追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

色んな乱れ(:紺)


View.シアン


「……閉じ込められたな」
「……閉じ込められましたね」
「…………」
「…………」

 棘無しアイアンメイデンに、密着する形で閉じ込められた私達。
 若干の気まずさを感じながら、ただ状況を言うだけという、妙な時間が流れた。

「これは……ヴェールの言っていた道具その物にかかっていた魔法というやつだろうか」
「閉まった後に棘が出るタイプじゃなくって、なにかを押したら中に引き込ませるものだったみたいですね」
「ああ。内側から開く仕組みは――っ、シアン、すまないがあまり足を動かさないでくれ……!」
「え、え!? あ、ごめんなさい!」

 動く気はなくとも、無意識の内に身体を動きやすい形にしようとしているのか足が動いてしまい、それで何処か痛かったのか神父様は動かないように言う。
 ……あれ、というかこの足の感触……私の服って今、もしかして……いけない、それよりも今は脱出を考えねば。

「シアン、そちら側から押して扉を開けられないか?」
「待ってくださいね」

 今私達の体勢は、私がアイアンメイデンの中の奥側に居て扉側を向いており、神父様がそれに向き合う形になっている。
 だから扉を開けるとしたら私の方が開きやすいのだろうが……

「ふっ! ……駄目です。動きませんし……鍵や取っ手らしきものもなさそうです」

 生憎と力を入れてもビクともしない。
 力を入れ辛い体制というのもあるかもしれないが、内側からは単純に開かないようだ。

「そうか、じゃあ外側から開くしかないのだろうか……いや、中に引き込むのならば、緊急時に内側から開ける仕組みがあるはずだが」
「仮にされていたとしても、二人で入る設定はされていないのでは……?」
「……調べるにも調べようが無いし、あったとしても一人用という事か……」

 そもそも中に引き込んだ状況からして不可解な魔法なのだ。
 その不可解な魔法なせいで、私と神父様は動くと相手の身体に当たるような密着具合になっている。私達が入ってしまった扉が素直に開かない以上、脱出の方法を探すには困難だ。

――いや、それよりも……

 しかし今の私にはそれよりも重要な目下の問題がある。

――私、絶対埃っぽくて汗臭い……!

 私は先程までこの部屋を掃除していたのだ。
 エルちゃんが調べる際に多少の埃は払ったとはいえ、長年放置されていたので掃除をする際には埃を浴びる事となる。
 そしてこの部屋の立地の特性上、空気が悪かったので結構嫌な汗を掻いた。お風呂に入ろうと言ったのも服が嫌な感じに張り付いたからだ。
 だから私は今絶対に、神父様に臭いと思われている……! 鈍いと言われてもそのくらいは神父様でも感じる……!

「……神父様」
「……なんだろうか、シアン」
「……私の身体は、気持ち良いでしょうか」

 なので感触が大丈夫かで攻めてみた。
 なにを考えているんだ私。

「……この状況でそれを聞くのか。…………柔らかくて、良い香りがする」

 神父様は素直に答えた上に、汗臭いだろう私を良い香りと称した。
 絶対にそんなはずがないのに良い香りだなどと言うとは……神父様は汗フェチというやつなのだろうか……!

「え、えっと! スイ君が来た時に外から開けて貰うしかないでしょうか!」
「そ、そうだな! それが手っ取り早いが……外に声が届くと良いな!」
「あまりそういう事を言わないでください……」
「す、すまない」
「いえ、別に良いのですが……」
「…………」
「…………」

 神父様の言葉に少し暗くなりつつ、妙な間が流れる私達。
 中からは下手に動けない。動き辛いというのもあるが、私の身体は割とマズい状況になっている。

――お尻、冷たい。

 痛いとかそういうのではなく……格好ろしゅつの問題である。
 光が少ないので見えにくく、神父様の角度的には見えないだろうが、足部分は入った時に妙な捲れ方をしたのか、感触的に太腿……いや、お尻の部分まで見えかかっている。というか全体的に足が神父様の服の感触がある辺り、大分大胆になっているのではないだろうか。

――神父様、身体が熱い。

 そしてこちらは私の露出の問題は無いのだが、先程腕に力を込めた時、私の胸が形を変えて神父様に押し当たったのを感じた。しかも当たる先は神父様の乱れた上半身の服部分なのだ。
 神父様も急いで帰り、身嗜みをキチンと出来なかった故に引きずり込まれる際に乱れたのであろう。……私の服越しにも熱を感じる辺り、結構密着して……恥ずかしい。

「シアン、その……すまない」
「神父様が謝る必要はないです。私を救おうとしてこうなったのですから、むしろ私が謝る必要があります」
「いや、そこではなく……俺は先程まで全速力で走っていたからな。汗とか草とか……変な臭いがするだろう? だからすまない」
「え、ええと……」

 ……いや、そこは私が謝りたいくらいなんだけどな。
 むしろ神父様に包み込まれる感じがして、この香りも…………か、考えるな私。煩悩よ去れ!

