追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

王妃の休日_2(:珊瑚)


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 休日三日目。
 学園が休みという事と、とある事情もあり王城に来ていたヴァーミリオンと、最近は冒険者として飛び出す事無く首都で仕事をしていたスカーレットと交流を図っていた。
 私が時間があれば話したいと言うと、神妙な表情で二人は時間を取ってくれたのでスカーレットの王城にある部屋でこうして話している。……相変わらず、殺風景と言うか、あまり物を置かない部屋だ。以前と比べると薬草などが見受けられるが……何事にも執着が少ないスカーレットらしいとも言える。
 だが今回はあくまでも親子としての交流だ。今更ムシの良い話だとは分かってはいるのだが、神妙な表情ではなく朗らかに会話を出来るようにしたい。だから心を通わせる案を提案した私である。

「私もヴァーミリオンも御父様の不貞の証です。そんな私達と心を通わせよう、とされる事は嬉しい事です。ですが、いきなりなんですか。本当は叩きのめしたかったりするんですか」
「というか、後者を選んだら俺と一緒に母上は入るのですか……?」

 しかし何故かこの反応である。おかしい、私はなにかおかしなことを言ったのだろうか。家族が心を通わせる案としては至極真っ当な提案だと思ったのだが。

「もちろん入るぞ。親子でお風呂に入る……まさに家族らしい事では無いか。国民達も家族で親睦を深める行事として行っていると聞く」
「確かにそうですが、あっても子供が幼少期である事が多いかと。私達のように成人後に親と入る事はあまり無いかと思います」
「……それに、血の繋がった異性の成人の子供とも入るのは憚れるのに、繋がらない成人の男となると母上も嫌でしょう。女性としての御身を大切になさってください。話あおうとして無理をなさらなくても良いのです」
「ありがとう、ヴァーミリオン。子供を五人産み、三倍近く生きている私を乙女のように扱ってくれているのだな」
「反応に困るお言葉はやめてください。それに紳士として当然の事でしょう」
「我が子が紳士に育ってくれて嬉しいぞ。だが、私達は親子だ。親子ならば恥ずかしがらずに入る事が出来るから気にせずに入ろう。さぁ、裸の付き合いというやつだ! 心を通わせよう!」
「姉さん、最近思うんだ。シキではなく、クロ子爵に関わると妙な行動に走るようになるのではないかと」
「確かに私もクロ君に会ってから変わったし、有り得るかもね」

 くっ、何故だ。何故スカーレットとヴァーミリオンは「このヒトこんなに馬鹿だったのだろうか」というような表情で見るんだ。私は母として、私なりに考えて心を通わせようと接しようとしているというのに。
 私はあまり良い親に育てられたとは言えないが、幼少期に一緒に姉のようなメイドとお風呂に入った時はとても楽しかった記憶があったから、それを参考にしたというのに。
 確かあの時の彼女はスカーレットと同じくらいの――はっ、まさか!

「安心しろヴァーミリオン」
「なんとなく嫌な予感がしますが、なんでしょう母上」
「王妃という、王国を代表する女という立場である以上、見た目も身体も気を使っている。裸体が見苦しいという事は無いはずだ!」
「そこじゃないですよ!」
「スカーレットと比べると張りは落ちるが、フューシャ以上の大きさだぞ! 存分に見ても埋めても構わない!」
「その情報を聞いて一緒に入りたいと言うような息子と入りたいですか!?」
「今まで接して来れなかった分、母性の象徴に甘えたいかと思って……」
「俺は成人しているんですよ。そのようなみっともない事は――というか、え。フューシャ以上の……?」

 ヴァーミリオンは疲れたような表情をしつつ、私の胸部に目をやった。
 すぐに目線は逸らしたが、やはり興味があるのだな。というより、スカーレットも同じように見ているが、そんなに意外なのだろうか……そういえば普段は邪魔なので抑えるか特注の鎧で目立たなくはしているので、あまり接して来なかった両名は気付く機会が無かったのかもしれない。……私のこの無駄に大きな胸は抑えた上で並み以上のサイズに見えるのだが、フューシャ以上となると意外だったのだろうか。

「コホン。ところでもう一つの全力で戦闘をする、というのはなんなのでしょう」

 自分が胸に目をやっていた事を恥じたのか、少々頬を赤くしているヴァーミリオンは話題を切り替えた。親子として遠慮はせずに飛び込んできても良いのだが。この大きな胸は邪魔ではあるが、母性の象徴としてはマゼ――いや。それはまぁ良い。

