追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

緒戦、初戦


「それでは、また後でな。他の者達も今回の戦いを励んでくれ。私の満足のいくものであれば褒美も出そう。ヴァーミリオンもサポートをしてやれ」
「……はい、父上」

 レッド国王はそう言うと去っていき、どうすれば良いかと慌てているカイハクさんとクレールさんの元へと去っていった。どうやらレッド国王は特別な場所で見ていたようだが、抜け出してここに来たらしい。

「レ――ロート様、あまり勝手な行動は……!」
「すまないな、これ以上は勝手な動きはあまりしないようにしよう」
「出来れば、あまり、ではないお言葉を聞きたいです……」

 あの両者に振り回されるとは、カイハクさんも可愛そうに。さらには後でギンシュからも振り回される事だろう。……後で労いの言葉をかけようと思う。

「…………」

 あとクレールさんがこちらをジッと見ている気がするんだが……うん、気のせいだと思おう。なんだか「早くクロと妻の事について話したいが、今は国王の護衛が重要だからいけない」的な感情を向けられている気がするが気のせいだ。目を見開いて瞬きせずにこちらを見ているのは気のせいだ。……ちょっと怖い。

「あの方が国王陛下……しかし何故あの方はここに居られるのです?」

 メアリーさんは突然の出会いに戸惑いつつも、もっともな疑問を言う。国王が去った先と、スカーレット殿下達を交互に見た後、俺を見る辺りはなんとなく察しはついていそうだが。

「先程は説明そびれましたが、俺達今日は謁見があったんですよ」
「ええ、ヴァーミリオン君やエクルさんから聞いています」
「その際にカーマインの件を……俺がシキの領主のままいた上で、カーマイン主導の俺の婚姻を父親が後始末しないで済むためには、カーマインの件は俺だから抑えられたと示さねばならない、という事ですよ」
「それは……」

 さて、国王が直々にやる気を出させてくれたし、騎士団の皆さんもそろそろ相手しないとスカーレット殿下かルーシュ殿下にヘイトが向かってしまう。そのヘイトは俺に向けて貰うとしよう。

「という訳で離婚の危機なので、先陣を切らせてもらっても良いでしょうか。貴方達より弱い私が目立つためには少しでも最初に印象付けたいので」

 とはいえ、最初の記憶が後から塗りつぶされたら意味も無いが。しかし俺の戦いは地味で、派手に戦った後だと華が無いのも確かだ。メアリーさんとかはなんかノリで俺がどう足掻いても出来なさそうな魔法を放ったりするしな。
 それにメアリーさんが俺より先に出ると、ヴァイオレットさんが言っていたような無双を文字通りしそうな実力であるので、最初に半数を一気に倒してもおかしくはない。そうなると活躍の機会が減るので、悪いが最初に行かせてもらう。

「私達は問題無いですが……大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。むしろ俺達の問題に巻き込まれて申し訳ございません」
「それは構いませんが……いざとなったら私国王陛下の弱味とか、王国の後ろ暗い歴史とか設定資料と照らし合わせた事実を知ってますし、それをネタにすればどちらも解決すると思いますが」
「えぇ……」
「……メアリー、俺の父相手にそれはやめてくれ」

 ……メアリーさん、その気になればこの国乗っ取れるんじゃなかろうか。いや、それは別として。

「魅力的な提案ですが、自分の事なので自分で解決出来るよう努力しますよ。まぁそれに偶には自分の出せる全力を出さないと鈍りますし、それに……」
「? どうした。クロ殿」
「……いえ、戦闘方法は分かりませんが、疲れたり怪我した時のケアをお願いします」
「うむ、分かった……?」
「では、いってきます。――クリームヒルト、頼むぞー」
「はーい。余計な心配だと思うけどねー」
「それに越した事は無いさ」
「あはは、だね!」
「……?」

 戦う上で気になる事があったが、気にしてはいられないと思い、俺はそう言って前に出ていく。
 クリームヒルトやメアリーさんの錬金魔法があれば、疲れても怪我しても大丈夫だろう。

「お、先陣はクロ君?」
「ええ。……ところで、今更ですが戦闘方法ってどうするんです? 一対一サシで勝ち残り方式ですか? チーム戦なら出て来ておいてなんですが、引っ込みます」
一対一タイマンだと仮に全員相手したら、数時間かかりそうだしなー」

 確かに一仕合三分だったとしても、俺達が勝ち抜き続けたら終わる頃には夕方になりそうだ。

「けど、クロ君側の初戦は一対一から始めよっか。そっちの方が実力分かりやすいだろうし、そこからどうするかは私とルーシュ兄様が決めるよ!」
「ようはノリですね」
「そうとも言う!」

 そうとしか言わない。けれどツッコむとただでさえ仲良さそうに話している事に、騎士団の皆さんが「不敬……!」的な視線を向けるので、言わないでおこう。

「それで、戦闘方法は護身符は使うけど、通常の使い方でなくって、致命傷を避ける使い方で。発動したら負け」
「致命傷を避ける?」
「ようは通常の使い方は、騎士団の中では不評って事」
「ああ、成程」

 護身符は模擬戦においては非常に便利な代物だ。
 相手を殺す気でやってもダメージを肩代わりしてくれるから怪我もしないし、実戦に近い形で試合をする事が出来る。
 だがこの方法、護身符を使った戦闘を毛嫌いする人達もいる。
 命を懸けたやり取りを旨とする……と言う訳ではなく。

――耐久性とかも平等になってしまうからな……

 護身符は“身体に受けたダメージを等しく受け、一定のダメージを超えると使用不可になる”という代物だ。
 例えばAという力で与えた場合の、ロボの外装の受けるダメージと、赤ん坊が受けるダメージ。この両方とも攻撃を受けたのならAというダメージを護身符は受けた扱いにするのである。当然だが被害としては後者の方が大きくなるのだが、護身符は同じ扱いにする。
 つまり一定のダメージを受けても攻撃出来るような、タフネスが売りならば同じ耐久性、体力扱いの護身符による戦いはマイナスだ。
 他にも肉を切らせて骨を切る、というように、“自身が受けるダメージを護身符が肩代わりしてくれるのだから、無茶な特攻をする”といった戦法も取れるのである。
 だから「護身符の戦いは邪道!」という人も少なからず存在する。騎士団ではその考えが主流なのだろう。

――もしかして、それがあるからスカーレット殿下に本気を出せないとか言っていたのか……?

