追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

……どう考えても(:紺)


View.シアン


「とりあえず俺とシアンで直談判し、ヴァイスの審問すらさせない状態に追い込むというのはどうだ!」
「とりあえず、じゃないです」

 クロの屋敷内のとある部屋にて。私は今にも特攻をかましそうな神父様を落ち着かせつていた。
 教会で服は着替えたらしく、簡易的な治療も終え見張りの軍人を連れて私の所へ来た良いのだが……この調子だと、教会で執行官や軍人と一悶着を起こして禁固刑を言い渡されなかっただけマシかもしれない。

「大体それだと、軍人に相手をされている間執行官が審問すると思いますよ」
「成程、つまり執行官が無視できない大声を出しながら教会の外で騒ぎを起こせば……」
「成程、じゃないです」

 ……なんだろう、デジャヴを感じる。さっきも同じ問答をしたような。
 神父様にしては珍しく他者に迷惑をかける案を出しているが……あまりこういった案を出すのが得意ではないのか、「ならどうすれば……!」と頭を抱えて悩んでいる。可愛い。

――それほどスイ君を気に入っているんだね……

 しかし得意でない事を頭を抱えてまでするという事は、それほどの事をしたいという事だ。
 スイ君とは短い付き合いではあるが、料理を教えると素直に感心して学んだり、敬虔に祈る信仰心を持ち、なによりレイ君のように見ていると素直で可愛らしい。気に行ってしまうのも無理は無いというモノか。
 神父様は基本誰に対しても平等に接し、特別扱いする事は少ないのだけど、やはり同性で身近に住む弟のような存在は距離が近くなるというモノか。……くそぅ、同性ゆえの距離感が少し羨ましい。

「神父様。先程も言いましたが、これはクロの留守中を狙ったモノである可能性があります。下手に問題を起こせば、なにを言われるかは分かりませんよ」

 羨望はともかく、今はスイ君の救出作戦が重要だ。
 何処で見張りが聞き耳を立てているか分からないので小声で話しつつ、神父様を宥める。

「それは分かるが、今ヴァイスが危険なんだ。俺はそれを見過ごしたくはないんだ……!」

 やだ、この神父様格好良い。
 目の前の相手を見過ごせない正義感とか、なんて魅力的な御方なのだろう。

「神父様、私だって気持ちは同じです。私だって暴力で解決出来ればどれだけ良かった事かと思います」

 と、イケない。私が神父様に見惚れてどうする。
 私はあくまでも冷静に居なくてはならないのだから、ここは冷静に対処しないと。

「それにシューちゃんが頑張ってくれていますので」
「シュバルツが? ……あの子なら俺と同じ……いや、それ以上に感情を昂らせてツッコみそうだが。状況を知れば真っ先に特攻して捕縛されそうだが……」

 同じ事をシューちゃんが神父様にも言っていたのだが……なんだろう、似た者同士かなにかなのだろうか。

「いえ、特攻はせずに今頃誘惑し回っています」
「誘惑? ……シュバルツは綺麗だから、軍人や執行官を誘っているのか……? 全員男だったし……」
「…………へぇ」
「あ、いや、シュバルツは綺麗だが、シアンの方がもっと綺麗だし、可愛いし、俺は好ましいと思っているぞ!」
「え。あ、ありがとうございます……?」

 今の「へぇ」は、性関連に鈍い神父様がそういった方面の誘惑を想像出来るのかと思った関心の言葉だったのだけど……褒められたから良しとしよう。流石にシューちゃんよりは綺麗だったりする自信は無いけど、神父様に好ましいと思われるのは素直に嬉しいし。

「って、私の事はともかく。シューちゃんは今頃――そうですね、もう少し経ったら私達も教会に行きますか」
「カチコミか?」
「神父様って言葉選びが結構物騒ですよね」

 クロに言わせると「シアンと似た者同士」らしいけど、私はそこまででは無いと思う。

「そうではなく、まぁある意味では合っています」
「教会を襲撃か……クロが帰って来た時までに直せればいいが」
「合っているのはそちらではなく、誘惑の方です。執行官は誘惑しませんが」
「……今のままだと執行官と話が出来ないから、話が出来る場を作りだすために邪魔者を排除する、という事だろうか」
「それは最終手段ではありますが……要するに情報を得るんですよ」
「情報?」
「ええ、軍人の方を誘惑し、シキに来た理由を明確にするために、ね」
「……シュバルツが良いと言ったのか?」

 私の案に対し、何処か厳しい目つきになる神父様。
 神父様にとっては、その行動が無理にさせているのならあまり好ましくない案であったのだろう。
 私も同意見ではあるし、それに……

「私は情報を聞きだして欲しい、といっただけです。商人としてアプローチを……と。ですが“ならヴァイスのために誘惑しに行く!“とシューちゃんが出て行ってしまって」

 私は誘惑して来て欲しいとは言っていない。
 シューちゃんなら悪魔的な方法で情報を聞きだせるかと思ったのは確かだけど……

「とはいえ、私が似た事を提案したのは事実です。……ごめんなさい。スイ君のためとはいえ、善くない事を作戦としました」

 しかし私がシューちゃんに悪魔ヒール的な役割を担って欲しいと言ったのは事実。それは否定しようがないし、否定しては駄目だ。
 そして提案したからには、私だけ綺麗で済ませる訳にはいかない。……神父様に軽蔑されようと、素直に言わないとね。

「そうか。本人が自分の意志でやったのならば良いんだ。……だが、シアンが誘惑しに行かなくて良かった。そうであったら俺は全てを捨てでも作戦の代わりに暴れるしかなかった」
「はい?」

 ん?

「シアン、先程最終手段と言っていたが、最終手段はやはりこの身に替えてでもヴァイスを救う案が良いと思うんだ」
「い、いえ、ですからそうなると私達はシキに居られなく――」
「ああ。――だからシアン。その時が来たら俺と一緒に逃げてくれるか」
「はい!?」

 え、なにを言っているの神父様。
 俺と一緒に? え、つまり神父様と私が全てを捨て何処かへ――え?

「俺はシキに住めなくなっても、王国を捨てでも、シアンと一緒なら何処へでも幸福に過ごせる。シアンには辛い思いをさせるかもしれない。辛い思いをさせるのなら俺独りだけが罪を背負えば良いかもしれない」
「え、ええと、神父様――」
「だが! 俺はシアンと一緒にいたいと思っている。俺が我が儘を通したいと思うほどに、シアンが傍に居て欲しいと願っている!」
「あ、あの、神父様……?」
「当然、追われる身になってでも行動するのは最終手段であり、シキで皆と一緒に過ごす事が望みだが――覚えておいて欲しい」
「な、なにをでしょう?」
「シアンやシュバルツだけに覚悟なんて決めさせない。俺は――シアンさえいれば、なんでも出来るんだ」

 …………多分これ、神父様的には「独りで背負わないで欲しい」という意志表明なのだろう。「俺もシアンやシュバルツと同じくらい覚悟を持つ。そのくらいヴァイスが大切だ」とも言っているんだろう。
 ……けど、どう考えてもこれって……うん。…………うん。

「ありがとう、ございます……その覚悟は受け取りましたよ、スノー君……!」
「ああ、一緒にヴァイスを救うために頑張ろうな! 当然シュバルツとも!」

 ……私は小さな声で頷くと、神父様は笑顔で決意を新たにした。
 ……多分今の私の顔は、赤いと思う。

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