追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

君達にはこれから


「おお、その特徴的な瞳に小柄な体躯は……成程、お前がクリームヒルト・ネフライトか! いやはや、話は聞いているぞ、錬金魔法を扱う稀代の天才であるとな!」
「あはは、多分稀代の天才の部分はメアリー・スーちゃんの事だと思うよ――ますよ。あと私は今はフォーサイス家預かりだよ――です」
「む、そうだったな。すまない、失念していた。しかしこうして見ると……うむ、健康的で素晴らしい肉体だ!」
「あはは、はい、健康には自信があります! 冒険者とかでサバイバル技術も磨いてますし、強さこそ強さです!」
「よし、それでこそ我が王国の国民だ!」

 クリームヒルトがレッド国王に絡まれ(?)、慣れない敬語を使いながらも楽しそうに会話をする。ヴァイオレットさんとカイハクさんは不敬にならないかと内心ハラハラしているようだが、レッド国王も過去は冒険者として名を馳せていたためか、クリームヒルトの会話にはとても楽しそうにしている。意外と気が合うのかもしれない。
 あと……冒険者“とか”という部分にはやはり育った環境もあるんだろうな。エクルからの手紙で知った事だが……クリームヒルトはあまり良い環境とは言えないように育ったようであるし。……知っていたら迷わず行ったんだけどな。俺がぬくぬくと育っている間に……今更言っても仕様が無いか。
 あと強さこそ強さってなんだ。力こそパワー的な感じか。

「さて、カイハク嬢!」
「!?」

 そして一通りクリームヒルトと話すと、次はカイハクさんの方へと近づくレッド国王。カイハクさんは何が起こっているか分からないまま、畏まりつつ姿勢を更に正す。

「は、はい、なんでしょうかレ――」
「今の私はロートだ。あまり拡散しないでくれ」

 そう思うのならもう少し静かに出ればいいのに。思っても言わないけど。
 それとロートとは、レッドの帝国語読みである。隠す気あるのだろうか。

「今はギンシュが居ないようだ。だから君達の方に説得して欲しい事があるのだが――」

 そう言いながら戸惑いつつレッド国王の話を聞くカイハクさん。
 ……俺達の扱いも含めて夫のギンシュと板挟みで色々と大変だろうに、さらに大変な事を押し付けて申し訳ない。

「黒兄、ヴァイオレットちゃん。君達の方の説得ってなに?」

 そしてレッド国王がなにやらカイハクさんにひそひそ話をしている中、こちらもひそひそと俺達に尋ねて来る。

「騎士団の中で派閥があるんだ。その代表が彼女の夫の副団長と、シャトルーズの父親の団長、という訳だ」
「あ、なんか聞いた事がある……というか覚えてる。改革派と保守派的な感じだっけ、ヴァイオレットちゃん?」
「そうなるな」
「でも……なにを頼むの?」
「それはだな――」

 ヴァイオレットさんは先程の謁見の中で、騎士団に来た理由だけを掻い摘んで説明した。

「要するに黒兄の強さを騎士団で証明するって事? え、なに。黒兄が騎士団で無双して“騎士団なんてこんなものか”っていう異世界転生系の本の主人公っぽい事するの?」
「せん。……と言いたいが、それくらい出来ないと認められそうにない感があるのがな……」
「というかクロ殿達の前世の本の主人公とはそういう事をよく言うのか……?」

 強さを証明するのなら、クレールさんや副団長を圧倒する……まではいかなくても、騎士団内での戦闘力下位数名相手には完勝しきる程の強さを証明しなければならない。そうでないとレッド国王の言う“どの程度使えるのか”という観察に満足はして貰えないだろう。
 俺とてそれなりに腕に覚えはあるが……相手は戦闘や守護、制圧を常に訓練している集団。とても出ないが一筋縄ではいかないだろう。
 あとヴァイオレットさんにまた日本の作品が誤解されている気が――今回はそこまで誤解でも無いか。とはいえそういった作品ばかりでは無いのですよヴァイオレットさん。

