追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
王妃の休日_3(:珊瑚)
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家族としての絆を深めようと、戦いに興じる事になった私とスカーレットとヴァーミリオン。
派手にいきたかったので、騎士団長のクレール君の計らいにより騎士団の野外訓練所を貸し切って思い切りぶつかり合った。
私は聖槍、スカーレットは手甲と足甲、ヴァーミリオンは剣。互いの武器と身体能力、魔法を使った全力の親子の絆の深め合いである。
「しかし、思い返すとスカーレットと戦うのは初めてだったな。ずっと避けていたというのもあるが、あのように戦うのだな」
「そうですね御母様。私も噂の聖槍と打ち合う事が出来て楽しかったです」
そして戦闘後に私とスカーレット達は親子の会話をしていた。
戦い合うのも良いが、こうして戦った後の語らいもやはり良い。普段は力が張った生活をしている者達も全力の戦いの後は良い感じに力が抜けるので、この時にしか話せない事もあるというものだ。
「しかし、御母様はよくあのような大きな槍を振り回せますね。補助とかあるんですか?」
「持てば私自身に補助効果のようなものは受けられるが、持つ事自体は自前の筋力だ」
「はー、そうなんですね。戦った時も思いましたけど、御母様は力があるんですね。最近は前線からひいているのに素晴らしいです」
「ふ、我が聖槍と拳で拮抗するスカーレットも素晴らしい力だったぞ」
「ありがとうございます」
現にこうして、今までは大きくなり物心がつくようになってからまともに話す事すらして来なかったスカーレットと話す事が出来ている。
戦いの最中も今までの事や、スカーレットの好きな相手。そして……私が先日しでかした事は同情はするけどまだ許してはいない、という事も語り、叫び合った。
壁はまだあり、距離もあるだろうが、スカーレットとの仲は一歩進展したと言えよう。
――そしてヴァーミリオンとも……
ヴァーミリオン。ある意味ではローズに注意をされるほど私が休みも無しに仕事に打ち込む様になり、意地というようにバーガンティーとフューシャという、レッドとの二人の子を設けるようになったキッカケの……我が息子。
バーガンティーとフューシャを私は愛している。だが、二人を一年の間に産む事になったキッカケは、ヴァーミリオンという存在によるものだ。
二度の夫の裏切り。二度の……親友の裏切り。夫に本当は愛されてはいないのではないか。囁いてくれた愛は嘘では無かったのか。それを確かめるように、狂ったように――いや、狂って私はレッドを求めた。……スカーレットだけならば一晩の過ちで納得しようと言い聞かせていたが、同じ相手の二度の不貞はそれほどに私の精神を蝕んだのである。
それでも愛そうとし、接しようとはしたが、様々な私達の心情とすれ違いにより今の今まで上手くいかず――挙句には先日の一件では、スカーレットとヴァーミリオンを共和国に追いやろうとしてヴァーミリオン達に止められた。
――その件と今までの私の態度を考えると、今更といのはやはりムシの良い話ではあるが……
本来なら絶縁し、幽閉など二度と会わない様な対応をしてもおかしくは無い。しかしそれでもヴァーミリオンは私とレッドの会話を望んだ。ヴァーミリオンの愛する女というメアリー君の申出がキッカケとは言え、私の愚行にチャンスをくれたのだ。
その恩返しというのは妙な話ではあるが、私は優しき息子と交流を図ろうとした。私に出来る事は、私とは血は繋がらなくとも私達の仲を取り持ち、王族でありながらも家族を守ろうとしたヴァーミリオンへの誠意ある行動だろう。
だからスカーレット程では無いとは言え、戦闘でも互いの気持ちをぶつけあい、今もこうして戦闘後の話をしようとしている訳であるが……
「ヴァーミリオン。私達に遠慮してそんなに離れる事は無い。もっと近寄って私と親子水入らずで話そうではないか」
「…………遠慮、します」
ヴァーミリオンは何故か、戦闘後の話に入って来ないのだ。
私との距離が開いた状態で、後ろを向いて決してこちらの会話に入って来ない。周囲には誰も居ないので周囲の目を気にしている訳でも無く、私とスカーレットの女同士の会話に遠慮している訳でも無い。
