追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

九百話記念:あるいはこんな魔法少女


※このお話は九百話を記念した本編とはあまり関係のないお話です。
 キャラ崩壊もあるのでご注意ください。
 読み飛ばしても問題ありません。



















「助けてクロ! 私の夫、オーキッドが悪の組織に攫われてしまったの! このままでは夫の知識を利用して世界は征服されてしまうわ! さぁ、今こそ【魔法少女クロ】となって世界を救うのよ!」
「色々待てや」

 俺はシキにて、ネコの姿のウツブシさんから、何処から突っ込めば良いか分からない事をお願いされた。
 悪の組織? 世界を救う? ……魔法少女? うん、なに言ってんだこのマスコットっぽい黒猫は。
 あとこれ夢だな。うん、何度か見ていた気がする夢に違いない。というかこんな事を言うウツブシさんを現実と認めたくない。

「オーキッドが攫われたのなら助けに行くが……魔法少女ってなんやねん」
「口調が変ニャムよ、クロ」
「アンタに言われたくない、なんだそのあざとい口調」
「あざとくないニャムよ。それで、なにが気になるの?」
「魔法少女、だよ。俺がなれるわけ無いだろう」

 俺は二十歳の妻と子持ちの男である。年齢的にも性別的にもなれる訳が無い。

「年齢も性別も関係無い。魔法少女因子を持っていれば、誰でも魔法少女になれるのよ! あ、ニャム」
「いらねぇそんな因子。あと口調やっぱり付け加えただけじゃないか」
「ええい、良いから魔法少女になーれ。ぱわわわわわわわー!」
「え、ちょ、待てやコラ!」

 ウツブシさん(?)が急にジャンプし、淡く光ったかと思うと俺も身体が光り出す。
 こ、これはまさか前世でちょっと見た事のある、魔法少女アニメの変身バンク!?

「さぁ、これで漆黒の正義の光、【魔法少女クロ】の誕生よ!」
「わー……」

 ……ついに俺は、性転換もする事無く男のまま女の子の衣装とか下着とか着てしまった。いや、前世でも女物自体は着た事あるにはあるんだけど……まさか俺がこんなファンシーな衣装を着る事になるとはなー……下着が大人っぽいモノじゃないのが救いかなーHAHAHA。
 ……ていうか魔法少女なのに、少女にならずただ衣装が変わっただけじゃないか。

「気乗りしない所悪いけど、仲間と合流して貰うわよ!」
「え、俺以外に被害者なかまが居るの?」
「ええ、居るわ。魔法少女と言えばやはり複数人組! そしてクロ、貴方は最後のダークホース的な役割の色よ! 敵か味方か分からない感じのね!」
「いや、魔法少女モノにおいては黒色は正統派主役なことはあるぞ。戦隊モノなら別だが。あとそんなやつ仲間にすんなよ」
「ええい、喧しいわよ、さぁ、仲間の所にレッツゴー!」
「あとニャムはどうした」
「……レッツゴーニャム!」

 なんだかよく分からないが、ともかく着いて行くとしよう。
 正直言うのならこのような可愛らしい服を着ている夢など覚めてしまいたいのだが、もしかしたら現実世界では見れない光景も見れるかもしれない。

「……ヴァイオレットさんも魔法少女になるんだろうか」

 そう、ヴァイオレットさんが魔法少女になるのなら是非見たい。見れる可能性があるのなら、この夢を見続けてやるさ!

「あれ、見たいの? 妻の魔法少女姿を」
「見たい。具体的に言うと、ファンシーで可愛らしい魔法少女服を着て、恥ずかしそうにしている姿を見たい」
「倒錯的ね」

 ヴァイオレットさんだと絶対恥ずかしがると思うんだ。スカートの裾とかフリル部とかを腕で隠しながら見られない様に恥ずかしがり、こちらをチラチラと見たりするヴァイオレットさん……うん、見たい!

