追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

幕間的なモノ:とある幸運な王女の成長(:赤紫)


View.フューシャ


 幕間的なモノ:とある運な王女の成長。


「フューシャ。明日の帰宅時には細心の注意を。ティーは怪我を負っているのですから、いつもの動きは期待出来ませんので貴女がしっかりするように」

「フューシャ、怪我には気を付けろ。それとお前が一人前の王女として認められるためには、自分の事に責任を持つ事だからな。それを忘れるな」

「フューシャ、後はよろしくね。ティーは変に空回りをしているかもしれないから、貴女がしっかりする事!」

「フューシャ、互いに助け合う事を忘れるな。なに、お前は正当な我が王国の王族だ、強さは既に持っている。その強さ……優しさを持っているのなら、お前は大丈夫だ」

 私のお姉様、お兄様達は、私に言葉を残してシキを去っていきました。
 接触を避けようとする私に対し、多少無理にでも手をとったり頭を撫でたりしたりと、皆様が私の体調と精神を心配してくださいました。
 末妹であるから可愛がられる……という事では無く、単純に私が手のかかる妹だからでしょう。
 過去の王族の中でも類を見ない、才の在る王族として名を連ねるお姉様達と違って、私は取り柄は有りません。
 これで性格が明るく誰もに慕われている、というようなものがあれば良いのですが、私は姉弟の中でもコミュニケーションに乏しいような……というか、むしろ私達姉弟の中では一番民に慕われていない王族でしょう。

 貴女わたしがしっかりする。
 怪我に気を付けろ。
 しっかりする事。
 互いに助け合う。

 ……なにせ、これらの言葉がお姉様達のお優しい激励の言葉だと分かっていても、“お前は奇妙な運があるから、他者に迷惑をかけるな”と思われているのではないかと思うほどに、私は卑屈なのですから。
 私が接する立場であればお断りするような性格です。
 さらには妙な運の事も有り、あまり外には出ず引きこもり、レッドお父様の子供の中で顔すら一番知られていない王女です。
 お陰で“幸運な王女”という異名の他に、“深淵の美少女”なんて異名も得ました。見かけないのを良い事に、勝手に盛り上がって美少女になっちゃいました。イェイ。
 実物を見たらがっかりするでしょうから、深淵のローレライとかの異名も広げましょうか。イェイ。

――そうすれば……近付かれないかもしれないし……

 ローレライは歌声で誘惑し、近付いた者を破滅させる魔女だそうですから、私にはぴったりと言えましょう。
 問題は声が出すのが苦手なので、歌声で誘惑できない事でしょうか。
 でも近付けば破滅をもたらすのは確かです。
 お姉様達やお兄様達、お父様達やお母様は私を気を使ってくれてはいますが、見捨てられてもおかしくは有りません。
 私を邪魔に思い、排除しようとした方々が、不運な事故により再起不能になったり。
 邪教の集団が私を攫い、祭り上げようとしたら死んだモンスターが蘇って私以外を襲って邪教を壊滅させたり。
 私がお父様に言われ行った先で、適当に魔法を放ったらそこから新たな地脈が発見され防衛の拠点として成り立つような幸運が起きたり。
 同じような行動を別の場所でしたら新たな資源が発掘されたり。
 ……下手に扱うよりは飼いならす方が国の利益になると判断されなければ、私は今頃この世に居ないでしょうが。

――でも……それで良いと逃げてきた。

 親姉弟、そしてスカイ以外は私を避けていました。
 正確には接すれば皆さんが傷付くので、私が避けるようになった後も、適度な距離をとってくれたのは親兄弟と護衛として貧乏くじを引かされたスカイだけでした。

「じゃ、次会う時は先輩後輩だね、一緒に楽しい学園生活を楽しもう!」
「そうですね、私めも楽しい学園生活が楽しみです!」
「楽しい学園生活を楽しむって……頭痛が痛いみたいじゃないかな……意味はなんとなく分かるんだけどね」