スカーレットはリラックスした状態で私と話しているのだが、ヴァーミリオンは戦闘後だと言うのに未だに戦闘中かのような緊張感を持っているのだ。
せっかく――
「おかしい……絶対におかしい……! なんで俺は王城の大浴場で姉さんや母上と一緒にお風呂に入っているんだ……なんで姉さんも母上も羞恥を覚えず堂々と晒しているんだ……! 絶対にこんなのおかしい……!!」
せっかくこうして親子の裸の付き合いが実現したというのに、なにを遠慮しているのだろう。
私とスカーレットが戦闘後で疲れたヴァーミリオンを拘束し、王城の大浴場に連行。色々言うヴァーミリオンを言い来るめ――もとい、戦闘後の汗を流そうと提案してこうして入っている訳である。
「おかしくはないぞ、ヴァーミリオン。東にある国発祥の言葉である裸の付き合い。まさに私達にはうってつけの話し合いだ」
「そうそう。親子水入らずだよ水入らず。それに折角のお風呂なんだからそう緊張してちゃロイヤルリラックスできないよ、弟よ」
「う、りょ、両側に来ないでください! それに姉さんはさっき成人したら親子は入るもんじゃないって言っていたでしょう! なんで肯定側になっているんですか!」
「ははは、ロイヤル忘れた」
あ、折角遠慮せずにとヴァーミリオンの隣に来たのに、スススイと離れられてしまった。
ううむ、やはり距離を詰めるのは難しそうだ。十年以上の確執はそう簡単に崩せるものでは無い、という事か。
「ヴァーミリオン……ヴァーミリオン……ほら、今遠慮せずにこっちを見れば、至宝と謳われた御母様のすんごいでっかくて、何故か垂れてもいない綺麗なロイヤルバストが見られるよ……なんと浮いているんだよ……! それに四十代とは思えない、極上の肉体も見る事が出来るよ……!」
「姉さん、なんですかその話し方。……見ませんよ。親しき者にも礼儀あり、です」
「じゃあ私のロイヤルバスト、もといヌードを見る!? さぁ、エメラルドが見て“良い”と言うかどうかを判断する素晴らしい機会を与えよう!」
「……ふっ」
「おいコラなんだその反応は」
「姉のを見ても……な」
「なんだと、これでも紅き堅牢たる貴婦人と評されるほどには綺麗なんだぞ私は! その上まだ直接触れられても居ない至宝の価値が分からないとは相変わらず可愛げのない愚弟め!」
「うおっ、ちょ、その姿でヘッドロックはやめてください! というか弟とはいえ直接触れ合うのは嫌だったり恥ずかしかったりしないんですか姉さんは!」
「今更恥ずかしがるような間柄かー!!」
「恥ずかしがれこのロイヤル馬鹿姉!!」
おお、流石は同じ親を持つ姉弟。なんと仲の良い光景なのだろうか。
……昔はこういった同じ境遇同士で思う所があったのか似た光景を見た事は有るが、段々と見る機会は減っていった。それに去年の今頃は感情の起伏が少なく、冷徹であったヴァーミリオンが、こうしてスカーレットと楽しくやるとは。やはり裸の付き合いのお陰だろうか。
それにスカーレットも明るくなったものだ。あの――
『ローズ姉様。周囲の皆は訳知った様な言葉で私を評するんです。……私自身が私をよく分かっていないのに、何故そのような無駄な事をするのでしょうね』
……と、冷たく言い放っていたスカーレットが、こうして笑うようになるとは。
やはりスカーレットもヴァーミリオンも、好きな相手が出来た影響だろうか。あるいは他にも――
――彼の影響か。
…………さて。それはともかく。
せっかく私も同じ場所に居るのだ。私も混ざるとしよう。
「ヴァーミリオン、そう恥ずかしがる必要は無い。変に緊張せずに、話合おうじゃないか」
「い、いえ。ですが母上のお身体を、血の繋がらないような私が見る訳にも――」
「血の繋がりなど些末な事だ。……私にとっての折角の休日。休みの母に、家族と触れ合う時間をくれないだろうか。息子よ」
「…………。分かりました」
ヴァーミリオンは私の言葉に少々悩んだ後、視線はともかく身体をこちらを向けて会話に応じようとしてくれた。
ヘッドロックを止めたスカーレットもそれを見て、元の場所に戻って円のような形で湯船に座る。
「では色々話そうか。今まで話せなかった事を、今までの分ゆっくりと、な」
休日三日目の午後。
……今日この日。私達は初めて、親子として会話が出来たような気がした。
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