追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

幕間的なモノ:妹談義-生徒会陣-(:茶青)


幕間的なモノ:妹談義-生徒会陣-


 View.アッシュ


「お前達、妹とはなんだと思う」

 生徒会役員と教員で会議を行うのだが、まだ時間があり、生徒会室で待機中のある春の日。
 女性陣は誰も来ておらず、男性陣は勢揃いしている珍しい中、会議の準備をしているとヴァーミリオンは私達に尋ねた。

「……フューシャ殿下となにかあったのでしょうか?」
「あったかと問われれば……ありはした」

 本来であれば、ここはなにも聞かずに質問に答えるのが近侍としての正しい在り方かもしれないが、私はあえて敬語で尋ねる。
 今のヴァーミリオンは自分でも自分の質問の真意を理解しておらず、下手に答えると混乱を招くとも思ったからである。
 本来はこのような話題をせずに、会議への準備か学問や情勢、メアリーの事に関してなどを話すべきかもしれない。だが、会議の準備はもう再確認の段階であるし、このような状態のヴァーミリオンは珍しい。話に乗るくらいは良いだろう。そしてシャルやシルバ、エクル先輩も同様の反応で、話をしようという気になっている。

「フューシャが先日鍛錬室で鍛えているのを見たんだが」
「彼女が? ……ほう」
「あれ、どうしたのシャル。そんなに意外なの?」
「私の知っている限りでは、な。以前のシキでもそうだがアイツの影響が良い方向に――む、すまない。話を遮った」
「いや、俺も意外に思った。シャルが言うようにクリームヒルトの良い影響を受けているのだと思い、今までにない事をするフューシャに兄として労いの言葉をかけようとした」
「ほう、良い事だね」
「が、近くにクリームヒルトとスカイ、そしてクリ先輩が居るのに気付き話すのはやめた」
「クリ?」
「クロくんの妹さん。黒髪で力持ちで優しい子だよ」
「ああ、よく食べる先輩だね。でも別に話しかければ良かったんじゃない?」
「折角出来た女友達と仲良くしている所を邪魔立ては出来んさ」
「スカイは……友というよりは従者な気がするが」
「それでも親しくしている事には変わりない。なにせその時の話題が……」
「話題が、なんです?」
「――妹とはなんぞや、というモノだ」
「なんだその話題」
「俺も最初は聞き間違いかと思ったんだが、間違いない。レディ達の会話に聞き耳を立てるのは失礼だと思ったのだが、聞いてみるとそのような内容だった」
「……スカイに兄弟は居ないはずだが」
「彼女クロくんを兄として慕ってたみたいだからね。それ関係じゃない?」
「成程――いや、だとしてもその話題はおかしくないか」
「そこはヴァーミリオンの話を聞けば分かるんじゃない?」
「……そうだな。すまない、続きを頼む」
「ああ。……フューシャは知っての通り人目に付くのと誰かとの交流を嫌っていた。俺に対しても例外ではない」
「そうですね。私達が部屋に行っても扉越しでした」
「それで……改めて妹として接するにはどうすれば良いかと彼女らに尋ねていたらしくてな」
「……尋ねる人選にミスがあるのは僕の気のせいかな」
「シルバ、失礼だぞ」
「そしてクリームヒルトとクリは言った。“強く無ければ妹ではない”と」
「気のせいじゃ無かったね」
「気のせいでなくとも言うのは失礼という事だ」
「シャル、その物言いもどうかと思うぞ」
「その時の会話は――」



「良い? 妹に必要なのは兄に妹と認識させる強さなんだよ!」
「強さ……クリ先輩のような……力こそパワーというやつ……?」
「……私は力は確かに強いですが……でも確かに強さは必要です。守られてばかりでは良くは有りませんから」
「そう、生きるという事は戦い! 戦いに勝つためには強さが必要! つまり――妹という生を歩むには強く無ければいけない、戦わなければ妹として生き残れない!」
「その理屈はおかしくないですか?」
「あはは、なにを言うのスカイちゃん。守られるだけの存在をただそれだけで良いと言って可愛がるのは愛玩動物と変わりないよ。言語を話すペットみたいなもんだよ」
「言いたい事は分かりますが……」
「黒兄だってクリ先輩の強さを否定しなかったでしょ? というか伸ばそうとしたんじゃない?」
「……うん。私はヒトとは違う、“弱くない事”が嫌だった。けどクロ兄様は褒めてくださった。ヒトには無い才能だって。なにもかも一緒である事は重要ではなく、それをどう思うかが大切なんだって」
「ヒトには……無い才能……一緒である必要は……ない……」
「……はい。だけどそんな事を教えて貰うような大切なクロ兄様でも、退学した時私はなにも出来ませんでした」
「クリ先輩は悪くはないとは思うのですが」
「そして暫くして気付いたんです。――私に足りないのは、妹としての強さだったと」
「ん?」
「強ければクロ兄様の味方に慣れました。ですが私に力はなかったんです。そう、妹としての力があれば!」
「成程……だから鍛えたんだね……!」
「フューシャ殿下、成程ではありませんよ!?」
「という訳でフューシャちゃん。フューシャちゃんがます強くなるためにする事は?」
「足りない身体機能を……鍛える……!」
「その通り!」
「その通りじゃないですよクリームヒルト!」
「生粋の妹である私が言うんだから間違いないよ! そう、ともかく妹には――強さが必要!」
「うん……頑張って強くなる……!」
「フューシャ殿下……! いや、でも強くあろうとするのは良いええ事なんでしょうかやろうかの……!?」



