追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

とある女性のシキ旅行_5(:明茶)


View.フォーン


 私はこのシキへの旅行で、生徒会の皆が言う“ヴァイオレット君が良い方に変わった理由”を身を持って知る事が出来ました。
 知った理由は簡単で、私が受け入れられたという単純なモノです。

「うーん、紋章の力が凄いね、これ。ブンちゃんが何故効かないのか分からないレベルだよ。同性の私ですら効くとは……」
「しかしそうなると不意の発動をどう抑えるかだな」
「ですね。意識すればフォーちゃん自身もあまり発情しないっぽいですし」
「そうだな。……だがシアン。あまりそういった言葉は使わないように」
「え、どれです?」
「いや……なんでもない」
「? ともかくフォーちゃん。不意の発動を止める方法、あるいは発動しても発情しない方法を探そっか」
「は、はい……」

 例えばこんな風に教会関係者という一番知られてはならない相手に知られたのに、その教会関係者が進んで私の力について協力をしてくれるのです。
 曾祖母は昔教会関係者に知られて酷い目に合いかけたそうなので、教会関係者には知られないようにはしていたのですが……

「どうしたの、不思議そうな表情をして」
「……いや、なんでもないよ」
「そう? なら色々試そっか。時間は大丈夫?」
「うん、平気。時間に余裕があるよ。それに私がお願いしたいくらいなんだけど……大丈夫?」
「悩める相手を導くのが仕事だからね。ね、神父様!」
「そうだな。だから大丈夫だぞ、フォーン」
「……ありがとうございます」

 今はこうして、私を討伐してもおかしくはない教会関係者に協力をして貰って、私の力を封じる方法、あるいは制御する方法を探しています。
 シスターのシアン君や、お優しい神父様のスノーホワイト君。彼女らは私にする事は特別では無い事のように、“困っているから助ける”といった、日常の延長で当たり前の事をする様子で協力してくれるのです。
 ……初めはシスター服からして、教会に反発しているから夢魔に協力をしているのかもと思いましたが、そういう訳ではないようですしね。

「ヴァイオレット君もありがとう。立場的には私を捕えてもおかしくはないのに……。それに貴女の夫も……」
「気にする事では無い。クロ殿も大丈夫だと言っていたし、私は貴女を信用しているよ」

 例えばヴァイオレット君。
 学園に居た頃にあまり接点は無かったとはいえ、初めは私がサキュバスである事に驚いた様子でしたが、十数分程度の会話で私を信用してくれました。
 最初は私の中のヴァイオレット君の印象も有り、警戒はしていました。しかし、シアン君との会話の様子や、クロ君や息子というグレイ君の会話を見ていると……私が見ていたのはなんだったのかと問いたくなるレベルの、優しい姿ですぐに警戒は解け、普通に話せるほどになったのです。
 ……本来なら学園以外では、公爵家の彼女に気軽に話す機会なんて無いはずなのに、気が付けば学園の様子など気軽に話してしまうほどに打ち解けました。……これが母親になる、という事なんですかね。

「ところでフォーン会長。クロ殿に見せた夢の内容なのだが……どういった内容か、詳しく聞いて良いか?」
「はい?」
「フォーン会長があの能力を忌み嫌っているのは分かった。だが、クロ殿の妻としてクロ殿がどのような、その……淫ら、な夢を見たのかを知っておきたくて……」
「えっと……」
「あ、私も神父様になにを見せたか気になる! 神父様は恥ずかしがって言わないし、どういった内容か聞かせて、フォーちゃん!」
「……そんなに気になる?」
「当然だ。クロ殿が淫らと思うような内容がどのようなものであるのか」
「夢として見るのなら余程の望んでいるという事だからね!」
「その通り。だから……少しでも知って、参考にしようと思うんだ!」
「イオちゃんは現状、私は将来のためにね!」
「私はすぐ使う訳ではないが……ともかく聞かせてくれないか、フォーン会長!」
「ええと……耳を貸してね? でも私が見せたと言うだけで、それが性癖という訳じゃないからね?」

 とはいえ、本当に学園に居た頃の彼女と今の目の前の彼女が同一存在かと問いたくなります。
 それとも本当はこちらが素なんでしょうか。恋や愛が彼女を変えたのでしょうか。あるいはこのシキで領主をやるにはこの位じゃないと駄目なんでしょうか……
 とりあえずヴァイオレット君には「君が物欲しそうにしながら徐々に脱いでいく」と言い、シアン君には「君が後ろから抱き着き、耳とか甘噛みする」と伝えました。

「シキを治めるって大変なんですね」
「何処でその感想を急に抱いたかは分かりませんが、領地を治めるのは何処も大変ですよ」

 伝えた後、クロ君とスノーホワイト君に内心で謝りつつ、妙に悶々としている両名から離れ、クロ君に私は思っていた事を伝えました。

「そうですけど、他には無い苦労がありますよね」
「否定はしませんが、俺はアイツらに助けられてばかりですよ」
「助けて貰えるのは助けているからこそ成り立つモノですから。クロ君だから皆は助けるんだと思いますよ」
「そうですかね。だと良いのですが」
「ええ。一方だけが行なう救いは怠惰の元ですが、怠惰にならないように行動しているように思えますから」
「……そう思って貰えるのなら光栄です」

