追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
幕間的なモノ:偽モノの、本モノ。(:-)
幕間的なモノ:偽モノの、本モノ。
「うん、そうなのメアリーちゃん。私は皆を幸福にしたいの!」
まるで私の未来の姿のような彼女は、何処かで見た、あるいは昔から見ていた事のある笑顔で、私が昔望んたことを言ったのです。
◆
私が見た夢は、病魔に巣食われた事の無い過去を持つ、メアリー・スーとしての生でした。
前世で過ごす幸福な夢で無かったのは、多分前世で過ごすために必要な情報が無かったからなのでしょう。
前世での私は、外をあまり知りませんでしたから。
私は今世で病気で苦しんだ過去が無いまま、家族と仲良く育ち、学園で恋をし、ヴァイオレットも含む皆と楽しく切磋琢磨しながら過ごす。そんな幸福な夢でした。
ですが、違和感が拭えませんでした。
この夢を見る前に、私自身が対策を僅かにでも立てられたから気付く事が出来た、と言うのもあるかもしれません。ですが、なによりも違和感があったのです。
私の中に、前世の記憶が無い。病魔に巣食われた事実が無いのです。
脳が常に溶け出し掻き回されるような痛み。
皮膚に蟲が這い回るかのような、生理的気分の悪さ。
心臓は常に分間二百の心拍を繰り返し、休むという状態を許してくれない。
息が出来ず、匂いが感じられない、本来の目的を放棄した口と鼻が膿を内部で作り生命活動を断とうとする。
発汗が無く、砂漠の上で太陽を直に浴びる熱さを覚える。
熱いにも関わらず、氷の空間で吹雪を受ける様な寒気を覚える。
そんな、私がそれが普通であり、皆も同じだけど振舞っていると思っていた、私の根本が何処にもなかったのです。
他にも多くある、今世ではこれが健康であるのだと感謝する認識が何処にもないのです。
だから私は違和感に気付き、夢から脱する事が出来ました。
領域の起点を探し、解明し――この影響が周囲に居た彼らにも悪影響を与えている可能性があると思うと、いてもたってもいられず、暴走によって強制的に夢から覚めました。
『メアリー、何処へ行くんだ、■と一緒に――』
……目覚める前に見た、私と付き合っている彼の幻影が呼び止める姿を見て、痛みではない心に妙な感覚を覚えました。
私は基本的に痛みを我慢出来ます。
今世の幼少期に、妹を守るために足の骨が折れ、右手の爪が全て剥がれても、私は両親に歩いて「平気です」と笑顔を作れました。
住んでいた街が流行り病で皆が気分の悪さや痛みで動けない中、私は動けたので頑張って病を治す術を探し、皆を治しました。
どちらもちょっと痛かった程度ですし、私が平気で動けるのならば、私が動くべきだと思い痛みを我慢しました。……ただどちらも、感謝はされましたが、家族には何故か気味悪がられましたが。
ともかく、私は痛みを我慢出来ます。
外傷的でも、内部的痛みにも耐えられますし、平気ですし問題ありません。前世の痛みを思い出すと、こんな程度で誰かを善い方向に導けるのなら、気にもならない日常なのですから。
『――そうか。メアリーが望むのなら止めはしない。幸せになってくれ』
……けれど、目覚める前に見た彼の光景を思い出すと、痛くはないのに、もう二度と味わいたくない苦しみに苛まれるのです。
◆
私が夢から覚めた時には、ほとんどが解決していました。
後から知った事ですが、クロさんがどうにかしてマゼンタさんを倒し交渉の出来る状態にし、フォーン会長が目覚めさせたヴァーミリオン君の説得で夢魔法を解く方向へと導かれたそうなのです。
私が駆け付けた時には既に説得の段階に入っており、私は邪魔するべきでないと判断しました。
……何故かマゼンタさんは上半身裸でしたが、気にしない事にしました。……どっちの趣味でしょうかね。
「俺の好きな女を見ていると、何故か貴女を思い出したんです。優しくて、自分の事よりも他者の事ばかり考える」
そしてふと聞こえて来た言葉に、胸が苦しみました。
これは先程感じた苦しみとは別種類の痛みです。……この後の言葉を、聞きたく無いと思うような、不思議な痛みです。
