追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

紺と雪白と純白、遭難す_1(:紺)


View.シアン


 段々と暖かくなっていき、そろそろ夏用のシスター服に変えてスリットの深さも夏用にしようかと思っていたある日の午前。
 シキの子供達に文字などを教えて、今日の分は終わったので午後からの仕事まで一心地ついていると、以前調子を崩し、シキの皆が「ついに倒れた……!?」と大いに心配されたが、イオちゃんの看病と作戦によって見事に復調したクロに有る事を告げられた。

「え、新しいシスターが来るかもしれないって事なの、クロ?」
「そうなるな」

 どうやら近日中に私の仲間が増えるかもしれないらしい。
 来るのは独りらしいのだが、具体的な日程や誰が来るかなどの詳細は不明。ただ可能性として、一時的にシキにシスターとして来る女性がいるかもしれない、との事であり、頭に入れておいて欲しいとの事だ。

――なにか訳アリかー。

 ……私が言うのも変な話かもしれないが、シキに来るシスターだ。あまり素行か性格が良くない類だろう。
 事業費を横領したか、お偉方と関係を持って身籠ったか、はたまたイオちゃんのような貴族がなにかをして預けられる類か。ともかく、公にすると面倒な事を抱えているからシキに追いやる、という理由であろう。
 無償で他者を救い過ぎて疎まれた神父様や、自国に問題があったため仕方なく来たスイ君のような事情でも無い限り、良いシスターが来る事を期待するのは難しい。

――その事をクロが報告に来ているという点がね……

 そしてなによりも訳アリと思われるのが、クロからこの話を聞いた、という点だ。
 基本こういった類は神父様や私に来るべき内容であるのにも関わらず、クロが報告を受けて伝えに来た。しかもクロは隠しているつもりだろうが、クロは“誰が来る可能性があるかを把握”しているのに、敢えて名前を伏せている。いや、あるいは私が見抜くという事を踏まえ、隠そうとしているのなら追及して来ない、という事を見越しているかもしれない。
 どちらにせよ、あのクロが面倒そうと言うか……相手がシキに来る事自体を躊躇っているように思っている辺り、相当面倒な相手が来そうである。

「ま、了解。確定したら報告よろー」
「おう」

 その相手というのを問いただしたいが、基本誰であれシキに来るからには、複雑に考え過ぎずに領民として馴染めるように前向きに行動するクロが、来る事自体に複雑な感情を抱く相手だ。あまり困らせるのはやめておこう。

「私に出来る事とかあったら言って。なにせ私の後輩になる相手だし、いくらでも協力するから!」

 だから私は困った事があったら頼って良い、とだけクロに言っておくとしよう。
 クロも流石に、同じ所に住むだろう私を困らせようとするという事は無いだろうし、今はこの程度で充分だ。

「助かる。シアンが協力してくれるのなら、不安があっても大抵は解決するし、むしろ任せすぎないようにしないと駄目と思う位だからな」

 そして私が気を使った言葉をかけていると、クロはそんな回答をする。

「え、クロ、実はまだ体調が悪いとかそんな感じなの? 素直過ぎて怖い」
「どういう意味じゃい」
「だってクロだったら“お前は後輩にそのスリットを強要するなよ。そこが一番の心配だ”とか言いそうなのに、素直に私を褒めるなんて……!」
「自分でそれを言うのか」

 私の言葉にいつものような表情に戻るクロ。
 ちなみにこの服装に関して強要はしないが、良い後輩であればおススメはする。私と一緒に可愛いを極めあいたいからね!

「俺だって褒める時は褒める、それだけだよ」

 ……それはともかく、クロが素直に私を褒める辺り、本当に難儀な子が来そうである。

「やっぱり熱が……イオちゃんに休ませるようにと報告しないと……!」
「やかましい。それよりも俺が不安あるとしたら、シスターが来る、という事自体だよ」
「どゆこと?」
「あー、ほら、神父様って誰に対しても優しくて、真正面から接するだろ?」
「うん、素直で優しくて包み込むような安心感が格好良いよね」
「その格好良い神父様の近くに新しい女性が来る、という事でシアンは嫉妬してアタリが強くなるなよ、という話だ」

 ああ、なるほどそういう事か。
 シスターが来る以上は、教会で一緒に過ごす事となる。新しい神父様にとっての異性、つまり私のライバルになるのではないかと不安になり、排斥しようとアタリが強くならないかと言う意味なのだろう。
 その辺りは大丈夫だ。なにせ……

「新しい子も神父様を好きになったのなら、殴り合って親睦を深めあうよ。やっぱり同性同士は殴り合いこそが分かり合う一番の手段だからね!」
「やめんか」
「まぁ、それは最終手段。大体、嫉妬して虐めるとか性に合わないし、そんな事する私を神父様が好きになるはず無いでしょ。というか、そんな事をする自分を自分で嫌いになるし」

 嫉妬はするかもしれないが、だからと言って加害者になるのはよくない。それこそ話に聞くイオちゃんの学園生時代のようになってしまうしね。

「……ま、シアンならそういうヤツだったな。無粋な事を言った。あ、そういえばもう一つ」
「まだなにかあるん? イオちゃんとの惚気話でも思い出して語りたくなったとか?」
「いや、それをすると今日が終わる。じゃなくって、シアン達は午後から泊りがけで仕事があると言ってたよな」
「まぁそうだけど」

 午後からは私達教会メンバー三名で山の方へ行く予定だ。
 なんでも山の方で怨霊らしき存在が見つかったらしく、午後から向かって泊まる所を設営した後、夜に退治をする。
 スイ君は今回は補助とはいえ、これが初めての退治、浄化の仕事であるので現在張り切って準備中である。

「さっき山の神の怒りをビームで鎮めて来たロボからの報告なんだが、遠くに色の濃い雨雲が見えたらしくてな。風の運び次第によってはシアン達が行く場所に進んで行って雷雨になる可能性もあるんだと」
「うわー、そうなの。でも出来る限り早めに退治したいし……うん、気を付けていく事にする、情報ありがとう」
「無理はするなよ?」
「大丈夫ー。あくまで可能性の話だし、対策も立てておくから」
「なら良いが……前の湖畔の怨霊の時みたいに、予想外の出来事が起きて、変な事にならないようにな?」
「変な事って? 精神関与して来て気まずい雰囲気にする的な?」
「それもだが、怨霊に気を取られている内に雷雨がやって来て、対策の物とかテントとか気が付いたら全部無くなっていたとか」
「あっはは、そんな事無いとは思うけど、気を付けるねー」
「本当に大丈夫だろうな。妙な事をして来る霊の可能性だって……」
「大丈夫、こういうのはプロに任せなさいって!」

 クロは心配そうにするが、私や神父様は何度も除霊、浄化経験がある。
 当然慢心せずに事に臨みはするが、そんな初歩的なミスをする訳がないし、前回みたいな悪霊がそうそう簡単に居る訳が――







「グ、グォオオオオオ! 山に登って道具を無くして遭難し、寒さの中で同性同士肌と肌で温めあうしか夜を超す術が無いという複雑な思いが溜まり悪霊化した私だが、浄化される前に最後の力を振り絞ってお前らの道具を何処か遠くへ飛ばしてやる! 精々この雷雨の中苦しむが良いわ!」
「ふざけた理由の悪霊の癖にで割と生死に関わる事するなぁ!!」

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品