追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
リクエスト話:黒の鍛錬取材
※この話は活動報告にて募集いたしましたリクエスト話(ifなど)になります。細かな設定などに差異があるかもしれませんが、気にせずにお楽しみ頂ければ幸いです。
リクエスト内容「クロの鍛錬光景」
※時期は20章以降の何処かのタイミングです。
クロ・ハートフィールドの朝は早い。
貴族ではあるが、掃除や料理、裁縫等を自主的に行うクロ氏。それは“自分で出来る事は自分でやる”という、彼の性格がよく分かる理由によるものだ。
最近は雇い入れた双子の従者が入ったため彼の負担は減ったモノの、今日も彼が起きるのは早かった。
今日は早朝に用事がある訳でも無く、食事の仕込みがある訳でも無い。だが今日はなんと四時半起きである。日はまだ上ってすらいない。しかし何故彼はこんなにも早く起きたのだろうか。
「早朝ランニングですよ。コースを決めて、一定の距離を走るんです。朝だから気持ちが良いんですよ」
私が尋ねると、クロ氏はそう答えた。
まだ眠っているヒトを起こさないようにベッドをこっそりと、静かに抜けだす。そして家の廊下も同居人を起こさないようにゆっくりと歩き、お風呂場の洗面所にて顔を洗い、そこに用意した服に着替えると、家を出てランニングをするのであった。
――精が出ますね。毎朝欠かさず行っているんですか?
「ええ。夜の間に領民がなにかやらかしていないかを確認するためと、ついでに体力維持をするために走ります」
――体力維持がついでなんですね。
「はい。領民に対応しているだけで体力なんてつきますから。摩耗するとも言いますが」
――なるほど。大変なんですね。
私がそう言うと、クロ氏は大変ではない仕事は無いですよと小さく笑った。
領主というのはその地の代表という立場からして、仕事を処理するためにも体力が必要だ。
そして領主の中でも彼は個性的な領民に振り回される日々を送っている。個性的な領民とキチンと向き合い、相手に合った対応をするためにも、やはり身体は資本であり、体力は重要なのかもしれない。
彼は自然と体力が付くと言うが、こういった普段からの体力の底上げが領主としてやっていける秘訣なのかもしれない。
――深夜は愛する相手との体力消費も激しいのに、クロ氏は朝から元気で凄いですね。まさに凄い体力です!
「やかましい」
◆
クロ氏について行ったので私も汗を掻き、さっぱりするために一緒にお風呂に入ろうという申し出をバッサリと断られたという事は有ったが、そもそもクロ氏は朝のお風呂にまだ入る事は無いようだ。
どうやらランニング後に、汗を掻いたのならもっと掻く事をしようという事で、軽く鍛えるようである。
彼は騒音で迷惑をかけないように庭で、早速腕立てを――おや、少し違うようですね。
「ああ、腕立てではなく指立てです。仕事や趣味的に、指を鍛えておいた方が良いので」
――ほう、指ですか……そうなると、握力やピンチ力(※指の力)を大事にしている、と。
「ええ、腕や足も鍛えますが、指の感覚を特に大事にしたいので。この後お風呂上りに爪の手入れもしますし」
――そういえばクロ氏は爪も綺麗ですものね。
「爪が割れたら大変ですからね。包帯やテーピングをすると感覚が狂うので、大事にしていますよ」
爪の長さは一定にし、指先もほんの僅かなズレを感覚で認知するために手入れを欠かさない。
彼の場合、これは努力というよりは、生活の一部として成り立たせている事柄なのだろう。
周囲の人には気付かれずとも、彼が彼として成り立つための鍛錬。こういった細かな気配りこそが、彼も意識していない彼の強さの秘訣なのかもしれない。
――それに、爪が長かったりすると、食い込んだりひっかいたりして痛いですからね。
「え、あ、はい。そうですね……?」
――指先を鍛え、感覚を鍛えるのも、愛しの妻の柔らかな部分を堪能するために……