 昨日のシキ散策の時もそうですが、あの方々を纏めるって凄いと思いますし、なにより私を受け入れるような環境が整えている事を凄いと思いつつ感想を言ったのです。
 ……彼女達が私を受け入れられるのは彼女達の性格によるものでしょうが、それを活かせているのにクロ君の領主としての働きは欠かせませんからね。

「……あの、少しアドバイス貰っても良いですか? こう、人気のある方々が色々と個性的な事をする時の対処法とか……」
「……それは分かりませんが、俺でよければ教えられる事は教えますよ」

 だからこそこのシキに来た一番の目的とも言える事を聞いてみました。
 このシキを治めるなんだか苦労性どうるいの感じがするクロ君ならば、色々と話を聞けそうですし、話が合うはずですからね! ……あまり合い過ぎてもヴァイオレット君に怒られそうですが。
 しかし、治める方法は学園とシキでは気色が違うので参考になる部分は半分程度でした。むしろ半分当てはまるのもどうかと思いますが。
 どちらかと言うと最近はストレスが溜まって痩せて来たので、健康的な食事メニューとか、良い睡眠をとるための方法とかも教えて貰った事の方が参考になりました。これがシキの一番の収穫と言っても良いかもしれません。
 ちなみに二番はサキュバスの関連で、三番目はシキを見る事で「あれ、学園のトラブルの方が遥かに楽……?」と思えるようになった事です。

「ありがとうございます。では私達も向こうの会話に参加しますか……その前に一つ良いですか?」
「なんです?」
「……なんだか疲れている気がするのは気のせいでしょうか。やはり私が原因で……」
「あー……いえ、これはそれとは違う疲れと言うか、嬉しさ疲れと言いますか……」
「?」
「なんでもありません。では行きますか」
「そうですね。では――」
「フォーンお姉ちゃーん!」
「わぁっ!?」

 シアン君とスノーホワイト君、そしてヴァイオレット君がなにやら私の力を抑える方法の方向性の会話をしていたので、妙に疲れているような幸福なようなクロ君との会話を止めて私も参加しようかと思うと、突如後ろから誰かにぶつかって来られました。
 この衝撃と声は……彼ですか。先程までグレイ君と金糸雀髪の女性と遊んでいたはずですが。

「こら、ブラウン。危ないだろう。それと女性に対し気軽に触れるんじゃない」
「えー」
「えー、じゃありません」
「構わないですよ、クロ君。これも私を慕ってくれる証拠だし、近付いても誘惑されない異性は新鮮ですから、こうして触れ合えるのは嬉しいです」
「それはそうかもしれませんが……フォーンさん、またあの状態にならないでくださいね?」
「わ、分かっていますよ」

 クロ君の言うあの状態と言うのは、ブラウン君を襲う寸前までいった事です。
 ……あの時の私はどうかしていましたからね。あの時の私は本当に……

「どうしたの、フォーンお姉ちゃん?」
「いえ、なんでもないよ、ブラウン君」

 ……あの時の私は、サキュバスの血の影響を受けていただけなんです。
 彼はまだ七歳の男の子。十歳下の、守るべき幼き男の子。
 外見とかが好ましく思ったのは、彼が私のちょっと下くらいに見える外見であったからであり、襲うほど好きになったという事は有りません。

「それと私の瞳はあまり見ないようにね?」
「えー、でも綺麗だから見たいなぁ」
「だーめ。今は効いていないけど、いつ効いてしまうか分からないんだから。良い子だからお姉ちゃんとの約束は守ってね?」
「はーい」
「良い返事だ。良い子だね、ブラウン君は。ご褒美に撫でてあげるから、それで我慢してね?」
「うん!」

 私が撫でると、ブラウン君は年相応の無邪気な笑顔を浮かべ、気持ちよさそうにしました。
 ……うん、こうしているとやっぱり可愛い子ですね。これが母性本能というやつなんでしょうか。そして母性本能を変に解釈してしまったのかもしれません。

「しかし、なんでブラウンには効かないんでしょうね」
「そうですね……子供に効かなくなっている訳ではないと思うのですが。試そうにも出来ませんし」
「ですよね。……あ、そういえば、シアンや神父様が妙な事を言っていましたね」
「妙な事ですか?」
「ええ。なんかフォーンさんをすぐ見失うとか、顔が覚えられないとか……それもサキュバスの力だったりするのなら、それが解決の糸口に……!」
「……なったら良いのですがね」
「え、何故そんな遠い目をするんです」

