追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

水イベ_3


 ヴァイオレットさんがなにか言った気がしたので振り向いたのだが、ヴァイオレットさんは既に夕食を作るためにコテージに向かって歩いており、こちらを見ていなかったので空耳だと思い改めて湖の方を見た。

――綺麗だなー。

 来るのは久々ではあるが、ヴァイオレットさんが言っていたように綺麗な湖だ。
 以前来た時はカナリアやシアンがまだシキに居ない時で、領主会議の帰り道にグレイやアプリコットと一緒に来た。その時以降来る機会が無かったが、あの時よりも整備されて綺麗である。

「とてもじゃないけど、悪霊とかいる感じがしないな……」
「そうだよね、こんなに綺麗だと」

 こんな清々しい景色で、モンスターも居ない平和な場所だと悪霊なんてとてもじゃないけど……と思っていると、シアンが横から話しかけてきた。

「事前調査お疲れ。今の所どうだ?」

 俺はシアンの方を向きつつ、単独で行っていた調査の途中経過を聞く。
 ここに来たのは俺達男性陣が最初で、コテージなどが呪われてい居ないかなどの軽めの調査を神父様が行ない、その後コテージにて準備をしていた。
 そしてその後に女性陣が来て、情報交換の後それぞれが行動し始めたのだが、浄化や感知が鋭いシアンは湖周辺やそれらしいスポットを見て回っていたらしいのだが……

「って、なんだそのシスター服」
「これ? 湖畔調査用のシスター服」
「今まで着た事あったか?」
「クロの前では……ないね。正直私も持ってはいたけど着た事なかったし。神父様に言われて思い出したくらいだしね」

 シアンを見ると、服装が――下半身の部分がいつものスカートのスリット入りシスター服ではなく、パンツタイプとなっていた。
 素材や色、形状などはいつものシスター服に近い……ようはスカートがそのままパンツスタイルになった感じか。見た事ない服装だ。

「調整大丈夫か? 道具一式は持って来ているが」
「んー……大丈夫。動くには問題無さそうだし、結構動きやすい」

 そう言いながら軽く柔軟をするシアン。
 確かに動きやすそうな服装であるし、いつものシスター服と比べると身体のラインも出ている。あくまでも比べて、なのでそこまで出ている程ではないのだが、下がパンツスタイルという以外でも動きやすそうだ。

「そんなのあるなら普段から討伐の時とかに使えばいいのに。スリットは可愛いもあるだろうが、動きやすさ重視というのもあるんだろ?」
「そうだけどさ……これ、結構キツイんだよね。一日とかなら大丈夫だけど、ずっとは困る感じ。この後脱いでいつものに戻るよ」
「キツイ……着ていなかったし、成長したからか?」
「それとは別にで……ええと、なんか水で泳ぐように身体にフィットするようにしているとか。それに濡れると泳ぐように身体に張り付くっぽい」

 ……シスター服に競泳水着の要素を加えた感じの代物なのだろうか。
 今回のような場所を想定した服なのだろうが………………うん。

「どこまで張り付くか分からないけど、そんな服を日常遣いはしたくは――なに、クロ。私の事ジッと見て。イオちゃんより私の身体に興味がある感じ?」
「いや、水に濡れると張り付き、身体のラインが浮き彫りに……そんな服の構造に興味があってな。……なぁ、湖に入ってみないか?」
「他の男だったらエロ目的を危惧するけど、クロだとそうはならないから不思議」

 魔法の加護や、魔力を使っての構造や変化かもしれないが、泳ぎの邪魔にならない様に張り付く服というモノに興味がある。
 前世で女性物を含む下着は作ってはいたが、水着はあまり作っていない。今世でもグレイやカナリア、アプリコットには作った事があるくらいだ。
 知識として競泳水着がタイムを出すための、抵抗の少ない構造や布地などは知ってはいるが……これが“着衣で泳ぐように変化する”という事は、泳ぎの最適化の服を知る事が出来るかもしれないからな……!
 ……あと、エロ目的とはどういう意味なのだろうか。

「まぁ、軽く見た限りでは今は入っても大丈夫だし、私も使った事ないから試すのも良いけど……」
「大丈夫、上がってきたように身体を拭くタオルも用意してあるし、オーキッドに貰った温める用のランタンもあるぞ。風邪をひく心配はないから……見せてくれないか?」
「いや、まぁ、良いけどさ」
「よしっ!」
「……クロって本当、スイッチ入るとシキの領主って感じがする」

 どういう意味なのだろうか
 ただなんとなくだが、シキの住民としてその言葉はどうなのかと言いたい気がする。

「じゃあ、いくよ――よっ、と!」

 シアンは軽く柔軟をすると、手近な湖の畔に立ち湖に飛び込んだ。
 飛び込みは危険だとか、ゆっくり入るのでは駄目だったのかと、普段の俺なら注意していたであろうが、服構造の変化について楽しみであったので特になにも言わずに待機していた。

――どういう感想を聞けるだろうか。

 泳ぎやすいとか、キツイとか、水はけが良いのを感じるとかそういった感想を聞けるだろうか。
 服と言うのは着てこそ真価を発揮するし、着ている本人の感想以上に機能性の経験は知りえない。
 感想を聞き、上がったらシアンのシスター服をよく観察したい。身体に張り付くと言うが、どの程度張り付くのだろう。シアンの身体の部位の大きさプロポーションは把握しているし、じっくりと観察を――

「ごぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」

 水面から上半身を出し、必死にもがくシアンの観察を――

「シアーン!?」

 俺は自身の上着をすぐに脱いで放り投げ、湖に飛び込んだのであった。







「ぜー、はー――おま、お前、およ、泳げないのかよ、ぜー、はー、ゴホッゴホッ!」
「ゴホッゴホッ、う、うん。よく考えたら、私、泳いだこと、一度も無かった……!」
「それでよく飛び込む気になれたな……ゴホッ!」

