追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
過去の恋のお話_2(:杏)
View.アプリコット
――よし、今日からクロさんのお手伝いをするぞ!
昨夜クロさんという、ある意味の魔法使いの師匠であり、盟友とも呼べる存在を得る事が出来た。その喜びを一晩経っても維持したまま、ぼくは今まで着ていなかった従者服に身を包み意気込みを顕わにしていた。
いつまで居るかは分からないが、ぼくが見捨てるかクロさんがシキを見捨てるまではこれからはぼくは盟友であるクロさんの仕事を手伝いながらここで生活をする。だからまずは服装からキチンとせねばなるまい。という事で働くために従者服を着た訳であるが……
――ピッタリ過ぎて怖い。
クロさんに「奴隷印の強制解除の魔力が回復したので、恩返しに仕事を手伝う」と言って働き始める事になった訳だが、この女性用の従者服……シックなメイド服なのだが、ぼくにピッタリなのである。
採寸(独りで出来ないので、クロさんにして貰った)をして貰い、前の領主が残して行ったであろう既存のメイド服を基礎として、改造と調整をクロさんが施すとあら不思議。元々ぼくのために作ったのではないかと思うメイド服が完成したのである。
……ぼくと初めて会った時に“ごすろり”なるものを着せるとも言っていた事であるし、クロさんは服を作るのが趣味なのだろうか。貴族男児としては珍しい。
「と、言う訳でグレイくん。今日からクロさんの力になれるように共に働くぞ!」
クロさんの意外なる裁縫技術は今度やり方を教わるとして、今はぼくが出来る仕事をせねばならない。そのためにぼくよりは従者の先輩であるグレイくんと一緒に働く所から始めよう。
「は、はい、わかりましたアプリコットさま……!」
「様は……まぁ良いか」
……とはいえ、グレイくんは僕よりも長くクロさんと一緒にはいて従者としての先輩ではあるのだが、どちらかと言うとぼくが面倒をみる方であろう。
なにしろグレイくんは前領主の影響でクロさん以外の大人の男性が怖いらしく、ほとんど屋敷から出ない上に色々とたどたどしい。見ていないと何処かで怪我をしてしまいそうな弱々しさである。
ぼくは弱い相手は嫌いだ。生きる強さを持たない相手をするのは切り捨てるべきで――
「いっしょに、クロさまのためにがんばりましょうね!」
……しかし、この笑顔を見ているとどうも気が削がれてしまう。
弱い者は嫌いで苦手なはずなのに、彼の笑顔を見ると何故か彼だけは別だと思ってしまう。……ある意味では彼の笑顔は苦手なのだが、嫌ではない苦手だ。こんな気持ちは初めてである。
「……そうだな。頑張ろうな」
「はい!」
この初めての気持ちの正体はいわゆる庇護欲のようなものであろう。そう思いつつ、クロさんの仕事の手伝いを開始するのであった。
◆
「アプリコット! すまないが推定三十代男性の筋肉モリモリマッチョマンがバニースーツにウサミミを付けて色々危うい状態でうろついてという情報が入った! なんでもウサギに憧れているそうだから、ちょっと服装よりも心のウサギの在り方が大切だと説得してくる!」
「その説得の仕方で良いのかクロさん!?」
「アプリコット! 刃物を愛しすぎてジャラジャラと身体に百本近くの刃物を巻き付けている女性が未だにシキをうろついているそうだから、ちょっと斬るのが大好きな肉屋の主人と縁談を持ちかけて来る! 多分気が合うと思うんだ!」
「まずは巻き付けるのを止めた方が良いではないのかクロさん!」
「アプリコット! すまないが半蜘蛛族の女性が己の糸で服を作り、最低限しか隠さず、さらには色んな所が浮かび上がっているのに“性的な部分は隠して服を着ているから問題ないだろう!”と言って聞かないらしいんだ! 明らかに見られて興奮しているのにな! だからちょっと服の素晴らしさについて説いて来る!」
「説く内容が違わぬかクロさん!」
「クロさん! 服屋の主人が“これは俺のファッションだ!”と言って女性用マイクロビキニに帽子を被って堂々と闊歩をしていると騒がれている!」
「よし、あのキャメルさんとはキチンと話し合おうと思っていた所だ。ファッションを前衛的にすれば他とは違うと思っているなんちゃってデザイナーめ……!」
「クロさま。さきほど知らないこわいだんせいが、わたくしめを見て、ショックをうけたようにかたまりました。“てんしを見つけた”と言っていたのですが、なぜか分かりますか?」
「よし、そいつの所に行ってくる。あの野郎、まだうろついていたのか……!」
