追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

年齢の離れているだけの(:菫)


View.ヴァイオレット


「ぜーはー……ぜー……ゲホッ」
「大丈夫、エメラルド?」
「大丈夫、なわけ、あるか。私は、お前達と違って……運動能力は高くないんだ……それなのに、戦って……まともに……ゲホッゴフォッ」
「ゆっくり呼吸を整えてー」

 スカーレット殿下対エメラルドの愛(?)の一戦は、あっさりとスカーレット殿下が勝利した。
 元より運動面はそんなに高くなく、攻撃手段も道具や条件が限られているエメラルドである。身体も度重なる毒の摂取の影響か、私が心配するほど細い……というか、肉の無い体型だ。モンスターから逃げたり、山を昇り降りする体力と足はあるが、真正面からの戦闘には向かない。
 そのため、純粋な身体能力ならば殿下達姉弟の中で最も高いスカーレット殿下が、とても調子の良い状態で向かってこられれば勝ち目はまず無いだろう。

「お前、本気で、ぜー、私を、殺しに来なかったか……?」
「本気ではいったけど、殺す気はなかったよ。あ、でもエメラルドも抵抗してきたからつい楽しくなりはしたけど」
「だから笑いながら迫って来たのか……ゴホッゴホッ」
「だってエメラルドが私を見てくれるんだもの……いつもは鬱陶しそうにしているのに、私を見て来る……!」
「……お前、そんな性格だったか?」
「好きはヒトを駄目にする!」
「やかましい。というか駄目なっている自覚はあるのか」
「まぁね。でも楽しかったのは本当。エメラルドも結構粘ったし、良い動きもしたし……素質は有ると思うよ?」
「私が欲しいのは万能薬を作る力と知識だ」
「ふふ、エメラルドらしい」
「……だが、偶には身体を動かすのも悪くは無いな。こっちも楽しそうにするお前を見て、引っ張られてしまったが……」
「お、つまりエメラルドが私に夢中に!?」
「やかましい。そういう事じゃない」
「イテッ。暴力はんたーい」
「私の手刀チョップなど痛くも無いだろうし、先程まで暴力を受けていたのは私だぞ……」
「暴力は全てを解決する、ってクリームヒルトも言ってたし大丈夫!」
「何処の犯罪地域の話だそれは。あと身体を整えるために毒を摂取したいのだが、良いか? 来るときに一式を持って来ては居るのだが……」
「台詞も行動もヤバいヒトだよ、それ」

 戦闘後、カイハクが「殿下相手にこの態度で大丈夫なのか」と不安がる視線を向けつつ、会話をする二人。
 通常であればエメラルドの態度は不敬以外の何物でも無いが、この両名の場合は……恋愛関係、というよりは年齢が離れているだけの友達、という感覚に思えて来る。
 昔スカーレット殿下を見た時は、何処となく影があって、壁を作っているという感覚があったが……こうして見ると、本当に明るくなったのだな、と思う。

「ところで、今更ですが、レッド国王におきましては、愛娘が私のような同性の平民不躾醜女と付き合う可能性がありますがよろしいのですか?」

 そしてエメラルドは呼吸を整え姿勢を正すと、初めて見ると錯覚するほどの敬語で国王陛下に遠慮なく告げた。グリーンさんが居ればまた胃を痛めそうである。

――しかし、同性、という部分に関しての疑問は尤もだ。

 エメラルドは毒で顔色が悪い時はあるが醜女ではないし、身分差に関しては……うむ、他の殿下達が殿下達なので今更な感じはする。当然無視は出来ない事柄だが。
 しかし他の殿下達とスカーレット殿下とで一番違う所は、同性同士という事だ。
 私達の住む王国では同性婚は認められていない。一般でも奇異の目線で見られるだろう。
 シキに来る前であれば、私自身は反対する立場であったと言える。それに過去には同性で愛を語った貴族が貴族社会から追い出される、という事があったのを私は知っている。
 そしてそれが王族となれば……下手をうてばランドルフ家そのものが王族としての地位が危うくなる事でもある。
 それを知った上で国王陛下はこうしてエメラルドを呼んだ。この場に居る者達が全員気になっていた事だろう。

「構わない。私は娘の意志を尊重する」

 しかし国王陛下の答えはシンプルであり、予想外の反応であった。……いや、ここにエメラルドを呼んだ時点で予想外というよりは、想定の範囲内、と言った方が正しいのかもしれない。