「――という感じだ」
「ははは、妹達は面白い事言うねー」
「スカイ……止められなかったのか……」
「そこはヴァーミリオンが止めるべきだったんじゃない?」
「その後にクリームヒルトの過去や、クリ先輩の過去。スカイのしつ――想い人の話を聞くと、強さが必要だったのではないかと思った」
「思わないでください」
「だが心の強さは重要だとは思うんだ。体を鍛えれば心も健康的にはなるからな」
「だとしても……」
「それに後は俺の母……実母の性格を見ると、心の弱さが二度の父との関係になったのではないかと……」
「おいやめろ」
「それに俺はスカーレット姉さん以外とは今まで距離を置いていた……それにスカーレットと仲良く話すのは王妃の機嫌を損ねるから、そこまでであるし……実は兄弟というのが分からなく……」
「ねぇやめて」
「……ともかく。彼女らの話を聞いていたら妹とはなんだと思うようになった」
「なるかもしれんが……」
「それで、お前達の中に妹が居るのは……アッシュと、一応エクルもか」
「だね。とはいえ、私は一人っ子の所を迎えただけだね。弟は前世ではいたんだけど、生粋の妹持ちの兄貴分はアッシュくんだけじゃないのかな」
「え、アッシュ、妹居るの?」
「二歳差と六歳差の妹が居ますよ。間に四歳差の弟も居ますが……意外ですか?」
「意外と言うかなんというか……アッシュってもし妹や弟が居たら、常に笑顔の敬語で話して、“オースティン家の者ならこのくらい出来ますよね”って圧力かけてそうで」
「シルバは私をどう思っているんです」
『あぁ……』
「おい待て貴方達。何故全員が“やりそう”みたいな表情をする。というかヴァーミリオンとシャルは私の家での振る舞いは見た事あるだろう!」
「敬語取れてるぞ。ともかく振る舞いは見てはいるが、イメージとしては有りそうだな」
「私の見た限りでは優しい兄ではあるが……な」
「お前達が私をどう見ているかよく分かった……!」
「でもアッシュくん。キミ、女生徒の間でも“笑顔でDVしそう”とか言われているよ」
「なんですと……!?」
「あくまでもメアリー様と会う前の評判だけどね」
「評判は評判に過ぎません! 兄として、貴族として厳しく振舞う事はありますが、私は妹や弟には甘い方だと思います!」
「自分で言うのか」
「でも実際にアッシュはやる事をやれば、妹達に意外と甘いからな」
「そうなの? 貴族以外見下していたから、身内には甘い感じ?」
「シルバ、私にアタリきつくないですか? ……やる事をやれば褒めるというだけですよ。それに、慕ってくれるあの子達を無碍には出来ません」
「へぇ……そんな兄としては妹は強いと嬉しい?」
「そうですね……確かに成長して強く生きようとするのは喜ばしいですね。面倒を見ていた分寂しさも有りますが、独り立ちして幸せを掴むのは良い事……あれ、強い妹は良いのか……?」
「アッシュ、深呼吸をしていろ」
「……そうする」
「エクルはどうだ?」
「うーん、そうだね。クリームヒルトは強さと脆さを兼ね備えた妹ではあるけど……」
「けど?」
「私は妹持ち歴は短いからね。まだよく分からないよ。可愛いとは思うんだけどね。糞生意気な前世の弟よりは」
「エクル先輩は前世の弟に恨みでもあるの?」
「沢山あるけど無いよ。生意気と思うのも愛情表現さ」
「なんか矛盾しているような……」
「でも弟が成長したら不思議な感覚だったな。私にとってはまだまだ私より子供という認識だったけど、やっぱりいつまでも子供じゃないんだな、って思ったのを覚えている。そこは弟も妹も変わりないんじゃないかな」
「それもそうか……性別の違う兄妹と言ってもそこは変わらないか」
「だろうね。性の違いは重要だし、気を配るべきだけど、変に身構えるのも良くないと思うよ。キミはさっき仲良くないと言ってたけど、バーガンティー殿下とはそれなりに話せているんだ。妹を特別視せず、強さも弱さも、成長も見た上で兄として振舞えば良いと思うよ」
「……そうだな。兄として尊敬できる振る舞いをするとしよう」
「そうそう。似た環境に居る身近な存在なんだ。先に道を示して参考にするんだ、と言うような感じでドーンと構えれば良いんだよ」
「はは、難しそうだ。だが、アイツが兄として親しみを持て、尊敬出来る様に頑張るとするか」
「ところで聞きたいんだが」
「どうしたのシャルくん?」
「前世の弟が成長を感じた、とはどんな時だったんだ?」
「エロ本を数冊隠し持っていた時」
「おい」
「だって色を覚えるんだよ。子供じゃないんだな、って思うでしょ」
「兄……いや、姉としてそれで良いのか……?」
「別に良いんだよ。大丈夫、堂々と朗読して、そのエロ本を見る度姉である私を思い出させるようにしてやったさ!」
「やめてやれ……」
「なにが大丈夫なのかな」
「私に聞かないでください」
「へーい、なんだかエロって単語が聞こえたけど、男子同士で猥談しているの? 私も混ぜてー!」
「クリームヒルト。例えしていてもその入り方は女子としてどうかと思うよ」
「あはは、気にしては駄目だよー! ただ皆がそういった話をするのが珍しいと思っただけ! まぁ、会長さんの前で堂々と猥談していたほど持て余してはいるみたいだけど……」
「誤解だ。兄妹の話を――ああ、そうだ、クリームヒルト」
「なにかな、ヴァーミリオン殿下?」
「この後の会議でもあがる話題なんだが、お前にも関係あるから先に言っておく」
「うん」
「お前の前世の兄のクロ子爵だが」
「うん?」
「……遅くとも一ヵ月以内には再会する事になるぞ」
「…………どゆこと?」

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