追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

愛は良いモノ(:菫)


View.ヴァイオレット


「お前達、そこまでだ。互いの強さは充分理解した!」
「まだ戦いは終わっていません!」
「決着も付いていないのに日和見で終われるモノか!」
「…………」

 という、この国の最高権力者である国王陛下の静止の言葉にも止まる事は無く、戦いを続けるというトラブルはあったものの。

「――いい加減にせんか」

 という、静かだが耳に通る声をあげた後、国王陛下が両名の間に魔法(恐らく王族魔法)を放ち、二人の間開けた後。ヴァーミリオン殿下は御兄弟の殿下達が。メアリーはシキと学園生組が止める事で戦闘は終了した。

「ふ、ヴァーミリオン。愛しているときたか。女性に対する愛は良いな、同じ男としてオレも分かるぞ!」
「うんうん、分かるよ、愛は良いよね。性別関係無く愛する相手が居るっていうのは良いよね、姉として分かるよ!」
「私には愛はまだ分かりませんが、愛をお互いに感じるためにもヴァーミリオン兄様を見習わせて頂きます!」
「そうですね、愛する相手が居るというのは良い事です。……ヴァーミリオン。吐いた唾は飲み込めませんからね? 王族として……いえ、私の弟として、愛の覚悟をしなさい」
「…………愛。……ラッキースケベイは……愛に繋がる……ヴァーミリオン兄様……手伝おうか……? 兄様の愛のためなら……手伝うよ……!」
「いや、その手伝いは良いぞフューシャ。……というか、その、兄さんも姉さんもその言葉は……その」
『愛!』
「わざわざ声揃えて言うな! というかローズ姉さんまで!?」

「あはは、ヘイヘイヘーイ、メアリーちゃーん。どうするのー? ハーレムルートに行くか、個別ルートに行くかどっちにするのー? ハーレムの場合は子供を大切にね!」
「メアリー様、私はどのような選択をしようとメアリー様の味方です。愛のためなら好みをどう扱おうと良いですからね!」
「メアリークン、フシダラハヨクアリマセンヨ。――ですが、愛が大きいのなら複数も仕様がない事。全員と真摯に向き合うのなら、ワタシは応援しマスヨ」
「メアリーは私からヴァーミリオン殿下を……えっと、NTRえぬてぃーあーるした女だからな。全員と真摯に付き合う事は出来るだろう?」
「そうなると身体が心配だな。安心しろ、メアリー。私の毒と薬と猛毒で健康的に付き合えるようにしてやるから、いつでも頼れ!」
「ふふ、最近の学園生は本当に凄いですねー。ですが私も応援しますよ。その色んなタイプを侍らす女の力を私にも見せて!」
「あの、なんで皆さんハーレム推奨しているんです!? クロさんもなにか言ってやってくださいよ!」
「あー……俺は当事者同士が納得しているならハーレムでも推奨しますよ!」
「クロさんまで!?」

 そして現在。試合が終わり、それぞれ止めた者達が戦っていたヴァーミリオン殿下達に質問攻めをしていた。
 一時的に止めたモノの、あのままでは再び戦いを開始しそうであったので、落ち着かせるために話す事で気を逸らすというのもあるが……皆が楽しんで質問攻めをしているだろう。……私も含めて。

「クロ殿、一つ聞きたいのだが」

 と、私が揶揄うまでもなくメアリーは他の皆から先程の戦闘中の会話について冷やかされているので、私は少し分から外れ、クロ殿に声をかけた。

「どうされました?」

 私の声掛けに気付いたクロ殿は、同じく静かに分から外れて私に近付く。

「ヴァーミリオン殿下があのようになったのは、クロ殿達が言う鉄の男とやらの影響だと思うか?」

 先程クロ殿達はテンションが高いヴァーミリオン殿下を、シナリオライターがノリで書いたシナリオの状態だと言っていた。
 この世界がクロ殿達の言うゲームの世界に少なからず影響を受けていると仮定した場合、ゲームに関与している事ならば、例えそのゲームに正式に記載されていない事でも影響を受ける事になるが……

「先程の鉄の男、というのはハイテンションになった殿下を似ていると楽しんだにすぎませんよ。そもそもあの乙女ゲームカサスシナリオの強制力的なモノが働くのなら、メアリーさんはいくら頑張ってもクリームヒルトから殿下達を奪えない事になりますしね」
「つまり……」
「ええ、ヴァイオレットさんの心配なさっている、理不尽な制御不可な外的要素による強制的な魔法行使、ではないと思われますよ」

 クロ殿の言葉を聞いて少し安心した。クロ殿の言葉が絶対という事は無かろうが、安心して欲しいと言うように微笑む表情と、優しい声色を聞くと私は心の固かった部分が解れたのを感じる。

「だが、そうなるとあの扉……相当厄介という事だな」
「……そうなりますね」
「クロ殿、あの扉は……」
「その件に関してはまた後で話しましょう。以前説明した扉であるとは思うんですがね」

 やはりあの扉は……“ラスボス的な存在”とやらが封印されている扉なのか。
 私達の居る世界と似た世界を舞台にしたゲームの、最後の強大な敵として出て来る封印されたモンスター。あるいは怪物。もしくは怪人。時には英雄。
 どうとでも表現できるような、倒さなければならない敵があの扉の向こうに――

