追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
失意の中の――(:淡黄)
View.クリームヒルト
「そういえば、もう一つ気になる事が」
「どしたの。スカイちゃんへの宣戦布告なら手伝うよ? 意味無いと思うけど」
「違う。クリームヒルトは始まる前……国王陛下と最初会った後にも大丈夫と言っていたが、アレはどういう事だ?」
「あ、それ?」
私は始まる前に二度黒兄に大丈夫と言った。
一つはヴァイオレットちゃんへの心配と、騎士団を相手する事に不安がる黒兄に対してだ。
後者に関しては、私が今日黒兄とヴァイオレットちゃんに会う前に騎士団の中を見学していたのが理由だ。学園を休んで生徒会皆で来て、私は何処か楽しみにしつつも態度に出さないようにしているスカイちゃんとシャル君と一緒に見学した訳だけど……
「あはは、単純に私の記憶の黒兄ならば、勝てると思ったからだけだよ。つまり信頼だね!」
「……そうか」
……私は訓練の様子を見て騎士団の人達はそんなに強くないと思った。
当然強い人も居るのだけど、全体的に……年齢が上がる程強さに磨きが無かったように思えた。
それは加齢による身体能力の衰えとかではなく、もっと別の所に起因しているように思えた。
騎士団に居る事自体が誇りなのだと言っているような……こう言ってはスカイちゃんやシャル君を馬鹿にしているように思えないけど、多分去年の今頃の実力の二人でも、今の騎士団に入れば割と上位に食い込めると思う。少なくとも平均よりは上だっただろう。そう思えた。
だから――
「勝負有り、クロ君の勝利ー! これで六連勝ー!」
『おおぉおおお!!』
だから、こうして勝つ事は不思議ではない――黒兄なら当然だと思えた。ただそれだけの話である。
――でも、残念だなぁ。
黒兄は相変わらず強かった。
衰えてもいないし、むしろ魔法というモノがあるおかげか磨きがかかっているほどだ。
だからこそ残念だ。以前戦った時は混乱の最中で、あっさりと終わっちゃったし、もっと――黒兄と戦いたかった。
今の黒兄なら真正面から行けば本気で来てくれるだろうし、只々――
「……残念」
「なにがだ、クリームヒルト?」
「あはは、なんでもないよ」
今からでも乱入をしたいけど、黒兄も連戦で少し疲れているし、今の戦闘で私達の誰かと交代するようだ。
あーあ、こんな事なら強さの証明として黒兄と私が――ん?
「…………」
……私、今あの人に見られてた?
騎士団の中でもあの副団長とか言う、あまり強そうに見えない人よりも装飾が少し派手な……いや、装飾は多いけど落ち着いた騎士服を着た、国王の傍に居る刀を携えた男の人。
何処かシャル君と似ているあの人に、私は今妙な感情を向けられていたような……?
「お疲れ様だ、クロ殿。格好良かったぞ」
「え。そ、そうですか? ええと……す、すいませんが、ちょっと疲れましたんで交代お願いします。強さも大分証明は出来たと思いますし」
「そうですね……誰から行きます?」
「ここは平等に……暴力でいくかい?」
「ジャンケンとか言えんのか」
「ははは、冗談だよヴァーミリオンくん」
……気にしても仕様が無いか。
今はこの国王のお遊びのような戦いに集中するとしよう。
この……遊びのような、戦う人選からして私達をどういう存在か分かっているかのような、私達を利用して騎士団を国王にとって便利な方向に誘導させようとしているような戦いに集中をしないとね。
◆
「いきます。私の覇道を極めし――【覇道砲】!」
『ぐっはあああああ!!』
「おお、副団長を鮮やかに倒しただけでなく、凄く綺麗な魔法で大勢を薙ぎ払うメアリー! どう思うルーシュ兄様!」
「素晴らしき魔法だ。オレ達の王族魔法に引けを取らないが……あの鮮やかな光に意味はあるのだろうか」
黒兄の後に出たメアリーちゃんは、なんだか威力の段階が一〇八段階くらいありそうな魔法を放っていた。
しかもカラフルで綺麗であるけど、多分綺麗なのはメアリーちゃんの趣味であり、威力には関係無いものなんだろう。綺麗にするだけでも高度な魔法技術が必要だとは思うけど、メアリーちゃんだから簡単に出来ているのだろう。凄いなぁ。
「うぉおおおおメアリー様! 健康的で、美しいですよー!」
