追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

女性陣のY談-生徒会-_2(:淡黄)


View.クリームヒルト


「大丈夫だよ、黒兄も“エムは悪くない。ただそれを表立ってやる事が駄目なんだ……”って遠い目で言っていたし、悪くは無いよ!」
「エムでは無いですが、そこでクロさんを出されると、複雑な気分になるのですが……」
「シキでも居そうですもんね、エムな方は。それでクロは苦労していそうです」
「……シキがどんな所か気になるなぁ……」

 メアリーちゃんがエムっぽいのは、黒兄も言っていた事ではある。痛みを快楽……とまではいかなくとも、気持ち良いと感じている節はあると。
 思うのも、そう考えるのも失礼だからと、黒兄はあまり考えないようにしていたらしいけど。
 ちなみにシキではエムな方は外でのその性癖を出し、反省が見られなかった場合は即時拘束されるらしい。

「あ、そういえばさ。私、今度シキに行くんだ」

 そして生徒会長さんが思い出したかのように、私達に告げてきた。
 あくまでも会話の延長線であり、何気ない報告かの用であったが……

「お、お気を確かに会長! 私は色の濃い生徒会室の中の数少ない、癒しの空間を無くしたくないです!」
「あはは、生徒会長さん。シキで殻を破れるかもしれないよ、主に性癖のね!」
「色んな方々が居ますが、皆さん個性的で楽しい方々ですよ。少なくとも……はい、世の見方は変わります」
「……ますますシキという所が気になって来たなぁ……」

 私達が三者三葉の反応を示すと、生徒会長さんはどう反応すれば良いか分からない様に私達を眺めていた。
 うーん、だけど生徒会長さんがシキに行くとなると、大丈夫かと不安になる。なにせ性格や身分の濃い生徒会のメンバーや、最近奇行を行うと噂の学園生の事で胃を痛めている女性だ。シキに行けば違う意味でストレスをためてしまわないだろうか。アッシュ君みたいに。

「何故シキに行くんですか?」
「生徒会メンバーの中で私だけシキに行っていないしね。春休みの残りは暇だったから、噂のシキに興味があった。という感じかな」
「暇って……フォックス家には帰らなくて良いんですか?」
「うん、仕事はお父さん達が片付けているし、呼ばれてもいないしわざわざ帰る必要もないかな、って。それに私も卒業すれば結婚するだろうし、今の内に自由に遊びに行こうかな、ってね」
「卒業すれば結婚……」

 生徒会長さんは“卒業すれば結婚する”と、当たり前かのように言う。
 それは“良い男が簡単に見つかるだろう”といった余裕ではなく、“貴族なんだから当たり前だ”というかのようであった。
 ……生徒会長さんはあらゆる面で優秀で、影は薄くとも、アゼリア学園の生徒会長を務めても問題無い女性だ。それに誰と付き合っても良い彼女、良い妻、良い母になるだろうと思わせる性格でもある。

「進んで彼氏を探せば、引く手数多だろうに、とも思うのだけど……」
「ん? ……ああ、そういう事か。別に私は気にしていないよ」

 私が小さく呟くと、生徒会長さんは初め疑問顔だったが、なにかに気付いて、私に安心させるように笑みを作って来た。

「貴族である以上は、私の身、私の結婚はフォックス家や政治のために使われる事は分かっていた事だよ。それがヒトより良い生活を送らせてもらった、お父さん達にも恩返しにもなるしね」
「だけど、生徒会長さんの意志は……」
「はは、なに。私は君達のようになにかに反逆し、変える程の優秀さは無いからね」

 まるでそれは、抗った所で周囲に迷惑をかけるだけで、得は無い。ならばなにが自分に出来る事かを判断し、親の言う事を聞く事が一番だと言っているようであった。
 ……それが貴族の在り方だとは分かっている。むしろ私の周囲の貴族の皆が自由に生き過ぎなだけであって、学園の大半の貴族はそういうものだ。
 だけど……それで人生の残りを好きでも無い人と一緒に過ごすのは良いのだろうか。カラスバ先輩のように歩み寄る時間があるのなら良いけれど、生徒会長さんの場合は誰が相手かも分かっていないようであるし……