「私はかつて【黒衣のシュバルツ・女騎士ヴァルキュリア】という名を貰うほどには戦闘強者であった女だ」
「はい。無類の強さを誇る聖槍の保持者であったと聞き及んで――どしたのヴァーミリオン」
「前に戦った時を思い出して……いえ、なんでもないです。続きをどうぞ」
「若い頃の経験ではあるが、戦う事で通じ合う思い、言葉というモノがある。紅き堅牢たる貴婦人、紅き獅子などという強さを象徴する異名を持つ我が子達とは、やはり思い切り戦った方が心が通ずることもあると思うのだ」

 お互い全力で戦う、というのは良いコミュニケーションツールだと思う。
 野蛮だと言う者も居るだろうが、全力の戦闘というのはその相手の人生経験の総括との戦いとも言える。
 どのような動きをするのか、どのような魔法をどのような場面で使用するのか。どのような感情を発露させて戦いに興じるのか。
 相手の今までの経験・歴史がその戦いには含まれる。だからこそ学ぶ事が出来る事があるし、互いに学び合った結果通じ合う形には無いモノがあると私は思うのである。
 それに戦いの後の疲れた状態では、思わぬ本音も聞けるというものだ。

「気持ちは分かります。私も興味を持った相手とは戦いに行きますし」
「姉さん、クロ子爵にも戦いを挑んだりしてましたもんね……」
「まぁね。それにエメラルドとも戦って色々と通じ合ったし、ヴァーミリオンだってメアリーと通じ合ったでしょう」
「……そうですねぇ」
「え、なにその反応」
「……すみません、ちょっと今の俺は色んな相手に振り回されているんです。ともかく、戦いで相手を理解する、というのは分かりますよ」
「え、お風呂じゃ無くて良いの? フューシャ以上の胸を直に見れるチャンスだよ? あと私のロイヤルバストを見れるよ!」
「不要です。姉さんも何故躊躇いが無いんですか」
「という訳で、仲を深めると言うのなら戦いをしましょうか。丁度私も最近暴れたりなかったので」

 息子と娘達も同じ意見のようだ。やはり戦いとは強い者と心を通わせるツールなだけでなく、長年壁があった親子同士の仲を深め合うツールとして相応しいのだな……!
 あとなんだかヴァーミリオンの言う、振り回される“色んな相手”と言う中に私も含まれている気がするのだが気のせいだろうか。……気のせいだな。恐らくは恋の悩みのようであるから、メアリー・スーと最近二人に構っている……“母さん”の事だろう。そうに違いない。

「というか母上。俺達は良いのですが、他の兄妹にはしないでくださいね」
「え、何故だ?」
「それは当然、このような二択は――」
「もう既に他の我が子達とは交流は図ったが?」
『え゛』







 我が愛するルーシュとの交流は戦闘だった。
 我が子達の中でも戦闘強者である、最近恋したという息子との交流は楽しかった。
 初めは恋する相手の情報を聞いた時、相応しくないと認めなかった私ではあるのだが……

「ルーシュ、愛する息子よ! お前は愛する子とどんな事が有ろうと添い遂げるという覚悟はあるか!」
「当然あります御母様。オレは如何なる困難が待ち受けようとも、彼女と歩んでいく覚悟を持っています! それは御母様相手でも変わり有りません!」
「よく言ったぞ愛する息子よ! ならば言葉だけでないことを示すために――空を飛ぶロボ君に倣った、我が最強の空中技を受け止めてみよ!」
「は、空を飛ぶ……?」
「彼女は空を飛んで空中戦が得意と言うからな。私のような時代遅れの技を受け止められんようならば、新しき力のロボ君の力を受け止めきれんと思え!」
「そ、それは分かりましたが……御母様は空を飛ぶなど――」
「我が槍の技に、隕石の如き落下による聖槍の一撃というモノがある」
「はい?」
「聖槍、開放――」
「!? 御母様が空を駆けて――!?」
「受け止めて見せろ、ルーシュ!!!」
「う、うぉぉおおおおおおおおおおおお!?」

 という、我が息子との全力の交流を得て、ルーシュが良い方向に変わっていると理解した。
 これからはもっと交流を図り、ルーシュが王族として成長していく様を見守っていきたいと願ったものである。

