追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

お話と変態と苦労_1(:__)


 春。
 火輪たいようから降り注がれる日光の温かさが心地良く感じ、風も気持ち良い季節だ。個人的には一年の中では秋の次に好きな季節である。
 新たな事に挑戦するには丁度良いし、厳しい寒さを乗り越えて前を向こうと言う気にもなる。
 なるのだが……同時に悩める季節でもある。

「ひゃっふー春だ春だ! 土に埋まった事で知れた野菜の気持ちを利用して、今年は素晴らしい野菜を作ってみせるぜ!」
「いえーい、春だね! 新たな少年ショタが、寒くてガードが堅かったのに陽気さで緩んでいく眼福な春だね!」
「春……! シスター服が冬用から春用に変わり、布地が少し薄く……くっ、駄目だ、そんな目で見ては。今からこれだと夏の時どうなるんだ……!」
「春だ! オーキッド師匠から教わった黒魔術(※健全)で、新たな発見を見つけるのに良い季節だ! 今日も元気にレッツ、暗黒!」
「春だよ! あのシュバルツ氏の美しき裸体に近付くため、今日も美容ケア! まずは合法的に見られて外で露出が出来る温泉に行くよ! 見られると意識する事が大切だからね!」

 この光景を見て、頭を痛める。
 個人的には皆が己の好きな事を見つけ、夢中になれる事は良い事だと思う。
 だが、なんにせよ欲望に忠実すぎるのは良くない。何事にも限度というモノは必要だ。特に少年について語っていた彼女は逮捕かなにかした方が良い気がする。
 これでも抑えられていると言われればそれまでのような気もするが、なんにせよ……

「春の訪れを感じるよ……」
「あの光景を見て春を感じるのはマズいんじゃないかな」
「はは……」

 つい呟いてしまうほどに私、アッシュ・オースティンは少し疲れていた。
 同時に私の様子を見て、シルバは大丈夫かと心配し、メアリーはどう言って良いモノかと困ったように笑うのであった。



View.アッシュ


 そんな会話をしたのも一時間前。今は別の場所に移動し、私達はある部屋に座って紅茶を飲んでいた。

「それにしてもありがとうございます、アッシュ君。私の用事に付き合って貰って」
「構いませんよ。メアリーの手伝いが出来るのならば喜んで手伝いますし、頼って貰えて嬉しいですから」
「そう言って頂けると助かります」

 申し訳なさそうにするメアリーに対し私が笑みを浮かべながら本音を伝えると、メアリーは微笑んで感謝の言葉を伝えてくれた。
 この極上の微笑みを見られただけでも今日こうしてきたかいがあったというモノだ。
 これだけでも私は、第二王子の件で殿下達が仕事に追われ、私も近侍として仕事を熟し徹夜なった事や、先程の学園生の奇行に頭を悩まされた事などで精神的にも疲れたが、メアリーの笑顔のお陰で前を向いて頑張っていけるというものだ。

「シルバ君もありがとうございますね」
「僕も大丈夫だよ。それに、この場所に来れると言うだけでも正直ワクワクしているし」
「ふふ、そうですね」

 同じように手伝いに来たライバルのシルバだが、メアリーの笑顔に照れつつも周囲の場所にワクワクしているようであった。
 そしてその様子を見て微笑ましいモノを見る目で笑うメアリー。相変わらず異性というよりは弟を見るような目ではあるのだが……くっ、そんな目で私も見られてみたいな。

「メアリーさんは前も来たらしいけど、アッシュは来た事あるの? この施設にさ」
「ええ、ヴァーミリオン殿下に連れられて何度か来た事ありますよ。私も最初は色んなモノに目が惹かれましたよ」
「うん、なんていうか、凄いよね! 圧巻されるっていう感じだよね!」

 今メアリーの用事で私達が居るのは、王国直属の魔道研究部門の施設。ようするに我が王国で最新鋭の魔法を研究する施設だ。
 ある部屋には多くの魔導書が蔵書されており、魔法陣の効率的な研究をし、呪文の歴史を紐解き、実際に魔法を放つ部屋が何ヶ所もある。
 魔法を放つ部屋の一部はガラス張りで中も見えて、その前を通った時はシルバは目を輝かせていた。私も昔はああなったモノだと懐かしくも思ったものだ。

「ふふ、楽しそうですね」
「う、うん。こういう所ってあんまり来れないから、つい燥いじゃって……あ、ごめんね、仕事と言うか徴取で来たのに……」
「構いませんよ。私も初めて来た時は目を輝かせましたから。なにせ機密施設のような感じでワクワクしましたから」
「だよね!」

