追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

王族姉弟の愛談話_2(:真紅)


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 場所は私の政務室。先程まで改めて姉弟で話合っておくべきだと判断した私は、午後の互いの話合い可能な時間を見つけ、外に護衛を置きながら今話し合いを場を設けていた。
 そして座って話し合っていたのだが、一区切りつくと弟達は立ち上がり……先程のような事を言いだしたのである。

「……王族の婚姻は、政治的な要素を多分に含みます」

 みっともなく溜息を吐いたが、私はすぐさま表情を持ち直し、私の前に立っている弟達を見て告げる。

「我が王国は近隣諸国に比べ地理、戦力、流通などに優れているため無理な婚姻は少ないですが、どうしてもそれは避けられない部分であります。私の王国内有力者との婚姻や、今は拗れかけていますがカーマインとの他国との繋がりを作るための婚姻などがあります」

 国内の有力者との婚姻は私だけではなく、ルーシュやヴァーミリオンもあった。しかし、ルーシュは十歳の時に、ヴァーミリオンは去年に相手方の問題で破棄されている。
 他国との婚姻話はスカーレットやフューシャにもあったのだが、スカーレットは自身が問題行為を起こし破棄されている。フューシャは……事故で破棄されている。

「王族として生まれた以上は避けられない宿命とでも言いましょうか。貴方達は反発していましたが、自身の身は自身だけのモノではない、という事です」

 ヴァーミリオンはともかく、ルーシュやスカーレットは、恐らくは私が初めは愛の無い婚姻を果たし、それを問題無く受け入れたり、お父様の問題などを見て反発し破棄されたと言っても過言ではない。
 しかしいずれはその身は、我が王国のさらなる発展のために尽くさなければならない。

「それを踏まえた上で、貴方達は……」
「ブロンドさんが成人後、正式な妃として迎え入れたいと思っています、ローズ姉様」
「エメラルド・キャットと共に一生を歩みたいと思います、ローズ姉様」
「メアリー・スーと伴侶として共に有りたく思います、ローズ姉さん」
「クリームヒルトさんと共に高めあいたいです、ローズ姉様!」
「…………」
「あの……ローズ姉様……お茶……いる……?」
「大丈夫ですよ、お気遣いありがとうございます、フューシャ」

 尽くさなければならないのだが、この弟達は平民の女性を伴侶として迎え入れたいというのだ。しかも妹のスカーレットまでもが女性を伴侶として選んでいる。頭の固い私にとっては頭を痛める内容であり、無垢に心配してくれるフューシャが唯一の癒しである。
 いや、正確に言うならば、純粋な平民の女性を迎え入れようとしているのは独りだけ。他の三名は、一応貴族とまったく関係無いとは言えないのだが。
 ……この状況が過ぎ去った暁には、癒しとして夫と一緒にこの前出版された本の感想を言い合うか、我が子を抱きかかえたいものである。

「平民の女性を、正室としてですか……表立っては推奨はされていませんが、側室や愛人などではなく、ですね」
『当然です!』

 声を揃えて言う我が弟達。
 仲が良い事もあったが、色々と諸事情で会話もままならぬ事もあったのに、今は私に向かってくる弟達。弟達が息を揃え、ここまで意見を合わせるなど未だかつてなかったのではなかろうか。
 ここにカーマインが居ないのは残念だが、なんたる感動的な場面なのだろう。内容が内容でなければもっと感動していたのだが。

「……あくまでも私個人の意見としては、婚姻は政治的部分があろうとも、愛する気持ちがあった方が良いとは思っています。これは貴方達にも言っていますね?」
『はい』

 これは私の本音でもある。
 ルーシュもスカーレットも今の恋愛を進めた、と言うほどまではいっていないが、止めもしなかった。
 別にいずれ冷めると思っていた訳ではないのだが、本気でここまで来られるとはあまり思いもしなかった。

「この事はヴァーミリオンにも昔は言いましたが……」
「はい。……俺の場合は、歩み寄る事すら出来ず、ご迷惑をおかけしたと思っています」

 私も何処かで、ヴァーミリオンがヴァイオレットと歩み寄りが上手くいかなかったように、初恋は失敗するモノだと思っていたのかもしれない。
 しかし今の弟達は本気で私に伴侶について相談して来ている。
 ……というよりは、いざ相手と良い雰囲気になった時に、相手が遠慮しないようにまずは私を味方に引きいれ、外堀を固めようという魂胆なのだろうが、本気には変わり有るまい。

「……良いでしょう。では、私の意見を言い――貴方達に試練を課します」

 ならば私が出来る事は、弟達の思いに本気で応える事だ。
 弟達にどうすれば上手くいくかをアドバイスし、そして試練を課す。
 どう足掻いても私達は王族な以上は、前例のない無理を通すために、そう安々と認める訳にも行かないのだから。

