追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

持続型なラッキースケベイ観客(:菫)


View.ヴァイオレット


 プチ、と一部が切れただけならばどうにか補う事が出来るのだが、何故か使い物にならなくなる、という程度にまで陥った下着達。
 口にはしないがクロ殿や私だけでなく、ローズ殿下やフューシャ殿下、エクル、カイハクもなっているようである。クレールさんは無表情で話さないのでよく分からない。

「では、ルーシュとロボ嬢の勝負――」

 初めは一度戻るか、クリームヒルトやメアリーに錬金魔法で作って貰おうかと思ったのだが、既に戦いの場は始まる雰囲気になっていたため、現在の状態で観戦する事になった私達。
 私の場合は動きやすい服装ではあるモノのラインが出る服でも無いため、涼しいや恥ずかしいというか、心許ない、といった感じではある。動かず観戦する程度なら問題無いだろう。周囲の皆も似たような感じのせいか不思議と安心感もある。
 ……ただ、この状態で動くのは遠慮願いたい、と思いはする。恐らく皆がそういった感じであるだろう。後ついでに言うとこの状態をクロ殿に見られたくない。
 しかし、この状態で普段激しく動くシアンはなんだというのだろう。しかもスリットスカートで。慣れなのかもしれないが……

「――始め!」

 ともかく、ロボ達の一戦に関してはこのまま見る事になり、開始の合図が国王陛下よりなされる。

「行くぞ!」

 先に動いたのはルーシュ殿下。独特の武器を独特に構え、勢い良くロボに突撃した。

――ルーシュ殿下は姉弟の中で最も優れた戦闘強者だ。

 優れた体格、優れた運動能力、優れた魔法技術。
 そしてなによりも野性的ともいえる直観力は、あらゆる状況に対応する。
 純粋な魔法威力や身体能力は姉弟間でトップでは無くとも、戦闘においてのルーシュ殿下は姉弟の中でトップであり、冒険者としても無類の強さを誇る。ある意味では国王陛下の血を最も受け継いだ御方とも言えよう。

「――行キマス」

 ただそれも、相手が一般的な存在と比べて無類とは違う、外れた存在の場合は強さが通じるとは限らない。

「――照準ロック――射撃ショット

 魔法とは種類が明らかに違う攻撃。
 質、速さ、数、そしてなによりも根本の成り立ちが違う故に沸き起こる未知の恐怖と対処困難さ。
 さらにはモノによっては上級魔法レベルの攻撃を手軽に出すのである。間違いなくロボに勝つのは難しいであろう。

封殺リフレクション
「――ッ!??」

 しかし黙ったままのルーシュ殿下でもない。
 ロボが放った攻撃を、そのまま返したのである。

「……今のはなにが起きたのでしょうか」

 先程まで戦いを黙って観戦していたが、なにが起きたのか分からず疑問符をあげるクロ殿(下着無し)。
 クロ殿であればなにが起きたかは“見えている”はずではあるが、予想外の出来事につい言葉が出てしまった、と言う所か。

「ルーシュ殿下は飛び攻撃系を反射出来るのだよ」
「反射、ですか?」
「ああ」

 私はクロ殿の問いに腕を組みつつ答える。
 ルーシュ殿下の戦闘における最も優れた点は、相手の飛び魔法、飛び道具系を文字通り反射出来る事である。

「ルーシュ殿下が持っている十字型の双剣があるだろう?」
「ええ、あのでっかいのですよね。変わった武器というか、ちょっと扱い辛そうです」
「特注品との事だ。そしてあの武器だが――」

 あの武器にルーシュ殿下自身の魔力を纏わせる事で、あの剣を楯のようにも扱う事が出来る。そして楯のように攻撃を受け止める事で、相手の攻撃を解析するようだ。
 そして受け止めた攻撃を一瞬で解析し終わると、攻撃に応じた魔力を活性化させる事で、攻撃の向きを威力そのまま相手の方向に返す事が出来る。
 攻撃用の武器を楯として扱うため、使用中は自身の攻撃を繰り出す事は出来ないが、相手の攻撃をそのまま利用出来る恐るべき戦闘技術。なお、あくまでも武器はルーシュ殿下に扱いやすいように作られているだけで、この反射させる技能自体はルーシュ殿下自身の“技術”であるそうだ。この技術がルーシュ殿下の強者たる所以だろう。