 ……それは今必要ない考えか。
 どちらにしろ護身符自体は使うようだし、スカーレット殿下の説明を聞くとこれは、“怪我はするが、大怪我や死亡事故を防ぐ”という代物であるらしい。だから限りなく実戦に近い形で戦闘を行い、事故を防ぐ事が出来るようだ。騎士団で模擬戦を行う時はこれを使用するようである。

「じゃ、騎士団の先陣は誰行くー?」
「――私が行きます。よろしいでしょうか、ギンシュ副団長」
「ああ、頼むぞ。騎士団としての誇りを示してやれ」
「はっ!」

 今回使う護身符について感心しつつ、胸元かお腹に当てると静止して張り付くらしいので胸に張り付けていると、騎士団の相手が出て来た。
 クレールさんやギンシュほどではないが、他の騎士の方々と比べると装飾があるのでちょっと偉い方なのかもしれない。会社で言う係長……新選組とかで言う三番隊隊長、とかそんな感じだろうか。

「貴殿、名は?」
「クロ・ハートフィールドと申します」
「私はフォグブルー・ウォーレス。貴殿が何故私達と戦う事になったのか、理由は問わん。だが、やるからには本気で行かせてもらう。恨んでくれるな」
「ええ、そのようにお願いします。こちらとしても本気で戦わなければならぬ理由があるので」
「そうか。……貴殿、武器は? 騎士団にある武器庫を使用する時間くらいはやるが……」
「不要です。俺はこちらの方が性に合っているので」
「ほう、魔法が得意、という事か?」
「いえ、生憎と強化は出来るのですが、魔法は不得意でして。……ご安心を、これで十分です」

 俺が素手のまま構えを取ると、フォグブルーさんは不愉快そうに少し顔を歪め、背後に居る騎士団の方々も似たような反応をするか、馬鹿にするような笑いを浮かべる。

「……驕っているのか、私を舐めているのか。どちらにせよ、その行為を後悔させてやろう」
「生憎とどちらでもありません。私にも負けられない理由があるので」
「……フン。こちらも殿下に見くびられたままでいる訳にはいかぬのだ。騎士団としての矜持を示させてもらう」

 フォグブルーさんはそう言うと、西洋剣を前に構えて、誓いの仕草を取る。まさに騎士、という様子である。

「じゃあ、準備は良い?」
「はい」
「構いません」

 スカーレット殿下の問いに俺達は頷く。
 そしてスカーレット殿下が腕を上げると、この場の空気が引き締まり、シンと静まり返る。

「では両者構えて――――はじめ!」

 そして腕を勢いよく降ろし、戦闘開始の合図と言葉を示す。

「――行くぞ!」

 フォグブルーさんは開始と同時に剣に付与効果エンチャントらしきものを使い、俺に飛び掛かって来る。

――……瞬時に発動出来た辺り、自身の魔力を流す事で発動するモノか、使い慣れて呪文省略が可能となったか。

 基本魔法よりは肉体面を評価されるとはいえ、魔法が出来ない訳でも無い。簡易的には使っているが、効果が不明な以上は警戒はする。

「はぁあああああ!!」

 だが、

――うん、見える。

 しかし、効果がどうあれ、斬られなきゃ良い話だ。

「っ!?」

 振りかぶって素早く斬りかかって来たので、まずは相手の手首に軽めのインパクトを手で与えて、向かい来る勢いを相殺。
 すかさず逆の手で止めた勢いとは横からの力を与え、衝撃から逃れるために無意識に手を開かせる動きを誘発。
 同時に最初にインパクトを与えた手で、剣の鍔の部分を手に与えた横の力とは逆方向に弾く。

「なっ……!? この――」

 すると剣が手から零れ落ちる。焦りはするが、対応しようと腕で殴りに来ようとする。

「っ!?」

 だけどその前に右頬に一発。
 左頬にもう一発。
 この二発の衝撃で脳が僅かに揺れただろうから、そこを逃さず左足を軸にして身体を回転させて――その勢いを乗せたまま、左肘で顎を強打。

「――? ――、……ぅ、ぁ……?」

 脳が揺れたであろうフォグブルーさんは、目を回したように首回しをすると、そのまま倒れた。どうやら気絶したようである。
 ……身体から倒れたし、護身符があるし、大丈夫だろう。……あ。

「これってどうなるんでしょうか。護身符の耐久が来た訳では無い……いえ、効果が発揮になるんでしょうか。ともかく発揮する前に気絶しましたが」
「うーん、戦闘は出来なさそうだし、クロ君の勝ちで良いんじゃない? ね、ルーシュ兄様」
「……そうだな。それが適切だろう。医療班、彼を念のため医務室へ」

 どうやら俺の勝ちで良いようだ。
 よかった、回復するまで待つ必要が無い上に、体力を温存した状態で勝つ事が出来た。
 ――さて、と

「では、すみませんが次の方お願いします。――俺も大切な女性のために、勝たなければならないので」

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