事で耐えられはしているんだ。
――マゼンタちゃんも距離感近いし、活発な子だからなぁ……
けどマゼンタちゃんはシアンお姉ちゃんと同等程度には距離感が近く、かつあのスリットシスター服の割には無防備で、とても活発な子だ。
そして僕と同じくらいの年齢で、似た身長なせいなのか本当に親しく接してくる。嬉しいのだが、同時に困るのだ。
マゼンタちゃんはなんか可愛いのだが蠱惑的というか、シアンお姉ちゃんの健康的な綺麗さとは違う魅力のある綺麗さを有している。
そんなあの子があの服で僕に――ああ、もう、本当に困る。あの子も僕の外見を気にしないでくれているのは嬉しいけど、男として困るのである。
――い、いや、僕の修行が足りないんだ。
そうだ。受け入れてくれているだけで幸福なのに、困っていてはただの我がままというものだ! きちんと己を律し、修道士として恥ずべきことにならない様にしなくては!
「シスター・マゼンター、居ますかー?」
ともかく、僕は改めて気持ちを引き締めつつ、辿り着いたマゼンタちゃんの部屋をノックする。
「はーい、ちょっと今手が離せないので中にどうぞー?」
すると部屋から返事が返って来た。どうやら今朝は部屋にいるようだ。
僕は返事をされたので気を引き締めつつ扉を開け、言われた通りに中に入る。
「あ、ヴァイス先輩、おはよう!」
「――――」
そして中に入ると居たのは、シスター服を手にした状態で今からそのシスター服を着ようとしていたマゼンタちゃんであった。
――僕は、健康的な男児だ。
僕達クリア教の教会関係者は下着の着用が基本的に禁止されている。当然僕もマゼンタちゃんも着用していない。
そして今からシスター服を着ようとしているという事は、つまりマゼンタちゃんの今の格好は――
――クリア神よ。これは試練なのですか、ご褒美なのですか。
他の人より身体は弱くとも、僕は健康的な男児である。
この出来事は男児としては嬉しい事なのかもしれない。
魅力的な異性が近くに居て、惜し気もなく魅力を見せてくれて、見る事が出来るというのは嬉しい事なのかもしれない。
けれど、前者ではなく後者であれば違うものが欲しいですお願いしますどうかお願い致します精神が持ちません!
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