追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

幕間的なモノ:生徒会女子ズの隠された設定(:淡黄)


幕間的なモノ:生徒会女子ズの隠された設定


View.クリームヒルト


「ねぇねぇメアリーちゃーん。ヴァイス君、って知ってるー?」
「ヴァイス君? シュバルツの弟さんで、帝国の孤児院に居るという?」
「うん、その子」

 生徒会室にて。
 もうすぐに迫った入学式のために、生徒会で準備をしていた私達生徒会メンバー。そして今は私とメアリーちゃん、スカイちゃんの他に誰も居ない。そして休憩の時に私は話題としてその話をした。
 しかしすぐに答えが返って来る辺りは流石はメアリーちゃんである。私も名前とシュバルツさんの弟という情報を持ってようやく思い出したというのに。

「メアリーちゃんって、その子の情報なにか知ってたりする? あの乙女ゲームでさ」
「情報ですか。ええと、シュバルツと血がつながった弟で、彼のためにあらゆる依頼をこなす……という感じでしょうか。それ以外は分からないですね」
「あはは、だよねー」
「そんなヴァイス君がどうかしたんですか?」
「その子がさ、今シキで修道士見習いとして来たみたいなんだけど……なんかあるっぽいんだよね」
「クロさんがそう仰られた……手紙でも来たんですか?」
「うん、そんな感じ。直接は書いてないけど、前世持ちで知っている情報があれば、という感じだね。……日本語で書いて来る辺り、結構複雑な事情なのは確かみたいだけど」
「ほう、つまり外部に漏れては駄目な事なんですね?」
「うん。ほら、これ。スカイちゃんも見る?」
「外部に洩れてはいけないと言っておきながら私にも見せるんですね……」
「スカイちゃんは事情を知っているし……それに黒兄の字だよ。読みたくないの?」
「クリームヒルト。私をなんだと思っているんですか! ……読みます」
「あはは、どうぞ」

 私が懐から手紙を取り出してスカイちゃんに渡す。
 スカイちゃんは受け取ると、メアリーちゃんと顔を寄せて手紙を一緒に見えるようにする。

「……はい。よく考えれば読めませんね」

 そしてスカイちゃんは早々に読む事を諦めた。まぁ日本語を目にしたのはここ最近の話だし、前世持ち以外の私達の中で一番頭の良いヴァーミリオン殿下ですら苦戦している。私達元日本人に読む事を前提とした手紙を読めるはずも無いだろう。……ちなみに別に嫌がらせで渡したわけではないので悪しからず。

「……これは、興味深いですね。王国語に翻訳すると――」

 そして黒兄の手紙の内容はこんな感じだ。

「ヴァイス君は一定の条件が満たされると身体能力が向上する体質である。それは父親の影響らしく、姉であるシュバルツと違う親なため、シュバルツには無い体質。その事にヴァイス君自身は自覚が無かったが、シキに来て自覚を持った。……という感じですね」

 と、いった内容。
 ぼかしてはあるし、体質とは書いてあるけど……多分黒兄の性格的に、あまり世間一般では褒められたものでは無い体質なのだろう。
 そうだね、なんだか所々で黒兄が隠したがっている黒歴史の言い回しが見られるから……吸血鬼かな? まぁあくまでも予想だけど。

「しかし、残念ながら私は分かりません。エクルさんも同様だと思いますよ――って、今はクリームヒルトのお兄さんでしたね」
「うん、既に聞いているよー。分からないってさ。じゃあ黒兄には分からないって返しておくね」
「お力に慣れず申し訳ないです」
「あはは、気にしなくて良いと思うよ」

 多分黒兄も答えが返って来ると思って聞いている訳ではないのだろう。あくまでもこの質問はついでのようであったし。
 ちなみに本命はグレイ君とアプリコットちゃんが学園に来るので、よろしく頼む的な内容や、私の貴族生活に馴染んでいるかを心配したモノだ。そのついでと言うように添えられていただけである。ついでにシキで封印モンスター開放騒動があったらしいが、その報告もついでだったし。
 あくまでも黒兄の知らない設定があるなら参考に、という程度で――あ、そうだ。

「スカイちゃん、ちょっと聞きたいんだけどさ。スカイちゃんってなんでティー君の護衛なの?」
「はい?」

 私はふと気になった事を聞いてみた。

「ほら、女性騎士って少ないでしょ。なら女性騎士の護衛って、王女様とかスカーレット殿下みたいな、女性の王族を守る役割を充てられるんじゃないかな、って思ってさ」
「ああ、そういう事ですか」

 ちなみに女性騎士が少ないのは環境の問題だ。
 騎士は魔法も必要だが、肉体面の方が評価されるので自然と男性が多くなる。そして比率的に多くなった結果……まぁ、女性に働き辛い環境になってしまった。それは肉体的辛さというよりは、精神的辛さが多いのである。

