追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
男性陣のY談-生徒会-_2(:茶青)
View.アッシュ
「だが、メアリーの男に対する趣味や好きな部位などを話して良い、と言うのはどういう意味だ?」
私達全員が席に着き、話し合う体勢になるとヴァーミリオンが質問をする。
メアリーの許可を得ているというのも疑問が残るし、確かにどういった意味なのだろうか。
あまりにもの魅力的な交換条件に失念していた。くっ、私とした事が……!
「そのままの意味だよ? メアリー様や妹とキミ達と仲良くなりたいという話をしたんだが、やはりそれなら猥談……スケベな話ではないかと共通の認識になったんだ」
「なったんだ」
「多分メアリーは想像の学園生活を言っているんだろうな」
「だけど先程のキミ達のように、提案しても進んではしないとも言われた。ならば妹が……」
『あはは、ここはメアリーちゃんの男の子の趣味嗜好を教えると言えば、彼らも話してくれるよ! イケメン達がするスケベイ話……あはは、良いね!』
「――と、言ってね。メアリー様も快諾したんだ」
「したんだ」
「多分メアリーはよく分からないまま快諾したんだろうな」
「でも私達が仲良く話すなら、嬉しいとも言ってくれたよ」
メアリーと親しくそんなことまで話しているのかと思うと嫉妬の感情しか湧かないが、今は我慢だアッシュ・オースティン。メアリーは前世で家族以上の付き合いを持つ、最も心を許せていた相手と一緒に居る事が出来て嬉しいだけだ。嫉妬は……くっ、やはり羨ましい……!
……羨ましさは良いんだ。私達が猥談をしてメアリーが喜ぶなら喜んでしようじゃないか。
だが問題があるとしたら。
「……猥談ってなにをするんです? ヴァーミリオンやシャル、シルバは過去に……」
「仮にも王子である俺が周囲と話せる環境にあると思うか」
「幼少期はお前達かスカイと過ごし、それ以外は剣の道であったからな……」
「学園に入るまで友達がいなかったのに出来る訳ないし、学園でもアルバイトで忙しくてしていない。……セクハラっぽいのはよくされたけど」
「……そうか」
さて、いきなり手詰まりだ。誰もした事がないというし、シルバに至ってはあまり触れない方がよさそうな気もする。……シルバはセクハラをされるようなタイプというか、反応を楽しまれるタイプだからな。
「まぁキミ達は貴族男子として育てられたし、言い寄る女性は多いだろうから、選り取り見取り、あるいはウンザリしているかもしれないからね。わざわざ好みの女性と言うのも難しいのかな?」
「そういうエクル先輩が言い出しっぺなんだから、エクル先輩からなにか話題を提供してよ」
「私かい? そうだね……」
シルバに言われ、眼鏡をクイッとあげながら考えるエクル先輩。
ついでに何故か眼鏡(今日はフチなしスクエア)がキランと光り、一瞬目が眩む。……アレも前世持ちが故の特殊効果だったりするのだろうか。
「……やはり、眼鏡が良いと思うんだ――」
『知ってる。他で』
「だが、眼鏡の良さを語るには数日程度じゃ――」
『他で』
「くっ、私以外の全員に言われたんじゃしようがない……!」
エクル先輩の眼鏡好きは知っているし、散々語りは聞いた。
アレも最初は演技だったのではないかと思ったのだが、メアリーは「え、そんなはず無いですよ。というかそんなに語ってます……?」と言われたので、素だという事も知っている。
ちなみにメアリーにこの世界と似た物語の登場キャラと違うとバレないように、隠れて語っていたらしいが、そこまでして語りたかったのかと思いはする。
あと近くで「え、全員……?」と疑問するような声が聞こえたのは気のせいか。
「ううん、七三分け眼鏡はエロいとか、オールバック眼鏡はエロイとか、掛け直し方にも良さの種類があるとか語りたかったんだけどな……」
「……それって、女性の時のフェチズムじゃありません?」
「男女問わず眼鏡をかけたら魅力的という話だ。……アッシュ君、かけたりは――」
「しません」
エクル先輩は恋愛が男女どっちを対象にすれば良いか未だに悩んでいるというし、変に狙われたくない。
「だけどさ、スケベ話なんてそんなもんだと思うよ? 眼鏡みたいに好きなモノを付ける女性が好きだとか、眼鏡をかけ直す仕草が好きだとか、そういったものに興奮するのがスケベ話だと思うんだ。だとすれば、眼鏡を封じられた私にスケベ話は難しいよ」
言いたい事は分からないでも無いが、どんだけ眼鏡好きなんだこの先輩は。
「エクル、その……ス、スケベっていう言い方以外は無いのか」
「よし、そんな事を言うむっつりシャルくんからなにか好きな部位を話しなさい。先輩命令だ」
「むっつり!? 私は、その……」
エクルに言われ、納得いかないような表情のシャルであったが、先輩と言われて律儀になにかを答えようとするシャル。変に言われても答えようとする辺りは騎士の上下関係を意識した故のものだろうか。
「……メアリーが、眼鏡をかければ素晴らしいモノになると思う」
『――――』
そしてシャルの言った言葉に、全員が固まった。
メアリーに……眼鏡……
「ウェリントンタイプか」
「いや、スクエアタイプ……オーバルのナイロールも良いかもしれない」
「ここは敢えてのフォックスタイプで、強気な印象を出すのも良いかもしれない」
「かけ直す時は何処を抑えるのが良いと思う?」
「中央で抑えるように上げるのが良いのでは」
「いや、右側をあげるとメアリーさんの理知さが出ると思うんだ」
「理知さか……優しさの中に溢れている表現としてピッタリだな」
「色はやはり黒色で、線を綺麗にするのが良いだろうか」
「いや、瞳と同じ赤色……髪と同じ金色……ううむ、悩ましい」
「色だけでなく、フレームのサイドデザインも必要ではないか?」
「そうだね、花びらの絵が描かれているとかだと、メアリー様の可憐さにピッタリだ」
「そういえばエクルは眼鏡を多く持っていたな。四十程度とか……」
「レンズを合わせていないのも含めれば百三十種だよ。必要なら三倍に増やすよ」
「よし、ならばその中からメアリーに似合う眼鏡を俺が選ぼう。そして似合いそうなやつから、俺が王族権限として職人を呼び、オーダーメイドとして作らせる」
「はは、私が作らせるよ。前世からの付き合いなんだ。メアリー様に最も合うのを選べるのは私さ……!」
「私です。貴方達のように物量で解決しようとする輩に任せられません……!」
「なにを言っているの。僕が選ぶよ。同じ平民の立場で、同じ目線で選ぶ事が出来る僕が選ぶよ」
「俺だ。道具の目利きには自信がある俺ならば、アイツの最良を選ぶ事が出来る……!」
私達は睨み合った。
メアリーに眼鏡という、間違いなく似合い、新たな一面を見る事が出来る瞬間を見逃したくないがためだ。
そしてコイツらはメアリーに眼鏡という抜け駆けをしようとしている。なにせネックレス等の装飾品の類をメアリーは「私には不要ですよ」と言って受け取らないが、眼鏡ならまだ気持ちの切り替えとして受け取って貰える可能性がある。私達がプレゼントとしたものを身に着けてくれるというチャンスを逃がしてたまるモノか……!
「……この子達、楽しそうだね……けど、なんでスケベな話から眼鏡になっているんだろう。……まぁ好きな相手の話だから、スケベなのかな……だとしてもメアリーは大変だね、この子達の相手をしているなんて……。今度、ストレスを確認して、スイーツでもプレゼントしようかな……」
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