追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

話しやすい場所へ


「念を押して悪いが、根拠と呼べるモノは俺の感覚……カンのようなものだ。先程クロ子爵の黒い靄を祓おうと触れた時に、そのヒトの魔力のようなモノを感じたにすぎない」

 ヴァイオレットさんに愛情と栄養をしっかりと貰い、身支度を整えて部屋を出てから行動を開始すると、ヴァーミリオン殿下は説明を始めた。

「とはいえ、今引き起こしている騒ぎを終息するには、母上を抑えなければならなかったからな。俺はそちらを優先した」
「つまり……真の黒幕を捕まえるにも、まずはある意味操られているコーラル王妃を捕まえねば、と思った訳ですか?」
「そもそもその“真の黒幕”とやらが俺達の近くに居る保証も無かったからな」
「ならば真の黒幕の企みを防ぐために、先に実行犯を抑えねば、と思ったんですね」
「そうなる」

 どうやら先程までの様に誤魔化すつもりはないようだ。いや、この場合は信じて貰えないだろうから、混乱を避けるためにあえて話さなかった、と言う方が正しいだろうか。
 しかし今はメアリーさんが妙な確信を得て予想を立て、その予想が当たっていたから話した方が良いと判断したようである。

「ですけど、それなら話してくれても良いじゃ無いですか。私達は無関係じゃ無いんですよ?」

 メアリーさんの言い分はご尤もである。
 俺だって無関係ではないし、大切な存在を脅かそうと画策したのが別にいる、と言うのなら協力出来るのなら協力したい。それはヴァイオレットさんも同意見だろう。

「……あのな、メアリー。俺の感覚のみで確証の無い、何処に居るかも分からない相手を探すから手伝ってくれ、なんて言えるモノか」
「う……」

 しかし、殿下の意見もご尤もであり、強くは出られない。
 俺も“触れた魔力が知っている相手のような気がしたから、もしかしたら別の黒幕が居るかもしれない”と考えついても……うん、確証を得ない限り話したくは無いな。むしろ変な混乱を招かない様に黙っているかもしれない。
 だが、気になる事もある。

「けど、ヴァーミリオン君は “あのヒトが黒幕だ”って思ったんですよね」
「それは……」

 そう、メアリーさんやヴァイオレットさん曰く、殿下は確証にも似たモノを得ていたように見えた、という。
 俺も途中から感じてはいた。本当の事を言わないのは、根拠が曖昧と言うのもあるが、もっと別の所――そう、例えば。

「……あのヒトばかりは、あまりメアリー達と会わせたくなかったからな」

 譲れない、見せたくない事が関与しているように見えたのである。

「……ヴァーミリオン君、その相手とは誰なんです?」
「そうだな、ヴァイオレットは会った事があると思うが……」
「私がですか? ……今回の一連の出来事に利益を得る事が出来て、私が会った事のある……あ、もしかして……」
「ヴァイオレットさん、分かったんですか?」
「心当たりがある。先程の計画上の今後の殿下の扱いを聞いた時から違和感はあったんだが」

 計画の殿下の扱い、というと……共和国に送る、というやつだろうか。
 だが違和感を覚えるという事は、コーラル王妃らしくない、という事なのだろうか。あるいは別の……いや、もうその辺りも含め殿下から聞いた方が早いかもしれない。言い渋っているようだが、早く黒幕を――ん?

「おや、クロ君、動き回って平気なのかな?」

 俺達が言い渋る殿下から名前が出て来るのを待っていると、ふと殿下が言い辛そうにしているのとは別に口を噤んでいたので疑問に思っていると、声をかけられた。

「あれ、ヴェールさん? こんばんは。体調は大丈夫ですよ」
「はい、こんばんは。それは良かった」

 声をかけて来たのは、魔女服がお似合いの肉体フェチことヴェールさん。今日一日で、彼女の過去の行いから彼女の夫から様々な尋問を受けるキッカケとなった張本人である。

「ヴァーミリオン殿下、お疲れ様です。ヴァイオレット君とメアリー君もお疲れ様」

 俺達は黒幕の話を一旦止め、手元に資料を抱えたヴェールさんと挨拶を交わす。
 普段であれば身なりを整え、何処か大人の余裕のあるヴェールさんであるが、何処か疲れているように見える。
 どうやら大魔導士アークウィザードとして今回の件の後処理やらに追われているらしく、混乱を防ぐためにヴェールさんが率先して動いているようだ。その作業の途中で俺達を見かけて話しかけてきたようだ。