「だとしても国王がわざわざ来るなんて……暇なの?」
「それは思っても言わないほうが良いぞ」

 そんなはずは無いのだが、俺とヴァイオレットも思っていたりはする。

「でも、まぁ……黒兄なら大丈夫でしょ」
「そう簡単に言うな。相手は騎士団なんだから。特にクレールさん……騎士団長とか見ただけで強いと分かる相手だったぞ」

 後違う意味で怖い相手でもあった。
 クレールさんレベルがゴロゴロいるとは思えない、思いたくないが、彼の元で鍛えられているなら相当の……

「あはは! 大丈夫だって。黒兄なら行ける行ける!」

 しかし俺の心配とは裏腹に、クリームヒルトはなんだか以前とは変わった笑顔を浮かべながら変わらず大丈夫だという。
 それは俺に対する励ましでもなんでもなく……

「……うん、本当に大丈夫だと思うよ。むしろ大丈夫じゃ無かったら、私は黒兄に幻滅すると思う」

 ただ、事実を言っているかのような言葉であった。

「ちなみに私レッド国王……様に朗らかに話しをされたけど、アレかな、主人公ヒロインぢからがこの身に宿ったから気にいられた感じかな?」
「むしろお前があんな風に対応できたのが驚きだよ。ある意味では主人公力って感じだが」
「あはは、凄いでしょ」
「褒めてはいないぞ」
「それとクリームヒルトは気を付けるんだぞ」
「え、なにがヴァイオレットちゃん?」
「将来の父になるかもしれないんだ。今の内に好印象を与えと将来役経つぞ」
「ごふっ。……ま、まだ確定していないし……」
「ほう、“まだ”だそうだぞクロ殿」
「そうですね、“まだ”のようですね」
「くぅニヤニヤしてるこの夫婦の顔をどうにかしたい……だ、大体好印象ってなにをすれば良いの!?」
「この後の戦いにクリームヒルトも参戦するだろうから、そこで強さをアピールすれば良いのではないか?」
「え。………………え?」







 カイハクさんとレッド国王とは一旦別れ、クリームヒルトの案内の元、騎士団の野外訓練場に来た俺とヴァイオレットさん。
 そこにはメアリーさんとエクル、そしてヴァーミリオン殿下がおり。少し離れた位置に他の生徒会メンバーも居た。

「……あの、私ヴァーミリオン君に生徒会として騎士団の皆さんと交流会を行うと聞いていたんですが……」
「私も同じように聞いたんだけどね……どういう事かな、ヴァーミリオンくん?」
「あはは」
「…………」
「……すまない。俺はクロ子爵の件について、メアリー達の協力の元騎士団で模擬戦を行う程度には聞いていたんだが……」
 そして今、訓練場の中での模擬戦を行うようなスペースに、少し離れた位置に居たメンバー以外が待機していた。理由はそうするように言われたからである。
 言われた相手はレッド国王――ではなく、

「はーい、という訳で騎士団の皆ー。訓練とか作業とかある中、ロイヤルな私の所に来てくれてありがとーう!」

 やけにノリノリなスカーレット殿下に言われたのである。
 どうやらレッド国王の指示の元ではあるのだが、カイハクさんやクレールさん達以外にはスカーレット殿下の名の下で騎士団の皆さんが集まったようだ。ちなみにスカーレット殿下の近くにはルーシュ殿下も居る。

「では、これより――」

 そして何故集められたかは分からないが、相手が相手ゆえに理由も問い質せない中待機する騎士団(かなり多い)に向かい、

「君達騎士団の皆には、彼らと本気で戦って貰います!」

 と、宣言した。
 ……先程はレッド国王の発言に面を喰らっていたのに、ノリノリだなあの御方。

「……ヴァーミリオン君?」
「……これは一体」
「あはは、どういう意味かな?」
「…………俺に聞かないでくれ……」

 そしてヴァーミリオン殿下がなんか可哀想であった。

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