――痛い。
正直言うのならば、私はこの魔法は素晴らしいと思っています。
魔法にかかり、夢を見て、目覚める前に見た皆が幸福な光景は、まさに私が望んだ善い未来でした。
現実を見ていなかった去年の今頃までの私が、そのまま過ごした場合、この魔法を使える状況になったら、私は間違いなく使うでしょう。
――痛い、です。
今の私であれば、この魔法は閉じていて、他者と関わりを持てないが故に成長が無いので、善くないと断じ、否定するかもしれません。ですが、「使いません」と断じる事は出来ません。
……それをヴァーミリオン君に見抜かれ、評される。私はそれを思うと、何故か痛みを覚えるのです。
「でもおかしい事じゃないでしょう。私は、皆のために頑張って……だから私はこの魔法を思いついて、幸福に……」
何故なら私はマゼンタさんの主張に同意をしてしまっています。
幸福にしたい。自分だけが孤独であれば、心の辛さを我慢出来れば皆を幸福に出来る。……かつて私はクロさんに「幸せにしたい皆とは誰か」と問われましたが、私は――
「母さん、駄目なんです――この魔法に、母さんの幸福は何処にもない」
私、は……
「母さんをこの世界で孤独にさせる。俺はその事実があるだけで、なにがあろうとこの魔法を解かなければならないと思い、抗い続けます」
「……私が頑張れば、それで皆が幸福になるのなら、別に良いんだよ」
「駄目です。俺は母さんが辛いのなら、息子として放っておけない」
……ヴァーミリオン君は皆を見ています。
私より努力家で、周囲の皆を見て、私には無い血の苦しみを覚えながらも、前を向いて生きています。
私は放棄した家族との繋がりも、彼はこうして目を逸らす事無く。お母さんを大切にしたいと、真正面から言っています。
私と違い、彼はクロさんの問いにも迷わず答えられるでしょう。
「俺は母さんを孤独にさせたくない」
……彼はとても素晴らしい男性です。
私のような何物にもなれない偽者では、憧れる事しか出来ないような今を生きている立派な男性です。
「そしていつか……いつか、現実を生きる母さんに思い知らせますから」
この胸の痛みをこれ以上覚えないためにも、私は……
「俺が――」
そして私は彼のその、今までの彼とは違う子供のように純粋な言葉を聞いて。
胸の痛みが、今まで感じた事の無い鼓動へと、変わったのです。
◆
「おーい、馬鹿弟子、聞きたい事があるんだが」
「なんです、幼馴染に利用されたばかりか、幼馴染が見せた夢の中で京楽にふけっていた馬鹿師匠」
「お前本当に私に対してだけアタリがきついな……」
「しかるべき対応と思って下さい。それで、なんです?」
「いや、まぁ……ふむ」
「……なんですか、私をジロジロと観察して。どんなに観察しても、私は愛しのマゼンタさんとは似ても似つかないですよ」
「お前が私をなにやら勘違いしているのは気になるが……これなら心配はいらなさそうだ。いやはや、面白い成長だ」
「勝手に独りで納得して意味深な台詞を残さないでください。物語をひっかきまわして去る、作者の都合の良い舞台装置のキャラかなにかですか貴方は」
「お前は本当に師匠に対する敬意が無いな……」
「師匠がハートフィールド一家のように、後始末を終え首都で家族で遊んだ後、国王と王妃から謝礼として望まぬ栄誉を与えられて狼狽え、どうしようかと悩む、くらいの可愛らしさがあれば敬意を示しますよ」
「あるいはもう一人の弟子のように、一緒に後始末を終え、首都で身分が高い友人達と遊んでは楽しそうにする純粋さがあれば、か?」
「ええ、そうですよ」
「では自身の感情をよく分からず、何故か特定の誰かを避けてしまう、何処かの弟子のように振舞うのはどうだろうか」
「……なんの話でしょうかね」
「なんの話だろうな」
「……それで、なにが言いたいんです?」
「そうだな、師匠として言える事があるとしたら……」
「したら?」
「……素直になるのは、早くしたほうが良いぞ?」
「……余計なお世話ですよ」
「ふ、そう反応するという事は、意味は分かるんだな」