「私は元々フューシャ殿下の護衛の予定だったんですがね。フューシャ殿下があまり護衛を好まないのと……私の祖父がティー殿下の護衛を勧めまして……」
「お爺ちゃんが?」
「はい。…………他の皆さんには言わないで欲しいのですが……」
「うんうん」
「どうぞどうぞ」
「……第四王子という御方の身近に居れば、女としての“おこぼれ”があるのではないかという目論見もあったようで……」
「あー……」
「おこぼれ、ですか? 幼少期からの絆で家を救う! 的な感じでしょうか」
「メアリーちゃん。ようは、メイド、主人、お手付き。だよ」
「あ。……成程」
「それで分かられるのも複雑ですが、そんな感じです。父は反対したらしいんですがね」

 らしい、という事はそれを知ったのは護衛になった大分後という事だろうか。

「ちなみにティー君は手を出したの?」
「私以外に言えば不敬罪が適用されますよ。してません。……今になって思えば、ヴァーミリオン殿下やスカーレット殿下の父君の件を知っていたからなんでしょうね。そういった方面には人一倍避けていましたから」
「あはは、そっか」

 そっか、ティー君は避けていたのか。
 普段の様子や発言から分かっていた事ではあったけど……そっかー。…………良かった。

「というより、こう言った事はあのゲームとやらでのっていないんですか? 私って結末によっては主人公ヒロインと一緒にお店をやる様な重要キャラなんですよね」

 スカイちゃんは過去を思ってなにか振り払う仕草をした後、私達に聞いて来た。
 ちなみにスカイちゃんはゲームとこの世界は違うという認識はあるけれど、情報としては無視できないと思っているし、話を聞くのを楽しむタイプである。ようは今のように設定委はどうだったと聞き、当たっているか違うかを楽しむ――ようは、前世で言うニュースの占いを楽しむような形である。

「重要と言えば重要だよ。ただね、あの世界のスカイちゃんは“第四王子の護衛”というのが重要なキャラなんだよ。ね、メアリーちゃん」
「ええ、重要です。なにせあの世界のスカイは最初味方か敵か分からない、謎めいたキャラでしたから……」
「私が謎めいた……ど、どんな感じです? クロと会わないと私はミステリアスな女になるんですか?」

 スカイちゃんはどこかワクワクしながら聞いて来る。
 アレかな、普段は真面目なスカイちゃんだけど、謎めいたクールな大人の女性に憧れる感じなのかな。

「まず“第四王子”っていうのは言葉上だけで実際には出て来ないの」
「そしてシュバルツは主人公ヒロイン達を暗殺に来るのは説明しましたよね?」
「ティー殿下……第四王子の関係者の依頼でしたよね?」
「ええ、だから第四王子の護衛であるスカイちゃんが敵かもしれない、って流れになるんですが……スカイは所々で言葉を濁し、去っていくんです」
「成程? 実は私は内部で調査をしていて、それを外部に漏らさないようにしていた……という事ですね」

 スカイちゃんは顎に手を当て納得したように頷く。
 実際スカイちゃんはティー君の近くに悪しき存在が居ると知った時、調査をして証拠を掴み、追い出したからね。そう思うのも無理は無いだろう。

「違うよ、訛りを隠すためだよ」
「はい?」

 だが事実は違うのである。

「スカイちゃん、訛りが恥ずかしいからつい訛りが出そうになると、口を噤んで誤魔化し、そのまま去るの」
「それが“なにかを隠しているんじゃ……!?”と言う形で誤解されるんです。ちなみに誤解が解けないと、大切な情報が得られずデッドエンドを迎えます」
「え、私が訛りを隠すと主人公ヒロイン死ぬんですか」
「うん、死ぬ。シャル君関連の最初のデッドだよ」
「ですから私はスカイと話して訛りを出させる事に注力しました!」
「入学当初にやけに話したのはそんな理由だったんけ!? ――だったんですか!?」
「はい、申し訳ございません。死にたくなかったので……」
「いや、そうでしょうが……私の訛りってなんなんですか……」
「ファンの間では“隠しきれていない隠し設定”と言われてるね。それ以外は真面目ゆえに衝突する事は多いけど、隠し設定は少ないよ」
「結局は乙女ゲームですからね。ヒロインよりヒーローの設定が濃いです」
「私と仲良くなると私の実家が没落するらしいですし、私に対するアタリと言うか興味の無さが滲み出ていません?」
「大丈夫、あの世界のヴァイオレットちゃんよりはマシだから」
「……それを言われると、なにも言えませんが」

 スカイちゃんは私の伝家の宝刀ことばに複雑そうな表情をしたのであった。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品