 けれど飼いならされ、それに甘えている私ですが。
 王族が伝統的に行うちょっとした仕事というか、儀式のような行動の中で出会ったとある友に、心を動かされました。
 奇妙な事が起きても運がどうしたと手をとり。
 一緒に温泉に入っていると、隕石が“彼女の頭上に落ちて来ても”対応し、彼女は笑いました。
 やはり体質を封じないと不幸が起きると逃げようとしても、温泉に入っていたため封じの服を着ていなかった私に対し、彼女と彼は私の手をとる事を躊躇いませんでした。
 幸運を利用しようとしている……訳ではなく、ただ一緒に居ると楽しいからと、友達になって欲しいと手をとってくれたのです。
 それは私にとっての、初めての友達と言える存在が出来た瞬間でした。

「ねぇ……クロさん……聞きたい事があるのだけど……」
「はい、どうかしましたか。えっと……エフさん」

 あの始めて私に友達が出来た日から日にちは経ち、今はその友達がシキを去った後です。
 私はクリームちゃんの乗る馬車を見送り、見えなくなるまで手を振っていました。
 そして手を下ろしたタイミングで、偶然クロさんが独りでいる所を見たので私は話しかけます。
 ……数時間前の事があるのでちょっと恥ずかしいですが、聞くならばこの方であろうと私は思うのです。

「クリームちゃんの……強さの秘訣って……なにかな?」
「強さの秘訣ですか?」

 聞く内容はクリームちゃんの強さについて。
 あの、時には弱い所と思う所はあっても前を向き、自分に出来る事を探し続ける強さについて、私は知りたかったのです。
 聞いた所で私も出来る事とは思えませんが、それでも聞きたかったのです。

「ええと、質問に質問で返すのも失礼なのですが、何故本人ではなく私に?」
「それは……クリームちゃんの強さを……一番に見れるのは……クロさんだと思ったから……です」

 クリームちゃんの前世ではクロさんはお兄さんだったと聞きますし、クロさんを慕っているように思えますし……なんとなく、彼女を“見れている”のはクロさんだと思ったからです。

「そういった事ならお答えいたします。アイツの強さは――」

 私がその事をたどたどしく伝えると、クロさんは少し悩んだ後、

「正しいと思う事がある。だから、する。……という感じですかね」

 と、答えました。

「アイツはアイツなりに悩む事もあるんですが、結局は正しいと思う事……良心に従って、出来る事を出来るならばする。それをやっているだけなんですよ」
「……だから……強いんだね……」
「ええ、それだけだからこそ、強く見える事もあるんですよ。支え合う相手が今は居るからこそ、余計に」

 クロさんはもう見えなくなったクリームちゃんの乗った馬車の方を見ながら答えます。
 その言葉には、強くとも弱く、危ういのだという意味が含まれているようにも思え、だからこそ今は大丈夫と言っているようにも見えました。
 ……やっぱり、この方に聞いてよかったです。

「フューシャ殿下。俺の妹をどうかよろしくお願いします。振り回される事も多いとは思いますが、根は悪くないので」
「うん……こちらこそ……よろしくお願い……したい」

 クロさんは私を偽名ではなく、本名で呼んでお願いすると伝えてきました。
 そこからは、クロさんの兄としての優しさが見えたような気がしました。

――正しいと思ったから、する。

 それは私がやろうとも思っても、やれなかった事でもあります。だからこそそれを出来ているクリームちゃんが強く見えたのでしょう。
 ……クリームちゃんが強くあるために、そして私が強くなるために、私は彼女の友達として頑張りたいと、今強く願ったのでした。