 生憎と私の影が薄いのはサキュバスとは関係無いんですよね。曾祖母にも「それは……サキュバスのせいにしてはいけない」と言われましたし。
 ベージュさん夫妻にも私の特性が影が薄いだと言われましたし……ふふ、なんなんでしょうね、これ。シアン君にも昨日は同じ部屋で寝たのにも関わらず、何度か「本当に居る?」と問われましたし。……本当になんだと言うのです。

「あれ、でもクロ君は私を見失いませんよね」
「むしろ何故見失うかが分からないのですがね」
「僕もー。こんなに綺麗なお姉ちゃんを見失うなんておかしいと思う!」
「ありがとうブラウン君。でも良いんだよ。私は幼少期に居た婚約者が、私が居る事に気付かずに他の女の子を好きだと言って、婚約破棄になった女だから……影が薄いといわれるのは慣れていたりするんだ……」
「……本当にサキュバス関係無いんですか?」
「……ないはずですが……その方面でも一応調べますか」
「ですね」

 後からの話ではありますが、シアン君やスノーホワイト君。そして魔法が得意だと言うアプリコット君やオーキッド君に調べられましたが、特に関係有りませんでした。
 本当に影が薄いのは私の地だそうです。
 ……ふふ、いっそ全裸で闊歩して見ましょうか。そうすれば嫌でも目立つでしょう。そして捕まったとしても、影の薄さを利用して脱獄すれば良いんです。……どれもしませんが。

「え、フォーンお姉ちゃん、こいびとさんいないの?」

 後の話はともかくとして、今の私は後ろから抱き着くのをやめ、近付いてみるのが駄目なら少し距離を取って見る事を選択していたブラウン君に言われていました。
 なんだか信じられない事を聞いたかのような、驚愕を伴う表情です。

「恋人……あ、婚約破棄の事ね。まぁ恋人さんは居ないかな、今の所はね」
「こんなに綺麗きれーなのに?」
「ふふ、ありがとう。だけど私は貴族だからね。色々とあるんだよ」
「んー……じゃあね、フォーンお姉ちゃん」
「なにかな?」

 ブラウン君は少し悩んだような表情になった後、私の方見て無邪気に言葉を続けます。

「もし、僕が大人になってもこいびとさんがいなかったら、僕とこいびとさんになって!」
「はは、そっか。それは嬉しいな。ブラウン君が成人する八年後に私に恋人さんが居なかったら、私は行き遅れで誰も貰ってくれない状態だろうからね。その時は貰ってくれるかな?」
「うん、約束だよ!」

 子供らしい発言に微笑ましく思いつつ、私達は会話をします。

――彼も大人になれば忘れる様な内容だろうね。

 年上のお姉さんに好きに近しい事を言う。子供特有の、年上の相手を憧れてしまうが故の内容です。
 その対象に私がなった事に申し訳ないような気持になりつつ。ですが子供に好意を向けられるのは結構嬉しいモノだとも思いつつ。
 これからシキにブラウン君に会いに行くのも良いかもしれないし、変に期待させないようにあまり会わない方が良いかもしれないとも思いつつ、ブラウン君との会話を終わらせようとした所で。

「約束だよ、フォーンお姉ちゃん。僕、お姉ちゃんより綺麗きれーな女の人見た事ないんだから」
「え?」

 そんな、思いがけない言葉を聞き。

「僕もお姉ちゃんにふさわしい、セカイイチ格好良い大人になれるよう頑張るからね!」

 笑顔で頑張ると言う彼に私は――








【数日後、生徒会室にて】


「…………」
「あれ、生徒会長。ボーっとしてどうされたんです?」
「……あ、スカイ君。おはよう」
「おはようございます。どうされたんですか……あ、もしかして春の陽気で眠くなりましたか? 気持ち良いですものね」
「……ねぇ、スカイ君」
「どうされました?」
「この前シキに行くって言ったよね。それで実際に行ったんだけどね」
「はい。どうでしたか?」
「クロ君が大変なんだと思いつつ、皆楽しそうで良い所だなとも思ったよ。ヴァイオレット君も良い方に変わっていたようで、良かった」
「分かります。大変そうではありますが、楽しい所でもありますよね」
「そこで一つ思った事があるんだ」
「はい、なんでしょう」
「…………見た目の年齢と、精神年齢。そのギャップから来る素直な好意って……眩しいよね」
「はい?」
「私は少年が好きなのか、外見さえ良ければ良いのか、無邪気さが好きなのか……私はどれなんだろう」
「せ、生徒会長。一体なにを……?」
「でも結局は無垢な子を変な風に見る……血に抗えない淫らな女なのかな。ああ、どうしようか、スカイ君。私は捕まる前に自首した方が良いのかな……?」
「落ち着いてください生徒会長。一体なにがあったんですか!? シキの影響を受け過ぎたんですか!?」
「シキの旅行で……私は自分の本質を見たと言うだけだよ。実に有意義だった……それだけさ」
「生徒会長、本当にどうされたんです!?」

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