「さて。お前達、話は済んだだろうか」

 ……クロ殿の言うように、この件について考えるのは後にしよう。国王陛下の前でする事では無いからな。
 そう思い、私とクロ殿は他の者達と同様に会話を止めて背筋を正して国王陛下の方を向く。

「息子達、娘達よ。見事な戦いぶりであった。自分の意志を貫き通す強さが身についているようで、父として嬉しく思う」
『ありがとうございます!』

 国王陛下のお褒めの言葉に、戦った殿下達は意気良く返事をする。何処か嬉しそうに見えるのは、父に褒められたからか、父に自身の想いが認められたからか。あるいは両方かもしれない。

「同じく我が子達が愛する者達よ。此度は急な案件にも関わらず、付き合って貰って悪かったな」
「イエ、良イ機会ヲ頂キアリガトウゴザイマス」
「……まぁ、私も良い機会だとは思う――いました、国王陛下」
「あはは、私も戦えて満足です!」
「私も――」
「メアリー嬢は……恋多き年頃な上、オースティン家子息や、そこに居るクレールの子息も魅力的だろうが……うむ、応援するぞ」
「……ありがとう……ございます……!」

 おお、メアリーが「国王陛下まで……!?」と言いたい所を必死に我慢しているように震えている。

「さて、この後だが、自由に過ごして良い。国務もロボ嬢など連れて来たシキの方々が帰る明後日まで無しとしよう」
「えっ、良いのですかお父様!?」

 国王陛下の言葉に、スカーレット殿下がいち早く反応する。
 他の殿下達もその言葉に驚いているように見える

「ああ、お前達は優秀であるからな。数日程度構わん。……まぁ、一部の我が子達は仕事を放り出して馬を勝手に借りて飛び出すくらいだからな。今更という事だ」
「ははは、誰の事だと思う、ルーシュ兄様」
「ふふふ、分からんな、スカーレットよ」
「…………」

 ……国王陛下が、言いたい事は有るが、あまり強くは出れないと言った表情をしているな。昔は似たような事をしていたからだろうか。

「ともかく、これは私からのお前達に対する褒美とすれば良い。また、滞在中首都内で行きたい所があれば言え。私がどうにかしてやる」
「お父様。ですが、ルーシュ達が首都に好きな相手と繰り出せば、騒ぎに……」
「フューシャに渡していた認識阻害の服の効果を持つ護符を用意してある。自由に使えば、問題無かろう」
「それならば良いです」

 ローズ殿下は国王陛下の言葉ですぐに引き下がった。
 どうやら騒ぎにならなければ、数日の仕事免除や自由に過ごすのを認める辺り、殿下達が好きな相手と過ごす事自体は応援しているようである。

「向こうに護符と褒賞を用意してある。好きに取っていけ。では、解散とする」
「やったー、エメラルド、デート、さっき約束したデート! そしてそのままホテルにゴー!」
「ええい引っ付くな! あと、ホテルにゴーするのは確かだが、お前とは別室だからな!」
「王族権限で同室に変更しよう! 同性同士だから問題無し! 二人きりで熱い夜!」
「私は身の危険を感じるんだよ! あと親父も来ているからな!?」

「ロボさん。その……俺は貴女と一緒に歩きたいと思っているのだが、良いだろうか」
「……普段ハアンナニ積極的ナノニ、ソコデ慎重ナンデスネ」
「ロボさんは人混みが苦手だろう。無理をさせるのは……どうしてもな」
「……イイデスヨ。見ラレナイノナラ……貴方ト歩キタイデス」
「! ありがとう!」

「あはは、じゃあ私達はフューシャちゃんと一緒に街に繰り出そう!」
「え……私は……邪魔なんじゃ……それに人混みは……」
「フューシャ、行きましょう。フューシャが居ればクリームヒルトさんもより笑顔になります。だから貴女が居てほしいのですが」
「うんうん、行こうよフューシャちゃん!」
「う…………うん。……ありがとう」

「メアリー」
「救い馬鹿の私は帰ります」
「メアリー!?」

 そして皆々が互いに好きな相手を誘い、和気藹々とする中(一部除く)、私はこの後の事を考えていた。
 クロ殿と帰り、グレイ達と合流するにしても……私達のカーマインの件はどうなるかを確認しない事には帰る事は出来ない。だが解散する雰囲気が出ているため、どうするべきかとクロ殿と目を合わせていると――

「ああ、だがクロ子爵、ヴァイオレット子爵――」

 国王陛下が私達の名前を呼んで来た。
 どうやら私達から行くまでもなく、国王陛下からお言葉を貰えるようだ。

「エクル伯爵子息、クリームヒルト伯爵令嬢、そして――メアリー嬢にヴァーミリオン。お前達はしばらく残ってくれ」
『え?』

 しかし、次に呼ばれた名前に私達は戸惑いの声をあげる。

「『この扉の事について、聞きたい事があるのでな』」

 そして、国王陛下は私達の世界には無い言葉で、言ったのであった。

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