追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

子供達の恋愛観_4


「よーし、じゃあ僕は愛のためにドラゴンをとーばつをめざすよー。じゃ、僕はお姉ちゃんたちを止めて来るねー」

 自分なりの愛の形を見つけた後、最高の宝石をフォーンさんに贈るため大型竜種《ドラゴン》に宿ると言われる竜宝石を手に入れようと誓った後、ブラウンはロボとエメラルド、ヴァイス君が各々の力を存分に発揮した三つ巴の戦いを止めに行った。
 シキでも上位能力者に入るロボ達だが、なんだか戦闘を繰り広げようとしていたので止めようかと悩んでいたが、ブラウンが間に入るのなら問題無いだろう。

「返しを望まず、相手の幸せだけを望むのが愛、か」

 そしてブラウンが向かった後、ヴァイオレットさんが先程ブラウンが言っていた愛の形について気になる事があるのか、小さく呟いていた。

「気になりますか?」
「まぁ、な。ブラウンの恋と愛だと、私はクロ殿を愛していない事になる、と思ってしまってな」
「見返りを求めている、と?」
「その通りだよ。私はクロ殿にかまって欲しいから行動している訳だからな」

 かまってほしい、か。
 確かに普段のヴァイオレットさんを見ていると、明らかに俺の反応を見る事で楽しさを得ている、という感じだ。間違いなくSな兆しがあると言えるだろう。傷付ける事は好まないので完全なSになる事はないだろうが。

「愛の形なんて人それぞれですよ。例えばベージュさん達は間違いなく愛し合っていると思いますが、ヴァイオレットさんはあのように俺と愛し合いたいですか?」
「クロ殿が望むなら殴り合えるように鍛えて、殴られても大丈夫なように回復手段を学ぶが」
「その回答は予想外です」

 てっきり「ベージュ夫妻の戦いは間違いなく愛だが、マネするのは違う」といった回答が返って来ると思ったんだが。

「ふふ、そうか。予想外の答えだったか」

 ……あ、いや、これ俺を揶揄ってるな?
 俺のまさかの回答に戸惑う姿を楽しんでいるな? やっぱりSだなヴァイオレットさん。

「愛の形はヒトそれぞれ、と言うのは分かるが……しかし、子供達は随分と大人びた恋愛観を持っているな。私がヴァイスの年の頃は、好きな相手が幸せならそれで良いから心の底から祝福する、なんて出来ないぞ」
「まるで今なら出来る様な言い方ですが」
「当然、出来ない」

 何故胸を張って堂々と言いきっているのだろう。俺だって出来ないが。

「ブラウンの頃なんて愛すらも分からなかった。……それに、私は相手の幸せは願っても、自分の手で幸せにしたいと思ってしまう。好きな相手ならこっちを見て欲しい、傍に居て欲しいと願う。だがブラウンやヴァイスの言い分も分かるから……私は、二人より幼い精神なのかもしれないな」

 そう言いながら、ふと吹いた風に対して自身の髪を抑えるヴァイオレットさん。
 ……ヴァイオレットさんはブラウンの見返りを求めない事こそが愛ならば、愛していないという事になると言うが、ブラウンの理屈だからこそ彼女は俺を愛していると言えるのだと思う。
 Sな表情を見せて俺を揶揄う彼女ではあるが、俺を傷付ける事は望まない。傷付いたかもしれないと思えばすぐに心配して俺に気を使うし、なにが悪かったかと反省もする。
 単純に俺が喜んだり、感情を負の方面に向けさせないために行動をしてくれているだけだ。それは会話をする事で繋がり――何処かのあの御方が望んだ世界のように、閉じた世界では決して得る事が出来ない繋がりを感じさせるためだ。
 本人は意識していないかもしれないが、俺に日常を作って、俺の幸せを望んでいる。自分の手で俺が幸せになっている姿を見れば、それだけで彼女は喜んでくれている。……それは間違いなくブラウンが見出した“愛”であり、俺を愛してくれている証拠であろう。

――まぁ、絶対に言わないけど。

 けれど流石にそれを言うのは恥ずかしいので言いはしない。好きと言わずに泣かせてしまった俺ではあるが、流石にそこは俺の心に秘めておきたい。
 ……それに言えば反省をした上で、俺が傷付かないラインを見極めて虐めて来そうだし。