――あと他の魔法少女候補と言うと……

 アプリコットは似合いそうではあるし、クリームヒルトも似合うと言えば似合うだろう。
 シアンやメアリーさんは……あの二人は大人っぽいが、結構似合いそうではある。ていうか恥ずかしくてもノリノリで着て開き直りそうだ。
 他には……同じ男だとしたら、グレイはとても似合いそうだな。他の男連中は……あまり見たくないな。

――まぁともかく、ヴァイオレットさんである事を祈りつつ、ウツブシさんについて行くとするか。







「俺の名は【魔法少女レッド】! この国の王にして、世界と民達を守護する魔法少女なり!」

「私の名は【魔法少女コーラル】! この国を国母として支えつつ、敵を屠る魔法少女なり!」

「私の名は【魔法少女マゼンタ】! 全てのか弱き存在を守るため、悪に立ち向かう魔法少女なり!」

「お、俺の名は【魔法少女ヴァーミリオン】……! 表では王子として、時には世界のために動く魔法少女なり……!」

「よりによってお前達かよ!!」

 俺は項垂れながら突っ込んだ。
 本来なら貴方とか使うべきなんだろうけど、そんな事気にしている余裕は無かった。愛しの妻の姿に期待をしたら、四十代男女とその息子が魔法少女姿になっている光景を見たらそんな余裕も無くなる。
 というか色の配分を考えろ。赤、赤、赤、赤、黒だぞ。もうちょっと目に優しく分かりやすい配色にしろ!
 っていうか俺的にはマゼンタさんを初めて見たんだけど、なんで姿がハッキリと認識出来るんだ。しかもめっちゃノリノリだぞ。

「項垂れるな、新たな仲間である魔法少女クロ。俺達と一緒に世界を守ろうではないか」
「あの、国王陛下。何故そんなにノリノリなんです?」
「レッドだ。それと魔法少女である内は、身分関係無く、仲間として世界を救おうではないか!」
「せめて名前を変えたらどうですかね……」

 俺が項垂れていると、手を差し伸べて来る国王、もとい魔法少女レッド。
 四十代にしては若々しく、渋みも有りつつ年をキチンと重ねたという感じがする外見の方が、フリフリの魔法少女服を着て仲間認定……イカン、早く目を覚ましたくなって来た。

「クロ。私と一緒に世界を救いましょう!」
「……あの、王妃――いえ、魔法少女コーラル。貴女もノリノリなんですね」
「……あのね、この服って結構良いと思うの。理由を聞いてくれる?」
「はぁ、何故でしょうか」
「この姿を見た相手は、如何なる理由があろうとも消さなくてはという衝動に駆られるの。私の魔法少女パワーの聖槍で全てを屠る、というね」
「……恥ずかしいんですね」
「…………。私はこの姿を見た相手……敵を全て殺す……!」

 やだこの魔法少女怖い。
 そしてやっぱり恥ずかしいのか。開き直っている感じなのか。
 ……まぁ二十歳を超える子供もいるのだし、恥ずかしいのも無理は無いだろう。というかその理屈だと見た俺も殺られませんかね。

「あの、魔法少女ヴァーミリオン。貴方は……」
「……魔法少女クロ。想像してくれ」
「は、はい。なんでしょうか」
「……訳も分からず自分がこのような衣装を着せられた挙句、実の親と、育ての親が似た服を着てノリノリな所を見た気持ちを」
「…………」

 ……かける言葉が見つからない。
 見た目的には年齢の割には若々しく美男美女だが、それでも大人っぽい雰囲気はある方々だ。それが血の繋がった親だと目も当てられないだろう。
 不思議とヴァーミリオン殿下の姿は、可愛らしい衣装のはずが哀愁が漂っていた。

