追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

お話と変態と苦労_3(:茶青)


View.アッシュ


「ヴェールさん。我々には日本NIHONがどのような国かは想像するしか出来ません」
「……そうだねアッシュ君。納得出来なくても、理解しようとするしかないんだね」
「なんでしょう、日本が物凄く誤解されている気がします」

 日本NIHONに住む女性が特殊なのか、はたまた失われしロスト古代技術テクノロジーである機械が発展すれば我が王国でも似た様になるかはともかく。
 この世界にはない国である以上は想像し、理解しようとするしかない。
 例え私達には納得の出来ない事であろうと、その国と時代にはそれぞれの価値観があるのだ。
 歴史を紐解くと我が王国でもハクのような実験体として信じられない事を“必要な研究だ”としてもいるし、先日捕まったクリア教の司教や、第二王子のような同じ国と時代に生きても納得出来ない事をやる者達も居る。
 ならば無理に納得するのではなく、“その時代にそのような思考になるには理由がある”と、理解をしようとする事が大切なんだ。心は広く持たねば。

――私がクリームヒルト……によく似た女性と結ばれるのも想像し辛いですし。

 そもそも私がオトメゲームとやらの登場人物であり、我が王国を描かれた作品があるという時点で想像し辛い。
 私を……乙女達が自分の代わりになる女性を動かし、結ばれようとする。……自分でも分からないのに、誰かに言ったら私は医者を紹介されるかもしれない。

――だからこそ、その辺りをヴェールさんがどうにかしている訳ですからね……

 メアリーを始めとした転生者達は、物語の世界に似た世界に行く、という事を経験している。
 しかし事情を知らない者達からすれば、適当な本を取って「この本の世界は別世界に実際にあって、私にとってはこの世界がそういう認識なんだよ!」と言うようなものだ。本気で言ったら正気を疑われる。
 例えメアリーという学園生やその他大勢を魅了する素晴らしい女性だとしても、信じて貰える者は少ないだろう。仮に多かったとしても、外部からすれば妄言でヒトを惑わす悪女として認識されかねない。

「変態性は置いておくとして、まぁ私が死ぬのはあくまでその世界での話だ。そうだね?」
「そうですね。そもそも私の知っているあの世界に、私は居ませんしクロさんも居ません。エクルさんやクリームヒルトは中身が違いますし、それに……」
「ハクに準じた存在は居たけど、ハクは居なかった。だね」
「はい。ですから無視できない参考、くらいに思って頂けると嬉しいです」
「これはまた難しい塩梅だね」

 メアリーが居なかった世界……か。
 ……もしそのような世界であったら、私は……

「どうかしましたか、アッシュ君?」

 私が小さな思考を抱いていると、メアリーが私を心配した表情で尋ねて来た。
 相変わらず鋭いと言うか、別のなにかを持っていると言うか……。…………。

「いえ、ふと気になっただけですよ。もしクロ子爵が居なければ、シキは前領主の統治のままですから、現殿下達の恋が始まりすらしないのではないか、とね」
「確かにそうですね……その場合ハクも居ないか、今の姿では無いですし、王国も大分変わっていたかもしれませんね」
「はっ、つまりクロ・ハートフィールドは私の父親……!?」
「それは流石に違うんじゃない?」
「クロ君が居ない、か……居なかったら私はメアリー君に走っていたかもしれないな……」
「ヴェールさんがなんだか変な事言っていない?」

 ヴェールさんの発言は気になるが、咄嗟の言い訳にしては上手く誤魔化せたようだ。
 ……しかし実際シキという場所が無かったら、殿下達の恋のほとんどは起こらなかったり、第二王子の事件も無く今とは大きく変わったのかもしれない。それとも方法や時期が違うだけで出会えていたりするのだろうか。
 少なくともヴァイオレットだけは、クロ子爵が居なければ今のようにはならなかったと思う。
 後は……なんとなくだが、クロ子爵と会っていないクリームヒルトだと、バーガンティー殿下も一目惚れをしなかったような気もするし、フューシャ殿下ともそこまで仲良くならなかった気がする。
 そう考えるとクロ子爵は多くの相手を変えたのだろうか。もしクロ子爵が居なければ、メアリーの“認識”も変わらず、私と出会った頃まま行って、私がその状態のメアリーに迫れば――

――……いや、考えても意味はないか。

 考えても無駄な事を考えるなんて私らしくもない。
 クロ子爵は今もシキで領主をしており、屈託なく笑うようになったヴァイオレットや、養子にしたグレイと一緒に仲睦まじく過ごしている。
 変な行動を起こす者達の対応に私以上に追われつつ、シキで領主をやっている。
 そこに偽りはないなら、それで良いではないか。

――だが、もし。

 クロ・ハートフィールドという存在が居なければ、多くの過去が変わるとしたならば。
 殿下達も今のような状況になっていなかったとしたら。
 学園に通う生徒が己の本心を見出して居なかったとすれば。
 シキに住まう領民は、前領主のままで今のような明るさがなくて、ハクが
 ……ヴァイオレットは救われず、メアリーも以前のままであったとしたならば。
 その時私は……私は。

「アッシュ君……?」

 メアリーが小さくなにかを呟いた気がしたが、誰の耳にも届く事は無かった。






おまけ~呪いの言葉~


「ところでメアリー君。ちょっとこっちに。二人で話し合おうじゃないか」
「え、はい。なんでしょう……?」
「私の息子とはどうなんだい?」
「え、どう……とは?」
「融通は利かないが、顔も悪くないし将来性もあると思う。付き合う気はないかという話だ」
「っ!? ええと……私には正直まだよく分からないですし、最近困った事が有りまして……」
「困った事? また息子が学園を辞めるとかそんな馬鹿な事を言ったのかな?」
「いえ、そういう訳ではなく……クリームヒルトがクロさんに言った言葉が少し刺さりまして」
「クリームヒルト君? どんな内容なのかな」
「はい、その……以前のシキの帰り間際なのですが」

『クリームヒルト、バーガンティー殿下と仲良くな』
『黒兄の仲良くの意味が違う感じがして腹立つけど』
『良いじゃないか。お前も恋をするようになったんだな……』
『まだそうとは言ってないんだけど……ところで黒兄。一つ思う事があるんだ』
『どうした妹よ』
『私って前世で黒兄と同じ二十五で亡くなったんだけどさ』
『そうなのか。それがどうした?』
『それで私は今世の今年で十六、黒兄は二十だよね』
『? ああ』
『……四十一歳の女が十五歳の少年に手を出して――』
『それ以上はいけない』
『四十五歳の男性が女子高生に淫らな行為を――』
『おいやめろ』
『前世だったら間違いなく未成年淫行!!』
『やめい!! お前は一歳差だし、俺は四歳差だし互いに成人済みだ!』

「――という会話を聞きまして」
「……ようはメアリー君の場合、私が息子の年齢に手を出す感じになる、と思っているのかな?」
「はい。……どうなんでしょう」
「えっとー……気にし過ぎだと思うよ。君は十六歳のうら若き乙女なんだから、もっと前向きに行こう?」
「私が感じるのも、ハクのように母性だったりするのでしょうか」
「うん、もう少し気楽に行こう。私で良ければ相談に乗るから、変な方向に行かないでね」

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