 湖からもがいているシアンをどうにか救い出し、互いに息を荒げながら大地のありがたみを味わっていた。
 シアンはシスターとしての修行の一環で滝に打たれたり、水垢離などで水の経験はあるので慣れていない訳ではないようなのだが、どうやら泳げない……泳いだ経験が無かったようだ。
 それでも知識としては知っていたし、運動方面では今まで大抵の事は最初から出来ていたので出来ると思って飛び込んだようだ。

「水は怖いんだ。もうやめろよ……!」
「うん、水怖い……水魔法は得意なのに、水が苦手になりそう……ゴホッ」
「大丈夫か? 水を飲んだのなら、吐いておいた方が良い」
「それは大丈夫、だけど、ゴメン。ちょっと背中摩って……!」
「分かった」

 シアンがここまで俺に要求してくるとは珍しい。
 だがそれだけ怖かったのだろうし、それで落ち着くのなら摩っておこう。
 俺も呼吸を整えて、シアンの背中に近付く。そしてそのまま濡れている服の上から背中を優しく摩った。
 今のシアンが着ている服は、まさに競泳水着を着ているかのように身体に張り付いており、身体のラインがよく分かる状態になっている。

「というか、泳げなかったのこの服のせいだったりしないか?」
「いや、多分これ以外だったら、布が邪魔でクロもろとも――あ、クロ、ゴメン」
「どうした?」
「私クロが来た時、パニック起こして暴れたでしょ? その時に服とか大分脱がしたり破いたり……」
「ああ、大丈夫だよ」

 今の俺はシアンのように全身ずぶ濡れだ。それにシアンを救う時、背後から近づいて出来る限り暴れても抑えられるようにしたのだが、腕が俺のシャツに引っ掛かりはだけている状態だ。

「どうせ濡れたから着替えるし、別にシアンが気にする必要はない。お前の無事には代えられんしな」
「ありがとう、クロ。お詫びは――」
「お前が悪霊をキチンと祓ってくれれば、お礼はそれで良い」
「……うん。ありがと」
「それに、俺が濡れるのを見たいと言わなければこうはならなかったしな。むしろ“神父様に救われる機会を逃した、恨んでやる!”くらいでいてくれた方が気楽だ」
「はは、確かに」

 いつもとは違う様子で、素直に俺の言葉に頷き、笑うシアン。
 ……うん、呼吸も落ち着いてきたようだ。

「じゃあ一旦コテージに戻って着替えるか」
「そだね。そういえばまだ中に入った事なかったけど、どんな感じ?」
「結構広くて、一人一部屋でも問題無いくらいだ。悪霊の事もあるから男女で別れた部屋で泊まる予定だが」
「へぇ、そんなに広いんだ。……カップル同士にしない?」
「言いたい事は分かるが、カナリアが悲しむ。というか夜は調査だから、そこまで一緒に居られんぞ」
「ちぇー」

 それにシアンは神父様と一緒の部屋だとしたら、絶対に緊張でお互いになにも出来ず、気まずくなって翌朝「眠気覚ましにずっと喋ってた!」とか言って寝不足になっていそうだ。あるいは普通に別々のベッドで寝て翌朝を迎えそうだが。

「まぁやっぱり張り付いて来て変な感じするし、いつもの服に着替えるよ」
「そういえば……本当に全体的に張り付いているな」
「だよね。身体のラインが出て、なんか裸晒しているみたいで――はっ!」
「神父様には効果が無いどころか照れて見られないだろうし、お前も後で後悔するから止めておけ」
「まだなにも言ってない!」
「言おうとしていただろうが」
「否定はしないけど、生意気!」

 シアンはそう言いつつ、俺の脱いだ上着を拾って俺の顔目掛けて投げつけた。
 照れ隠しだろうが、投げつける前に埃をはらって投げる辺りはシアンらしいと言うべきか。

「……しかし、本当に競泳水着みたいになっているな。ちょっと触っても良いか?」
「きょうえいみずぎ? まぁ良いけど」
「ちょっと失礼して……おお、伸びる」

 シアンの許可を貰い、シアンのシスター服の腕当たりの服を引っ張る。
 すると本当に競泳水着のような質感であった。
 その事に妙な興奮を覚えつつ、ちょっと顔を近付け布をよく見ようとする。

「クロ様が――父上がシアン様の事を性的に見ていらっしゃる!?」
「クロがはだけて濡れてえっちぃ感じに! 濡れてなにをしていたというの!?」
「カナリア様、私めはクリームヒルトちゃんから聞いた事があります。――身体のラインが分かるタイツは男性の興奮きょうみをひく、と!」
「つまり――互いに興奮している!? メアリーちゃんが言っていた所の――NETORARE!」
「レイ君、リアちゃん!?」

 よく見ようとして、グレイとカナリアの声が聞こえて来た。
 近くで遊んでいて、偶然俺達を見かけたのか、コテージに戻る様に知らせに来たのかは分からないが……

「ふ、ふふふふ、凄いなこの布は。下着として利用すれば別方面に使えそうだし……いや、これが教会関係者用なら、下着に使う事は禁止されていたり、出来なかったりするのだろうか……どちらにしろこの布の感触は……ふふ、ふふふふふふふふふふふ」

 今の俺はこの新たな布、あるいは技術まほうに関して興奮をして、なにを言っているかは詳しくは聞こえなかった。
 しかし本当に是非仕入れたい知識である。つい笑みも零れるというものだ……!

「クロは周囲に気付け!」

 そして俺は何故かシアンにはたかれた。……うん、流石に周囲を見なさ過ぎたな。

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