 メアリーは機密施設のような、というが実際機密施設である。
 行事などで施設見学といった事はされるはするのだが、他国に知れ渡ればよくない技術や本も多く存在する。
 そして私達が今居る部屋はそんな施設の最深部に近い、施設長が居る部屋である。今施設長は不在だが、ここには私も知らないような機密が多くあり、開け方の分からない部屋への扉が存在する。下手をすれば侯爵家とか関係無く即捕縛されるだろう。
 あと相変わらず微笑ましく見られた上に、楽しそうに話すシルバが羨ましい。
 私やヴァーミリオンにはこういった態度はとらないのに、シルバにはとるからな……やはり同じ年齢にも関わらず、弟のような外見や性格が起因しているのだろうか。

「お二人共、今日ここには王国の未来に関わる重要な話をしに来たのですよ。落ち着いてくださいね」
「う、うん。ごめんアッシュ」

 とはいえ、シルバに対する嫉妬はただの無いモノねだりだ。シルバにとっては私に嫉妬するような対応をメアリーにされているかもしれないのだから。
 なので嫉妬は紅茶を飲むと同時に抑えこみ、二人に落ち着くように注意をした。

「ところで……メアリーさんの知っている、えっと……」
「カサスという名のゲームですよ」
「それを踏まえてシャルのお母さんと一緒に話し合うのは分かるし、メアリーさんの情報が正しいかを僕やアッシュの協力するのは良いのだけれど……」

 今日ここに来た理由は、シルバが言ったように、メアリーの知っている情報――オトメゲームとやらの情報から王国の未来を精査するためだ。
 前回はメアリーとヴェールさんで軽く話し合い、予言が書かれた日本NIHON語についての読み書きについての説明をしたようだ。
 そして今回は私やシルバの協力の元、様々な観点からメアリーの言う情報の信憑性を高めるのである。
 私でなくともヴァーミリオンやシャル、エクル先輩やクリームヒルトでも良かったのだが。ヴァーミリオンは王族の仕事が忙しく、その他の三名は現在依頼で首都を離れているらしい。なので私とシルバが呼ばれたのだ。

「確かに僕はあの光景を見たけど、全部理解している訳じゃないけど、良いの?」
「それを言ったら私はオトメゲームとやらの光景すら見ていないのですがね」

 シャルやシルバはオトメゲームとやらの光景? を見たそうだ。だが私はメアリーからの説明だけで、見てすらいない。
 正直言うと“ルート”や“各キャラエンド”と言ったモノをよく理解していない。

「構いませんよ。色んな視点が必要ですし、“あの光景”ではシルバ君もアッシュ君も重要でしたから」
「うーん、そうなんだけど……クリームヒルトに似た子と恋愛していたからなぁ……前回の話って、どんな事を話したの?」
「前回はほとんど日本語についてですよ。なんでも予言の内容を解読し、今回の話と照らし合わせ、予言や私を信用して良いか見るそうです」
「成程ね」

 予言が何処まで書かれているのか、メアリーの発言は何処まで信用して良いのか。
 妄言として切るのか、メアリーを危険人物として見るのか……メアリーの扱いは不安であるし、私も出来る限り手を回してはいる。しかしその辺りはヴェールさんを信じるとしよう。
 なにせこの部屋の主でもあるヴェールさんはとても信用出来る女性であるから――

!』
ヴぃ!』
Biぃい!』
Viぃぃぃぃいいいい!』

 ……いかん、変な事を思い出した。
 彼女は間違いなく信用出来るし尊敬も出来るのだが、以前シキで見た、大事な所を隠してはいるがほぼ裸の女性と肉体を褒め合っている光景が蘇ってきてしまった。
 ……本当、昔から格好良くて憧れていたんだけどな……

「どうしたのアッシュ、遠い目をして」
「いえ、シキに行くと変態になりやすいのかな……って」
「何故急にそう思ったの。気持ちは分かるけど、大体それだと僕達も変態になるよ」
「ふふ、そうですね。考え過ぎですよね……」
「あ、そういえばフォーン会長さん、今頃シキに旅行に行っているそうですよ」
「馬鹿な……!」
「この世の終わりみたいな表情になってますね」
「気持ちは分かるよ」

 馬鹿な、生徒会でメアリーの次に癒しとなるフォーン会長がシキに……だと……!?
 あの私と同じように生徒に悩む、影は薄くとも尊敬出来るフォーン会長が……!