「それに、本来だったら私では付き合えないような相手と結婚出来るかもしれないし、悪い事ばかりじゃないさ。だから気にしなくて良いんだよ」
「生徒会長さん……」
「それに私は私。クリームヒルト君はクリームヒルト君だ。君の場合は望まぬ結婚をエクル君が結ばないだろうから、安心しなさい」

 生徒会長さんはそう言うと、私に近付いて頭を撫でて来た。
 その撫で方は昔の黒兄を彷彿とさせるような、とても優しい撫で方で、作り笑顔ではない笑顔で私を見ていた。
 ……これは生徒会長さんも無理をして言っている訳では無いという事だろう。ならば変に言わない方が良いのかもしれない。

「ま、私も運命の出会いとかあれば良いんだけどね……そうすれば私も燃え上がって駆け落ちとかするかもね」
「あれ、結構乙女チックな事を言うんですね、生徒会長」
「そりゃ言うよメアリー君。私は恋愛未経験だが、憧れはするんだよ。白馬に乗った王子様をね!」
「ふふ、良いですね」

 生徒会長さんは冗談を言うように笑顔を作る。
 相変わらず安心感のある笑みであり、この笑顔があれば男子を落とせそうで、笑顔を武器にある程度好きな相手と結ばれそうではあるんだけど……何故か影が薄いんだよね。本当に不思議である。ミスディレクションでも使っているのだろうか。

「そういう意味では、自身の恋愛を優先できる皆が――あ、そうだ、スカイ君」
「どうしました?」

 そんなマジックやバスケが上手そうな技術を持つ生徒会長さんは、思い出したかのようにスカイちゃんの方を見る。
 ちなみに私の事はまだ撫でっぱなしだ。

「スカイ君は以前、兄みたいに慕う好きな男の子が居るって言っていたけど、その彼は見つかったのかな?」

 私とメアリーちゃん、そしてスカイちゃんは固まった。

「え、あれ……前に“見つけたら付き合いたい”って言ってたよね……あれ?」
「せ、生徒会長。それはですね」
「良いんです、メアリー。……ええ、見つかりましたよ」
「そうなの――あ」

 生徒会長さんはそこまで言って、全てを察したかのように冷や汗を流した。いや、正確には黒兄の事までは分かっていないのだろうけど、見つけたのにこうして暗いという事は……うん、人の機微に疎い私でも察するね。

「シキで領主をやっていました。格好良かったですよ、ええ、本当に」
「シキで……それってヴァイオレット君の……」
「ふ、そうですね」

 うわぁ、普段はキリッとしているスカイちゃんが凄いやさぐれている。

「で、でも、スカイ君にもチャンスは――」
「再会した初日に抱いてと言いましたが、拒否されました」
「なにやってんの」
「その後も仲の良さに打ちひしがれる事、数十回。この間のシキでの調査の最終日に改めて告白もしましたが、ヴァイオレットの手助けで、クロお兄ちゃんに胸を揉まれました」
「ごめん、なにを言っているか分からない」

 私も分からない。いや、現場は見てはいたんだけど、言葉だけだと本当に意味が分からない。

「ふ、好きな男性に揉まれるって気持ち良いんですねやの! 私も今後そんな男性が現れると良いなええな! 会長さんもそういった方と結婚出来ると良いですねんやがの!」
「落ち着いてスカイ君! ど、どうすれば良いんだクリームヒルト君、メアリー君!?」
「あはは、とりあえずスカイちゃんの胸を揉んどけばいいんじゃない?」
「それはどうかと思いますよクリームヒルト。ええと……とりあえず抑えましょうか?」