「よし、朝の鍛錬の仕上げに殴り合いましょうか。今日こそ決着つけてやる」
◆
朝は軽く拳をぶつかり合わせはしたものの、これ以上やると朝から体力を使い果たすという事ですぐにやめ、お風呂で別々に汗を流し、朝食を食べ終えた。
午前は屋敷内で書類仕事をし、午後からクロ氏は外での仕事のようだ。
そしてある程度の仕事をこなし、今日の仕事を早めに終わらせた後――ある意味では彼の一番の鍛錬と言える場面に遭遇した。
「クロ、勝負!」
「よし、今日は強化魔法も含めた魔法禁止の肉弾戦な」
「オッケー、今日こそ勝つ!」
戦闘系シスターこと、シスター・シアンとの一騎打ちだ。
当然朝行ったような、腕立てや独闘といった独りで鍛える事は大切である。
だが、モンスターとの戦い、盗賊など人間相手の脅威といった脅威から身を守るためには、他者との戦闘経験が重要だ。その重要な事柄として、クロ氏とシスター・シアンはこうして戦いをする事が多いと言う。
「そこぉ!」
「甘い!」
魔法無し、魔法有り、身体強化のみの魔法有り。どれをとっても彼らは良い勝負をし、良いライバル関係だと言う。
互いが互いを高めあう。
こういった存在が身近にいる事が、強さをより高みに昇華するための最も素晴らしく、最も恵まれた鍛錬なのかもしれない。
――お疲れ様です、クロ氏。今日の調子は如何でした?
「ええ、良い感じに戦えたかと。シアンとの戦いは良い汗を流せますよ」
――確かに良い戦いでした。ですが……こう言っては失礼かもしれませんが、シスター・シアンの……服の一部に関して目を奪われたり、意識を割かれたりしないんですか?
「戦いの最中にそういう事気にしていたら、負けますからね……というか気にしませんよ。シアンにも失礼ですし」
――ほう、成程。ところで貴方の妹氏から、戦闘中の貴方はとても目が良く、よく見えると聞いているのですが。
「ええ、それなりに戦闘中は見えますよ」
――なるほど、つまりシスター・シアンの素晴らしい部分をよく見るために、あえて戦闘という手段を取って眺めているのですね!
「違うよ!」
――身体だけでなく、脳の栄養を補給するとは、これが強さの秘訣なのですね!
「違うと言っているだろうが!!」
◆
さて、やはり模擬とはいえ実戦が戦闘経験を積むのに最適であり、強さである。そんな鍛錬の秘訣を垣間見た所で、今日の所はクロ氏の鍛錬は終わりと言える所に来ていた。
領主の仕事をこなし、夕食を食べ、夕食後の仕事を軽くし、明日の準備をして、趣味をしたり、屋敷の家族達と団欒する。
そんな日常の中に鍛錬を挟み込む余地はもう無かったと言えよう。
ただ言える事があるとしたら、彼の基礎鍛錬はまさにその日常の中にあったと言える。
トラブル、要望、事故。動くべき所では積極的に動き、必要ならば距離があっても走り、困っていれば負荷のかかる手伝いもこなす。
そういった“動き、行動する”という事を積極的に行う事。
当然朝の意識した鍛錬とは別に、必要ならば鍛える事もするが、彼にとっては“シキの領主として働く”事が自体が彼にとっての自然の鍛錬なのだ。
それは鍛錬であると同時に、彼にとっての日常を守る不可欠な事であるからだ。
つまり彼にとって鍛錬であり、強さの秘訣とは――
「彼にとっての趣味をこなす事が、彼の心身を鍛える事に繋がっている。かもしれないね」
という事である。
以上、この言葉を持って、彼の強さを知りたいという、アゼリア学園新聞部からの要望があったため、代わりに取材をした私による報告、及び録音魔法の記録の締めとする。
後の記事の作成は、後輩達に任せます。
頑張れ後輩!
「特にクロ君、私と夜の鍛錬しない? 愛する妻をもっと喜ばせる力を鍛えるために。もう既にクロ君はヴァイオレットちゃんに対して強いかもしれないけど、鍛えて損は無いと思うよ!」
「帰れ」
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