追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

分かりやすくて甘やかしたくなる


「ところで、学園で新しい友達は出来たか?」
「はい! 優しく教えて下さる二年生の先輩や、厳しくも気の良い三年生の先輩とも知り合い、他にもクラスメイトと会えば話す間柄になる事が出来ました!
「お、それは良かった」
「先輩の方は友達とはまだ友達とは言えないかもしれませんが……」
「それで良いよ。年齢差も有るんだ、ゆっくり仲良くなれば良いさ」
「はい! ……ところで今言った先輩もそうなのですが、女性の学園生の方々に、ブライ様と似たような目で見られる事が有り、その度にアプリコット様やクリームヒルトちゃんなどが間に入ったりするのですが……何故でしょう?」
「うん、アプリコットやクリームヒルト達に感謝しないとな」
「?」

 もしかしたら仲が良いというのは、美少年であるグレイに別の感情を抱いているのではないか、と、別の意味での息子の身が心配になる様な話をグレイとする。グレイが無自覚にサークルのクラッシャー的な存在にならなければ良いが。
 後で聞いた話ではあるが、なんでもグレイとバーガンティー殿下は「タイプの違う爽やか美少年!」と女生徒の間で評判が高いらしく、その外見と性格に惹かれる女生徒(一部男子生徒)は少なくないようだ。……美男子、ではなく美少年となっている辺りがどう扱われているのが分かる気がする。バーガンティー殿下もどちらかと言うと童顔だからな。

「ところで、父上はこの後どうなさられるのですか? もし時間があるようなら、この間見つけました珈琲豆の――」
「残念だがこの後は私が彼に用があるんだよ、少年」
「え?」

 息子グレイが俺の知らないコミュニティを築いているという、親として年を取ったな、という感覚を、弱冠である二十歳にしてしみじみと感じ取っていると、会話が遮られた。
 親子と再会の会話を遮るなんて誰だこの野郎、と言いたい所だが、声と内容からして言う事は出来ない。

「ええと、貴方様方は……?」
「私か? 私はロットと言う名の……ヒヨコ職人だ」

 お前のような威厳に溢れたヒヨコ職人が居るか。てか何故その職業を選んだ。

「ヒヨコ職人……ヒヨコの雌雄を分ける事は難しく、専門の知識が必要と聞きます。つまりは素晴らしき目利きの方なのですね!」
「ほう、素直で良い子だ。そして……ふむ、お前が噂の、十一歳にて入学し、ルナ組に入ったという……」
「あ、はい。私めの事ですね。グレイ・ハートフィールドと申します。よろしくお願いいたします」
「ああ、よろしくな、グレイ」
「ええと、護衛の方々もよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「……よろしく、お願いいたします」

 そしてグレイは国王の顔を知らないし、素直に信じるからやめて欲しい。あとヒヨコ職人ってそういう事じゃないぞグレイ。
 それとカイハクさん、なんだかグレイにも妙なモノが芽生えかけているような気がしますが、もしかけている、ではなく芽生えたらその時は覚悟してくださいね。

「む、弟子よ。そちらの方は一体……一、体……?」

 そして国王の登場に気付いたアプリコットは、ヴァイオレットさん達の会話を止めこちらを見て……国王の顔を見て、固まった。
 反応からして顔を多分知っているんだろうし、この程度の変装と魔法阻害ならアプリコットは見抜くだろうな。

「あ、アプリコット様。こちらヒヨコ職人のロット様です」
「ヒヨコ職人だ。よろしく頼むぞアプリコットとやら」
「え、あ、うむ。よろしく頼む……いえ、頼みます……え?」

 そしてアプリコットはなにが起きたか分からずに挨拶を交わす。アプリコット自身は色々と厨二的な発言はするが、根が真面目なのでどう対応して良いか分からないでいるようである。
 アプリコットは姿勢を正したヴァイオレットさん達の反応を見て、最後に俺を見たので、俺が頷くとアプリコットはなにかを察したような表情になり姿勢を正した。……流石のアプリコットも、国王の前だといつもの感じは控えるようだ。