「やっほー、暗いね暗いね! 魔法少女は皆に愛と希望を分け与える光なんだよ! さぁ、元気を出して!」
「は、はい。分かりました魔法少女……マゼンタさん?」

 そしてこの方はなんなんだ。
 俺の予想が正しければこの方はレッド国王の妹にして、ヴァーミリオン殿下の母親であるマゼンタさんのはずだ。
 だが俺は彼女と会った事は無い。なのにヴァーミリオン殿下とレッド国王と何処か似ている、見た事のない女性がハッキリと見えているのである。……夢の効果というやつだろうか。

「ヴァーミリオンもほらほら! もっとノリ良く行かないと! ほら、私のマネをして続いてね! ……契約を命じる、RELEASE!」
「母さん頼むからやめてくれ!」
「ほら、ヴァーミリオンも私に続いてウィンクして! 一緒に合わせましょう!」
「リ、RELEASE……!」
GOODイエイ!」

 ……なんなんだろう、本当に。
 見た目的にはヴァーミリオン殿下の少し年齢の離れた姉程度にしか見えない可愛らしい御方ではあるが、息子になにをやってんだ。
 俺がフリフリの魔法少女衣装を着た母親にアレをやられたら羞恥でマトモに顔をあげられなくなるぞ。……いや、夢なんだけどさ。

「あの、ウツブシさん。この面子で大丈夫なんですか?」
「完璧な面子ニャモよ」
「ニャムじゃなかったのか。そして完璧の意味を辞書で引いて来て欲しいですが……本当に?」
「ええ。勿論よ。
 国王であり、妻が居るのに浮気をしてその相手との間に子供も出来た、イケメン渋オジのレッド。
 その妻であり、浮気されても夫を愛し続け浮気相手も何処か憎めずにいる、美女コーラル。
 レッドの浮気相手であり、実の妹でもある、隙あらば再びレッドなどを狙う息子想いの可愛らしいマゼンタ。
 彼らの息子であり、親がノリノリの姿を見せられる事で羞恥に染まり居心地が悪い美少年ヴァーミリオン。
 ツッコミのクロ。
 なんと隙の無い面子!」
「色々待てや」

 俺ツッコミ役で選ばれたの?
 いや、それはまだ良い。こんなドロドロと言うか関係性が複雑な魔法少女は嫌だよ。
 まだ神父様やアイボリーが魔法少女をやっていた方がマシだと思うレベルだよ。マスコットキャラっぽいウツブシさんも夫持ちだし、複雑すぎるよかの魔法少女戦隊。

――というか、ヴァイオレットさんは居そうにないし……

 ドロドロとかはもうどうでも良いとして、ヴァイオレットさんの魔法少女姿を見られそうにないからもう目を覚ますとしよう。
 ここはやはり今まで通り、頬を抓れば良いのだろうか。

「ちなみに今回の敵は、悪の幹部ヴァイオレットニャムよ。敵に洗脳されて悪の幹部をやっているわ。このままだと私の夫も操られて――」
「よし、今すぐ救いに行きましょう!」
「おお、やる気を出したのね! 悪を倒す気になったニャムね!」
「いや、悪の幹部服を着たヴァイオレットさんを見たい!」
「クロはぶれないわね」

 なんとでも言うと良い。
 悪の幹部の格好のヴァイオレットさんなど、俺が魔法少女の格好を続けて夢を見続けてでも見る価値のある格好だ。
 なんとしてでも見なくては――!

「はーい、そろそろ目を覚ましてね魔法少女黒兄ー」
「え、クリームヒル――」







 【とある一室】

「ところで、聞きたい事があるのだが」
「どうされました?」
「目を覚ます前に……なにやらうなされていたようだが、なにか悪い夢でも見ていたのだろうか?」
「夢……ええと、なんでしたか……うっ、あまり思い出したくない夢のような気がします……!?」
「それならば無理には聞かん。すまなかったな」
「いえ、構いませんが。…………」
「どうした?」
「……フリルのついた服とか着てみませんか、レッドさん?」
「コーラルさん、急にどうした」

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