追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

男性陣のY談-生徒会-_3(:茶青)


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「――はっ、いつの間にか夕方に!?」

 気が付くと日が傾き、空は茜色に染まっていた。
 おかしい。話す前はまだ日が高く昇っていたはずなのに、何故このような時間帯になっているのだろうか。
 メアリーの眼鏡の話題から、メアリーの素晴らしさについて語りだした。まだまだ話足りないというのに、もう学園から変える必要があるなど、時間がメアリーの素晴らしさに追いついていない。

「だが実に素晴らしい時間だった……キミ達とはより一層仲が深まった気がするよ……!」
「ああ、やはり共通の話題があり、それが素晴らしい存在というのは話が弾む……!」
「楽しかったし、知らない色んな一面は見れたとは思うんだけど……これってスケベな話なの?」
「異性について語っているのだからス――そういった話題なのではないか?」
異性メアリーには隠すべき話題で、魅力について語る……成程、これが猥談か。確かに仲は深まった気がする……!」

 今まで私達はメアリーに対して多少なりとも褒め称え、素晴らしいと言い合う事は有った。その他だといかに私達がメアリーを愛しているか牽制し合っていた。
 だが今日の様に、眼鏡の件で言い合いこそあったものの、メアリーについて語る事で互いについて大いに理解が深まった気がするのは気のせいではあるまい。
 ヴァーミリオンも今ほど言ったが、成程……これが猥談、スケベな話か。表立ってするべきでは無いが、エクルの言っていたように話せばより仲が深まる話題である。

「ところでエクル先輩。最初話す条件として仰っていたメアリーの好きな部位などの件ですが……」
「ああ、それか」

 今日はそろそろ解散かと思ったが、そういえばメアリーの趣味性癖に関して聞いていなかったなと思い出し、解散する前に聞いておく。
 あまり本人の居ない場所で聞くべき話題では無いのだろうが、メアリー自身が提供してきたのだから問題は無いと思っておこう。

「その前に、キミ達が好きな異性の部位について聞かせてくれないかな。流石にスケベな話でメアリー様について語っていただけじゃ、メアリー様に報告した際に、多分羞恥で身悶えると思うから」

 羞恥で身悶えるメアリーも見てはみたいが……確かに、報告するならばメアリーについて語っただけの話題は良くない。
 いくら好きな相手についての語りで、デリケートな部分には触れなかったとはいえ、なにせ男の猥談の対象になっていたという内容だ。エクルの意見に応えたいが……異性の好きな部位と言われても、少々悩んで――

「異性の好きな部位フェチが分からないなら、メアリー様の好きな部位で良いんだよ」
「指」
「唇」
「目」
「お……む、胸……」

 それならすぐさま答えられると、ヴァーミリオン、私、シャル、シルバの順に即答した。
 しかしシルバは胸か……私も好きかどうかと問われれば好きではあるのだが(なお、メアリーに嫌いな所はない)、意外というか、素直に女性の象徴をあげたな。

「ああ、シルバくんはメアリー様の胸に顔を埋めた事があるからね。それで好きになっちゃった感じかな?」
『どういう意味だ!?』
「エクル先輩!?」

 私達はシルバに詰め寄った。くそ、どういう意味なんだ。
 メアリーの胸に顔を埋めたなど、どういう感触だった――ではない、不品行な行為をするなど羨まし――感想を――とにかくどういう意味だ!

「エ、エクル先輩なんで知っているの!?」
「知っているよ。偶然モンスター討伐の依頼が競合バッティングし、襲われた時に暴走しかけ、傷付いた時に、逃げない様に抱きしめたんでしょ。埋めてよしよししたんでしょ」
「だからなんで――あ。あのカサスとかいうゲームの出来事!?」
「うん、あのゲームでは外見が我が妹だったけど、メアリーくんはあのイベントをそのままやっただろうからね。柔らかさのサンドイッチ、性の目覚め……だから興味を持つのも仕様がない事さ。羨ましいねこの」
「いや、あの、確かにそう、だけど!」
「まぁあの時のメアリー様はゲームの世界認識だったし、弟扱いだからやって貰えたんだろうけど……良かったね、揉めて」
「揉んでないし、堪能する余裕も無かったよ、認められた嬉しさで泣いてそのまま眠っちゃったし!」
「知ってる。けどそれで胸フェチになった訳だ。最高の胸を知っちゃったんだねぇ……」
「そう――だけど、なんなの!?」

 くっ、何故私の……ゲーム? のイベント? ではそういったイベントが無かったんだ……!
 だが私には別の思い出がある。例えあの時メアリーの認識は物悲しいモノでも、間違いなく思い出としては刻まれている。ヴァーミリオンという強敵、シルバという距離の近い存在はいるが、私は負けないからな! ……シャルとエクルは……違う意味で心配だがな。