「ともかく、折角の親子の再会の所悪いのだが、私はクロ子爵、ヴァイオレット子爵、クリームヒルト伯爵令嬢、そしてヴァーミリオン第三王子殿下に用がある。借りていくぞ少年少女」
「え……そう、ですか……」

 国王……ロットの言葉に落胆ショックを隠しきれないグレイ。まるで好きなモノを目の前でお預けを喰らったようである。
 ……そんな顔をされると俺も心が揺れ動かされてしまう。いっその事「家族との時間がありますので」といってグレイを喜ばせたいくらいだ。
 だけど我慢だ、俺。ヴァイオレットさんも表情は崩していないが恐らく同じ感情を抱いている。恐らく今から俺達の処遇とか、面倒な処理とかあるのだから、今後家族として過ごす時間を確保するためにも今は我慢だ。

「そういった顔をするな、少年。良ければ一緒に来て部屋で待てば良い。終わり次第そこに向かうようにすればよかろう」

 しかし予想外の提案に俺は内心で驚いてしまう。

「良いのですか?」
「正確にかかる時間は分からないため、待ちぼうけという可能性もあるが、それで良ければだがな、少年」
「はい、私めは大丈夫です! 明日は学園も休みですし、遅くなろうと待ちますよ!」
「ほう、良い返事だ。そちらの少女は?」
「え、我も? 我としては願い出るつもりであったから嬉しい申し出ではあるが……」
「我? ああ、待機する場所で彼一人と言うのも寂しいだろうからな。それに一人増えても問題はない」
「であればその招待を素直に受けさせて頂く。我としてもクロさん達と色々と話しをしながら繰り出したいのでな」
「では付いて来ると良い。……しかし、クロ子爵達は息子と娘に慕われているようだな」
「……ありがとうございます」

 これは……どう判断すべきだろう。
 待機室、つまりは国王の息がかかった場所にグレイとアプリコットを居させるというのは危険な気もするが……

「心配するな、クロ子爵」
「ヴァーミリオン殿下?」

 移動していく国王に着いて行きつつ、俺とヴァイオレットさんが心配をしているとヴァーミリオン殿下が小さな声で俺達に告げて来た。

「父も妙な真似はしないだろうし、グレイ達を人質や騙す真似などはしないだろう」
「いや、つい最近ここでやる事について騙されたばかりですよ、ヴァーミリオン殿下は」
「……それを言われると言葉が詰まるが……グレイ達と別れた後に仲良く話した所を騎士団に見られ、なにかされないかと不安の中この後に挑むよりはマシだろう」

 それは……確かにそうか。
 やられた騎士団の方々の憎悪ヘイトが今どういった形で向かうか分からないし、何処に居るかをハッキリとさせていた方が良いのかもしれない。
 ……まぁ結局はどうあろうと不安材料はある、という事なのだろうけど。ならば近くにいる方がまだ安心出来る、という事か。

「ここは素直に従った方が良さそうだな、クロ殿」
「ええ」

 ヴァイオレットさんも同じ事を考えたのか、国王の提案通りにする事に決めたようだ。
 ……交渉のイニシアチブが向こうにある感じがして、なんか嫌な感じがするな。

「ところでロット様はなぜヒヨコ職人を目指そうと思われたのです?」
「そこにヒヨコが居るからだ」
「成程、シキの皆様に通ずるモノがあります……!」

 グレイよ、成程じゃ無いからな。
 それと国王は乗ってくれてはいるが、正直気が気ではない会話である。
 一緒に歩いているカイハクさんとかも、言葉にはしないがハラハラしているようで――ん?

――ゴルドさん?

 ふと、メアリーさんとは違う色質の金髪の女性がこちらを見ていた気がした。
 なんというか、周囲は認識阻害があるため先頭を歩くのがレッド国王とはバレて居ないのだが、分かった上で俺達を見ていた気がした。
 ただそれが金髪であるという事と、女性という事は分かったという事。そして昨日の情報提供や魔法を無視してこちらを見ているという事を考えると、なんとなくゴルドさんだと思っただけではあるが……

――なんか俺を……睨んでた?

 俺に対して憎悪のようなものを感じたが、気のせいだろうか。

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