追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

会いに行くのは(:朱)


View.ヴァーミリオン


「馬鹿なのか、お前達は」
「…………」

 早く騒ぎを沈めるために、メアリーを振り切ろうと全力で走っていたという事を友であるシャルはそう断言した。メアリーに対しても言っている辺り、シャルの呆れ具合が伝わって来る。
 言い返したい所であるが、言われてもおかしくない事をしていたので否定出来ない。

「……何故お前達が居る。エクルもクロ子爵と一緒に行ったのではなかったのか」

 俺は自身が馬鹿である事は否定はせずに、気になっている事を聞いてみた。
 俺達を止めたのはシャルとスカイではあるが、一緒にアッシュやシルバ、そしてエクルまでも居る。
 生徒会として先程の騎士の戦闘の時にも居たのは知っていたが、何故王城に居るというのだろうか。

「私はメアリー様が気になったように、ヴァーミリオンくんを心配で見に来たんだよ。彼らとはその途中で会ったんだ」
「俺は心配されるような事はしているつもりは無いが」
「……言っておくけど、メアリー様や私だけでなく、我が妹やクロくん、ヴァイオレットくんも様子がおかしいと心配していたからね」
「メアリー、貴女達と一緒に居たのは他に誰が居ます?」
「あと国王陛下くらいですよ、アッシュ君。多分国王陛下も気付いていたかと」
「ようは全員に勘付かれていたという事だね」
「シルバ、分かっていても言うモノじゃ無いですよ」

 くっ、シルバやスカイまでもが……! スカイに至ってはその発言も失礼と分かった上で言っているな……!

「悪かったな、分かりやすい男で」
「開き直ったね」
「直りましたね」
「やかましい。それで、アッシュ達は何故居る! お前らは騎士団での一戦の後生徒会の仕事があったのではなかったのか!」

 あの場に居た全員に勘付かれていた事は良い。恐らくクロ子爵やヴァイオレットは俺に気を使ってメアリーやエクルを行かせたのであろうし、気を使ってくれる友が居たのだと感謝すれば良いだけの話だ。……ああ、それだけの話だとも!
 それは良いとしても、アッシュ達は何故王城に居ると言うんだ……!

「騒ぎが起こる可能性があると、私の母に聞いたからだ」

 そして俺の疑問に対し、シャルはそう答えた。
 シャルの母……つまりはヴェールさん。彼女がこの騒ぎを予見したとなると、もしやあの日本NIHON語で書かれた預言の書にこの騒ぎが書かれていたのだろうか……?

「いや、今回の騒動を予想……報告したのは、準男爵家の騎士であったらしい。とある御方が騒動を起こす可能性がある、と」
「その騎士は何者なんですか?」
「母も詳細を聞いたのだが、彼も密命を帯びたモノを伝えただけらしく、それ以上は分からなかった。彼自身は特に特別な力を有している訳ではなさそうだ」
「そうなると、信憑性が曖昧であったから、すぐに動けるお前達を動かした、という訳だろうか」
「恐らくは」

 あるいは軍や騎士、ヴェールさんの部下などを動かすと、この騒動を起こしている者に勘付かれる可能性があるのでアッシュ達を動かしたのかもしれない。アッシュ達なら、まだ俺やメアリー達の元に来た、などの言い訳はつくからな。
 ……それでも言い訳としては苦しいが、あのヒトであれば気付いたとしても見逃すだろう。

「そして騒ぎが起きたのなら、ヴァーミリオンやメアリーと合流するべきだともシャルは言われたそうです」
「私はまさかとは思ったんですけど、本当に起きていますし……そして合流しようとしたら、まさか私がメアリーを止める事になるとは思いませんでした」
「うっ。……ごめんなさい。ついムキになってしまって」
「ま、まぁまぁ。合流は出来たんだから気にしないでおこうよ。それより僕達の方でもこの騒ぎの終息をするために、力を合わせて鎮静化を目指そう? 僕達だったらこの騒ぎを起こしている奴らを楽に抑えられるだろうし!」
「そうだね。私達でも出来る事を――」
「いや、それよりも優先事項がある」

 互いの状況を把握し、これから皆で動こうとしているとシャルが動く前にする事があるというように言葉を遮った。

「シャル、それは一体なに?」
「その問いの答えは、私よりもヴァーミリオンが分かるのではないか。でなければメアリーと謎の追いかけっこなどしないだろう」
「謎のって……」

 そしてシャルに注目が集まる中、スカイは質問し、シャルは俺を真っ直ぐ見据える。
 ……これは、誤魔化しが利くモノでも無いだろう。
 それに元々クロ子爵は予想を立てていた。俺が確信を得て独りで行動しようとしている事もメアリーには見抜かれていた。

「……来い。俺は今から向かう所がある。そこで会う相手が居るのでな」

 そしてこの場に居る者達から今更逃げるのは不可能だろう。
 俺は観念すると、ある場所に向かって歩き出す。メアリー以外は多少なりとも戸惑いつつ、俺について来た。

「ヴァーミリオン、それは一体……?」
「メアリーや……シャルは知っているのではないか?」

 ……正確には違うのだろうが、今会いに行く相手についてはメアリーは聞いているし、シャルも恐らくヴェールさんから聞いている。だからシャルは俺に対して問いかけて来たのだろう。……そうでなければ謎の追いかけっこをしていただけだからな、俺達は。それを見て勘付くとは思えない。

「……そのように言うという事は、母が言っていたのはやはり、正しかったというのか」
「ヴァーミリオン、シャル。言葉をハッキリさせてくれ。騒ぎを起こしている張本人が曖昧なままでは私達も心の持ちようはない」
「そうだな。今会いに行く御方は、恐らく王城の自室か自身の仕事部屋で指示を出しているか、謁見の場で俺の来訪を待っているだろうな」
「だから誰――待て、王城内の自室か仕事部屋? それは――」

 歩きながらの説明に、アッシュは口調が素になる程なにか信じられない事に勘付き、表情が強張る。
 そしてシルバやスカイも、アッシュが繰り返した単語キーワードに対してなにか嫌な予感を感じているようであった。
 メアリーは……自分がその名を言うべきではない、といった様子か。確かに今から会いに行く御方の名は、俺が言うべきだろう。

「今から会いに行くのは、コーラル・ランドルフ。……この王国の国母だ」

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