「――だそうだ。私も聞いた話だがな」
「はぁー……凄いですね」

 私の解説を聞きながら、ロボの攻撃を反射しつつ立ち回るルーシュ殿下を見るクロ殿。
 反射された攻撃をロボは避け、他の攻撃を試しつつ動いているが、その全てを今の所返している事に素直に関心をしていた。
 ロボの攻撃を全て“技術”で捌いているのだ。少しでもマネ出来ないか観察しているのかもしれない。

「補足をすると、ルーシュ自身何故返せているのかよく分かっていないそうですよ」
「え」
「“魔力を纏いつつ、攻撃を受け剣を振るえばなんか返った。むしろ何故出来ないか分からない”と、昔私は言われましたから」
『そうなんですか……!?』

 腕を組みながら補足するローズ殿下の言葉に、私やクロ殿だけでなく、エクルなども驚いていた。

「ルーシュもスカーレットも大雑把と言いますか……勘頼りな所がありますからね」
「でも……ルーシュ兄様……いつもより……攻撃を返せていない……?」
「ふむ、確かにそうですね。もしかしたら攻撃の反射は王族特有の魔法なのかもしれませんね。私には出来ませんでしたが」
「ルーシュ兄様しか……出来ないから……特別な感じなんじゃ……あれ……?」
「どうしました、フューシャ?」

 先程までは色んな意味で顔を赤くしていたフューシャ殿下も、喋っていた方が気も紛れると思ったのか会話に参加してくる。
 そして興味深そうに腕を組みながら戦闘を眺めていると、なにか気になったかのように疑問顔になった。

「ルーシュ兄様……怒ってない……?」
「? …………確かに、妙な感じがしますね」

 フューシャ殿下の言葉に私達はルーシュ殿下の方を見る。
 ……確かに戦闘により見えにくいのだが、なんとなくいつもと違う表情に見える。それがどうやら御姉妹の御二人には怒っているように見えるようだ。

「……ロボの表情も妙ですね」

 クロ殿の呟きに私達はロボの方を見る。
 高速で動き、ルーシュ殿下の反射と攻撃を避けつつ戦闘をするロボ。その様子は確かに……

「戦い辛そうだ。というより悲しんでいるのだろうか」
「いえ、感情が定まっていない様に見えます。もしかしたら集中出来ていないのかもしれませんね」
「そうだな。大丈夫か、ロボ……?」
「……キミ達、ロボくんの表情よく分かるね?」

 エクルの言葉はともかく、ロボにも違和感がある。
 なんというか動きにキレが無い。強化ワイバーンの攻撃により負傷した部位は治ったはずだが、本調子ではないのだろうか。

「……どうにかしてあげたいが、今の私達にはどうにも出来ないのが歯がゆいな」
「……ええ、そうですね」

 あるいは……始まる前にクロ殿と心配した、ある事が原因なのかもしれない。
 もし予想通りならば、私達には見ている事が出来ない。

――上手く事が運ぶと良いのだが……

 私とクロ殿はそう願いつつ、未だに熾烈な戦いを繰り広げるロボ達を見守るのであった。

「ところでクロ殿。話は変わるのだが」
「なんでしょう」
「私達が腕組みをしている理由は分かるか?」
「なんとなく分かりますが、それを聞くんですね」
「聞くぞ。それで、この感じは良いと思うだろうか」
「良いと答えたらどうするんです」
「今後のアピールに使う」
「そのアピールは誘惑になりそうなんで、やめてください。というか恥ずかしいでしょう」
「上だけならなんとか……なんとか……!」
「そこまで葛藤するならやめてください」

「……こうしているだけで……誘惑になる……状況を作ったのは……私……つまり私の……王族の力の覚醒は……持続型興奮系……?」
「フューシャ、まずは落ち着きなさい」

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