追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

今までとは違う扱い


「……ふぅ」

 周囲に誰も居ない、溜息を吐いても聞こえない事を確認してから外で溜息を吐く。
 現在俺は領主として色々と動いているのだが、とある事件の対応に少々難儀していた。
 事件と言うのは、先日帝国から来た修道士見習いの子達が、シキのモンスター封印を解こうとした事件の事である。これが大きくはなっていないのだが、とてもややこしい事態になっているのである。

――自国内だけでも大変なのに、帝国まで……

 シキの封印モンスターによるヴェールさん達との連携の他に、どっかの第二王子の件も面倒な処理があり、下手をしたらさらに上が現れるかもしれないとの言うのに、そこに帝国関連の事態が追加された。
 シキに来る予定だった修道士見習いの子達は元々ヴァイス君だけだというし、少年達が何処から来たのかハッキリと分からないし、分かっても間違いなく政治に関わるし……うん、面倒だ!

――もう少しでグレイとアプリコットが学園に行くと言うのに。

 その事も含めて俺は溜息も吐きたい。
 元々の予定ではどっかの第二王子やシキの封印モンスターの件を対応しながら、色々と日常を過ごしつつ準備をしていこうと思ったのに予定が大いに崩れてしまった。
 もっとグレイやアプリコットの小物とか必要なモノとか用意したかったのに……!

――まぁ、言っても仕様が無いし、二人は二人で色々やっているからな……

 とはいえ、これは俺の我が儘だ。
 子離れが完全に出来ない親の行動であり、二人は自分に出来る事をやったり楽しんだりしているのでとやかくは言えない。
 それに面倒とはいえ、ここで逃げ出したり放り出したりすれば後からさらに面倒になって返って来る。一番楽な行動は面倒を分かる範囲から一つ一つ紐解き、解決していく事だ。だから頑張るぞ、面倒くさがり屋な俺! ……それに、放り出したら後でこの件はどうなってしまったのだろうと絶対に気になってしまうしな。俺はそれを無視出来るほど強い人間じゃない。

「クロさーん!」
「あれ、ヴァイス君……に、シュバルツさん」

 愚痴りたい気持ちを抑え、改めて気合を入れようとするとヴァイス君に呼びかけられた。
 声をした方を向くとヴァイス君と、その後ろを付いていく形でシュバルツさんが居た。

「こんにちは、お仕事お疲れ様です!」
「はい、こんにちは。元気があって良いね。シュバルツさんもこんにちは」
「こんにちは。今日も美しい天気で良いね」
「ええ、澄み渡る青空で良い天気ですね。姉弟で散歩中ですか?」
「そうだね。体調も戻ったし、仲良くお話し中さ」

 俺はシュバルツさん姉弟と挨拶を交わし、軽く会話をする。どうやらアイボリーの許可が下り、シアン達に言われて今日一日ゆっくりしているようだ。

――うん、足取りも大丈夫そうだし、もう大丈夫そうだな。

 この姉弟は少し前まで療養をしていた。
 シュバルツさんは封印モンスターの封印を解く魔法陣の解除で、魔力や身体が意外とボロボロだったらしくアイボリーに回復専念を命令された。
 ヴァイス君はオルタ君……じゃないや、シュネー君が目覚めた反動で全身が筋肉痛のような状態になり、ほとんど動けなかった。
 とは言え両者共事件二日後くらいには動けるようになってはいたので、ここ数日はあくまでも経過観察だったのだが。

――まぁ身体と言うよりは、心の面で時間が必要とアイボリーも判断したんだろうな。

 そしてその経過観察の間に姉弟間で話し合い、溝は埋まったというか、誤解は解けたらしい。まだ不安は残るが、今ではこうして安心して見る事が出来る姉弟となっている。……その辺りの気遣いが出来る辺り、アイボリーは本当に口は悪いけど良い奴である。
 あと少し関係無いが、シュバルツさんもヴァイス君が居ると脱がないので安心して見る事が出来たりする。

「すまないね、クロ君が忙しい所を手伝えずに……」
「これが領主の仕事ですし、こう言ってはなんですがお二人共正式なシキの領民じゃありませんからね。聴取だけでなく手伝って貰ったら悪いくらいですから、気にされないでください」
「そう言って貰えると助かるよ」
「ですがクロさん、僕達に出来る事があれば言って下さいね! 力が必要な時はシュネーの力で頑張りますから! まだ自由には使えませんけど!」
「はは……無理はしないでね?」

 そしてなにがあったのかは分からないが、ヴァイス君はシュネー君の存在を認識し、会話が出来るようになったようだ。二重人格? での会話と言うと妙な感じはするが、その辺りは俺自身が二重人格で無いので分からない。ちなみに入れ替えは“まだ”自由には出来ないそうだ。
 そして会話が出来るようになった事に関し、なにが起きたか気にはなるが……まぁ、悪い方向には進んでいないと思っておこう。シュバルツさん曰く「クロ君を始めとした、シキの受け入れる空気に馴染んだだけさ」との事ではあるが。

「ヴァイス君、悪いけどシュネー君に関しては今後調査していくから、その時はよろしくね?」
「はい、シスター・シアンや神父様の協力の元、色々と知っていきたいと思います!」
「……ヴァイス、そろそろ。クロ君の仕事を邪魔する訳にはいかないからね」
「あ……そうですね。えと、お仕事頑張ってください、ではまた!」
「うん、またね」

 しかしヴァイス君やシュネー君の善意は信じるが、どういう状況なのかはハッキリと知らなくてならない。
 神父様やシアンは、ここ数週間はヴァイス君とシュネー君について調べるのにかかりきりになるだろうな。

「クロ君。ありがとうね」

 ヴァイス君が手を振り別れると、シュバルツさんは別れる前に俺にこっそりと言ってくる。

「なにがでしょう」
「私やヴァイスに今回の件の累が及ばない様にしたり、ヴァイスの吸血鬼の件を外部には黙ってくれていたりさ」
「ああ……別に構いませんよ。領民を守るのは領主の仕事ですし」
「おや、私達は正式な領民では無かったんじゃないのかな?」
「さぁ、そんな前の発言は忘れました」
「おやおや、困った領主だ」
「ええ、俺は領主ですからね。偉いですから気分次第で都合の良いように平民を解釈するんです」
「ははは、横暴で優しい領主も居たモノだ。……ありがとうね、本当に」

 シュバルツさんはそう言うと、今まで見て来た彼女の美に対する自信に満ち溢れた笑顔とは違う、姉としての感謝を示す笑顔を浮かべた。
 ……なんというか、シュバルツさんの年齢相応の笑顔を初めて見た気がする。色々と変な事をしたり、仕事を熟したりするから忘れがちだけど、まだ十七歳で前世だと高校生くらいなんだよな、シュバルツさん。

――そんな子に心から感謝されるなら、頑張る甲斐があるというモノだ。

 しかしこうして感謝の言葉を述べられると、先程の面倒な事に対して頑張ろうと言う気が湧いて来る。我ながら現金な男だ。
 よし、今回の件は帝国や姉弟間や吸血鬼や神父様の過去やら、色んな思惑が錯綜して少し面倒であったが、無理な事では無い。俺も頑張って領主として頑張ろう!

「ところでお礼なんだが、私の美しさを余すことなく堪能出来るように君の屋敷で一日服従権とかどうだろう。勿論美しさを堪能できるよう全裸が仕事着ユニフォームさ!」
「せんでいい」

 シュバルツさんを始めて女の子扱いした俺であるが、やはりこの人はシュバルツさんなのだとその発言を受け溜息を吐くのであった。

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