「……余計なお世話です」
「うん、そうなのメアリーちゃん。私は皆を幸福にしたいの!」
まるで私の未来の姿のような彼女は、何処かで見た、あるいは昔から見ていた事のある笑顔で、私が昔望んたことを言ったのです。
◆
私が見た夢は、病魔に巣食われた事の無い過去を持つ、メアリー・スーとしての生でした。
前世で過ごす幸福な夢で無かったのは、多分前世で過ごすために必要な情報が無かったからなのでしょう。
前世での私は、外をあまり知りませんでしたから。
私は今世で病気で苦しんだ過去が無いまま、家族と仲良く育ち、学園で恋をし、ヴァイオレットも含む皆と楽しく切磋琢磨しながら過ごす。そんな幸福な夢でした。
ですが、違和感が拭えませんでした。
この夢を見る前に、私自身が対策を僅かにでも立てられたから気付く事が出来た、と言うのもあるかもしれません。ですが、なによりも違和感があったのです。
私の中に、前世の記憶が無い。病魔に巣食われた事実が無いのです。
脳が常に溶け出し掻き回されるような痛み。
皮膚に蟲が這い回るかのような、生理的気分の悪さ。
心臓は常に分間二百の心拍を繰り返し、休むという状態を許してくれない。
息が出来ず、匂いが感じられない、本来の目的を放棄した口と鼻が膿を内部で作り生命活動を断とうとする。
発汗が無く、砂漠の上で太陽を直に浴びる熱さを覚える。
熱いにも関わらず、氷の空間で吹雪を受ける様な寒気を覚える。
そんな、私がそれが普通であり、皆も同じだけど振舞っていると思っていた、私の根本が何処にもなかったのです。
他にも多くある、今世ではこれが健康であるのだと感謝する認識が何処にもないのです。
だから私は違和感に気付き、夢から脱する事が出来ました。
領域の起点を探し、解明し――この影響が周囲に居た彼らにも悪影響を与えている可能性があると思うと、いてもたってもいられず、暴走によって強制的に夢から覚めました。
『メアリー、何処へ行くんだ、■と一緒に――』
……目覚める前に見た、私と付き合っている彼の幻影が呼び止める姿を見て、痛みではない心に妙な感覚を覚えました。
私は基本的に痛みを我慢出来ます。
今世の幼少期に、妹を守るために足の骨が折れ、右手の爪が全て剥がれても、私は両親に歩いて「平気です」と笑顔を作れました。
住んでいた街が流行り病で皆が気分の悪さや痛みで動けない中、私は動けたので頑張って病を治す術を探し、皆を治しました。
どちらもちょっと痛かった程度ですし、私が平気で動けるのならば、私が動くべきだと思い痛みを我慢しました。……ただどちらも、感謝はされましたが、家族には何故か気味悪がられましたが。
ともかく、私は痛みを我慢出来ます。
外傷的でも、内部的痛みにも耐えられますし、平気ですし問題ありません。前世の痛みを思い出すと、こんな程度で誰かを善い方向に導けるのなら、気にもならない日常なのですから。
『――そうか。メアリーが望むのなら止めはしない。幸せになってくれ』
……けれど、目覚める前に見た彼の光景を思い出すと、痛くはないのに、もう二度と味わいたくない苦しみに苛まれるのです。
◆
私が夢から覚めた時には、ほとんどが解決していました。
後から知った事ですが、クロさんがどうにかしてマゼンタさんを倒し交渉の出来る状態にし、フォーン会長が目覚めさせたヴァーミリオン君の説得で夢魔法を解く方向へと導かれたそうなのです。
私が駆け付けた時には既に説得の段階に入っており、私は邪魔するべきでないと判断しました。
……何故かマゼンタさんは上半身裸でしたが、気にしない事にしました。……どっちの趣味でしょうかね。
「俺の好きな女を見ていると、何故か貴女を思い出したんです。優しくて、自分の事よりも他者の事ばかり考える」
そしてふと聞こえて来た言葉に、胸が苦しみました。
これは先程感じた苦しみとは別種類の痛みです。……この後の言葉を、聞きたく無いと思うような、不思議な痛みです。
――痛い。
正直言うのならば、私はこの魔法は素晴らしいと思っています。