「……意志を尊重する、と受け入れるとは違うと思うが――いますが。ただ受け入れては、それは相手に興味ない、という事になるのでは?」

 エメラルドが珍しく反論した。
 基本は毒以外に関しては“反論”というよりは“感想”を言い、興味無さそうにするエメラルドだが……ここで妙に攻撃的に言っているのは、スカーレット殿下が“国王陛下ちちおやに興味を持たれていない”という可能性がある事に対して癪に触っているように思える。

「そういう事では無い。単純にそちらの方が私の王国として利益に繋がると判断したからだ」
「利益?」
「婚約話があるたびに破棄させようと画策するお転婆娘だ。ならば無理に婚約させるよりは、今の対等な相手が出来て、その相手のために努力する娘の方が良いと判断しただけの事」

 しかし国王陛下は気にする事無く――というよりは、その言葉を予想していたかのように、自身の考えを答えとして返した。

「だからスカーレット。これだけは頭に入れておけ」
「な、なんでしょうお父様」
「私が今のお前の状態よりも、別の方法をとった方が王国の利益プラスに繋がると判断したら、容赦はしない。されたくなかったら、自分の気持ちは価値があるものだと私に示せ。――良いな?」
「は、はい!」

 態度も言葉も嘘偽りなく、実際にそう判断したら次は無いのだと国王陛下はスカーレット殿下を脅していた。
 しかし、“容赦はしない”という所には何処か……激励の意味も含まれている気がしたのは、私の気のせいか。

――スカーレット殿下は、レッド国王にとっての……

 ふと、ある予想が思い浮かんだが、それ以上は確かめようが無いので考えない事にした。
 ……国王陛下は子供達全てを思いやり、叱咤激励しているというだけだ。それだけに違いない。
 それに……

「じゃ、お父様の許可も降りた事だし、エメラルド、早速付き合いましょう!」
「なにが早速だ! そもそもお前が負けたら付き合うのを諦めろという話で、勝てば付き合う事になるとは言っていないだろうが!」
「えー、それだと私だけ不利じゃんー。勝ってもなにもないなんて、くたびれ儲けじゃない!」
「知った事か! こっちはただでさえ首都に急に呼び出された挙句に戦わされたんだ。これ以上混乱させて来るな!」
「じゃあさ。折角来たんだし街にくりだそうよ。これが終わった後か、明日にでもさ!」
「いや、だから……」
「首都にはシキでは手に入らない、外国から入った薬草とかあるかもよ?」
「う……それは……そうだが……だとしてもそちらは忙しいだろう?」
「ふ、私を誰だと思っているの。仕事なんてエメラルドのためなら調整して熟す事が出来る……!」
「お前は優秀らしいからな……しかし、そうか。…………まぁ私は敗者だからな。そのくらいは聞いてやろう」
「やったー! エメラルドとデート!」
「はいはい、デートだな、デート。私は首都は久々だから、お前――スカーレットがエスコートしてくれるか?」
「もちのろん! 私が貴女をエスコートするよ、お姫様!」
「ふ、姫はそっちだがな」

 それに、こうして楽しそうにするスカーレット殿下を見れば、今までの事も含め優しくしてあげたくなるのが親心というモノかもしれない。

「ところで先程から疑問なんだが……」
「どうしたのエメラルド。お金の心配なら私が全部驕るよ?」
「自分の金があるから良い。そうではなく、観客達の事だが……」
「ローズ姉様達?」

 エメラルドはこちらを見ると、スカーレット殿下もつられてこちら側を見る。
 そして両名の見た先に居たのは……

「はい、エクルさん、クロさん。とりあえずマイクロビキニパンツと紐を用意しましたが、どちらが良いですか?」
「その選択肢なら俺はこのままを選択します」
「メアリー様が作られたのならどれでも良いよ!」
「冗談ですよ。ですが……男物の下着の構造がよく分からないんです」
「いえ、そこまで複雑なモノでは……でも確かに女性には分からないもの、なんでしょうか?」
「あとは攻めか受けかによって色や布質が変わるので……」
「なんの話です」

 視線の先に居たのは、男性陣の下着を作っているメアリーと選ぶクロ殿達。……メアリーの作った下着をクロ殿が……というかこの後クロ殿があのカーテンの中で着替えるのか。……落ち着け、私。変に意識してはならない……!

「……アイツらはなにをしているんだと思う?」
「下着を渡したり曝け出す事で親密性をアップさせる儀式?」
「儀式言うな」

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