「し、神父様の方からなにか見えませんか!」
「え、な、なにかってなんだ?」
「スイッチとかレバーとか……魔法陣とか」

 私は神父様に覆いかぶされているのであまり見えないが、神父様からならなにか見え――

「ああ、成程。見ないようにしていたし、見えにくいが……ちょっと探してみる」
「駄目です!」
「何故だ!?」

 って、見えたら困る。もし下を見て神父様が私の下半身部分を見たり、見ようとして足を動かしたら……直接触れてしまって……

「……いえ、なんでもないです。なにか見えませんか? あるいは感触があるとか……」

 なにを言っているんだ私。この状況でそんな事言っていられないだろう。
 どうせいずれ見せるのだ。今見られたからって変わるモノか! ……いや、いずれ見せるとかなに考えているんだ私……

「ええと……とりあえず探してみる。手探りでも探してみるから、少し動くぞ?」
「どうぞ――んっ」
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫です。痛い訳じゃ無いので、私の反応は気にせずに探してください」
「わ、分かった」

 神父様が動いた際に肌が触れたが……気にするな私。変な声を出すな。
 自分でも出したくないのに、出てしまいそうになるような声がある。そんなものを神父様に聞かせないためにも、我慢だ私……!

「……神に祈る。自惚れる。神は個を救わず。
 個の感情で悪を滅す事は許されず。
 個の判断で善の執行は許されない。」
「待て待て待て。何故急に浄化前の祈りを言う。なにをする気だ!?」
「気にされないでください。必要な処置であり、唱えているだけです。――だが理解した上で個の判断で成さねばならぬ時がある。
 裁きは行わなければ救われない。
 例え悪しき存在でも、言葉を交わして理解を深める――」

 浄化前の祈る心を思い出せ、私。
 クリア神様の如き清廉潔白さは私には無理だ。だけど目指す事は出来る。
 この状況で沸き上がる煩悩を払い、脱出を――

「ここか!」
「――――!?」
「む、冷たい感触はアイアンメイデンだろうが、甲の温かく柔らかい……」
「スノー、君……!」
「え、どうしたシアン!? 何処か痛い所でも――」
「それ、私の……!」
「私の……? ――っ! す、すまん!」
「きゅ、急に動かさないで!」
「すまない!?」

 私の言葉になんとか動く範囲で手をどかす神父様。なんでよりにもよって先程気にしていた位置に潜り込ませるんだ。狙っているのか。

「というかシアン、もしかして下……」
「それ以上、言ったら、スノー君でも怒りますよ……!」
「わ、分かった」

 神父様が私の服装の状況についてなにか発言をしそうになったが、私は睨みつけることで封じた。実際に見えているかはこの際置いておくが、効果はあったようだ。

「もう良いです、私が探しますから、ス――神父様はそのままでいてください!」
「あ、ああ」

 私からはほとんど視界が神父様の身体しか見えないので、出来れば神父様にやってもらいたいが、そうも言っていられない。
 私が手探りで脱出の手掛かりを……

「……シアン」
「なんでしょうか、神父様。多少当たるかもしれませんが、そこはお互い様という事で――」
「……右手が触れているだろう部分。それ、多分さっき俺がシアンに触れていたヤツだ……!」
「はい? ………………ごめんなさい!」

 私は慌てて右手をその場所から離そうとする。
 な、なにに触れているんだ私。私が動いてそこに触れるなんて、まるで私が触りたがったようなものじゃないか。私は多分服越しだが、神父様も下着をつけていないので――考えるな私。ともかく今は右手を動かさないと!

「わ、待てシアン!? ふ、服が、服が脱げる!?」
「え、何故ですか!? わ、なんか神父様のボタンがプチって音がした!?」
「落ち着けシアン。変に動くともっと服が脱げる! シアンは下がさらにマズい事になる!」
「さらにってなんですかさらにって! 本当は見たんじゃないですか、神父様のスケベ!」
「スケベ!? 不可抗力と言うか、よく見えないと言うか――うわ、ぬ、脱げる! 抑えられてもお腹部分が捲れて、シアンの胸が……!」
「え、待ってください動かないでください! む、胸板が、神父様の胸板が直に私の顔に!?」
「すまない!?」

 なんだこれ。アイアンメイデンの中は狭いというのに、ドンドンとマズい状況になっていく。
 このままではマズい。私の理性とか煩悩とかもマズいが、これ以上いると今後の付き合いに変な影響が産まれて――

「…………あの、大丈夫でしょうか、神父様。シアンお姉ちゃん」
『え』

 そしてゴチャゴチャワチャワチャしていると、ふとアイアンメイデンの扉……私達が入って来た扉が外から開かれた。
 そして光が入って来た事により、今の状況を理解する……というか、互いの服装を視認する。
 私は足が殆ど見えている状態で、全体的に着衣が乱れ。
 神父様は……まるで私が服を脱がそうとしているかのように大胆な格好になっている。
 そしてそれを見た可愛い弟のような後輩修道士見習いのスイ君が一言。

「…………。ごめんなさい、邪魔しちゃったみたいで……今、閉めますね」
『待って!』

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