魔法にかかり、夢を見て、目覚める前に見た皆が幸福な光景は、まさに私が望んだ善い未来でした。
現実を見ていなかった去年の今頃までの私が、そのまま過ごした場合、この魔法を使える状況になったら、私は間違いなく使うでしょう。
――痛い、です。
今の私であれば、この魔法は閉じていて、他者と関わりを持てないが故に成長が無いので、善くないと断じ、否定するかもしれません。ですが、「使いません」と断じる事は出来ません。
……それをヴァーミリオン君に見抜かれ、評される。私はそれを思うと、何故か痛みを覚えるのです。
「でもおかしい事じゃないでしょう。私は、皆のために頑張って……だから私はこの魔法を思いついて、幸福に……」
何故なら私はマゼンタさんの主張に同意をしてしまっています。
幸福にしたい。自分だけが孤独であれば、心の辛さを我慢出来れば皆を幸福に出来る。……かつて私はクロさんに「幸せにしたい皆とは誰か」と問われましたが、私は――
「母さん、駄目なんです――この魔法に、母さんの幸福は何処にもない」
私、は……
「母さんをこの世界で孤独にさせる。俺はその事実があるだけで、なにがあろうとこの魔法を解かなければならないと思い、抗い続けます」
「……私が頑張れば、それで皆が幸福になるのなら、別に良いんだよ」
「駄目です。俺は母さんが辛いのなら、息子として放っておけない」
……ヴァーミリオン君は皆を見ています。
私より努力家で、周囲の皆を見て、私には無い血の苦しみを覚えながらも、前を向いて生きています。
私は放棄した家族との繋がりも、彼はこうして目を逸らす事無く。お母さんを大切にしたいと、真正面から言っています。
私と違い、彼はクロさんの問いにも迷わず答えられるでしょう。
「俺は母さんを孤独にさせたくない」
……彼はとても素晴らしい男性です。
私のような何物にもなれない偽者では、憧れる事しか出来ないような今を生きている立派な男性です。
「そしていつか……いつか、現実を生きる母さんに思い知らせますから」
この胸の痛みをこれ以上覚えないためにも、私は……
「俺が――」
そして私は彼のその、今までの彼とは違う子供のように純粋な言葉を聞いて。
胸の痛みが、今まで感じた事の無い鼓動へと、変わったのです。
◆
「おーい、馬鹿弟子、聞きたい事があるんだが」
「なんです、幼馴染に利用されたばかりか、幼馴染が見せた夢の中で京楽にふけっていた馬鹿師匠」
「お前本当に私に対してだけアタリがきついな……」
「しかるべき対応と思って下さい。それで、なんです?」
「いや、まぁ……ふむ」
「……なんですか、私をジロジロと観察して。どんなに観察しても、私は愛しのマゼンタさんとは似ても似つかないですよ」
「お前が私をなにやら勘違いしているのは気になるが……これなら心配はいらなさそうだ。いやはや、面白い成長だ」
「勝手に独りで納得して意味深な台詞を残さないでください。物語をひっかきまわして去る、作者の都合の良い舞台装置のキャラかなにかですか貴方は」
「お前は本当に師匠に対する敬意が無いな……」
「師匠がハートフィールド一家のように、後始末を終え首都で家族で遊んだ後、国王と王妃から謝礼として望まぬ栄誉を与えられて狼狽え、どうしようかと悩む、くらいの可愛らしさがあれば敬意を示しますよ」
「あるいはもう一人の弟子のように、一緒に後始末を終え、首都で身分が高い友人達と遊んでは楽しそうにする純粋さがあれば、か?」
「ええ、そうですよ」
「では自身の感情をよく分からず、何故か特定の誰かを避けてしまう、何処かの弟子のように振舞うのはどうだろうか」
「……なんの話でしょうかね」
「なんの話だろうな」
「……それで、なにが言いたいんです?」
「そうだな、師匠として言える事があるとしたら……」
「したら?」
「……素直になるのは、早くしたほうが良いぞ?」
「……余計なお世話ですよ」
「ふ、そう反応するという事は、意味は分かるんだな」
「……余計なお世話です」
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