「ああ、もう、エクル先輩、もう良いでしょ! ほら、他のヴァーミリオンとかの好きな部位について、詳しく聞けばいいじゃん!」
「その場合、平等に行くと、シルバ君はメアリー様の胸の好きな所をさらに語る事になるけど良いのかい?」
「う。……で、でも、他の皆がそうそう語れるとは――」
「メアリーの指はケアを欠かさないから柔らかく、白魚の様に美しい。だが、綺麗であると同時に、苦労を知っている指であるから好きだ。メアリーの指の仕草は音楽を奏でる音楽家の様に、動きが洗練されていて芸術的で好きだ」
「メアリーの紡がれる言葉と声は至宝なのは皆知っているでしょう。ですが、耳から聞こえる音だけでなく、その言葉を発する唇は目で追いたくなり惹き込まれる魅力がある。その唇を奪いたいと思うのは必定、まさに至高の宝石だ」
「アイツの眼は優しく、時に厳しく、全てを見通される気分になる。目で言葉を語る、とでも言うのだろうか。口下手な俺に対してもアイツは俺を真っ直ぐ見て、全てを受け入れ、全てを高みにあげるために拒絶もする。……あの目に見られれば、俺は強くも弱くもなれる。だから好ましく思う」
「さ、次はシルバくんの番だ!」
「なんなのお前ら、なんでそんなに饒舌なの!?」

 饒舌もなにも、私達はこれでも抑えている方だ。
 早くしないと生徒会室が閉まり、メアリーの好きな事を聞けなくなるので、早めに、簡潔にまとめ上げただけというのに、シルバはなにが問題だというのだ。

「さぁ、シルバくん。観念するんだ!」
「う……メ、メアリーのお――胸は、全てを受け入れてくれそうな優しさと、母性があって……好きです」
「はいよく出来ました」
「……バカにしてない?」
「してないよ。女の時はこれの何処が良いんだ、男の雄っぱいの方が良いだろうとか思っていたけど、男になると惹き込まれて仕様が無いと分かるからね。……なんだろうね、これ」
「知らないよ。僕はずっと男なんだし」

 あと、オスッパイとはなんだろうか。
 前後の文から想像は出来るのだが、あまり追及しない方が良い気がする。

「ふふ、だがスケベな話っぽくなって来たね! では、次の――」
「あのさ、君達。そろそろ良いかな?」

 私達がエクルの言葉、メアリーの好みの部位について聞けるのではないかと思い、固唾を飲むが、その前に声をかけられた。
 この声は……生徒会長か。
 ……そう言えば居たのを忘れていた。

「はい、どうかしたのかな、生徒会長」
「どうかしたかじゃないよ、エクル君。盛り上がっているのは良いけど、生徒会室も施錠しないと駄目なんだから、そろそろ終わってね?」
「あ、はい、失礼しました」
「ところでさ。言うか言うまいか悩んでいたんだけど……君達さ、私に言う事はない?」

 生徒会長は机の上の資料を整頓しながら、私達に尋ねてくる。
 普段は流されやすく、私と同じ苦労性の生徒会長がこう嫌味の様に言ってくるという事は……私達が生徒会長を忘れて話し、仕事をサボっていた事を言っているのだろう。
 確かにまだ残りがあったのに、夢中になってしまった。メアリーの素晴らしさに時間がピついていないとはいえ、私達の失態である。

「申し訳ない、生徒会長。今日の仕事は明日片付けよう。王族の仕事が午後からあるが、全て午前で終わらせるつもりで――」
「いや、君達の仕事は君達がスケベな話をしている内に私が終わらせたんだから良いけどさ」
「え? ……わ、僕の分も終わってる!?」
「これは……申し訳ない事をした」
「別に良いよ。君達は別件でも忙しいだろうから、フォローをするのは会長としての仕事さ。でも、今後は注意してね?」
「お心遣い、感謝します」

 これはなんという事だろう、まさか私の分まで終わっているとは。
 流石は生徒会長。影は薄いが、私も尊敬する優秀ぶりである。今度クロ子爵から貰ったストレス解消グッズの、私のおススメの一部をプレゼントしよう。
 だが、そうなると会長に言うべき事とはなんだろう。謝罪をする……とは少し違うだろうし。

「……君達に言いたい事があるんだ」
「なんでしょう、会長」

 私達が悩んでいるのを見て、生徒会長は言った方が早いと思ったのか言葉を口にする。
 私達はその言葉を待ち、内容によっては全員で謝罪をしなければならないと思い、背を正す。

「そちら系の話をするのは結構。興味を持つ年頃だし、生徒会の仲が深まったようで会長の私も嬉しい限りだ。けど……」
「けど?」

 会長はメアリーの話題である意味興奮していた私達に、あくまで冷静に告げた。

「……そういうのはさ。私の……異性の居ない場所でやって欲しいかな……」
『あ』

 そして私達は生徒会長――フォーン・フォックス子爵家令嬢の言葉に謝罪をした。
 私達にとってはメアリーは最優先事項でも、流石に優先して謝らなければならない事もある。

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