追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

睡魔があっても想像す


「わー、温泉ー。相変わらず気持ち良いー、眠気が吹っ飛ぶよー」
「ククク……珍しい事を言うね、ブラウン……しかし、そういった理由で僕を呼ぶくらいなら、カーキーや神父の方が良かったんじゃないかい?」

 壁が隕石により壊れ、修繕が終わった温泉の男湯にて。
 俺が巻き込んだのは見た目大人な子供ブラウン善良黒魔術師オーキッドであった。
 ちなみにオーキッドは服を脱いでいるのだが、黒い靄がかかって輪郭が分からないというよく分からない状態である。
 両名共偶然見かけたので巻き込んだのだが……

「カーキーは今よく分からない状態だし、神父様は寝ていたからな……あとほら、ブラウン相手だとなんか申し訳ない感じがあるじゃないか」
「つまり……無垢すぎて申し訳ない、という事か」
「そういう事。一緒に入ったらブラウンも楽しくて喜ぶだろうけど、身体は誰よりも大人だからなぁ……むしろあの婦女子勢が困りそうだ」

 精神年齢は七歳なのだから、男女の違いが明確に分かるか分からないかくらいのはずだ。
 ブラウンは別に異性に見られる事と同性に見られる事の違いを理解していないから、堂々と見せるだろう。そうしたら困るのは恐らくあちら側であろう。
 そして向こうもそれを理解しているから――あ、もしかして俺ってその辺りのせいで大丈夫だと思われているのだろうか。見せもしないし、意識して見ようともしないだろうから別に大丈夫、と言う感じに……だとしても一緒に入ろうとはしないよな、普通。

「だが、無垢なる者こそ汚したい、という気持ちジャンルがあると聞いたが……オネショタ、であったか」
「誰に聞いたそれ。いや、クリームヒルトかメアリーさんだな? 後で注意するか」
「いや、ヴァイオレット君だが」
「え、ヴァイオレットさんなに言ってるの!?」

 まさかの情報元に動揺する俺。
 他にもヴァイオレットさんから違法ショタという言葉も聞いたらしい。ブラウンのような存在を指す言葉との事だ。……聞いた事ないが、合法ロリ的な感じなのだろうか。
 何故そのような……と思ったが、聞いていくと情報源はやはりクリームヒルト達のようであった。…………良かった、ヴァイオレットさんが考えたとかじゃなくて。

「と、ともかく。ブラウンがいれば安心かな、と思ってな。それにオーキッド相手だと正直精神的に落ち着く。だけど巻き込んでゴメン」
「ククク……まぁ、そういう事なら良いさ。だが僕だと落ち着くのかい?」
「オーキッドは変に悪ノリしないからな……それに、ウツブシさんも居るから大丈夫かなとも思ってな。あ、ウツブシさん、怪我は回復しているようだけど、大丈夫か?」
「ああ、それなら……」

 オーキッドはカーマインの件でウツブシさんを狙われた。
 ウツブシさんはパンダ状態ならば戦闘力は高いのだが、猫状態だと精々C級モンスターを屠る程度らしい。それでも十分に凄いが。
 さらにはオーキッドは魔法が強いだけではなく特殊で、直接相対しても攻撃し辛い。ならばと言わんばかりに、オーキッドを苦しめる方法としてウツブシさんを狙ったようだ。
 結果はウツブシさんの腹部を割かれる大怪我。オーキッドはその場に居た者を怒りのまま殺――そうかと思うほど激昂したが、瞬時に操られているという事を見抜いた事と、ウツブシさんの治療を優先するために離脱を選択した。

「ククク……そのかいあってか、ウツブシも回復したよ。むしろ療養に良いとして温泉には来る気だったからね。男女別だから彼女だけにするのは不安だったから、むしろ彼女らと入れて良かったよ」
「そりゃ良かった。……って、猫だけどお風呂は大丈夫なのか? あと怪我上がりなのに入っても……」
「アイボリー君に許可は得たからね。あと彼女はパンダだからお風呂は好きだよ」

