追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

避けられぬ戦い?(:朱)


View.ヴァーミリオン


「ぜー……はー……ど、どんだけ強いんだよ……!」

 謁見の間は戦闘の余波が残り、俺とメアリー以外は肩で息をするほど疲弊し。魔力的な残りも危うくなっている中、シルバがようやく終わったとばかりに戦闘の感想を呟いた。
 そう言いたくなるのも無理は無い。母上は俺とメアリーが同時に一撃を加え、鎧を壊して無力化するはずだったのだが。

『は、はははははははは! 良いぞ、お前達の力をもっと見せてみろ!』

 という笑い声をあげ、文字通り覚醒した。
 表情はまるで「昔を思い出す!」とでも言わんばかりに愉しそうな表情となり。ランスは振るうたびに破壊と衝撃を巻き起こし。再び俺とメアリーが一撃を加えるまで文字通り暴れ倒した。
 空を舞うが如く跳躍し、ランスから放たれる魔法ビームは油断をすれば大きなダメージを受け、ランス自体の捌きも凄まじく、まるで重量の軽い武器を振るうかのように振るって周囲を薙ぎ払うのである。

「久方ぶりに全力を出した。懐かしさについ心が躍ってしまったよ。フォーサイス家長男とセイフライドの者の同時魔法がなければもっといけたのだが……」
「エクル先輩……僕達、役に立ったみたいだよ……!」
「うん……メアリー様の……役に立てたね……!」

 そしてそんな母上の猛攻は、全員の連携により抑えられたのもあるが、抑えるキッカケを作ったのはエクルとシルバである。
 シルバの特殊な魔法は母上も流石に慣れていなかったのか、対処が上手くいかず、そこにエクルの魔法によって崩す事に成功。その後全員で抑え、俺とメアリーが抑えたのである。……恐らくもう一度戦えば、同じ方法は通用しないだろう

「だが、全盛期を過ぎた、四十後半に差し掛かる私を数名掛かりでやっととは……まだまだだな」
「ぜー……全盛期はどんなんだったんだよ……!」
「シ、シルバ……不敬ですよ……ゴホッゴホッ!」
「精霊の加護を使ってようやく、ですからね……ふぅー……」
「俺には分身をしたようにすら見えたからな……すぅ……はぁー……」
「あぁ、アレ、私の見間違えじゃ無かったんだね……ぜぇ……」

 なにせ俺達のほとんどはもう余力が無いギリギリだ。ギリギリでなんとかなったのだから、気合と根性で分身したり出力を上げる母上に次も勝てるのは難しいだろう。

「仕様がない事ですよ。私達は貴女を抑えるために。貴女は私達に遠慮をせずに戦ったんです。こちらの方が技量も出力も気を使う以上は、より戦い辛いのですからまだまだに思えるでしょうね。まったく大人げない」
「随分と刺々しいな。聖女の如き女で優しく善い事をしてくれる、と聞くが私には優しくしないのだろうか」
「大切な皆さんを傷付ける相手に優しくするほど、私は大人では無いので」
「……まったくだな」

 ……しかし、メアリーだけは平気そうなのはどういう事だ。息切れ所か全員に回復や怪我の治療まで行っているぞ。
 能力が高い事は素晴らしい事だとは思うのだが……俺がメアリーに勝てる日が来るのかと不安になる。……いや、それでこそ超える価値があるというものだ!

「しかし、聖鎧を壊すとはな。これはレッドにも壊された事のない代物だったんだが、まさかお前と……ヴァーミリオンに壊されるとはな」
「ええ、ヴァーミリオン君は己を磨き、血と立場だけと言われない様に努力を続けたのです。そのくらい出来てもおかしくはないでしょう」
「……ふん」

 ……随分とメアリーが不機嫌――というよりは攻撃的だ。
 普段であれば敵でも救う、まさに聖女の如き清らかな心を持っているメアリーだが、母上には随分と――はっ!?

「まさかメアリー、救いバカという言葉をまだ根に持って……」
「ヴァーミリオン君?」
「なんでもない」

 つい“もしや救いバカという言葉を気にして、救うのを我慢しているのでは”という思考が頭をよぎったが、メアリーのつい謝りたくなりそうな笑顔を向けられたのですぐに否定した。……今の笑顔は見たくないな。

「……コーラル王妃。何故ヴァーミリオン君をこの場で殺そうとしたんです」

 そしてメアリーは笑顔をやめ、真剣な表情になり母上へ尋ねる。

「何故、とは?」
「貴女の立場であれば、あのような方法をとらずとも良かったはずです。少なくとも、私達が居る状態であのような行動をとる必要は無い」

 メアリーの問いは母上の行動の突発性についてだろう。
 母上はこの国の最高権力者と言っても良い立場であり、発言力も相当ある。そして武芸だけでなく政治的手腕も優れている。
 例え父上、ローズ姉さん、マター義兄さんなどの反対があったとしても、俺やスカーレット姉さんを王族から排斥は難しくとも、権力の中心部から遠ざける事は出来たはずだ。
 さらに俺を……殺すとしても、今この場でするのは選択としておかしい。俺達の実力を正確に把握していないのならともかく、集団ならば総合的に母上の方が不利と判断し、宣言して戦いを仕掛けて来たのだ。
 それらの行動はおかしい、メアリーはそう問い質したいのだろう。

「――はは、別に私の行動を理解してもらおうとは思っていない。答える気は無い」

 しかし母上は小さく笑い、質問に対し拒絶を意味する回答をした。

「……それに、子というのは大人に反発するモノ、否定するのが世の常というモノだ。だから君達は私に反発し、否定すれば良いだけなんだよ。……なにがあろうと、私の行動は許される訳ない、ってね」