「流石はメアリー!」
「皆さん、彼女が学園の聖女ことメアリーです!」
「さぁ、皆で行くよ。せーのっ」
『メアリー様最高!!』
『メアリー様聖女!!』
『メアリー様大好き!!』
「やめてください!?」
そして観客を魅了するメアリーちゃん。エクル兄さんは相変わらず泣くし、ヴァーミリオン殿下も普段はクールなのにこういう時は興奮するし、観客席のアッシュ君やシルバ君も音頭を取って叫ぶ。
なんていうか……うん。
「黒兄、ヴァイオレットちゃん。私たまーに思うんだけど、メアリーちゃんって新しい国とか作れそうじゃない?」
「言いたい事はよく分かる」
「否定したいがな」
◆
「地水、火、風、光、闇」
「っぅ!? 六属性の同時使用!?」
「だがこの程度――」
「――覆いて【六道波旬】」
『ぐぁあ!?』
メアリー様……じゃない、メアリーちゃんの次はエクル兄さん。相変わらずの魔法速度と扱いである。
メアリーちゃんほどの派手さはないけれど、魔法の虹とでもいうのだろうか。適切に魔法を配置し、遅延と罠を利用して戦いが一つの作品かのように魔法が彩られている。
「きゃぁああああ、エクル様ー!」
「美しいですー!」
「格好良いです」
「はは、声援ありがとうね!」
『キャー!』
まさに蝶のように舞っていて、そのイケ面さたるや女性陣を魅了させているのに充分である。我が兄ながら罪深いね。
「でも私は黒兄の方が親しみやすい兄だと思うよ」
「なんかよく分からんが馬鹿にされている気がするのは気のせいか?」
「気のせいだろう。クロ殿が親しみやすいのは確かだからな」
「え、あ、ありがとうございます」
この夫婦は本当に隙あらばイチャつくね。
……けど、この後は私か。この盛り上がった中に入るのは嫌だなぁ……でもいっか、戦いを楽しもうっと! 
「将来の父候補にアピールするんだぞー」
「あはは、喧しいぞコラ。……はぁ」
……でも、強い人最初の方に出てしまっているんだよね。年功序列で上に命令されて最初に黒兄と戦ったから、残りって私が見た中でも弱いと思った人達だからあまり期待出来ないんだよね……
「…………」
◆
「素晴らしい……あの戦闘技術はまさに芸術!」
「くくくくく、さらには戦闘中に良い笑顔……!」
「成程、いかなる時も笑顔を忘れないという事でありますか、素晴しいであります!」
「強さの秘訣は――あの笑顔か! 笑うと身体に良いというしな!」
「よし、では皆で――」
『アハハハハハハハハハハハ!』
「うん、良い声援だ、きっと彼女も喜ぶぞ!」
なんか私に対する声援だけ違くない!?
別に男の人を魅了して歓声をあげられたい訳じゃないけど、なんか……なんか違う! あと私そんな感じに笑ってないよ! 褒められているのかもしれないけど複雑!
「はっ、この複雑な感情こそ人間らしいという事……!?」
「なんか感情の無い子が感情が芽生えたみたいな事言っているけど、最後の一戦良い?」
「あ、良いよ――じゃない、良いですよ、スカーレット殿下! あ、まさか電撃参戦兄妹タッグ!? 良いよ、ドンと来て!」
「うーん、そうじゃなくって、騎士団の面目を保つために、自分も出ておきたいんだって」
「? 誰?」
あれ、てっきり最後に「大トリは私と戦う事!」とか言ってスカーレット殿下かルーシュ殿下と戦うか、レッド国王自ら参戦するかと思ったんだけど。もうある程度騎士団の人達は一勝負終えたと思ったんだけどな?
一体誰が――
「私です。私相手では不満かもしれませんが、宜しくお願いしますね、フォーサイスさん」
「――――」
偶に、化物と呼べる存在と敵対する時がある。
それはこの世界におけるモンスターの話ではなく、ヒトの形をした存在の話だ。
例えば私が前世で最初に戦った時の黒兄や、メアリーちゃんとか、前世で戦った異色を放っていた元傭兵とか。
「今の状態では騎士団は良い所が一つも無いですからね」
他とは明らかに違う強さを持つ人。
群を抜いて強い、個として別格を誇る人。
“完成度”が異常と呼べるような――
「騎士団長として――少しは良い所を見せようと思いますよ」
とても、楽しい存在。
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