「アプリコット、グレイ! なんかリンボーダンサーが小型太陽を暗黒化させて臨界させた後に狂瀾怒濤に悪霊を左府しようとしたけれど、途中で止めて悪党として花を咲かせてやると言い滅茶苦茶な行動をしているみたいなんだ! ちょっと止めて来る!」
「すまないクロさん。貴方の言っている事が一つも分からん」
「うん、俺も自分で言ってよく分からん」
この地、見捨てても良いんじゃ無いだろうか。
ぼくは改めてそう思った。
ある意味楽しそうであり、波長が合わない気がしないでも無いが、クロさんに今すぐ「ぼくたちで旅に出よう」などと告白っぽい事を行って旅に出たい。
――というかクロさんは本当になんで見捨てずに頑張っているんだ。
頑張って頑張って。
見捨てずに頑張って。
説得や話し合いをめげずに頑張って。
自分の時間が減ってでも頑張り続けて。
ぼく達には被害が及ばない様に気を使い。
変な事をする相手にも彼、彼女らなりの理由があると気を使い。
努力に見合う見返りがあると言えないのに領民だと言って気を使う。
――本当、放っておけない。
ここに来る前であれば「馬鹿な事をしている男」と切り捨てたであろう男。
裕福な貴族なんだから見合う苦労は当たり前だと関心も示さなかったであろう男。
……だけど、彼を見ていると不思議と――
「こんにちは、お嬢ちゃん」
「……?」
自然と目で追ってしまう、今は少し遠くで色々と対応しているクロさんを見ていると、ふと話しかけられた。
ぼくは声のした方向に振り向くと、そこに居たのはクロさんよりも身長の高い、教会関係者の衣装に身を包んだ男性であった。
「はじめましてだね。俺の名はスノーホワイト。シキで神父をやっているよ。すまないが、話を聞かせて貰えないかな。君の事と――クロ・ハートフィールドについてね」
備考 途中登場の領民達の現在
・推定三十代男性の筋肉モリモリマッチョマン
「憧れは理解から最も遠い言葉だ」という何処かで聞いたクロの言葉を感銘を受け、バニースーツはやめてウサミミだけを付けてウサギを愛するようになった。シキに在住中。
・刃物を愛しすぎてジャラジャラと身体に百本近くの刃物を巻き付けている女性
身に纏うのは数本に抑えて肉屋の主人と結婚してなんだかんだ幸せらしい。
・半蜘蛛族の女性
直接見られる事よりも、服を着た上での外からは見えない所で欲求を満たす性癖に目覚めたようである。
今は愛する家族と共に幸せにシキで生活を満喫中。だが性癖は続行中。
・リンボーダンサー
説教と正論で反省し何処かに消え、偶にシキに帰って来る。
――よし、今日からクロさんのお手伝いをするぞ!
昨夜クロさんという、ある意味の魔法使いの師匠であり、盟友とも呼べる存在を得る事が出来た。その喜びを一晩経っても維持したまま、ぼくは今まで着ていなかった従者服に身を包み意気込みを顕わにしていた。
いつまで居るかは分からないが、ぼくが見捨てるかクロさんがシキを見捨てるまではこれからはぼくは盟友であるクロさんの仕事を手伝いながらここで生活をする。だからまずは服装からキチンとせねばなるまい。という事で働くために従者服を着た訳であるが……
――ピッタリ過ぎて怖い。
クロさんに「奴隷印の強制解除の魔力が回復したので、恩返しに仕事を手伝う」と言って働き始める事になった訳だが、この女性用の従者服……シックなメイド服なのだが、ぼくにピッタリなのである。
採寸(独りで出来ないので、クロさんにして貰った)をして貰い、前の領主が残して行ったであろう既存のメイド服を基礎として、改造と調整をクロさんが施すとあら不思議。元々ぼくのために作ったのではないかと思うメイド服が完成したのである。
……ぼくと初めて会った時に“ごすろり”なるものを着せるとも言っていた事であるし、クロさんは服を作るのが趣味なのだろうか。貴族男児としては珍しい。
「と、言う訳でグレイくん。今日からクロさんの力になれるように共に働くぞ!」
クロさんの意外なる裁縫技術は今度やり方を教わるとして、今はぼくが出来る仕事をせねばならない。そのためにぼくよりは従者の先輩であるグレイくんと一緒に働く所から始めよう。
「は、はい、わかりましたアプリコットさま……!」
「様は……まぁ良いか」
……とはいえ、グレイくんは僕よりも長くクロさんと一緒にはいて従者としての先輩ではあるのだが、どちらかと言うとぼくが面倒をみる方であろう。
なにしろグレイくんは前領主の影響でクロさん以外の大人の男性が怖いらしく、ほとんど屋敷から出ない上に色々とたどたどしい。見ていないと何処かで怪我をしてしまいそうな弱々しさである。
ぼくは弱い相手は嫌いだ。生きる強さを持たない相手をするのは切り捨てるべきで――
「いっしょに、クロさまのためにがんばりましょうね!」
……しかし、この笑顔を見ているとどうも気が削がれてしまう。