「まずはルーシュ・ランドルフ」
「はい」

 私の双子の弟、ルーシュ。
 背が高く大柄で、アゼリア学園を首席で卒業した、兄弟の中でも最も戦闘面に秀でた自慢の弟。
 ルーシュが好いているのは、ブロンドという名の少女。恐らく調子が良ければルーシュよりも強い少女だ。中身は別であり、あくまでも外装の話だが。
 初めて彼女を見た時は、私は寒さに幻覚を見ているのではないかと頭の中で少し混乱をしたものである。
 そんな少女はルーシュにとっての初恋の相手であり、一目惚れの相手。
 そんな彼女と再会するために婚姻の話を遠回しに引き延ばし、冒険者を続けずっと探し求めた。そんな無理を通すために、政務と冒険者の両立果たした苦労を私は知っている。

「まずは彼女に対し、成人までは手を出さない事。これは王族云々以前の問題です」
「当然です」
「まぁ、それ以前に彼女と結ばれるかどうかも分からない、相手がハッキリと好いているのかも分からない状態で、私に懇願するのはどうかと思いますが」
「ぐっ」

 私の言葉に痛い所を突かれたかのような表情をするルーシュ。
 その辺りを分からないルーシュではないだろうに、こうしているとは恋は盲目というやつだろうか。
 ……とはいえ、以前のシキでのカーマインの一件の後、過去の心の傷を抉られ泣くブロンドさんをただ抱きしめて慰めたり、その後の反応を見るに悪い反応ではないのでしょうが。問題はブロンドさんがまだ少女であり、恋をよく分かっていない辺りでしょうが。

「あと、ブロンドさんは外見に対してコンプレックスを抱いていると聞きます。特に見られる事に関して」
「はい」
「王族の妻として、その点が問題である事は分かっていますね」
「はい」

 私の言葉に、今度は動揺する事無く返事をするルーシュ。
 ルーシュとしては好ましい外見だとしても、見られる事をブロンドさんが恐怖し、心ない言葉を投げかけられる可能性がある。
 だからと言って隠し立てをすれば、さらなる問題もあるだろう。その事をルーシュはよく理解している。

「その点に関しては……構わないでしょう。婚姻の儀にはブロンドさんは表立って出なくても構いませんし、公務で表に出ないようにしても良いです」
「……良いのですか?」
「良いですよ。ですが、それを補うためには、貴方がブロンドさんの表の部分を引き受ける必要があります。愛という言葉だけで周囲に迷惑をかけ、引き受ける事も出来ないような無能な王族ならば、こちらから願い下げです。私がお父様と夫にお願いをし、貴方を廃嫡にでもします。身分を捨てれば堂々と婚姻できますね。そちらがお望みならばそのように働きかけますが」
「その必要は有りません」
「即答した事は褒めましょう。ならば貴方は周囲に王族として相応しい在り方を示し、認められる地盤を作りなさい。今までの分――」
「生半可な事など致しません。オレはオレとして誇らしくブロンドさんを迎え入れるように、ランドルフとして恥じない行いをいたしましょう」
「よろしい。それと……」
「かといって、ブロンドさんを悲しませるような事も致しません。オレの有り方をなすために、愛する相手をないがしろにするような事は、決して」
「……よろしい」

 ルーシュの事は心配はなさそうだ。
 平民少女、さらには捨て子を引き入れるためにはお父様達の説得や、周囲の環境を整えるのは生半可では成しえない。
 だが、ルーシュは私と違ってとても優秀である。行き場のない才能を活かす事が出来るのならば、問題はブロンドさんの説得や愛を育めるかという点位だ。……それが一番心配でもあるのだが。

「あと、表に出なくても婚姻の儀の際にはきちんと着飾らせてあげなさい。彼女にとって儀が一生に一度になるかどうかは貴方次第ですが、その儀を彼女にとって一生の思い出にしないのはランドルフ男児として許しませんよ」
「当然です。最高のドレスを彼女に――」
「言っておきますが、店一つの商品を買い取って、請求書を私達に贈っても受理しませんからね」
「……そ、その件に関しましてはブロンドさんのために……!」
「受理しませんし、貴方の政務費用からも出す事は許しませんからね?」
「……はい」

 あまり無駄遣いをしない様にと、私は窘めるように笑顔を作りながらルーシュに言ったのだが、何故かルーシュは委縮していた。
 他の弟達も委縮しているのは何故だろう。姉弟間のちょっとした会話だというのに。
 ……これだと、ブロンドさんの実家について話すのは後の方がよさそうですね。







