追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

もし距離感の近い美人なお姉さん的存在が夜のお風呂上りで火照った身体の中で無邪気にサプライズをして来たら男の子は惚れてしまうと思うのです(:紺)


View.シアン


「ふぅー……良いお湯だった」

 遅めのお風呂を終え、寝間着に着替えた私は熱を逃がす息を吐く。
 普段であればこのまま部屋に戻り、明日の準備をするか本を読むかをするのだけど、今日はなんとなくうろつきたかったので教会内を歩いていた。

――それにしても大丈夫かな、皆。

 私は歩きながら今日の事を考える、
 “皆”というのは昨日来たばかりの修道士見習いの子達の事だ。皆が年若く、帝国から来た男の子達である。
 一昨日までは神父様と私だけであった教会が、一気に三倍。慣れない様式に戸惑うこともあったのだが、昔も思い出しちょっと楽しかった。

――修道女シスターが居なかったのがちょっと残念。

 今回は修道士ブラザーばかりでシスターが居ないのが残念だった。
 シスターが居ればもう少し色々と気軽に話せたのだけれど。
 白熱するシスタートークとか、神父様の素晴らしさを語るとか……いや、後者はやめたほうが良いのかもしれない。共感したらライバルだし、しなくてもただの惚気にしかならないし。

――けど、神父様が不安そうだったのが良かったな……!

 ブラザーしかいなかった今回の見習いの件だが、その事を神父様が不安そうにしていたのが良かった。
 不安になる神父様を見て加虐趣味が発動したという訳ではなく、私を思いやる気持ちが見て取れたので嬉しかったのである。
 男五、女一であるので、私の居場所が狭くなるのではないかと不安になるのは分かるのだが……何処かで私が神父様に構えなくなるのではないかと不安がっているようにも見えた。
 要するに彼女(※重要)が男性に構って心移りするのではないかと嫉妬が見られたのだ。挙句には遠回しな牽制も見られた。それを見れて今の私は割とテンションが上がっている! ……なんだろう、クロが居たら複雑そうな顔はされそうな気がするのは気のせいか

――でも、ちょっと残念。

 そんな嫉妬をしてくれた神父様ではあるが、それも長くは続かないだろう。
 慣れるとかどういうのではなく……私の予想が正しければ彼ら長くは続かないだろうし。下手をすれば数日で……

――ま、ヴァイス君が来てくれてよかった。

 初めはブラザーしかいないので色々と不安になったのだけど、その中でヴァイス君という子が良い子で良かった。
 全体的に白くて綺麗な大人しめの男の子。敬虔であり真面目に仕事を熟してくれている。
 異性慣れしていないのか、私と話す時はあまりこちらを見ない。でも話しかけていればいつかは慣れるだろうから、先輩修道女として積極的に面倒を見てあげたい。

――悩むべきは渾名をどう呼ぶかかなー……

 ヴア君……イス君……アイ君、はアイボリー君と被るし……ううん、悩みどころだ。そういえばヴァイスってクロとかが居た所じゃ“シロ”っていうんだっけ。ならシロ君というのも良いかもしれない。なんか可愛い。
 明日にでもそれで良いか聞いてみようかな。夕食の時は元気なかったし、励ます意味でも、シキに慣れるためにも距離を詰めて生きたい、
 なにせヴァイス君は良い子だから良くしてあげたいし、それに……それに、この子は違うだろうしね。

――まぁ、明日にでもクロに報告……あれ?

 今日一日で感じ取った報告を、明日クロにバレない範囲でどう報告していいか悩んでいると、ふと気になる人影が見えた。

――ヴァイス君?

 ふと、いつの間にやら来ていた礼拝堂で件のヴァイス君を見かけた。
 私よりも早くお風呂に入ったにも関わらず、夕食前と変わらない服装だ。……まさか祈っていたりするのだろうか。
 もしそうであれば敬虔であると褒め称えたいが、どうも様子が違うようで、祈りもせず一番前の長椅子に座ってぼうっとしている。

――驚かせよう。

 ふと私の中でイタズラ心が湧く。
 なにか悩み考え事をしているようであるし、ここは驚かせてから悩みでも聞いてあげよう。ちょっとした突発的な事をすれば、話しやすくもなるというモノだ。
 とはいえ、男の子の悩みとなると同性の神父様に任せたほうが良いかもしれない。その時は神父様にバトンタッチするとしよう。

――それに、なんだか神父様ヴァイス君を避けている気がするんだよね。

 ……あと、神父様に任せたくない理由として神父様の態度もある。
 多分神父様避ける方ヴァイス君避けられている方もお互いに気付いていないと思うのだが、神父様はヴァイス君を避けている。多分無自覚的な……忌避感のようなものだ。理由は私も分からない。
 それはともかく私はヴァイス君に近付こうとして――

――っ、!?

 ふと、忌避感を覚えた。
 それは本能的なモノであり、シスターとしての感情でもあり、女のカン的なモノでもあった。要するに分からないのだが、なにかが私の歩を止めたのだ。

――……気のせい?

 しかしそれもすぐに収まった。
 なんだったのだろうと思いつつ、私は再び歩を始める。

――……さて、気付かれないように近付けたし、どう脅かしてやろうか……!

 脅かし、夜更かしそうな感じがするので軽く注意し、そして話を聞いて行こう。
 もし脅かしが上手くいったら……可愛いリアクションを見れたら神父様に同じようにするのも良いかもしれない。反応が“笑”や“困”が多い神父様が同じリアクションをするとは思えないけど、可愛いを見れる可能性があるのならやる価値はアリである。
 そんな期待を抱きつつ、ヴァイス君の背後に近付き……

「…………」

 数メートル離れた所で、ヴァイス君が立ち上がった。
 最初は私に気付かれたのではないかと思ったのだけど、どうも様子がおかしい。

「……行かなきゃ」

 ヴァイス君はそう呟くと、そのまま歩いて礼拝堂を出て――外に行った。
 私の事は長椅子に隠れて見えなかったようだ。

「……もしかして」

 私はその様子を見て嫌な予感を感じる。
 ……ヴァイス君は他の修道士見習いからは距離を置かれている。それはどうも外見的理由があるようだ。そして同時に、もっと大きな理由を隠している。

――……行こうか。

 本当はもっと準備をしたいし、神父様とも協力したいが今から出ないと見失う可能性が高い。そう思った私は見失わない様にしながら、バレないようにヴァイス君の後に続いた。

――杞憂で済めばいいけど。

 せめて数日は持つと思ったし、もう少し馴染もうと努力すると思った。
 だけど私の予想が当たっているのならば……

「止めないと」

 可愛い後輩のためにも、事態を止めないといけない。





備考:タイトルは男女逆でも成立すると思います(男女とも私見)。

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