追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
水イベ_4
流石に周囲を見なさすぎである事の反省と、情報のの共有化のために今の状況について説明をした。
その際にカナリアが妙に騒がしかったが、状況を簡単に説明するとすぐに納得し、理解を示してくれた。けれどナニに納得したのだろうか。
「シアン様、泳げなかったのですね」
「うん、私もビックリの事実だよ」
「悪霊の仕業だったりしない? こう、水に引きずり込まれた的な、です」
「それはないな。それだと俺も引きずり込まれるし……」
先程の行為に関し変な勘違いをされている気はしたものの、シアンが泳げない事を会話の種にしつつ、コテージに向かう。
……ところで、先程グレイが性的に見ているとか言っていた気がするが、気のせいだろうか。グレイもそういった事を言うようになったのは……嬉しいかどうかは分からないが、ともかくあまり言わないように後で言っておこう。
「それよりもクロ様。髪はもっとキチンとお乾かし下さい。風邪を引きますし、ダメージも入るのですよ!」
「わ、分かったってグレイ」
「どっちが子供か分からないねー、リアちゃん」
「ですねー。クロは相変わらず大きな子供だよねシアンー」
「こんなんで学園に行くレイ君の子離れできるのかねー」
「ねー」
「やかましいぞそこ」
ジャンプして俺の髪を拭こうとするグレイに、揶揄うシアンとカナリア。
確かにグレイにはお風呂上りとかに度々注意されたり、他にもお世話になっている事は多いが、子離れは…………出来る。とても寂しいが、出来るとも。
それよりも今は目下の状況が先だ。正直少し寒い。
「春先だからまだマシだが、少し冷えるな……そういえば、シアンは寒くないのか?」
「なんかこの服水はけが結構良いみたいで、そこまでは。泳ぐのはともかく、濡れる対策としては良い服だね、この服。……身体のラインが出るから、あまり着たくはないけど」
ますますその服に興味があるな。
というか、下着無しで足を晒すのは大丈夫なのに、身体のラインを晒すのは恥ずかしいのか……いや、あの服は本当に競泳水着みたいだからな。そういう場所じゃないのに着るのに抵抗があるのは仕様が無いか。
胸の形は分かるし、お腹とか油断した体型になったら見せたくなくなるだろう。……それが目的だったりしないよな。贅沢し自堕落な生活を送らない様に、太らせないようにするとか。
「どちらにしろ早く着替えたい。浄化の時は着るけど、早く……ん?」
「どうしたのシア――むっ、エルフのみが理解できる、エルフノーズアラートがグッドを示している……!」
「エルフ関係無いだろ」
カナリアのいつもの発言に呆れつつ、女性陣が反応を示した方を見ると――というか、嗅ぐと、なにに反応を示したかが理解出来た。
「この香りは――カレーですね!」
「だね!」
グレイにも感じ取れたらしく、その香りの正体に気付くと、カナリアと一緒に目を輝かせて見るからに上機嫌になる。
さらにはグレイがジャンプしながらハイタッチする様はとても可愛らしく、こういうのを見ると俺は本当に子離れできるのかと不安にはなるが、とにかく微笑ましかった。
「クロも上機嫌だね?」
「そうか? ……うん、そうだな。だが、シアンもそうだろ?」
「そりゃね。神父様とコットちゃんの作るカレーとか絶対美味しいでしょ」
しかし、上機嫌になるグレイとカナリアだけではなく、俺やシアンも上機嫌になる。
なにせシキで一、二を争う料理上手が作っている。さらにアプリコットは調味料にとてもこだわりを持ち、多くの種類を持っている。その調味料が十二分に生かせるカレーなど、美味しいに決まっている。
そんな二人が作り、ヴァイオレットさんも手伝っているとかテンションが上がらずにいられようか。いや、いられない。
「というか今更だけど、コテージ勝手に使って良かったの?」
「この依頼を受ける時にコテージの鍵も貰ったし、許可は得ているよ。自由にして良いってさ」
「ほう、自由に……」
「言っておくが、キノコ栽培を開始しようとするなよ」
「……クロもエルフだったの?」
「どういう意味だ」
妙な事を言うカナリアにツッコみつつ、足取りを軽やかにコテージに向かう。
こんな感じだと調査と退治の事を忘れそうになるが、変に張り詰めても仕様が無いし、楽しめる時は楽しむとしよう。
なにせ退治もあるが、家族の思い出作りでもあるのだ。こういった事は楽しむべきだと――ん?
「…………」
「どうしたの、クロ」
「……いや、なんかさ。前世で似たようなシチュエーションを見た事があるな、ってさ」
「リムちゃんや友達と行ったとか?」
「いや、そういうのじゃなくって、映画……物語とかでこういうのが」
「物語?」
「どういったものですか?」
そう、物語……海外の映画なんかでよく見た事がある。
湖畔に立つコテージ。
周囲は自然が綺麗な場所。
俺達以外に誰も居ない湖畔。
湖には悪霊が出るという噂がある。
明るい内は楽しく会話をし、これからの楽しい出来事に胸を膨らませる。
そう、ある意味ではとあるジャンルの映画や物語では鉄板のシチュエーション。
そのジャンルは――
「なんか悪霊とかモンスターが、夜になると大勢襲い掛かってコテージを囲んで来るような……」
そのジャンルはホラーと呼べるジャンルの代物。
カップルとか家族が襲われ、大抵生き残るのは一人か二人になるような生死をかけたサバイバルホラーだ。
「クロ、縁起でも無い事言わないでよ」
「……そうだな、すまないカナリア」
……うん、カナリアの言う通り今ここで言うべき事では無かったな。
そもそもアレは映画、物語上の話だ。そうそうあるモノではなく、曲がりなりにもフィクションだ。……この世界は悪霊とか普通に居るけど、フィクションだ。
「…………」
「あれ、レイ君。どうかした?」
――と思っていると、シアンのそんな言葉に不安になる言葉が聞こえてくる。
「――……―、―-……!」
「グレイ、どうした?」
グレイの方を見ると何故か立ち止まっており、言葉を呟いていた。
様子が少し変で、不安を覚えつつグレイに近付き声をかける。
「いえ、特になにもありません。先程のハイタッチの着地の際に、捻ったように思えたのですが、私の気のせいであったようです」
「そうか? なら良いが……」
「はい、早くコテージに向かいましょう」
俺の問いに笑顔になり、足も大丈夫だとアピールをするグレイ。
疑問は残るが……いつも通りの笑顔だし大丈夫だろう。
「アプリコット様お手製のカレーが待っています、早速行きましょうカナリア様!」
「あ、待てグレイ! 急いでも夕食はもう少し先だぞ!」
「エルフとして先頭は譲れないよ! 行くよ――キノコダッシュ!」
「カナリアはもう少し落ち着け! あと普通のダッシュだろそれ!」
俺の静止虚しく、元気よく走っていく両名。
……これではまだまだ子供だと思うし、もう片方は大きい子供である。
「あはは、元気だねー。ああいうのを見ると、私も守るために頑張らなくちゃと思うよ」
「……だな」
しかしシアンが言うように、あの笑顔を曇らせないためにも頑張ろうと思える。
そういう意味では笑顔や楽しそうにする姿を見れただけでも来たかいがあるというものだ。
学園に行く前に良い機会が――
――あれ?
そしてそこまで思ったところで、妙な違和感を覚えたのであった。
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