追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

変な予感と変な出来事(:紺)


View.シアン


「変じゃない?」
「変だな」

 念のために聖水を用意し、夜道で用心しながらもコットちゃんの家に辿り着いたのだが、私とヴァーミリオン君は同じ感想を抱いていた。
 コットちゃんの家の鍵は開いていたし、家に誰も居なかった。
 先程の夕食後にレイちゃんと帰った家主のコットちゃんもそうだが、先に来ているはずのメアちゃんやハクちゃんまで居ない。

「移動した可能性もあるが……」
「うん、なんというか……違和感があるんだよね」
「ああ。俺も始めて来たのだが、妙な感覚がある」

 そう言いながら私達は失礼と思いながらも、コットちゃんの家を調べる。
 掃除をしていたとレイちゃんに聞いていたのでいつもより片付いてはいるが……なんだろう、これ。なにか見逃してはいけないナニカがあるような感覚がある。

――ハクちゃんが嘘を……?

 いや、それは無いだろう。
 私の住む教会に目を逸らしたいような部屋があり、その部屋でクロ達が重要な話をしようとしていた時にハクちゃんが慌てて来てシルバ君の魔力が暴走したと言って部屋に来た。
 シルバ君の魔力暴走に関しては、本人や以前の会話などから特殊な魔力で上手く操れない時期があったと聞いていたので、それに関する事だと私は思った。
 それにハクちゃんを見た限りでは嘘を吐いているようにも思えなかったし、慌てぶりも間違いなく本当に慌てている様子であった。慌てているふりという風には思えなかった。
 だから暴走したというシルバ君が、暴走したか抑えられるかして別の所へ移動したというのが一番可能性が高いのだろうが……

――クロの様子も変だったしね……

 だが、クロの言葉も引っかかる。
 私には感じられなかったナニカをハクちゃんから感じ取っていたクロ。本人も何故そう思ったかは説明出来ないような感じであったが、あの時のクロの感じた違和感は、この状況と照らし合わせると無視してはいけない気がする。

「シスター・シアンはこの家を。俺は外を――と言いたいが、クロ子爵の言葉も気になるからな……だが……」

 どうやらそれはヴァーミリオン君も同じのようで、手分けして探す事を提案しようとしたが悩んでいるようだ。
 一緒にここを探して、なにもなければ外に行けば良いのかもしれないが、緊急事態とはいえ異性の家を家探しするのは気が引ける、と言う所か。

「一緒に調べよっか。そんなに広くないし、早めに調べて外で探そう」
「分かった」

 しかしジッとしているのも互いに性に合わないだろう。
 寝室とかお風呂場とかは優先的に私が調べるとして、比較的見られても大丈夫な所をヴァーミリオン君に任せて、互いにコットちゃんの家を調べるとしよう。
 寝室。作業場。倉庫。屋根裏部屋。
 一通りだけど簡易的に調べ周り、最後にお風呂場へと行く。

――お風呂場は……あれ、お湯を使っていた……?

 ヴァーミリオン君にはお風呂場の更衣場所を調べて貰い、私はお風呂場(浴槽は無い)を覗くと、明らかに先程まで誰かが使っていた形跡があった。
 地面や壁などに水の跡は無いが、空気中の湿気が先程まで誰かが使用していた事を物語っている。
 そして湿気を逃がすためにある、下の小窓の鍵が開いている。……私程度なら少し無理すれば出られるし、内側から出てそのままにしていた……?

――……排水口を調べてみよう。

 ふと嫌な予感がし、排水する場所を調べる。
 コットちゃんがよく仕入れている、なんだか浄化機能があるっぽい妙な紋章(紋章に意味はないらしい)が書かれている排水溝の蓋を取り、中を調べると……

――金髪に……血!?

 そこにあったのは、間違いなくコットちゃんの髪の毛ではない数本の長い金色の髪に、その髪にまとわりついていた血。色の付着具合からして真新しいモノだ。

――ここで取り押さえて、血が出て、窓から逃げた……?

 だがそうなると湿気や壁などのふき取ったかのような乾き具合の説明が出来ない。
 ……いや、今はこの状況の正解を探す事よりも、外に出てメアちゃん達を探す方が良いのではないだろうか。そう考えると、私は今すぐにヴァーミリオン君に知らせて外に出た方が良いと判断する。

「シスター・シアン、来てくれ!」

 私が立ちあがり、声をかけようとするよりも早くヴァーミリオン君が私を呼ぶ。
 私はそれにさらに嫌な予感がし、すぐに更衣室へと移動する。

「これって……もしかしてメアちゃんが着ていた制服!?」
「……恐らくな」

 ヴァーミリオン君が手にしていたのは、アゼリア学園平民用の白の女子用制服。先程までメアちゃんが着ていたモノでもある。そしてヴァーミリオン君が持っていたのはその制服の肩口から袖にかけての腕の部分であった。
 制服の腕部分には穴が複数開いており、挙句には白いはずの制服が赤く染まっている。明らかに異常を示す、血だと分かる赤色であった。

「ヴァーミリオン君、お風呂場には誰か使っていた形跡があって、そのまま外に逃げったっぽい」
「……楽観は出来ないな。この家をまだ調べたいが、後を追うとしよう」
「うん。でもヴァーミリオン君の体格的には抜け出すの無理だろうから、扉から出て回り込もうか」
「分かった」

 コットちゃんの家は一通り調べたし、誰かが隠れている気配もなかった。
 ならば小さな手掛かりがあるだろう、お風呂場の外から調べていく事にするとしよう。
 そう思い、私達は急いで外に出ようとすると――

「アプリコット、ここに居るか!!」
「え、エメちゃん!?」

 出ようと私達が扉の在る部屋に移動すると、突如エメラルドエメちゃんがノックも無しに家に上がり込んで来た。

「ど、どうしたのそんなに慌てて……」

 普段は冷静か毒に興奮するかのエメちゃんが今までにないほど慌てており、切羽詰まったかのように顔が青ざめている。

「シアン!? 良かった、すぐに来てくれ!」
「え、ちょっと!?」

 初めは私とヴァーミリオン君がここに居る事に疑問を抱いていたエメちゃんであったが、すぐに切り替えると私に近寄り腕を掴んで何処かに連れて行こうとする。
 その様子からのっぴきならない事は分かるのだが、事情の説明も無しにいきなり連れ去られても困ってしま――

「親父とスカーレット、それにシルバに私の薬を飲ませたら、皆、ち、血を吐いて倒れて、意識が混濁していて……! 助けてくれ!」

 だけどその言葉に、私達はエメちゃんの連れて行こうとする場所に行くと決めた。

――なにが起きているというの……!?

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