「先程の生徒達のように、欲望に忠実になるのでしょうか……」
「フォーン会長が欲望に忠実に……どんな感じになるのでしょうね?」
「うーん、清廉で優しい女性だからね……あまり想像できないや」
「ですね。男性と近づくのすら恥ずかしがる方ですから」

 フォーン会長の場合は恥ずかしいと言うよりは避けている気もする。特に目を合わせる事を避けるというか恐怖しているようにも思える。私の思い過ごしかもしれないが。
 ……まぁ、それはともかく彼女なら大丈夫だろう。立ち回りは上手いし、私と同じく振り回される立場の方だ。クロ子爵と意気投合して管理について話し合っているかもしれない。
 間違っても今朝のような「少年に興奮する!」とかはならないだろう。そうなっては困るからな、はは。

「――っと、足音ですね。誰か来たようです」

 私がフォーン会長を信じる事にして切り替えていると、メアリーが誰かの接近に気が付き私達に告げて来る。
 それを聞いて私達は背筋を正し、会話を止め、来るのを待つ。
 足音は……二つだろうか。ヴェールさんの他に誰かいるようである。

――と、開くか。

 足音は部屋の前で止まり、私達は一層気を引き締める。
 気軽な話はここまで。これから話すのはメアリーや国の将来に関わる重要な事だ。
 シキの変態性は一旦置いておき、忘れねば――

「やぁ、よく来たね、メアリー、アッシュ、そして――」
「げ、ハク!?」
「我が息子よ! 母はお前に会いたかったぞ!」
「お前は僕のお母さんじゃ――ぐはっ!?」

 忘れねばならないと思ったのに、シキで出会った女性が入って来るなりシルバに飛びついて来た。
 シルバは避けようとしたが躱しきれず、そのままハクの正面からの抱擁を受け――そのまま倒れ込んだ。一応座っているソファーの上に倒れたので、怪我はしていないが……

「久しいな、我が子よ! 会えなくて母は寂しかったが、こうして私のために会いに来てくれたのだな!」
「ち、違うし息子じゃないし抱き着くな!」
「おお、これが反抗期か、反抗期というやつなんだな!」
「違う!」
「だが安心しろ、反抗期の対処方法はクリームヒルトに教わったからな!」
「嫌な予感しかしない!」
「男の子は女の胸に顔を埋めさせれば、大抵は落ち着いて、言う事を聞くとな!」
「クリームヒルト、覚えてろ!!」

 ……なんというか、うん。
 シルバは女性に可愛がれるタイプの外見と性格をしている。それを羨む男子はいるし、私も先程はメアリーの対応に少し嫉妬した。
 だが、こうして性格が変わりすぎなのではないかと思うハクに抱きしめられ、胸の谷間に顔を埋められようとしているシルバを見ると……男として意識されていないんだなと思う。
 男としては認識しているが、男としては意識していない。
 これだと流石にシルバが可哀想になって来るというモノだ。男らしくなろうとしているのに、未だにマスコットのような扱いを受けているからな……

「ははは、まったく、仲良いね、彼女らは」
「おはようございますヴェールさん。あれは仲が良い、で良いのですかね」
「おはようアッシュ君。仲が良いで良いんだよ。ところでアッシュ君は混じらないのかい?」
「混じりませんよ」
「そうかい? 男の子はああされるのが嬉しいモノだと聞くけど、しないんだね」
「誰でも良いと言う訳ではありませんし、嬉しくともする訳ではないです」
「そうか……メアリー君が良いんだね」
「え、私ですか。……少し恥ずかしいですが、望むのなら、が、頑張ってみますが……!」
「そういう意味ではありませんし、無理をされなくて結構です」

 なにが「そうか」と言っているんだヴェールさんは。
 以前からこういう風に揶揄う事は有ったが、明らかに今を楽しんでいるな。やはりシキの影響なのだろうか。

「ですが嬉しいのですよね? 男性はアレをすれば喜ぶというのは知っていますし、クリームヒルトと一緒に教えたのも私ですし」
「なに教えているんですか」
「え、胸の谷間へのダイブは男性の憧れだと本で読みました! ラッキースケベの王道です!」

 メアリーは良い笑顔でなにを言っているのだろう。
 ……メアリーがこういう風になったのも、シキに行った後であるし……やはりシキに行くと性格が変わるのだろうか。
 ううむ、悩みどころである。フォーン会長が帰ったら話し合いをしてみようか……

「というか見てないで誰か止めてよ!」

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