追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

依頼と回帰_4(:黄褐)


View.エクル


「エクル、ここに来た目的を話したらどうだ?」

 最近妹になったクリームヒルトと、そんな彼女を好きになっている将来の弟候補のバーガンティー殿下ことティー殿下と別れて二時間ほど経ったある時。
 ある程度の情報収集を終え、周囲に誰も居なくなったのを見計らってからシャルは私に聞いて来た。

「目的って? なんだい、こうして二人で見て回っているのは、実は私がキミと一緒になりたいが故の策略だったとでも言うのかい?」
「この村をアイツの故郷と知った上で来た目的だ」

 私が聞いた情報をメモにまとめつつ茶化した言葉を言うが、シャルは乗る事無く私に聞いて来る。

「私や殿下は知らなかったが、お前は知った上で来ただろう」
「まぁね。けど不思議な事かな? 彼女の事情を知っていれば、心配でついて来るのもおかしくは無いだろう?」
「妹を心配して来たのかもしれんが、もっと別な所を知りたいからこうして別行動をとったのだろう」

 私の本音でもある取り繕いに、シャルは迷うことなく真意を聞いて来る。
 普段は鈍くて言葉数も少ないのに、こういう時だけ鋭く追及してくるのだから困ったものだ。剣士としてのカンと言うやつだろうか。
 ……このくらいの鋭さと言葉をメアリー様に使う事が出来たのならば、メアリー様はもっと振り向くかもしれないのに。まったくもって惜しい男である。

「彼女を妹にしたのは良いが、彼女の実のご両親についても気になるからね。するつもりはなかったのだが、せっかく来れる機会があるなら挨拶に来たと言うだけだよ。だけどクリームヒルトはそれを知れば嫌がるだろうからね」

 惜しい男なのはともかく、気付かれていたのならば堂々と行動するとしよう。
 重要な秘密を明かされた訳でもないのだ。状況に応じた行動をとるだけで、慌てる必要もない。

「故郷に来たのだから、アイツがティー殿下と公に付き合う事になった場合に、両親やこの村の状況を直に知り、どのような行動をとるか対応策を考える、という事か」
「……本当に、そういった鋭さと言葉をメアリー様に使えればねぇ」
「余計なお世話だ」
「いや、変に事実を言うのは問題かな。事実を言ってばかりだと女の子にモテないよ?」

 まぁシャルは結構モテるんだけどね。
 寡黙なのはクールという扱いになっているし、やっぱり顔って大切なんだと思う。後は清潔さと立場かな。

「それこそ余計なお世話だ。メアリー以外にモテても嬉しくはない」
「そうだろうね。だけど免疫力を上げないと、さっきみたいに村の女の子達に囲まれても上手く断れないよ」
「う。……あれはだな。思ったよりも強気で来られて……いや、騎士として言い訳は良くないな。少しは対応出来るようになりたいんだがな……」

 とはいえ決めたら一途だし、剣だけでなく勉学にも秀でているし、潔い所もあるし、顔以外にもモテる要素はあるんだけどね。
 メアリー様とシャルだったら結ばれても良さそうな恋人関係になりそうとは思うんだけどね。

「じゃ、シャルくんが女の子を惹き付けてくれたお礼に、さっきの質問の答えを返そうか」
「? ……まさか先程から私だけに女性陣が多く来たのは、お前が誘導していたのか!」
「ははは、なんの事やら。でもお陰で私は目的の色んな人と話す事が出来たとだけ言っておこう!」
「やはりか!」

 怒るシャルを宥めつつ、私は目的の場所へと歩いていく。
 シャルはなにか言いたそうではあったが、過ぎた事は仕様がなく、質問の答えを聞くために私に着いて来た。

「エクル、ここはなんだ。村の物置……か?」

 そして私が辿り着いた先にあったモノに対し、更に疑問を思うシャル。
 場所は村の居住区からは少し離れた、隙間風が寒いだろうなと思う、木で出来た小屋。この場所に質問の答えがあるのかと不思議そうな表情をしつつ、私の言葉をシャルは待つ。

「ここはね、クリームヒルトが学園に来るまでの八年間、独りで生活していた場所だよ」
「……なに?」







『クリームヒルト!? お兄さん、学園であの子を知っているかもしれないけど、あの子の名前はここでは言わない方が良いよ』
『笑い方がこう……気持ち悪くて。本当に作り物、って感じ』
『戦いながら笑うんだよ。“アレ”はいつか私達を笑いながら殺すんだと思うと怖かったよ』
『ご両親も可哀想にね。奥さんは愛嬌の良い子だったのに、あの子がいる間は笑う姿も見なかったよ』
『旦那の方も大変だっただろうよ。“あんなの”でも子だったからな。なにかしない様にと気を張って、奥さんの面倒もあってマトモに寝れてないんじゃないか』
『でも“あんなモノ”が居なくなってからは元気になったんだよね』
『だから思考が正常になって、親子の縁を切ると言う私達の説得にも応じてくれたんだろうね』
『“あれ”も理解しても居ないくせに、親という言葉に縋ってここに残っていたからな』
『まったく、“化物”が居なくなった時はようやくまともに生活が出来ると思ったものだよ』