 それパンダ関係あるのか……?
 ああ、いや。パンダは確か人間っぽくお風呂に入っていたような気がする。ビャクが「わぁー!」と言って目を輝かせて写真を撮っていたな。そしてパンダが風呂に入ったグッズを買わされた。
 だからといってお風呂が好きとは限らないが……まぁこの世界のパンダはなんか違う存在だから別に良いか。

「ところでさー、僕はあのクーデター? の時よく分からない事をされたんだけど……」
「あ、そういえばブラウンがなにをされたか聞いてなかったが……」

 クリがブラウンを家に運んだ時に襲われ、一緒に対応していたのは聞いていたのだが、具体的になにをされたかは聞いていない。
 知っているのはクリが筋肉で、ブラウンが魔法で周辺を蹂躙したという事だ。
 ……あの辺りだけクーデター組が「筋肉女子怖い」とか「ショタ怖い」とかよく分からない事を呻いていたんだよな。

「運んでもらったお礼に、家にあった飲み物をクリお姉ちゃんと飲んだんだけど……それ以降目が冴えちゃって眠れないんだよね」
「……それ、大丈夫なのか?」

 もしもそれが毒とかの類ならば、今すぐブラウンを連れてクリの所に行って様子を確認しに行かないと駄目なのだが……

「一応色んな方面のお兄ちゃん達に見て貰ったけど、大丈夫だって。なんだか“こーふんする”らしいんだけど、僕は子供だから大丈夫だったんだって」

 ……それってもしかして……いや、考えない様にしよう。
 眠る事が大好きなブラウンに対し、嫌がらせで眠れなくしたとかそういう類のはずだ。そうに違いない。

「ところでクリは?」
「なんか筋肉があるから大丈夫だって言ってた」

 筋肉スゲェな。筋肉は全てを解決するのか……!
 という冗談はともかく、オーキッドが補足してくれたのだが、本来なら“興奮する”成分があるのだが、クリの場合は興奮成分が筋肉の運動機能に使われ、クーデターを鎮圧するさいに全て使われたのではないかと言う話だ。
 クリの筋密度だからこそ、そのような結果に落ち着いたのではないかとの事。……だからさっき会った時複雑そうな表情であったのか、クリの奴。

「ところで……なんでウツブシが居ると大丈夫なんだい?」

 俺がクリに後でどう話したものかと悩んでいると、オーキッドが気になっていたかのように俺に聞いて来る。

「ん? 妻が居る前で夫の裸を見ようとする女性陣を放っておかないかな、って」
「……いや、ウツブシは見たかったら見るが良い。というタイプだよ」
「え」
「夫に見惚れるのは仕様が無い事だ。なにせ私の夫だからな! ……という感じにね」
「マジかー。ようは魅力的だから惹かれるだろうが、夫の心は私が得ている。だから許せるのは当然だ、奪われる心配は無いのだからな。と言う感じか」
「ククク……マジだよ、よく分かったね。だけどそんな自信に溢れているのに、こっちが愛を囁くと照れてそっぽを向くんだ。可愛いだろう?」
「はいはい、ご馳走様です」

 しかし、ウツブシさんはカラスバから聞いたシッコク兄みたいな事を言いだすのか。
 なんというかお互い寄り添っているからこその信頼関係なのかな……俺もそう言えるほど自信を持ちたいが、流石に照れが先行するし……よし、もう少し年数経ってから、堂々と言おう。
 誰かに見られるのは嫌だが、お前の心は俺のモノだ! ……駄目だ、言えそうにないな。

「と言う訳で、ご期待に沿えずすまないね」
「別に良いよ。巻き込んで利用しといて文句言うって最悪だろう。それに俺的には、こうやって友人オーキッドと温泉に浸かりながらの会話があるだけでも良いもんだ。今までなかったからな」
「ククク……それは僕もそう思うよ。……しかし、良いお湯だね」
「だな……」

