追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

違和感(:紺)


View.シアン


 あの後慌てて状況を上手く話さずにいたエメちゃんに対し、すぐ後に追いかけてきたイオちゃんやエフちゃんと共にエメちゃんの実家兼お店の薬屋、【エリクサー】に私達は駆け付けた。
 向かいながら状況を聞いたのだが、

「……私と……スカーレット姉様が……エメラルドちゃんの家に行ったら……グリーンさんが突然倒れて……スカーレット姉様が……近付いてなにかを……言おうとしたら……姉様も倒れて……」
「その後私とクロ殿が駆け付けた時のだが、エメラルドが状況を把握しようと診ているとつい先ほどシルバが店の前で倒れていた」
「お、同じ症状だったから全員に私の調合した薬を飲ませたら、皆血を吐いて、倒れて……!」

 と、いう事らしい。
 エメちゃんの処方した薬はあくまでも熱を抑えたり、睡眠作用を施すもので副作用を誘発するようなものは無かったらしい。
 間違っても内臓を傷付ける代物でないにも関わらず、全員が血を吐いた。その状況を見てエメちゃんは混乱し、アイボリーアイ君オーキッドオー君といった治療に長けた相手を探しに出たそうだ。
 だが両者とも見つからず、魔法に覚えがあるコットちゃんの家に来た所で私達と会ったそうだ。

「ヴァイオレットさん、戻りましたか――あ、シアン! 丁度よかった、診てくれ!」

 メアちゃんを探したいのも山々だが、シルバ君が居るというのも気になるしなによりも目の前の異常事態に対応したいという事でエメちゃんの家にヴァーミリオン君も含め駆け付けると、そこにはクロとレモンレモちゃんが居た。
 どうやらレモちゃんは異常を感知して駆け付けていたらしい。そして忍者的な観点から診ているようだ。

「容態は?」
「今は少し落ち着いている。さっきレモンさんがなにか食べさせて、全部吐かせたら落ち着いた」
「忍者印の丸薬と忍法腹圧式抜き手です」

 それってようは腹を殴って吐かせたという事では無いだろうか。

「ともかく、状態は良くは無いが、咳き込んだり血を吐く事は無くなった。だが治ってはいない。シアンは呪いの類の観点からスカーレット殿下を診てくれ」
「うん、分かった」
「ヴァーミリオン殿下もシルバの様子を確認お願いします。私よりシルバの魔力に詳しいでしょうから。エメラルド、フューシャ殿下。私達は清潔なタオルなどを用意しよう」
「……うん」
「あ、ああ、そうだな」
「そうだな。……クロ子爵。シルバが何故ここに居るかは分からないのか?」
「不明です。落ち着いてはいても、眠っていて話せる状況じゃありませんから」
「……そうか」

 クロに言われ私はレットちゃんの様子を確認する。ヴァーミリオン君はイオちゃんに言われて何故か居るシルバ君の様子を確認しに近寄った。

――レットちゃんの様子は……意識はあるようだね。

 光が辛いのか目を閉じており、頭が痛いのか自身の手を額に当て、汗を大量に掻いている。
 口元と服に血の吐いたような跡。触ると服越しでも全体的に体が熱いのが分かる。
 落ち着いてはいるが、状態は良くなく、命には関わらないが予断を許さない……と言った感じか。

「ごめんね、脱がすよ」
「ぅ……ん……」

 一応の了承を取り、上着をお腹の部分から捲くってお腹や胸を直接診る。
 現役冒険者であるが故の引き締まった身体でありながら、女性的な柔らかさもある綺麗な身体。

――呪いの紋章の類は……無い。

 そんな綺麗な身体には、呪いを示す様な紋章は無い。
 誰かを呪い、呪いの力を強めようとするには身体に直接紋章を刻む、あるいは浮かび上がるのが効率的だが紋章は調べた限りではない。

――魔力の流れに不審な点は……無し。

 次にレットちゃんの魔力に妙な流れが無いかを確認する。魔力に一時的な呪い的なモノなら解呪で直る。
 仮に呪いとして苦しみ続け、紋章が無いのなら魔力になにか異常な流れがあるはずだが、そのようなモノは感じられない。正常な魔力の流れである。

――そうなると、やっぱり病気の類……?

 魔法的な問題が無いのなら、やはり原因として考えられるのは突発的な病気。
 それが偶々レットちゃん達に起き、感染した可能性が高い。そうなると私達もなんらかの処置を施さないとマズいわけだが――

――違う。

 なにかが違う。
 誰も居なく、お風呂場には血のついた金髪があり、誰かが先程まで居たであろうというコットちゃんの家の状況。
 シルバ君がつい先ほどグリーンさん達と同じ症状で倒れており……

「ヴァーミリオン殿下、シルバはどうですか。魔力に変調などは?」
「いや、特に感じられないな。……ん? シルバはグリーン氏より血を多く吐いているのか、クロ子爵?」
「この中では一番多く吐いたかと」
「そうなると血が不足している可能性があるな。他に妙な所は――」

 ヴァーミリオン君の様子に意識を向け、シルバ君の状態を確認する。
 相変わらず特殊な魔力の流れが見えるが、変わった所は見えない。間違いなく本物のシルバ君だ。
 言霊魔法の影響……残り魔力のようなものも感じないし、操られていた形跡はなさそうだ。
 
――……シルバ君が血を一番多く吐いた。

 それは一番重症だから? 身体が一番小さいから?
 あるいは、直前に最も強く影響を……

「シアン、そっちはどうだ?」
「……ねぇ、クロ。さっきハクちゃんが来た時、なにか違和感があったんだよね」
「? あ、ああ。そうだが……何故今それを?」
「…………」
「シアン?」

 ハクちゃんが来た時にクロが感じた違和感。
 メアちゃんから遅れてコットちゃんの家に行くと、誰も居らず。
 家宅捜索で大量の血の痕跡を持つ穴だらけの制服が見つかり。

――エメちゃんの薬を飲んだら、血を吐いて倒れた。

 一番引っかかる所がこれだ。
 エメちゃんは年若いとは言え、間違いなく一級品の観察眼と薬師としての才能を有する女の子だ。
 仮に誤診をして誤った薬を処方したとしても、即座に血を吐くような薬を処方するなんて有り得ない。
 つまり別の要因が考えられる。例えば。

――この部屋自体、あるいは家全体に呪いの魔法がかけられている可能性がある。

「クロ、今すぐにここから皆を――」

 だから私達は今すぐこの場所を離れないと駄目だと伝えようとして。

「【■■■セドナ】」

 シルバ君の口から唱えられた魔法によって、その願いは叶わない事になった。







「さて、後はどうやって壊すかだが――ふふ、楽しみだ。……そして、つまらない」

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品