追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

同類故に結構仲が良い(:杏)


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 学園に通うために弟子と共に首都へ行く。
 行く途中の馬車の中では、クロさんやヴァイオレットさんとの別れに悲しさを見せないよう、僕にも心配かけさせまいと着丈に振る舞う弟子をなにも言わずに寄り添った。
 首都に着く頃には弟子も新たな環境に期待を発露させてはしゃぎ(可愛い)、寮に入るのは明日からなので荷物を宿屋に預けた後、首都を周った。
 僕がまだ眼帯をしているので弟子は気を使いつつも、二度目の首都に興奮を抑えきれないようであった。
 数日程度では制覇どころか見る事すら出来ないという規模と種類に、これから楽しみが増えたと言わんばかりであると同時に、誘惑が多いので大丈夫かと気を引き締めてもいた。

「首都での生活、楽しみですねアプリコット様! 色んな事を体験しましょうね!」

 その言葉からは僕が常に傍に居て、“一緒に”楽しむという事をまるで疑っていない無邪気な言葉であった。
 子供のような発言と受け取る事も出来るが、僕はその真っ直ぐな言葉と表情がとても嬉しかった。僕も「そうだな」と返事をすると、更に嬉しそうにし僕の手をとる姿はまさしく月のように美しく、太陽のように眩しかった。
 弟子と一緒ならば、この笑顔が傍にあるならば僕は首都でも戦える――のだが。僕はふと思った事がある。

――我、弟子にやられっぱなしではないか?

 僕は弟子が好きであり、弟子も僕に対する好意を隠さない。
 弟子の好意は師匠的な好意と……恋愛的な好意が入り混じったものだ。師匠としての好意も素直に嬉しいのだが、恋愛的な好意に対して僕は弟子にやられっぱなしではないだろうか。

――クロさん達ですら互いに攻めは成功するのに……

 あの新婚で互いに好き合っているにも関わらず、見ているこっちがもどかしくなるクロさん夫婦。
 首都行く前に僕は発破をかけたが(なお、弟子が追い打ちをかけたので大丈夫かと今は心配している)、なんだかんだであの両名は互いの攻めは成功している。しかも互いの防御が弱いのでモロに攻撃を受け、素直に照れるという、見ているこっちが恥ずかしくなる代物なイチャつきを見せる。

――シアンさん達も攻めはしているのに……

 一歩踏み出せばドンドン行くだろうシアンさんカップル。
 あのカップルは上手くいっていない感じもあるが、アレは単純に方法を間違えて外れてしまっているだけで、受ければ成功するのだ。
 ようは気付かないだけで、アプローチに気付けば照れもするし、好きが増幅し見ているこっちが恥ずかしくなるイチャつきを見せる。……つまりは、このカップルも互いに特攻を持つ、無自覚回避が多い攻撃過多だ。

――他にも身近なカップルだと……

 その他身の回りのカップルを思い出す。
 オーキッドさんとウツブシさん。見えない絆を感じるオシドリ夫婦。
 ロボさんとルーシュ第一王子。基本ルーシュ第一王子が強いが、ロボさんからの行動に対する初々しさがある。
 ベージュさん夫妻。色んな愛の形があると教えてくれる、愛の深い夫婦。
 アップルグリーンさんとホリゾンブルーさん。まさに行動で示す強い夫婦。
 クリームヒルトさんとバーガンティー第四王子。真っ直ぐな気持ちと、受け入れる度量がある、物語のような恋路。
 メアリーさん達は……あれは愛が多いというべきなのかは分からないが、ともかく互いに攻める事が出来ている。大抵をメアリーさんは流すが。
 どの組み合わせも互いの行動に一喜一憂する光景が見られる。つまりは攻めれば照れたり、恋や愛を感じさせる光景があるのだ。
 だが……

――我の場合、受けられた上で返答されているから……

 しかし僕の場合、弟子は僕の言葉を受けて喜んだ上で攻撃を返している。そして僕は受け流す事も出来ずに直撃し、返せない状況が多く続く。逆は基本的に無い。
 子供ゆえに意味を理解していない事は有ろうが、それを踏まえても僕はやられっぱなしだ。
 故に、

――……もしかして我は、恋愛面において一番弱いという事ではあるまいか……?