 母上はただ天井を見上げ、先程までの力溢れる行動は遠き過去のように、力の抜けた声で呟いた。
 敵の役目は終えたと言うように、結局は叶わなかったというように……いや、今こうなる事が、母上の策略の内であるかというように感じる。
 母上としては、最終的に俺とスカーレット姉さんを追い出し、カーマインが戻れば解決するかと言うような表情。……例えその結果の代償に、自分が子供達と会えなくなっても良いかと言うような、そんな表情に見える。

――……母さんの行動は、ここまで……

 そう思うと、俺は自分の不甲斐なさに腹が立つ。
 結局はこのような結果に導いてしまった。もっと前に話し合えば、行動を移せば避けられたはずの現状は、今、こうして結果として確定を――

「成程、私は反発すれば良いんですね。では話すまで――身体を弄り倒しましょう」
「は?」

 確定を――今、メアリーはなんと?

「身体を……弄り倒す? つまりは私に大好きなお友達を殺されかけた鬱憤を晴らすという事か? ……殴ろうが魔法を放とうが構わんぞ。それで気が済むならな。だがどんな痛みを受けようが、話す気など無い」
「いえ、傷をつけるなんてとんでもないですよ。私はこの状況にのっとり反発し、貴女のその心意気を否定するんです」
「……つまり?」
「私、知っているんです。昔私がやったゲームでは、女騎士とか姫騎士は、やられて鎧が壊れれば“くっ殺状態”になるのだと。そしてその状態の相手は――エロい事をするのがマナーだと」
「何処の世界のマナーだ」
「メアリー、騎士をなんだと思っているんです」

 メアリーの言葉に母上だけでなく、女騎士候補……スカイまでもが言葉を挟む。
 ゲームでくっころとはなんだろう。そして母上は姫騎士というよりは女王騎士になるのでは……? いや、それもおかしいが、どちらにせよマナーとなる程女騎士と姫騎士とやらは題材になったのだろうか。

「コーラル王妃は現在無力化された状態。そして現在私達は若い身体を持て余した者達です」
「メアリー様、持て余すの使い方おかしいよ。違った意味に聞こえるよ」
「エクル先輩、この場合メアリーの用法で合っているのでは?」
「……そうかもしれないね、アッシュくん」
「まぁつまり私達は理由を知りたい。けど話す気は無いのでどうにかして聞く必要がある。しかし痛みは耐えられるモノですから――要するに、皆でエロい事をして聞き出します」
「要するにではない。というかお前、その方面の知識あるのか。清純を気取って私の叔母のような淫蕩であったのか」
「ふっ、私はこれでも――数々の女の子を、悶えあげたテクニシャン! 相手の性格と仕様を熟知して、状態異常、淫乱を付与する事に長けているのです!」
「なにを言っているんだ……若い子ではこれが普通なのか……?」

 堂々と宣言するメアリー。……よく分かりはしないが、メアリーの自信は実戦経験ではまるで役に立たないことが分かる。

「……エクル」
「うん、実際の女の子を相手していない、ゲームの話……キミ達に分かりやすく言えば耳年間だよ」
「……そうか」

 エクルに尋ねると、想像通りというか、やはりというかなんと言うかといった答えが返って来た。

「……メアリー・スー。お前の言っている事は分からんが、一つ聞こう」
「なんでしょう。私は貴女に反発して、貴女と違って答えてあげますが」
「一々攻撃的だな。……私は五人の子を産んだ、四十代後半の、もうすぐ五十だ。お前達の三倍近く生きている。……そんな女にエロい事をしてどうする」
「コーラル王妃はお若く凛々しいんですから大丈夫ですよ。ね、シャル君?」
「お、俺に聞くのか!? ……えっと、王妃は美しく、気高い存在で……!」
「カルヴィン家長男。無理に答えなくて良い」

 ……母上は見た目に関しては、確かに年齢よりは遥かに若々しい。お世辞や社交辞令を抜きにしても母上は容姿を褒められることは多い。多いが……

「……メアリー。流石に俺も目の前で母上が……性的な扱いを受けるのは見たくないのだが」

 しかしシャルが大丈夫だとしても、俺は流石に遠慮したい。
 当然そのような扱いを誰かにする、というのも止めたいが、母上に関しては……想像したくない。俺だって幼少期の数年間は本当の母と思って過ごし、その後も義理とはいえ母として接していたから、そんな相手をそういった目で見るのは無理である。

「ヴァーミリオンに気を使われた上に母と呼ばれる筋合いはない! さぁ、来い。私はレッド意外にエロい事をされようと気持ち良くはならんから堕ちはせんぞ!」
「母上はそこで反発しないでください!?」

 なんでここで俺に敵対心を抱くんだこの人。
 そんなに俺が嫌いか、嫌いなのか。だとしても俺は貴女の事を母と思いたいですよ。母さんとは違って、貴女は対応の差は有れど、母として振舞おうとしてくれたんですから。

「成程、レッド国王以外にエロい事されても喋らない、と」
「そうだ。それでもお前は反発して喋らせようとするか? 痛みだろうがなんだろうが、私は――」
「では、レッド国王にしてもらいましょうか。ね、国王陛下?」
「――なに?」

 メアリーの言葉に、母上だけでなくこの場に居たメアリー以外が疑問符を浮かべる。
 そして次の瞬間、疑問は来訪者の気配を感じ取り、全員がそちらを向く。
 向いた先には……父上こと、レッド国王。

「……父上、俺に弟か妹が出来るのでしょうか」
「……お前はそれを聞いて、俺にどのような答えを求めているんだ」

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品