 ああ、良い湯だ。
 怪我をしているから染みると言えば染みるが、メアリーさんとヴェールさんがなんかよく分からない方法で、よく分からないままあまり染みない巻き方をしてくれたからな……

――いかん……寝て無いから、ちょっと眠くなって来た……

 先程まで色々と緊張状態にあったが、気軽に会話をして温泉に入ったから眠気が襲ってきた。

「うわっ、メアリーの身体どうなってんの!? ロイヤルな私が霞む黄金比……!」
「ああ、大きさで言えばヴァイオレットとかの方が大きいが……何故か見惚れるな。私はそういった方面に疎いのだが……」
「ああ、やっぱりそうだ。女性の肉体の中ではシュバルツと双璧を成す最高の身体だ……!」
「ニャー……(特別意訳:あの谷間、すっぽり嵌れて気持ちよさそう……)」
「は、はぁ……ありがとうございます?」
「肌も白くて色々綺麗……これで弟を誘惑したのか……!」
「し、してません!」

 女湯からそんな会話が聞こえてくる。
 今の所平和のようだ。うん、平和に違いない。
 メアリーさんがなんだか他の女性陣に寄られて身体を触られそうな会話と音が聞こえるが、平和に違いない。

「おーい、クロお兄ちゃーん。湯船で寝ると危険だよー?」
「お前に、言われたく……無い……むにゅ……」
「ククク……駄目なようだね。まぁ今まで頑張っていたようだから、休ませてあげたいけど……」

 平和だから寝て良いはずだが、ヴェールさんの連絡が来るはずだから起きていないと……いや、でもヴェールさんはメアリーさんの黄金の身体に夢中なようだし……黄金って光るのだろうか……

「どうしようオーキッドお兄ちゃん。なにか楽しい事をしてクロお兄ちゃんの目を覚まさせる?」
「ククク……楽しい事とは?」
「うーん……あ、女湯に話しかけるとか?」
「楽しいのかい、それ?」
「うん。確かクリームヒルトお姉ちゃんが――」

『良い? 温泉施設での男湯女湯間の会話はね、想像が大切なんだよ。壁越しに普通に会話をしているけど、相手も自分も裸……その無防備なシチュは最高に興奮するんだよ!』

「――って、語ってた」
「ククク……言わんとする事は分からないでもないけどね。それは楽しいじゃなくって興奮だね」
「でも興奮するって楽しいよね?」
「……そうだね」

 ……なんだかよく分からないが、クリームヒルトに後で無垢な子供に変な事教えるんじゃない、と言わないと駄目だなと眠い頭で思った。何故だろう。

「……ところでクロ、今の意見を聞いてどう思う?」
「うーん、やはり想像って大切だよ。今もこうして聞こえる無防備な声がヴァイオレットさんだとだったら俺も興奮するかもしれない。無防備と言う、見てはいけないモノを見てしまった事による興奮は良いものだ。それが声だけでも、いや声だけだからこそ想像が湧きたたれる。それが分かるとは流石は魂の妹」
「なんかクロお兄ちゃんが語り始めた」
「ククク……彼女と趣味が合うんだね。そしてブレないねクロは」
「ヴァイオレットお姉ちゃん相手なら大抵大丈夫そうだよね、クロお兄ちゃんは」

 けど、クリームヒルトの語った事は分かるような気もする。流石は我が魂の妹である。

「声に合う湯着とか良いよな。やっぱりシチュエーションにあった服選びは大切だ。女性の場合だと冷えは大敵だから、濡れても良い素材と濡れた時に視覚と着心地を両天秤にかけないといけなくて……」
「ねぇこれ、クロお兄ちゃんもうハッキリと起きてない?」
「ククク……そして相変わらずズレてるね、クロは」

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