 と、思ったのである。

「どう思うだろうか、フォーン生徒アップル会長ジェネラルさん」
「私に聞くんだね……というか何故アップル?」

 なので僕は、もしかしたら同類かもしれないフォーン会長さんに聞いてみた
 学園で入学式を前にして弟子と別れていた所、偶然独りで居る所を見かけた(ぶつかったとも言う。気付かなかった)ので、手紙を渡すついでに相談してみたのである。

「恋愛にも色々種類はあるし、弱いと思っている部分も他者から見れば羨まれる可能性だってあるんだ。君が気づかないだけでね。結局はなにを強いかと思うかだと思うよ?」
「だが、こう……大人な余裕を持ちたいのだが」
「持つには経験が必要だけど、恋愛的な大人の余裕はすぐに鍛えられるモノでも無いし、良いんじゃない? 失恋とかしたら鍛えられるかもしれないけど、そういうのは望まないだろう、アプリコット君は?」
「それは当然ではあるが……ううむ」

 それを言われるとなにも言えなくなる。
 自分が気づいていない、なにを強いと思うか。余裕はすぐに身に付くモノでは無いから、経験していく事で成長していくしかない……ううむ、フォーン会長さんに、もっともかつ僕の求めた答えを返されてしまった。
 恐らくここで「コツとかないのか」と問い質しても、「万人に効くコツがあれば皆やっていてコツとして機能しないんじゃないか」といった内容を返されるだろう。これが別の生徒であれば別の回答をするのであろうが、フォーン会長さんは僕に見合った言葉を考えた上で答えを返している事が分かる。なにせ以前シキに来た時がそうであったからな……

「だったら回数と思考だよ。なにも考えずにただやる、というのは最悪だけど、今みたいに考えた上でなにかをしようとしていけば、自然と悩みは過去のモノになるよ。グレイ君との思い出という、ね」

 そう言いながら後輩を諭すお姉さんのように微笑むフォーン会長さん。相変わらず同性でも【魅了アモル・ノ魔眼アポカリプス】無しでも見惚れる微笑みであり、美人である。
 これが大人の余裕、というやつなのであろうな。シキに居た頃も、サキュバスという種族であっても、弟子を誘惑する心配は無いと思えるような良い人と感じた。僕にとっては既に学園で尊敬する女性としてトップクラスに居る。
 ……なのに何故こんなにも影が薄いのであろうな。油断すれば見失うのは何故であろうか。クロさんはすぐ見つけるのだが。

「ところでフォーン会長さん」
「あ、普通に呼ぶんだ。なんだい?」

 しかしふと、この大人の余裕を崩して見たくなった。
 そもそも僕がフォーン会長さんに相談した理由は、同類と思った方であり、シキでの彼女を見たからというのがある。
 ……そう思わずにはいられなかった、可愛らしい姿を見たくなったのである。

「ブラウンからの手紙はちゃんと返事を書いてあげて欲しい」
「う。……もちろん、そうするよ。懐いてくれた子供にはお姉さんとして返事を……」
「無邪気の中に好意に溢れた手紙だ。なにせ最低限しか書けなかった字を、僕やシアンさんに教わりながら懸命に書いたのだ。内容もずっと考えながら」
「…………」
「あのブラウンが寝る間も惜しむほど、貴女に喜んで貰いたいという一心で書いた手紙だ。……愛されていて羨ましいな」
「こ、子供なんだから愛とか分からないんじゃないかな!?」
「フゥーハハハ! 照れるな照れるな。我と同じで幼き純粋な好意を喜ぶ者よ。同じ女として気持ちは分かるぞ! 愛おしくて仕様がないのだろう、真っ直ぐ来る気持ちに心が躍るのであろう!」
「ち、違……! そもそも私はブラウン君は好きだけど、恋愛的な好きでは……!」
「無いのか?」
「ぅ…………はい。好き、です。正直手紙を受け取って、嬉しくて仕様が無い、です」
「そうか」

 僕の言葉に素直に心情を吐露するフォーン会長さん。顔を真っ赤にしつつ、まだ封が開いていない手紙を今すぐ開けて内容を見たい、というような表情であった。
 ……うむ、やはり同類な気がする。僕はここまで初々しくはないと思うが、恋する相手が似たような感じであるからな!

「……だがな、フォーン会長さん。我慢できないからとはいえ、未成年に手を出すのはやめたほうが良い。フォーン会長さんが二十五になるまで、というのは茨の道やもしれぬが……」
「だ、出さないから!」

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