弱い者は嫌いで苦手なはずなのに、彼の笑顔を見ると何故か彼だけは別だと思ってしまう。……ある意味では彼の笑顔は苦手なのだが、嫌ではない苦手だ。こんな気持ちは初めてである。
「……そうだな。頑張ろうな」
「はい!」
この初めての気持ちの正体はいわゆる庇護欲のようなものであろう。そう思いつつ、クロさんの仕事の手伝いを開始するのであった。
◆
「アプリコット! すまないが推定三十代男性の筋肉モリモリマッチョマンがバニースーツにウサミミを付けて色々危うい状態でうろついてという情報が入った! なんでもウサギに憧れているそうだから、ちょっと服装よりも心のウサギの在り方が大切だと説得してくる!」
「その説得の仕方で良いのかクロさん!?」
「アプリコット! 刃物を愛しすぎてジャラジャラと身体に百本近くの刃物を巻き付けている女性が未だにシキをうろついているそうだから、ちょっと斬るのが大好きな肉屋の主人と縁談を持ちかけて来る! 多分気が合うと思うんだ!」
「まずは巻き付けるのを止めた方が良いではないのかクロさん!」
「アプリコット! すまないが半蜘蛛族の女性が己の糸で服を作り、最低限しか隠さず、さらには色んな所が浮かび上がっているのに“性的な部分は隠して服を着ているから問題ないだろう!”と言って聞かないらしいんだ! 明らかに見られて興奮しているのにな! だからちょっと服の素晴らしさについて説いて来る!」
「説く内容が違わぬかクロさん!」
「クロさん! 服屋の主人が“これは俺のファッションだ!”と言って女性用マイクロビキニに帽子を被って堂々と闊歩をしていると騒がれている!」
「よし、あのキャメルさんとはキチンと話し合おうと思っていた所だ。ファッションを前衛的にすれば他とは違うと思っているなんちゃってデザイナーめ……!」
「クロさま。さきほど知らないこわいだんせいが、わたくしめを見て、ショックをうけたようにかたまりました。“てんしを見つけた”と言っていたのですが、なぜか分かりますか?」
「よし、そいつの所に行ってくる。あの野郎、まだうろついていたのか……!」
「アプリコット、グレイ! なんかリンボーダンサーが小型太陽を暗黒化させて臨界させた後に狂瀾怒濤に悪霊を左府しようとしたけれど、途中で止めて悪党として花を咲かせてやると言い滅茶苦茶な行動をしているみたいなんだ! ちょっと止めて来る!」
「すまないクロさん。貴方の言っている事が一つも分からん」
「うん、俺も自分で言ってよく分からん」
この地、見捨てても良いんじゃ無いだろうか。
ぼくは改めてそう思った。
ある意味楽しそうであり、波長が合わない気がしないでも無いが、クロさんに今すぐ「ぼくたちで旅に出よう」などと告白っぽい事を行って旅に出たい。
――というかクロさんは本当になんで見捨てずに頑張っているんだ。
頑張って頑張って。
見捨てずに頑張って。
説得や話し合いをめげずに頑張って。
自分の時間が減ってでも頑張り続けて。
ぼく達には被害が及ばない様に気を使い。
変な事をする相手にも彼、彼女らなりの理由があると気を使い。
努力に見合う見返りがあると言えないのに領民だと言って気を使う。
――本当、放っておけない。
ここに来る前であれば「馬鹿な事をしている男」と切り捨てたであろう男。
裕福な貴族なんだから見合う苦労は当たり前だと関心も示さなかったであろう男。
……だけど、彼を見ていると不思議と――
「こんにちは、お嬢ちゃん」
「……?」
自然と目で追ってしまう、今は少し遠くで色々と対応しているクロさんを見ていると、ふと話しかけられた。
ぼくは声のした方向に振り向くと、そこに居たのはクロさんよりも身長の高い、教会関係者の衣装に身を包んだ男性であった。
「はじめましてだね。俺の名はスノーホワイト。シキで神父をやっているよ。すまないが、話を聞かせて貰えないかな。君の事と――クロ・ハートフィールドについてね」
備考 途中登場の領民達の現在
・推定三十代男性の筋肉モリモリマッチョマン
「憧れは理解から最も遠い言葉だ」という何処かで聞いたクロの言葉を感銘を受け、バニースーツはやめてウサミミだけを付けてウサギを愛するようになった。シキに在住中。
・刃物を愛しすぎてジャラジャラと身体に百本近くの刃物を巻き付けている女性
身に纏うのは数本に抑えて肉屋の主人と結婚してなんだかんだ幸せらしい。
・半蜘蛛族の女性
直接見られる事よりも、服を着た上での外からは見えない所で欲求を満たす性癖に目覚めたようである。
今は愛する家族と共に幸せにシキで生活を満喫中。だが性癖は続行中。
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