追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

なにがあろうと聞くべき事(:朱)


View.ヴァーミリオン


「レッド……何故貴方が此処に……」
「…………」
「……いえ、貴方なら此処に来てもおかしくない、か」
「…………。アッシュ・オースティン。エクル・フォーサイス。シャトルーズ・カルヴィン。スカイ・シニストラ。シルバ・セイフライド。そしてメアリー・スー。俺の妻が迷惑をかけたようだ」

 俺の質問に複雑そうな表情をした父上であったが、すぐに持ち直し、先程とは違い声が何処か弱々しい母上を見つつも、俺以外の俺達の名を一人ひとり呼ぶ。
 相変わらず父上の声は、息子である俺にとっても格を感じる様な、言葉では説明出来ない力を纏っていた。

「だが、メアリー嬢。コーラルは俺の妻なのでな。聞きたい事があるのは分かるが、あまり辱めないでやって欲しい」
「辱めるのは俺の役割だ、という事でしょうか」
「……そういう意味ではない」
「冗談ですよ。貴方が辱めてもただのご褒美ですから、ますます喋らないでしょうし。貴方の前で、なら話は別でしょうが」
「…………」

 しかしメアリーは圧に対しても怯む事無く、不敬な事を臆面もなく言う。
 圧を感じていない……という事では無いだろうが、圧を受けてもなお心が気圧けおされない強さを持っている、という事なのかもしれない。

「未来ある我が国の若人達よ。この件に関しては後は俺が責任を持って処理をする」
「父上、処理するというのは……」
「……コーラルは俺の妻ではあるが、今は私利私欲にて息子に害をなそうとした罪人に過ぎない。……挙句には、この戦いに負ける事を見越し、ヴァーミリオン、お前とスカーレットを排斥しようとすらしていた女だ。その行為はクーデターと変わらない」

 ……やはりそうなるか。
 俺が例え単独で向かおうとも、母上は戦いを仕掛けた上で負けを選んだのだろう。負けて裁かれ、表舞台を去った後に俺とスカーレット姉さんを排斥しようとした。
 “王妃を追い出した王子”として排斥しようとするのか、あるいは別の方法をとるのか。……母上の策略は俺には分からないが。

「……流石はレッドですね。計画の資料を見るまでも無く、私如きの稚拙な計画は見通されていましたか。……私の事、嫌いになりましたか?」
「嫌いもなにも無い。俺はこの国を背負うべき王だ。そういった立場では――」
「ええ、そうでしたね。貴方は気軽に好き嫌いを口にする立場にはない。……妻であろうと私はただの臣下の一人に過ぎない。……だから、こうして貴方自らが裁きに来たのですね。他の臣下を連れず、ただ国を背負うレッド・ランドルフ国王として片付けるために」
「……その通りだ。気付くのに遅れ、他のお前の策略を潰していている内に、息子達に先を越されてしまったが」
「ふふ、貴方ですからすぐに気付けたのですよ。……貴方に裁かれるのならば、良いのかもしれません。……でも、嫌われたく……なく……て……」
「……気を失ったか。無理に暴れすぎたな」

 何処か悲しそうにしつつ、ゆっくりと眠る様に気を失う母上。
 ……母上の言葉の意味。そして父上の言った処理という言葉。
 それは父上が母上を裁く、それだけの話だ。
 例え長年連れ添った夫婦であろうとも、レッド国王はコーラル王妃を容赦なく裁く。

「お前達、後は国王である俺に任せろ。……このような事を引き起こす男の言は信用出来ないかもしれない。お前達もコーラルに追及したい事は有るだろう。だが、ここは引いてくれ」
「国王陛下、それは――」
「もう一度言う。――引け」
「っ……!」

 そして同時に、俺達に不満が残ろうとも、この件については追及するなとも言っている。クロ子爵も、ヴァイオレットも。今回の一件の被害者も。なにが有ろうとレッド国王が責任を持って処理ほてんをする。
 ……国の長として、国のために最も有用に処理するつかうと、レッド国王は言っているのである。……もしかしたら、これすらも母さんは予想していたのかもしれない。

「レッド国王陛下、話を勝手に進めないでください」

 そして誰もがレッド国王の有無を言わせない圧に押される中、メアリーは先程と変わらずに言葉を発する。

「メアリー嬢。今回の一件は追って連絡をする。知りたい事があれば、その時に――」
「勝手に進めないで下さいと言っているんです」

 凛とした芯のある何処か強い声。清涼とも言える声は、明確に敵意を孕んでいた。
 ……先程はメアリーには気圧されない強さを持っている、と評したが、これはもしやメアリーは……

「メアリー嬢」
「なんでしょうか、レッド国王陛下」
「貴女は聖女の如き慈愛を持つ女性と聞き及んでいる。だが、今の貴女はコーラルだけでなく、俺に対しても憤怒の感情を抑えていないようだな」

 ……あるいは、メアリーは父上に対しても怒っているのかもしれない。

「そのような過分な評価をして頂きありがとうございます。国王陛下にそう評されるのなら、私とも嬉しい限りです」
「憤怒について否定はしないのだな」
「分かっている事をわざわざ言うつもりは有りません」
「……傲慢だな。若さか、あるいは被害者であるが故に強く出られると思っているのか」
「父上、その言い方は――」

 俺だけでなく委縮していた俺以外の皆も父上の言葉に反論しようとする。例え威圧され、委縮されたとしても今の言葉は聞き捨てならない。
 確かにメアリーの言葉は不遜と言えなくも無いだろう。しかし父上の言葉は言い返したくもなる。だから俺はメアリーを庇いつつ、代表して言う事で父上の感情の矛先をこちらに向けようとする。

「そのように思って下さって結構です。私は、今の貴方にどう思われようと、どうでも良いです。……そもそも、貴方は俺に任せろと言いますが」
「……言うが、なんだ」
「――貴方の対応が原因でこうなったとも言えるのに、貴方の事を信用出来るはず無いでしょう」

 しかし、俺が遮るよりも早く、メアリーは父上に言葉を返した。

――……駄目だ。

 メアリーが今怒りの感情を父上に向けるのは、俺達やクロ子爵などが危険に晒されたからである。それは俺達を大切に思ってくれているからであり、そこは素直に嬉しい事だ。

「メアリー嬢、その強さはお前の美点だろう。だが、」
「貴方が国のトップであろうと関係有りません。私は、コーラル王妃から聞くべき事を聞いていない。それを聞かない限りは、私は引く気は無いのです」
「それは何故だ。その聞くべき事とは、今この場で俺に逆らってでも聞くべき事なのか」
「はい」
「この国でお前に破滅が起ころうとも、か」
「はい」
「……何故、そこまでする。なにを聞きたいと言うんだ、メアリー・スー」

 そして父上に対しても一歩も引かないのは、メアリー自身が強いからだろう。
 だが、強さ故に怒りに支配されている。……このままでは、取り返しがつかなくなる。だから止めなくてはならない。

「私は――」

 だが、そんな子供じみた、真っ直ぐな言葉を聞き。
 感じていた圧など消え、俺はメアリーの強さに二度目の――

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