「ぜー……はぁー……御母様はもう少々落ち着きをですね……!」

 ……何故かルーシュにはそう言われたが、見守っていきたいと思う。







 我が愛するバーガンティーとの交流は戦闘だった。
 我が子達の中で最も魔法に優れ、雷神剣という剣に選ばれし誇りある我が息子。
 最近一目惚れしたという息子との交流は楽しかった。

「バーガンティー! お前の好きな子は一目惚れをしたと言うが、見た目だけに惚れたのか!」
「違います! 初めはそうかもしれませんが、私は彼女の在り方そのものに惚れたのです!」
「そうか、良い返答だ! 良いか、バーガンティー!」
「なんでしょう御母様!」
「ランドルフ家たるもの、強く無くては駄目だ!」
「分かっております。ですからこうして我が雷神剣と聖槍の打ち合いをしているのですよね!」
「その通りだ! だが、バーガンティーの好きな相手はお前の得意な雷魔法を撃ち返したと聞く! 得意でやられるようでは駄目だから――私の使う雷魔法とバーガンティーの雷魔法、どちらが上かハッキリさせよう」
「っ!?」
「良いか、私のような時代遅れの魔法に負けるようならば、新しき力のクリームヒルト君の力を受け止めきれんと思え! 聖槍、開放――」
「御母様の聖槍に雷が落ちて――いや、雷が集まっている!?」
「行くぞバーガンティー!」
「う、うぉぉおおおおおおおおおおおお!?」

 という、我が息子との全力の交流を得て、バーガンティーが良い方向に変わっていると理解した。
 これからはもっと交流を図り、バーガンティーが王族として成長していく様を見守っていきたいと願ったものである。

「ありがとうございました、御母様! 私ももっと精進しようと思う、良い親子交流でした!」

 ああ、もう、バーガンティーは素直で可愛いな!







 我が愛するフューシャとの交流は裸の付き合いだった。
 接する事が苦手な彼女はまだ恋はしていないが、学園に通うようになってからはとても明るくなり、そんなフューシャとの交流は楽しかった。

「もっと寄れ、フューシャ。遠慮せずに私の胸に飛び込んで来い」
「ええと……私が近付くと……妙な事が……特に肌に触れると……御母様も……」
「気にするな。――よし、そちらが来ないのならこちらから行こう――ふっ!」
「……!? 瞬間移動……!?」
「おお、よしよし、本当に可愛いな、フューシャは」
「埋もれる……私より圧倒的な……大きさに……埋もれる……!」
「大きいだろう? フューシャのような張りはないが、柔らかさや形は良いだろう?」
「……御母様……あと……離れて欲しい……不幸が御母様に……」
「私は失敗した」
「……?」
「そして今こうして我が愛する子達と交流し、強くなろうとしている。……私が強くなるために、もっとフューシャを感じさせてくれ。今まであまり接して来れなかった分な。……こうしているだけで、私は幸せなんだ」
「……うん……ありがとう……御母様……」

 という、我が娘との触れ合いを得て、いろんな話をする事でフューシャが良い方向に変わっていると理解した。
 これからはもっと交流を図り、フューシャが王族として成長していく様を見守っていきたいと願ったものである。

「ところで……御母様……あの……サイズは……?」
「む、三桁は超えたのは知っているが、最近計っていないから正確な数字は分からないな」
「……そう」
「これでヴァーミリオンとも母性を感じてくれれば良いのだが……」
「え……ヴァーミリオン兄様に……これを……しようと……?」
「ああ。する予定だぞ!」
「……そう……頑張ってね……」

 あとなんだかフューシャは妙な表情をした時があった。アレはなんだったのだろう。








「――という感じだな。お前達との交流は恥ずかしながら心の準備が必要だったからな。他の息子達との交流で学んでから来たぞ! さぁ、一緒に交流を深めようじゃないか!」
「……なぁ、姉さん」
「……なに、ヴァーミリオン」
「……これが母上の素なのだろうか」
「……クロ君の影響で素が出たのかもね」





余談
バーガンティーはクリームヒルトに一目惚れをしましたが、元日本人のビャクであるクリームヒルトだから一目惚れをしただけで、本来の乙女ゲームの主人公ヒロインであれば一目惚れはしていません。

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