追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

胸に対する殺意(:淡黄)


View.クリームヒルト


「ええと……ごめんなさい……クリームちゃん……下敷きにしちゃって……痛く……なかった……?」
「あはは、良いよ良いよ。むしろ服越しでも分かるナイス弾力だったよ、若いって良いね!」
「う……というか一つ違いだよ……!」
「一つ違いであんなに大きいのか……温泉でも思ったけど、着痩せはするし、張りはあるし綺麗な形……うん、揉んで良い? 出来れば直接」
「だ……駄目……! というかなんで……!?」
「ほら、揉めば大きくなるって言うじゃない? だから揉めば私のひんそーな身体もフューシャちゃんみたいに近付けるかなーって」
「それって……揉むんじゃなくって……揉まれたらだから……私の……揉んでも……意味なくない……?」
「おお、確かに!? でもなんか大きいの揉んだら御利益ありそうじゃない? そういった加護とか受けそうじゃない?」
「なんとなく……分かるけど……でも……」
「でも?」
「私は……揉まなくても勝手に……大きくなったし……というか……あの大きくなる胸の痛みを……思うと……胸に対する……殺意を思い出す……から……御利益あっても揉ませない……!」
「お、おお。結構言うね。まぁでもなんか腹立つよね、あの痛み」

 私にラッキースケベイして謝るフューシャちゃん。
 シキでは一応身分を隠しているので、エフちゃん状態の色々な魔法が施してある服装だ。とはいえ最近だと周囲に誰も居なければ顔を隠していないのだが、今はフードを被って顔を隠している。なんというか顔は分かるのだけど、どういう顔が分からない、というような状態だ。 フードで顔を隠しているのは身分を隠しているのもあるけれど、手で引っ張り深く被っている辺り、先程私にヴァイオレットちゃん以上の大きさのモノでアタックしたラッキースケベイが恥ずかしいのだろう。胸元も抑えているし。……いや、それは私のセクハラが原因か。
 ……というか今更だけど、女同士だと先程の事はラッキースケベイで良いのだろうか。……まぁ良いや、なるという事にしておこう。

「ところで、ここになにをしに来たの? 独り……だよね?」

 軽く周囲を見渡し、フューシャちゃんの他に誰も居ない事を確認する。
 開けた場所で、周囲に障害物と言えるモノは、少し離れた位置にある廃材くらいだ。多分火事で燃えたモノとかを一時的に置いているのだろう。
 ともかくそこにも人気は無いので、フューシャちゃんは独りという事になるのだけど……。

「……ちょっと……独りになりたくて……」

 そのように言うフューシャちゃんは、なんだか最初に会った頃のような距離を開いた状態で呟いた。
 私的にはいつも一緒に居るティー君が居ないのはありがたいし、物理的に距離が離れているのも、汚い私の傍にフューシャちゃんという純粋な子が近寄らなくて助かりはするけれど。
 ……どちらにしろ、私を追いかけて来たとかそんなんじゃなくて良かった。

「なにかあった?」

 私はフューシャちゃんの方を向かずにそう呟くように聞いてみた。
 明らかになにかあった様子であるし、精神状態も沈んでいる。私にも分かるのだから相当だ。
 これがメアリーちゃんや黒兄辺りだったらもう少し違う聞き方をしたかもしれないが、私はメアリーちゃんや黒兄じゃないので別に良いだろう。
 だけど……まぁ、王族であるフューシャちゃんと話す機会なんてもう今後は無いかもしれないし、少しくらいの会話は良いだろう。

「…………」
「独り言をつぶやきたいならどうぞー。それに対してなにか答えが返って来るかもしれないよ?」
「…………」

 む、これは結構落ち込み具合が酷いようだ。
 私の人生経験(※漫画とゲーム)で得た、それっぽい台詞を呟いてみたのだが反応なし。大抵はこれで話し始めたりするんだけど。
 ……ま、メアリーちゃんみたいにはいかないか。同じように借り物の台詞でも、使い方が違うのだろうし、私とは大違いだ。

「……私……やっぱり怖い……」

 と思っていると、フューシャちゃんがポツリと喋り始めた。
 良かった。少なくとも感情を話してくれる位には私を信用――いや、話すほど追い詰められているのだろう。

「怖いって?」
「私……今日……色んな人に……!」

 フューシャちゃんはいつものようなゆっくりとした口調で、自分が怖いと思った事……今日の事を話し始めた。
 姉であるスカーレット殿下やグリーンさん、そしてシルバ君が倒れた時に自分なりになにか出来る事をやろうと思い、手伝いをしていた事。
 しかしその後謎の魔法で皆と離れ離れになり、なんとかレモンさんとは合流したがその後にクーデター組に囲まれた事。
 そしてその際に、フューシャちゃんを守るレモンさんを無視して特攻してきたのだが、その特攻が全て失敗に終わったそうだ。
 魔法を唱えれば暴発し。
 武器を振るえば届く前に壊れ。
 腕は折れ。足は砕け。目は潰れ。鼓膜は破れ。靭帯は切れ。顔面は拉げた。
 それらが全て偶然近くにあった石だの窪みだの残骸だので、フューシャちゃんの周囲の物が偶然フューシャちゃんを狙う相手に、危害を加えようとした瞬間にフューシャちゃんにとってプラスの方面に働いた。

「皆が……私を見て……恨みがましそうに……」

 そして倒れた者達は、まるで最後の力を振り絞ったかと言うように、呪詛を吐くようにフューシャちゃんに言葉を投げかけたそうだ。
 お前のせいだ。
 お前が居るから私は死ぬんだ。
 お前が生き残るために俺達は死ぬんだ。
 それでお前は満足か。
 お前は自分が良ければそれで良い女なんだから。
 そんな、第三者から見たらなにを言っているんだと言わんばかりの言葉をフューシャちゃんにぶつけた。

「私……私が……!」

 だけどフューシャちゃんにとってはそれは正に呪いの言葉だった。
 他の人にとっては違うとしても、幸運に愛され過ぎたと称されるフューシャちゃんにとっての恐怖の言葉。
 そして今まで何度も言われていて、忘れようとしていた言葉でもある。

――実際には直接言われた訳じゃないんだろうけど。

 それらは似た台詞はあったとしても、陰で言われただけだったり、被害妄想も含めてもあったりするのだろう。
 
――……けど、それも含めて今回の件はその台詞を言った感じがあるな……

 フューシャちゃんが苦しむ事を分かった上で言われた言葉と状況。場合によってはその前の一連の“幸運”すらも計算に入れられているような気もする。
 とはいえ、これは私のカンだけどね。

「私……私は……」
「…………」

 さて、なんと声をかけようか。フューシャちゃんの顔は見えないが、声と仕草からして涙をためているのだろう。
 とはいえどういう意味の言葉をかけるかは決まっている。
 グレイ君と一緒にフューシャちゃんを温泉に誘ったように、前向きな、あるいは気にさせないような言葉を言えば良い。
 運なんて勘違いだ、とか。
 別にその言葉を言う相手に好かれたくて生きているんじゃないんでしょ、とか。
 分かってくれる人は分かってくれている、とか。

――そう、私にとっての黒兄みたいに言えば……

 黒兄みたいに言って、私は……

「ねぇ、フューシャちゃん。私さ、前世の記憶があるんだ」

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