「次にスカーレット・ランドルフ」
「はい」

 私の一つ下の妹、スカーレット。
 姉妹の中で一番背が高く凛々しき外見を有する、アゼリア学園を首席卒業した、純粋な運動能力なら姉弟の中で一番の自慢の妹。
 ただ、お母様からは好かれていない。
 理由はお父様の子ではあるのだが、お母様――コーラル王妃とは血が繋がっていないためだ。表ではコーラル王妃の娘ではあるのだが。
 ……血筋的には、ある意味私達よりランドルフの血は濃いのだが。
 ともかくその出自からやさぐれた時も有り、何処か空虚な所も有り、なによりもつまらなそうであった。
 アゼリア学園卒業間近には、クロ・ハートフィールドという、運動面で圧倒する存在と出会って、目に光は少し宿っていたのだが。

「貴女が好いているのは、エメラルド・キャットという女性で間違いないですね?」
「はい。王族相手と分かっていても、私を見る目が時折虫をみるかのような目で見て来る所がゾクゾクする女の子です!」
「そこまで聞いていません」

 そんな妹の性癖を心配する情報を聞きつつ、私の中での彼女を思い返す。
 エメラルド・キャット。
 酷く痩せていて、右腕には傷を隠す包帯。口調は荒く、毒を食べては不気味に笑い、不作法な女の子。
 ただ、薬に関する知識は、十三歳という若さにして既に王族直属の薬研究施設の職員と比べても遜色ない。恐らくは薬に対しては親の教育が良かったのだろう。 薬の知識だけでも、彼女は王族の相手として相応しいようには出来る。
 本人が覚えられるかどうか、というのはあるが、礼儀作法を身に着けさせ、言葉遣いを正し、性癖を表立ってしなければ、彼女に貴族の位を与えて最終的には……というのは可能だ。

「ですが、同性……ですか」

 しかし、一番の問題はそこだ。
 彼女が薬の研究をすれば、ヴェールさんのように王国でも重要な役職に就けるだろう才覚はある。そうすれば相手としては相応しくは出来るのだ。
 だが、問題はスカーレットは女であり、エメラルドも女という点。
 ……子を残すことが重要な王族として、この点は致命的である。

「はい。愛に性別なんて関係有りませんから!」
「そこは同意しますが、以前言ったように一方的な愛はただ相手にとって迷惑どころか、害です」
「で、ですがエメラルドに告白して、可能性は――」
「見えただけで、まだ恋愛的な意味での好きかは分からないと聞いております」
「……否定はしません」
「相手が私を好きなのだと肯定出来るようにしなさい。貴女はそこからです」
「……はい」

 スカーレットはまずここが問題ですね。
 ……というかこの子達の場合は、多少の相手の好意の差は有れど、全員がそこが問題無きもしますが。
 あ、そうです。これは言っておかなくては。

「それと一応言っておきますが、同性という点を解決するために、ゴルドさんの性転換を利用してどちらかが男になる、なんて事はしない様に」
「ぎくり」
「貴女の事ですから、“いっそ男になっちゃえば廃嫡されてシキで爛れた生活を送れるのでは!?”と思っているかもしれませんが」
「ぎくっ」
「あるいは“エメラルドを男にして、子を成し淫らな女として廃嫡するのも良いかもしれない!”と思っているかもしれません。ついでに“他の男だと嫌だけど、エメラルドなら!”ともね」
「ぎくくっ!」
「……優秀な私の妹であれば、そのような事は考えないでしょう。これは私の想像です」
「あ、あははー、そうですよ、ローズ姉様。やだなー、そんな事考えるなんて」
「ええ、そうですね。ですがもし万が一、そんな事を思い、実行するようであれば……」
「あ、あれば……?」

 私は一息置き、スカーレットに安心をさせるために笑顔で言う。

「素直に廃嫡なんて、出来ると思わない事ですね?」
「はい、お姉様! 不肖私、スカーレット・ランドルフ、互いの身体を一時の感情で変えるような事は致しません!」

 しかし安心させるために笑顔だったのに、スカーレットは背筋を正し敬礼をした。
 ……何故だろう。血の繋がった姉弟らしく、楽しく会話をしようとしただけなのに。

「(……ローズ姉さんって、偶に心を読んでいるのかと思う時があるよな)」
「(そうですね。当てはまりすぎて怖い時があります)」
「(双子のオレだけでなく、お前らもあてる……そのお陰でオレ達はどうにか王族として道を外さなかった所はあるが……)」
「(ローズ姉様自身は……自覚無いんだよね……)」

 そして弟達は何故か私を妙な目で見ていた。
 ……なんだと言うんだ、まったく。

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