 普段は落ち着いている生徒会長さんも流石にマズいと思い、私達に言葉で落ち着かせる協力を要請してきたけど、普通にやっても落ち着かないだろうから、ここは無理にでも抑えた方が良いだろう。

「……ごめんなさい、もう落ち着いたんで、大丈夫です」

 だけど私達が抑える前にスカイちゃんは落ち着いた。
 ……ま、あの時の事を考えれば、羞恥心はあっても、ヴァイオレットちゃんの言葉を思い出せば落ち着くようにはなるよね。

「……はぁ、分かっていてもやっぱり辛いですね……切り替えようと思っていても、どうもまだ心に来るんですよね……」
「それほどまでに好きだったって事ですよ。恥ずべき事では無いかと思います」
「そうですね……シャルみたいに諦めが悪かったら良いんですが……いや、アイツが私の立場だと、多分アイツは素直に諦めるかな……」

 シャル君がスカイちゃんのように、昔好きな人に再会して、その相手が結婚していたら……うん、初恋を心に秘め、告白もしないまま祝福していそうだ。そして初恋を引き摺って恋愛が上手くいかなそうだ。

「シャトルーズ君か……私は昔、君とシャトルーズ君は結ばれると思っていたんだけどね」

 生徒会長さんは話題変化のためなのか、あるいは興味があったからなのかそんな事を言いだす。
 そういえばスカイちゃんも生徒会長さんも、シャル君も子爵家だね。やっぱり繋がりとかあって、昔から交流があったのだろうか。

「え゛。やめてください。アイツとはそんな事考えられませんよ」

 そんな生徒会長さんの言葉に対し、スカイちゃんは露骨に嫌な顔をした。しかし失礼だと思ったのか、すぐ様表情を戻す。

「アイツは私の事を女扱いして……はいるんでしょうけど、意識はしていませんよ。私もアイツを似た様に扱っていますし、好みじゃ無いです」
「えー、でもシャル君って私達の前世のゲームだと、結構人気のあるキャラだったよ。イケメン幼馴染、いいじゃん!」

 まぁ、そのカサスでのスカイ・シニストラも、シャル君の事は男として意識はしてなかったけどね。

「私的にはアイツがそんな女の子……乙女? を夢中にさせるような男には思えないと言うか……アイツに口説かれようとするとか変な感じがするというか……。あ、あくまでも私に対してですから、メアリーに対しては別ですよ?」
「は、はい。私はそこは気にしていませんが……そんなに変な感じがしますか?」
「そうですね……クリームヒルトとかで言うと、クロお兄ちゃんが甘い言葉で口説いて来るみたいな感じですよ。私にとっては嬉しいですが、クリームヒルトはそうでもない。ようは近しい存在が口説くってなんか嫌じゃありません?」

 黒兄が乙女ゲームの攻略対象ヒーローで、甘い言葉で私、つまり主人公ヒロインを口説いて来る……

『おや、クリームヒルト……髪の毛に、芋けんぴが付いているゾ?』

 …………

「ぷっ、……く、ふふ……駄目、絶対に笑う……!」

 黒兄が乙女ゲーム、少女漫画のような言葉を言っていたら間違いなく笑う。
 引くとかそんなんじゃなく、笑って腹筋が大崩壊しそうだ。

「なにを想像しているんでしょう、クリームヒルトは」
「うーん、ベッドの上でそのクロさんとやらが甘いピロー言葉トークを言っている姿とか?」
「会長って意外とそういう系が好きなんです?」
「そういう場なら言うというだけだよ。でも、そんな感じじゃないかな?」
「いえ、あれは……一晩で心に法隆寺を立てるような事を想像していますね……!」
「なにを言っているのメアリー君」
「HO-RYU、JI……?」





備考:シャトルーズとスカイの関係性
互いに異性というのは理解しているけれど、意識はしておらず。
男女の違いに注意はするけれど、気は置かない。
将来大人になって別々の誰かと結婚しても、会えば飲み交わす。
そんな関係性です。

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