追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

女性陣のY談-生徒会-_1(:淡黄)


View.クリームヒルト


「……え、つまりメアリーは男性陣の性的な話題のために、自身の性癖を提供したのですか?」
「あはは、そうなるねスカイちゃん!」
「そうだね。私も聞いていて驚いたよ」
「そう言われると、その通りなんですが……いえ、その通りとしか言えませんね」

 場所は訓練場、闘技場アリーナ
 学園祭ではトーナメント戦でも使用した、学園生用の訓練施設。
 普段は己を鍛えるために学園生が魔法の特訓や身体の鍛錬で賑わうのだが、学園生も春休みという事であまり学園に居ないので、今は運動着に着替えて模擬戦闘をしていた私達――私、メアリーちゃん、スカイちゃん、そして生徒会長の四人の他には、文字通り数える程しかいない。
 その数える程のメンバーも、先程まで人気のあるメアリーちゃんに見惚れていたり、戦闘を参考にしたりとあまり訓練はしていなかったけどね。
 ともかくそんな闘技場にて。訓練の休憩がてら話をしていると、とある話題……生徒会男子が仲を深めるためにスケベイ話をした、という話にになった。

「なんです、メアリーは男子達に性的に見られる事で興奮する性質なんですか? そこはヒトそれぞれだとは思いますが……シュバルツさんのように、露出徘徊はやめてくださいね?」
「し、しませんし、違いますよ!」
「大丈夫ですよ、私の趣味とも言える鍛錬も己を虐める行為……ある意味エムな行為です。……メアリーのエムも受け入れますから」
「だから違いますって! 私はエクルさんの仲を深めるのに、協力してあげただけです!」

 そこで生徒会長さんが何故かそのスケベイ話の中に居たらしく、その内容を説明してくれたのだけど、その内容を聞いた飲み物を飲もうとしていたスカイちゃんが、引き気味にメアリーちゃんを見ていた。
 確かに話題を提供しようと言ったのは私だけど、本当にするとは思わなかったからね!

「クリームヒルト君、シュバルツさんって?」
「すんごい美人な女性だよ。身体とかも綺麗としか表現出来ないほどで、普段は露出は少ないんだけど、美の自覚を持って露出する変態さん。商人でシキで最近はよく見るよ」
「……そうなんだ」

 私と生徒会長は飲み物を飲みながら、理解を示すスカイちゃんと否定をするメアリーちゃんを見ながらシュバルツちゃんの説明をしていた。
 そういえば彼女、帝国に戻って孤児院の無事を確認すると言ってたけど大丈夫かな……ローズ殿下のお陰である程度の無事は確保出来たとはいえ、心配で戻ったらしいけど、今度会った時もあの美しいポーズが健在だと良いけど。

「そういえばクリームヒルト君、聞いたよ。二年生から黒い方の制服で通うんだって?」
「あ、うん、そうだね。制服はエクル兄さんが用意してくれるらしいけど」
「いやはや、いきなり伯爵家のご令嬢か……私より身分一気に上になったね、クリームヒルト卿?」
「あはは、私がクリームヒルト・フォーサイス伯爵家令嬢だよ!」

 私は生徒会長に今の私の状況を確認され、いつもの調子で素直に答えた。
 そう、今の私はなんとエクル先輩、もといエクル兄さんの正式な妹となり、伯爵家のご令嬢と相成った。
 なんだか色々すっ飛ばしての平民からの貴族女子。まるでシンデレラストーリーである。

「というか驚きはエクル兄さんだよ。確かに私は家名が無かったし、エクル兄さんが良いのなら別に良いよと受け入れたけど、なんで一週間程度で私は伯爵家のご令嬢になってんの。正直自覚無いよ」
「それは……うん、そうだね。エクル君が優秀過ぎたんだな……」
「私特になにもやって無いよ……」

 確かに私は受け入れた。
 エクル兄さんが裏でやっていた事は私も含めて罪に問う気はなかったし、完全でないにしても大半は許された。
 メアリーちゃんに対する感情や、世間に対する罪悪感。そして破滅願望にも近い行動はどうかとも思ったが、その辺りは今後の展望次第だし、メアリーちゃんとの話し合いで良い方向には進んでいる。
 それは良いのだが、許す条件の一つとしてヴァイオレットちゃんが、

『全てが許されたのならば、クリームヒルトを伯爵家預かりにしてくれないか』

 という提案をし、私も「エクル先輩が良いのなら」というノリで受け入れはした。他にも条件として貴族の付き合いとか冒険稼業とかで条件は出したけど、エクル兄さんは受け入れた。
 そして気付けば一ヶ月どころか一週間も経たない内に私は「フォーサイス家の血縁だったんだ!」という事になって書類上でも妹となった。
 心配する私に対しエクル兄さんは「大丈夫だよ」と笑顔だったが、こんなに早くて本当に大丈夫かと不安になる。

「あはは、けど不安になっていても仕様が無いし、今はエクル兄さんに任せるよ」
「それが良い。不慣れなうちは無理するモノじゃ無いよ」

 その辺りの面倒事はエクル兄さんが引き受けてくれると言ったし、私は貴族のゴタゴタは正直分からない。
 いずれ学ばないと駄目だろうが、今はしゃしゃり出ても迷惑をかけるだけだから、慣れているエクル兄さんに任せるとしよう。