「――以上、私が村人に聞いた我が妹の話だよ。とはいえ半分くらいだけど、まだ聞くかい?」
「……いや、もういい」

 刀を力強く握りしめながら、なにかに耐えるシャル。
 “アレがなにを残したか分からないから下手に触れてない”という理由で放置されている小屋に入り、中の状況を見て眉をひそめた後、私の言葉で明確に不機嫌になった。
 口にはしないけど、シャルのこういった所は本当に分かりやすい。

「アイツは……クリームヒルトは……俺も思う所はあった。だが、そこまで言われる程の事をしたのか……!?」
「さてね。分からないよ」
「っ、お前は仮にも兄だろう。妹を味方する気はないのか!」

 私の口から擁護する言葉が返って来ると思ったシャルは、私の投げやりな返答に怒りの表情を向けた。
 これは村の人達に怒りをぶつけられないから八つ当たりしている、というのもあるだろうが、私自身のためにも怒っているのだろう。

「私には十五年間の村の人達の記憶はない。彼らには彼らの恐怖があるかもしれないし、私には知らない事件があったのかもしれないだろう」
「ならばクリームヒルトの扱いも許せと言うのか!」
「そうは言ってないよ。ただ知りもしない事を知りもしないまま語って、“それでも彼女を認めるべきだったんだ”なんて事は言いたくないだけだよ」
「っ……!」

 許しを強制するのは好きではない。
 前世で被害者に対し加害者を許せと、何処か安全な場所で、情報だけで知ったような口で言うような事が好きではない。ただそれだけである。
 ……だけど、私だって思う所はあるんだ。

「けどね」
「……なんだ」
「クリームヒルト自身は腫れ物扱い……良くない扱いをされたにも関わらず、依頼の場所を見て依頼を受けたんだ」

 わざわざ変装(?)道具まで用意し、一人であろうと行こうとしていた。
 クリームヒルトが受けた事は私には想像しか出来ないが、話を聞くだけでも彼女は怨んでもよさそうであるし、討伐依頼を出す危険がある様な状況でも見捨てれば良い。けれど、彼女は依頼を受けた。

「……私の妹は純粋に故郷の人達が心配で、そしてなによりも親が心配で討伐に来たんだ。その事についてなにも思わない程、冷たい男ではないつもりだよ」

 クリームヒルトはこの村の人達を恨んではいない。
 人知れずモンスターを討伐し、その返り血を見られて石を投げられようとも。
 七歳から八年間独り、この小屋で勉強や魔法、自給自足生活を強いられようと。
 自分がおかしいのだから村の人達は悪くないんだと思い、村の人達の不安を取り除きに来たんだ。
 ……それを知って放っておくほど、私は彼女の事を恨んでも嫌ってもいない。むしろ好ましいと思っているから、妹として迎え入れるのを適当に済まさずにいるんだ。

「……すまない。熱くなったようだ」
「構わないよ。むしろ怒ってくれないと私の中のシャルくんの好感度が下がるってモノさ」
「それは……褒められているのか?」
「勿論褒めているとも」

 とても分かりやすくて、正当に怒れるある意味騎士らしい振る舞いだ。
 お陰で扱いやすくて揶揄いやすくて、メアリー様と絡ませると見ているだけで面白い子ナンバーワンだからね! と言うと怒るので絶対言わないが。

「ちなみにこの小屋も冒険者に依頼をして処分するつもりだったけど、あんなのにお金をかけるのもな、という事で今は放置されているらしい。どうだい、この小屋を壊せば村の人達は喜ぶだろうけど、やる?」
「……アイツのためにも、いっそ壊した方が良いのだろうか」
「かもしれないね」

 一部にしみ込んだ血の跡や、錬金魔法の練習で作った数々の痕跡を見つつ、シャルはなんとも言えない表情になっていた。
 とはいえ、やるにしてもクリームヒルト自身の許可を得た方が良いだろう。
 と、そういえば……

「そろそろ集合の時間だ。行こうか」
「……そうだな」

 シャルも思う所はあるようだが、今は元々ここに来た理由である討伐モンスターを優先した方が良いと思ったのか私の提案に頷いた。

「ちなみにだけど、討伐モンスターの特徴は女の子から聞き出せた?」
「分かって言っているだろう」
「うん。正直妹が心配するような、行きずりの関係にならないかと思っていたくらいだったからね!」
「……お前、メアリー達に正体がバレてから随分といい性格になったな」
「ははは、褒めてもメアリー様のスリーサイズ情報くらいしか返せないよ?」
「返さなくて良い」

 そんな会話をしつつ、私達は小屋の外に出る。
 さて、クリームヒルトに関しての暗い話ばかりではあったが、クリームヒルトは今頃どうしているだろうか。
 ティー殿下と上手くデートをやっていると良いのだが。……いや、初デートが包帯にくるまれた状態って可哀想だな。デートではなく、あくまでも仲を深めるキッカケの行動という事にしておこう。
 そう思いつつ私達は目的の集合場所に行こうとし、

「フォーサイス卿、カルヴィン卿、大変です――湖近くに例のモンスターが出ました!」

 慌てて駆け寄る村の女の子の言葉で、私達は湖に向かったのであった。

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