 いつか、彼女の友達として胸を張れるようになるために。



 ……あ、胸を張ると言えば……

「あ……それと……もう一つ言いたい事……というより……謝りたい事が……」
「謝罪ですか? エフさんに謝られるようなことはなにも……」

 私の言葉に疑問顔になるクロさん。
 本当は忘れようとしたのですが、改めて思い返すと失礼なことをしたので謝罪をしっかりせねばと思った次第な事があるのです。

「おっぱいソムリエの……クロさんに……だらしないモノを触らせて……改めてごめんなさい……」
「お待ちください。なんですかその異名」

 私が私の胸でクロさんの顔を埋めた事を謝ると、クロさんは何故か真剣な顔で答えを返しました。

「え……クロさんは……多くの女性の……胸の大きさや……形状を把握する……ソムリエだって……聞いたから……」
「いや、知っているのは確かなんですが、服を作る際に数値として知っているだけで、ソムリエではないです」
「違うんだ……」
「何故残念そうなんです」
「慣れている男性なら……私のだらしない胸程度なら……一回埋めた程度は……気にしないかな……って」
「い、いえ、フューシャ殿下の胸はだらしなく無いですよ!」
「本当に……? ヴァイオレットさんみたいな……綺麗で大きくもないよ……?」

 ヴァイオレットさんは何故かクロさんが服を脱がしていたので見えたのですが、私と違って整っていて綺麗でした。羨ましいです。

「そもそも俺、服越しでしたし、よく分からないんですが……」
「それは服越しでなく……実際に触りたいという事……? 流石に恥ずかしい……」
「違います! 俺が触りたいのは――」
「あ」
「え」

 クロさんが慌てて否定しようとすると、クロさんは先程の馬車の影響で窪んだ地面に足をとられてバランスを崩しそうになります。

「ふっ、この程度――」

 しかしこの程度では数時間前の二の舞にはならぬと言わんばかりに態勢を整え、距離をとろうとした所で。

「え、クロ殿?」
「え――ごふっ!?」
「え――きゃ!?」

 恐らく私達の姿を見て近付いて来ていたヴァイオレットさんが、丁度クロさんの避けた場所におり。
 偶然同時に重心をずらした歩を進めていたため避けきれず、ぶつかり。

「のぅわっ!?」
「ゃぁあ!?」

 互いに何故か足を絡ませて、倒れ込み。

「………………」
「………………」
「…………ごめんなさい」
「…………謝らないでくれ。これはただの事故だ」

 ほんの数時間前に見た光景と似た光景が、私の前で起こっていました。
 違うのは私はおらず、ヴァイオレットさんは服を脱いではおらず、谷間に埋めているという事でしょうか。
 ……とりあえず。

「……ごめんなさい」
「謝らないでください、フューシャ殿下。これは事故で、貴女は関係無いのですから……」







 おまけ:とある肉体好き変態の運に対する研究結果

「あ、そういえばフューシャ殿下。殿下が気にされていたこのシキに来てからの……ラッキースケベイ現象に関してですが」
「うん……なにか分かった……? やっぱり……ただの偶然……?」
「いえ、フューシャ殿下の魔力と同調してラッキースケベイが起きています」
「え……?」
「私の仮説ではあるのですが、フューシャ殿下の幸運は、フューシャ殿下の有する魔力によるものというのは以前説明いたしましたよね?」
「う、うん……ティー兄様の……雷を帯びる魔力のように……私の魔力が……“場”を作っているから……私に幸運として作用している……だっけ……?」
「はい。あくまでもフューシャ殿下の運を、フューシャ殿下の資質によるものとして無理に仮定する場合の仮説ですがね」
「それが……シキに関係しているの……?」
「はい。この地に流れる地脈の魔力は、どうも王族の魔力と相性が良く、溶け合う事が分かっているのですが……」
「うん……」
「それがどうもフューシャ殿下の場合、周囲にも良い思いをさせる方向に作用しているようで。近くに居てフューシャ殿下の魔力を浴びると、幸運がその相手にも作用する可能性があるのです。相手の良い思いをフューシャ殿下の良い思いとして作用を施し、場を――」
「えっと……分かり易く……簡潔にお願い……」
「つまりですね。……不敬ですが、言わせて頂きます」
「うん……」
「フューシャ殿下は――思春期特有のエロへの欲求が、シキでは幸運として満たされるように作用しているんです」
「……え」

「つまり、フューシャ殿下はシキに居る限り、ラッキースケベイクイーンとして存在するのです!」
「えぇ!?」





次話は七百話記念話です。

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