「それに貴族もいずれ慣れてくるだろうし……まぁ、生徒会長さんも私の事は今まで通り一生徒会メンバーとして扱って!」
「そうかい? けど、それだと助かるよ。……生徒会長の内は、他の個性的なメンバーの事だけでも一杯一杯だからね……」
「あはは、……この間美味しいお菓子を見つけたんだ。胃に優しいお茶と一緒に飲む?」
「うん、ありがとう……相変わらず君は優しいね」

 優しいとは言うが、生徒会長さんのほうが遥かに優しい女性だ。
 影は薄いけど、貴族のご令嬢でありながら平民の私にも親切だったし、生徒会の仕事で不慣れな所があっても丁寧に教えてくれた。自分の仕事が長引き、遅くなっても嫌な顔一つもせずに教えてくれる優しい女性だ。
 ……よく見失うのが少し困るけど。美人さんであるのに、なんでか影が薄いんだよね、生徒会長さん……。

「しかし、クリームヒルトが貴族ですか……生徒会メンバーで平民は私とシルバ君だけになってしまいましたね」
「しかもシニストラ子爵家の私やカルヴィン子爵家のシャルより上。その上フォーサイス家は学園内を見ても上の方……一気に立場が上になりましたね」
「あはは、そうだね! けど、今まで通りお願いね! 大丈夫だとは思うけど!」
「分かってますよ、クリームヒルト伯爵令嬢!」
「はい、分かっていますよ。クリームヒルト・フォーサイス卿!」
「あはは、分かってないね! ……ところで、クリームヒルト・フォーサイスって、名前だけ聞くとなんか強キャラっぽくない?」
「あ、分かります。燃える方のアドベンチャーゲームとかだと、間違いなく戦闘系で上位陣に居る感じがしますね」
「敵か味方か分からないけど、間違いなく裏でなにかやりそうだよね……絶対に私みたいに小柄じゃなくって、背が高くて格好良くて……軍服、あるいは――」
「騎士服ですね!」
「だよね!」
「……彼女らはなにを言っているのか分かるかな、スカイ君」
「……分かりません。前世の日本NIHONとやらだとそうなる、という感じじゃないですか?」

 途中でこっちの会話に気付いたのか、メアリーちゃんとスカイちゃんも話に入って来て、軽口を叩き合い笑い合う。ついでにメアリーちゃんと意気投合してハイタッチもする。
 ……こうしているだけでも本当にありがたい話だね。私のシキでの影騒動時の噂が広がって遠巻きに見る学園生が増える中、こうして友達として話してくれるだけでも本当に嬉しい事だ。

「ところで、そっちの話は決着ついたの?」
「決着とは?」
「メアリーちゃんがエムって話」
「違いますって」

 私が水分を一口補給し尋ねると、メアリーちゃんは即座否定をする。

「えー、でもメアリーちゃんって正直エムだよね?」
「……クリームヒルト。それ以上揶揄うと、私は貴女にバーガンティー殿下について問い質すという事をしますよ?」

 くっ、メアリーちゃんがいきなり切り札ジョーカーを使ってきた。
 それ以上言われると私はなにも出来なくなってしまうではないか!

「あー……でも、メアリー君って、確かにマゾヒスト気味だよね」
「生徒会長!?」

 しかし私の代わりに生徒会長さんが代わりに攻めてくれた。
 普段であれば事の成り行きを見守る性格だけに、攻め込んだ内容にメアリーちゃんは驚愕する。

「な、何故そのような……!?」
「いや、なんていうか、今の模擬戦闘でもそうだけど、痛みに対して苦痛よりも喜びが多い気がするんだよね、メアリー君の場合は」
「そ、そんなはず無いです!」
「やっぱり対象に見られる事によって興奮する性格なんですね……!」
「やっぱりじゃないですよスカイ!」

 生徒会長さんの言葉に強く否定するメアリーちゃん。
 普段影の薄い生徒会長さんがこうして存在感を発しているのは……昨日聞いたスケベイ話に触発されてスケベイ話をしているからだろうか。

「生徒会のメンバーに褒め称えられても、照れる事は有るけど靡きはしないし……」
「強気で行く前にメアリー君が自然に抑えるから気付かないだけで、多分強気に弱いよね」
「そうですよね。ある程度は自然に対応して抑えられますが、一定以上責められると途端に慌てふためきますし」
「でも、痛みに対する忌避感が少ないのはなんでだろう」
「あ、黒兄が言っていたんだけど、“メアリーさんは前世で痛いがデフォだったから、生きる事を痛いと認識していた”可能性があるってさ」
「前世では病弱だと聞きましたね。つまり……」
「メアリー君は生きるという認識が、前世の経験上“痛い”だから、今世でも痛みが生きる感覚を呼び起こすという事で……」
「痛みに忌避感が無く……むしろ前世で痛みを耐えるために、痛みを耐えられるように認識が変化した可能性もありますから……」
「けれど前世ではそれでも耐えきれない痛みだったかもしれないね。けど、痛みを生きるための快楽と覚えた事は忘れずに、程よい痛みなら……」

 私達三人は話し合い、そしてメアリーちゃんの方を向く。

「……これはヴァーミリオン殿下達に、サディストで攻めろとアドバイスした方が良いかもしれないかな」
「そうなるとシャルは駄目ですね。アイツ、緊急時と私以外の女子にはあまり攻撃的に出れませんし」
「あはは、メアリーちゃん。セルフ亀甲縛りとか覚えてみる?」
「だから違いますって!」
『大丈夫、エロに対するスタンスはヒトそれぞれだから……』
「声を揃えて言わないでください!」

 私達の言葉に、メアリーちゃんはアリーナに響く声で否定をした。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品