「クロ殿、どうかしたのか?」

 俺が口にしようとした事を寸での所で止めて、自分の考えに羞恥を感じて内心で考えを振り払っていると、俺の様子を疑問に思ったのかヴァイオレットさんが俺の顔を覗き込んでいた。……くそ、そんな仕草も可愛いな。ズルいぞ。

「いや、なんでもありませんよ」
「なんでもないという事はないだろう。いつものクロ殿なら“幼いなんて事ありませんよ”というだろうに」
「自分で言いますか」
「言う」
「堂々と言いきりましたね」

 言い切りはしたが、多分俺の様子を心配して茶化しているんだろうな、と言うのはなんとなく分かる。言った所で否定するだろうから言わないが。

「……まぁ、別に良いんじゃ無いですか、幼くとも」
「む、それは何故だ?」
「ヴァイオレットさんは十六歳、俺は前世を入れても四十五歳。まだまだ道半ばの幼い精神でしょう」
「クロ殿の前世も含めてもか?」
「ええ。年数を重ねれば重ねただけ良い判断が出来て偉い、なんて単純な話なら世の中もっと簡単ですよ」

 子供の頃は数歳上ですら自分とは違う大人に見えて、自分も年を重ねれば自動的に大人になるモノだと思い、同時に母のような大人になるまいとは思ったモノだ。
 けど一般的には大人と言える年齢になっても、大人と堂々と言えるほど精神は成熟出来ていなかった。そうでなければ後先考えずに王子を殴ったりはしない。……まぁ、子供の頃に見た大人も、大人に見えた部分を見ていただけで、影では色々やっていたんだとは思うけど。

「今みたいに自分の半分以下の年の子に、気付かされる事もあるくらいなんです」

 と、そんな俺の昔の話はともかく、今の話だ。
 ブラウンやヴァイス君、エメラルドも……動物的とはいえ、間違ってはいないと思わされる事を言われた。そしてロボにだって、こういう姿もあるのだと気付かされた。そんな、新たな事を診る事が出来た、今の話である。

「幼いと言われようと、子供の恋愛観と言われようと良いじゃ無いですか。それはまだ――」
「まだ終わりではなく、成長が出来るという事です。……だろうか?」
「ええ、そうですよ」

 俺が言おうとした事をヴァイオレットさんは言い当てた。

「……そうだな。それならではもっとクロ殿を愛し、恋し、愛され恋されるように頑張らないとな。グレイ達にも負けないくらいに、なるくらいにはな。――楽しみだ」

 そして言い当てた後、俺の意見に同意し、未来が楽しみかと言うようにヴァイオレットさんは微笑んだ。

――……俺も、この笑顔に応えられるようにしないとな。

 俺と過ごす未来。そしてグレイやアプリコットなどと過ごす未来を楽しみにしてくれる。
 そんな疑いも無く“楽しい事がある”と期待をしてくれる彼女のために、俺も彼女に負けぬように頑張ろうと思いつつ。

――楽しみだ。

 そのように、思うのであった。





「……あー……そういえば」
「どうした、クロ殿? 恋や愛、そして子供という事でグレイ達を連想し、上手くやっているか心配しているのか?」
「それは普段から思っている事ですが……ちょっと思い出した事が有りまして」
「思い出した事?」
「ええ。……子供のような価値観を持つ、無邪気な大人の事です」
「それは――……あぁ、今度シスターとして来る事が確定した……」
「ええ、あの御方ですよ。上手くやれると良いんですがね」
「そうだな。……ところで、クロ殿。私はあの御方が来たら、思う事があるんだ」
「なんでしょう?」
「彼女とクロ殿が関係を持っても、同意の上ではない強制だと思うから、もし持った場合は素直に言ってくれ」
「なんの話です!?」
「いや、クロ殿はもし関係を持ったら、浮気をしたと自責の念を持って己を傷付けかねないからな。私はそこを理解しているから安心してくれと言いたかったんだ」
「確かに否定は出来ませんが、その納得はしないでください!」
「そういえばグレイとアプリコットの恋愛も心配だが、クリームヒルト達も心配だな」
「露骨に話題を逸らしましたね……まぁ、そうですね。特にメアリーさんとヴァーミリオン殿下が心配です」
「あぁ、確かに。上手くやれていると良いんだがな……」
「ですね……」

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