「ヴェールさん、休まれてます? というか一度眠ったほうが良いのでは?」
「正直言うなら眠りたい所だが、眠るとさらに後から面倒が降りかかって来そうだからね。終わらせてからぐっすりと眠った方が良いという感じだよ」
「無理はしないでくださいね?」
「はは、それはこちらの台詞かな?」

 ……まぁ今回の一件は色々な情報が錯綜し、コーラル王妃が起こした事と言うのは、直接対峙した俺達以外は知らない事だ。それに首都では王城内のみで起きた事だし、どちらかと言うと暴れて被害を出したのはゴルドさんである。その処理となれば大変なのは確かだろう。

「ところで聞きたいんだが、フォーン君を見なかったかな?」
「フォーン会長ですか?」
「うん、アゼリア学園に行ったっきり戻って来なくてね」

 ヴェールさんはふと思い出したように、というよりはこちらが目的だったのか、フォーンさんの事を聞いて来た。
 もしかしたら手元の資料はフォーンさんに渡すために持っていたのだろうか。あるいは生徒会長の印が必要な資料かもしれない。

「……何処かに目を凝らせば見つかるのではないのか?」
「魔法で軽く調べたけど、見つからなかったんだよ」
「あの方は魔法で調べて、目視で確認しないと見つからない時は有りますよ」
「メアリー、それは言い過ぎではないか? 確かに彼女は目立たな――静謐な方だが……」
「いや、ヴァイオレット。俺達がメアリー達の前世とゲームの事を学園で話した時に、魔法で聞かれない様にし、周囲を確認したのだが、会長はそれをすり抜けたんだ」
「……なにか特殊な加護でもあるんでしょうかね、会長は」

 フォーンさんがなにをしたって言うんだ。
 ヴェールさんも殿下の“目を凝らせば”と言う発言に言い返す事無く、魔法で探索したと言ったが、つまりそれはフォーンさんが影の薄い事を認識した上で探したという事では無かろうか。
 っていうかなんで皆フォーンさんを見失うんだ。ブラウンも言っていたが、彼女を何故見失うと言うんだ。
 ……え、会長就任の際、国王に謁見したけど国王と王妃含むその場に居た全員が一度見失った? 居なくなって周囲が「何処へ行った!?」とざわついた? ちなみにフォーンさんはその時動かずに普通に立っていた? だからヴェールさんも魔法でわざわざ探した?
 ……フォーンさんがなにをしたって言うんだ……!

「すみませんが、見て無いですね」

 フォーンさんの影の薄さはともかく、俺達は見てはいない。メアリーさん達も最後に見たのは俺達と同じで、今日騎士団で色々やっていた時のようである。

「そっか、見てないか……ありがとう、手間をかけたね」
「いえ、お役に立てず申し訳ありません」
「構わないよ。あ、だけどもしもフォーン君に会ったら、私は実働部隊待機室に居るからと伝えてもらえないだろうか」
「分かりました」
「すまないね、ありがとう。では私はこれで。君達も疲れたら休むんだよ」

 ヴェールさんは俺達に感謝の言葉を言うと、一礼してこの場を去ろうとする。どうやらフォーン会長に関連している資料は重要ではあるが、他にやらないと駄目な事を優先するようである。
 ……先程フォーン会長は学園に行っていると言っていたし、今の学園なら誰も居ないだろうし……うん、探しに行くのも良いかもしれない。

「あの、私達が探しましょうか?」

 そして俺が提案するよりも早く、メアリーさんがそう提案したのであった。

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