追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

気兼ねない服装の所感(:菫)


View.ヴァイオレット


「へぇ、つまりクロは妻と女友達に浮気現場を目撃される性癖の持ち主になったと」
「違う」

 時刻は昼前。
 【レインボー】にて、私とシアンは騒がしい周囲に溶け込みながら、クロ殿と諜報部女性の到着を待っていた。そして待っているとシアンが東の方にある国特有の紅茶を飲みながら、そのような事を言ってくる。

「冗談、じょーだん」

 シアンが笑いながら向かいの机から私の肩を叩いて来る。
 冗談なのは分かるのだが、つい否定してしまう。……自分で言うのは良いのだが、誰かに言われると否定してしまう辺り私も子供なんだろうか。

「その女性が怪しい事は分かったよ。まぁ昨日スイ君にお礼を言いに来た時も違和感はあったし、私の方から行こうと思っていたくらいだから」

 私達の方はアイボリーに言われて警戒していたから分かったのだが、相変わらずシアンは他者を見る目があるようだ。

「だけど、気付かれないように接触を見守っていて欲しい、か。私に頼むって事は“そういう事”だよね」
「安全策を取るに越した事は無い、と言っていたからな。しかし……」
「ん、どうしたのイオちゃん。私の服、変?」
「いや、似合ってはいるが……」

 シアンの今日の格好はいつものシスター服ではない。
 上はブラウス……だが裾をボトムに入れずに結び、止めている。そして下はショートパンツを履いて足を大いに露出している。

「シアンは足を出すのが好きだな」

 シスター服といい、今日の私服といい、シアンは足を出すのが好きなようだ。
 確かに鍛えられつつも健康的で綺麗な白い肌であるから、見せたくなるのも分かりはするが、年若い未婚の女性が露出が多いのではなかろうか。……いや、私の方が若いし、既婚でも露出過多は良くないが。

「だって足を出すって可愛くない? それに動きやすいし」
「動きやすいのは分かるが、可愛い……のだろうか。私は肌の露出は苦手であるから、そこの所は分からない」
「可愛い! でも、イオちゃん露出苦手だよね。今日も露出少ないもんね」
「あまり肌を見せるのはどうしてもな」

 今日の私の服装は、以前ルーシュ殿下に頂いた服(※服屋ごと買い占めのおこぼれ)をクロ殿が私用に調整した黒の袖付きワンピースだ。
 今はオーキッド作成の“よく分からない周囲溶け込み道具”によって周囲の認識をずらしているが、念のためいつもとは違う雰囲気を出す服で来て欲しいと言われたのでこの服である。露出はほとんどない。

「でも、クロなら白色のワンピースの方が好きそうだけどな」
「……それは確実に喜ぶだろうが、私の方が着るための羞恥心が拭えない」
「なにがあったん」
「……薄手の白色は透けやすいんだ」
「オッケー、大体分かった。もう良いよ」

 あの時の事は……思い出したくない。
 直接肌を見られた訳でも無いのに、何故かあの時の事は思い出すと恥ずかしい。

「ともかく、私は露出は苦手だ。ただでさえ見られたくないのに見られていた昔を思い出すしな」
「あー、確か胸とか見られてたんだっけ。イオちゃんおっきいし、早熟だったらしいからね」
「……それに丁度性に対して潔癖になり始めた時期と重なったからな。出来うる限り見られたくなく思い、露出を減らしている内に……」
「苦手になっちゃった、と」
「そうなる」

 ドレスでどうしても、という時は着はしたがやはり好ましいものでは無かったな、あの頃は。というより昔は露出の多い女性を軽蔑すらしていた。

「でも、今ならその時より嫌悪感は薄いんじゃない?」
「……まぁ、そうだが」
「だったら少し挑戦してみよう!」
「……夏で暑くなりつつあるからな。気が向けばするかもしれん」

 しかし今は昔ほど嫌悪感はない。
 仲の良い友であるシアンや、元気なクリームヒルトを見ていると個性の一つとして見る事は出来ている。
 ……それに、クロ殿が喜ぶならシアンほどに無いにせよ、スリットも良いかなと……いや、アレは私にはまだ早い。スカートを少し短くするか、夏場にノースリーブをにするか程度に留めよう。

「だとしても露出過多だとクロ殿が――む、そういえば神父様は今日の服装についてなにか言わなかったのか?」

 ふと露出過多という言葉でシュバルツと目の前のシアンを思い出し、気付いた事を尋ねてみる。
 今日のシアンの服装は……普段のシスター服も気になり始めている神父様にとってはもっと着こんで欲しいと言いそうなものだが

「うん、言われた。もっと肌を隠したほうが良いんじゃないかって。スイ君にもね」
「カラータイツでも履いたらどうだ? そうすれば神父様も少しは安心するだろう」
「教義的にはタイツもストッキングも下着扱いだから禁止なんだよね」
「え、そうなのか」
「そうなんだよね」

 タイツとストッキングは上着で言うシャツ扱いではないのか。シャツなら教義的に大丈夫だから問題無いと思ったのだが。

「……というか、その服で下着着用なしなのだよな?」
「うん、そうだけど?」
「……心許なくないか?」

 短いショートパンツに上はブラウス一枚。私であれば心許なく感じるが……

「別に? だって可愛いし、むしろテンション上がってるよ!」
「……そうか」

 シアンは何故服装の事になると私には理解できないようになるのだろうな。それも彼女らしいと言えば彼女らしいし、個性と言えるので追求はしないが……私にも今日のシアンは世の男性を色んな意味で惑わす、というのは分かるぞ。
 ……今度クロ殿に今日のシアンの格好の事を聞き、興味深そうであれば私も着て――いや、服の事は置いておこう。

「そろそろクロ殿が来るだろうか」
「かもね」

 私とシアンは会話しながら、出来るだけ周囲を気にしないようにしつつ時間を確認する。
 会話の内容に関しては周囲に聞こえないようにオーキッドが(何故か)対策を施してくれているが、下手に勘付かれるとマズいからな。出来る限り危険の目は摘み取ろう。

「でも、今日の事考えたら昨日はあまり楽しめなかったんじゃない? 折角の数少ない二人きりが勿体ない」

 シアンは紅茶を飲みつつ、私に尋ねて来る。
 どうやら今日の作戦のために、昨日の夜は忙しかったのかったならば残念であると心配しているようだ。

「昨日か? 昨日は十五分ほど食材を片付けながら今日の対策をした後は料理対決をして、食べ終わったら一緒に片付けをして、新しい茶葉の紅茶の味を堪能しつつ新作の本の感想を語り合い、クロ殿の前世の音楽について聞いていたが」
「めっちゃ満喫してる!」
「外れた音に羞恥しつつも、前世の好きな音楽を知って貰いたいクロ殿は可愛かったぞ!」
「聞いてない!」

 聞いていないのは分かってはいるが、どうしても誰かに語りたかったのである。これが惚気というやつなのだろう。他にも色々したのだが……そっちは語るべきでは無いな。

「まったく、イオちゃん達がいつも通りで安心し――イオちゃん、入り口には意識しないようにね」
「……了解した」

 シアンが呆れた表情の後、すぐに真剣な表情になり私に注意してくる。
 ……さて、お客様が来たようだ。





備考?:ブラウス(裾を結んでヘソチラ)+ショートパンツ(ローライズ?)+下着無しが確定+健康的=男性は惑わされる……?

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