追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

幕間的なモノ:とある妹の所感(:涅)


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 幕間的なモノ:とある妹の所感ドレッドノート


「しかし、クリさんの料理の腕前は見事であったな」
「……ありがとうございますヴァイオレット義姉様。料理は趣味だったので……ですが、アプリコットさんや神父様方が料理がお上手で……」
「彼女らは貴族の専属料理担当となってもおかしくないからな……だが、物を運んだり切ったりする早さはクリさんの方が早かったではないか」
「……お父様達に料理をしているのを見られると怒られたので……素早く終わらす手段に長けているのです……」
「だが、正確で力のかけ方が上手い。是非見習いたいものだ」

 数々の異名や王国を将来支えるであろう皆様方と緊張する食事も終わり、片付けなどもその皆様方が行なうという恐れ多い食事会が終わった後。
 皆さんも解散しだし、教会もヒトがまばらになっていく中。私はクロ兄様と離れてシアンさんと後片付けをし、丁度独りになったタイミングでヴァイオレット義姉様に私は話していた。
 初めは明日の別れる日にマトモに会話をする機会があるかどうか分からないのと思い、挨拶をしたのだが気付けば雑談し、料理の話になっていた。
 本来貴族であれば、料理をする事自体はあまり褒められないのだけど、ヴァイオレット義姉様は褒めてくれるようだ。……多分彼女が学園に居た頃であれば話は別なのだろうけど。

「私も料理をするようにはなっているのだが、まだまだでな」
「……ヴァイオレット義姉様も充分にお上手かと。初めて一年未満とは思えません」
「ありがとう。クロ殿やグレイが教えてくれているし、なにより美味しいと言ってくれる。これ以上の上達方法はない」

 そのように言うヴァイオレット義姉様はてとも幸福そうであった。これがスミ姉様であれば「へっ」と内心で悪態をついただろうが、ヴァイオレット義姉様の場合は聞くこっちが照れる様な反応になってしまう。
 一瞬何故だろうかと思ったが、多分スミ姉様だと初々しさが足りないんだろうなと思う。

「……私が料理上手になったのもクロ兄様が力の制御を上手く出来て。料理をするのを認めてくれたお陰です。ある意味では同じクロ兄様のお陰ですね」
「力の制御?」
「……先程のクリームヒルトとの戦いを見れば分かると思うんですけど、私は力が強くて……上手く力が扱えなかった時があったんです」

 当時私が四歳の時。家の壁を殴ったら壁が貫通して壊れた時があった。皆は壁が脆かったとか思っていたけど、私とその場に居た従者だけは異常に気付いた。
 その従者は怖がってやめ、私自身も怖かったけどクロ兄様は気付いても怖がらずにいてくれた。

「……私が力強いのを知った上で、それでもクロ兄様は受け止めてくれて……」
「ほう。確かにクロ殿もクリさんは強いとは言っていたからな。純粋な力では同等……いや、今だと負けるかもしれないと評していたな。強くて自慢の妹だと言っていたよ」

 素晴らしき筋肉を誇るクロ兄様に褒められたやっほう!!
 ……落ち着こう。このテンションで話してはヴァイオレット義姉様にひかれてしまう。

「……そして本気で殴り合って、徐々に力の制御の仕方が分かったんです」
「クロ殿と本気で殴り合っていたのか……あの殿下オークも一発で蹴り飛ばしたクロ殿と……」

 殿下オークとはなんだろうか。
 気にはなるが、聞いたら聞いたで理解出来ない内容な気がするのは何故だろう。

「……ともかく、今の私が力を制御で来ているのも、興味を持った料理が出来ているのもクロ兄様のお陰なんです」
「成程。いやはや、良い話を聞けたよ。クロ殿は昔から相手を見て、それでいて優しかったんだな」

 ヴァイオレット義姉様は私が話すクロ兄様の昔話を聞いて嬉しそうに微笑んだ。
 ……ヴァイオレット義姉様は“今のクロ兄様”を好きで、過去は無理に詮索しないが別に知りたくない訳では無いとカラスバ兄様は言っていた。そして昔のエピソードを語ると、知らない一面を知る事が出来たのだと本当に嬉しそうにするという。今のヴァイオレット義姉様を見ていると、本当にそうなんだと実感できる。

「……ヴァイオレット義姉様は、クロ兄様の事大好きなんですね」
「む? そうだな」

 ここで真っ直ぐ言える辺りが強いと思うのだが、クロ兄様から真っ直ぐ言われると照れる辺りは本当に可愛いとも思う。

「……こんな事を言うのは失礼だと分かっているのですが、クロ兄様関連で一つよろしいでしょうか」
「構わないが?」

 彼女らを見ていると幸せになって欲しいと心から思うので、私は一つクロ兄様について思う事を言ってみた。

「……その、クロ兄様はヴァイオレット義姉様を大好きだと思います。ですから、浮気はしないでくださいね」
「当然する気はない。私がクロ殿以外となど……有り得ない」
「……はい、分かっています。ですが、例えばですが、嫉妬をさせるために浮気をにおわせるなどもおやめになった方が良いと思います。恐らくクロ兄様は浮気をから」
「……なんだと?」

 私の発言に、最初は学園生の頃の雰囲気に戻ったヴァイオレット義姉様であるが、次の私の発言には私の言っている事が分からないかのように聞き返した。

「……クロ兄様は浮気されたとして、浮気が事実だと知れば“自分が寂しい思いをさせた”や“彼女が選んだのなら”と言った感じに、相手を責める事はないでしょう。“自分が悪かった。だから別の男を選んだんだろう”。……そういうヒトなんです」
「……なんとなく、分かる気がする」
「……そして許した上で、興味を失うんです。怒ったりするのではなく、まるでどうでもよくなったように。それでいていつものように振舞うんです」
「…………」

 そこまで言ってふと思い出した事がある。
 いつか私はクリームヒルトを見た時に、クロ兄様を感じた事があった。
 真の妹と名乗った今のクリームヒルトとは違うが、学園に入学したばかりの頃の彼女はまさにクロ兄様と似ていると思った。
 表面上は明るく振舞っているが、内心では空虚感を感じる仮面を被っているような――

「忠告を感謝する、クリさん。浮気は有り得ないが、嫉妬をさせるために浮気をにおわせるような事もやめておこう」

 と、ヴァイオレット義姉様は最終的に先程までの学園の頃状態から戻ってから私の言葉を受け入れた。
 社交辞令で受け入れたふりをしたのではなく、恐らくヴァイオレット義姉様も私の妄言ではなく有り得る話だと思いはしたのだろう。……多分。

「ふふ、安心してくれ。クリさんの言葉を疑っている訳では無い」

 と、私が失礼な事を言って気分を害させたのではないかと不安に思っていると、そんな私の気持ちを見抜いたのか安心するように微笑んでくる。
 ぐっ……私の方が年上なのに、お姉さんみを感じてしまう。これが人妻の余裕というモノだろうか! ……うん、違うね。

「ようはクリさんは“クロ殿は誰かに期待をし過ぎないようにしている”という事なのだろう。今あるモノを、今ある様に必死に受け入れようとして、納得してしまう。そんな傾向にあると」

 ……成程、私はそう言いたかったのか。

「確かにクロ殿はそういった所があるからな。いくら嫉妬して欲しいからと言って、浮気はしないさ」
「……そうですか。数日程度の交流ですが、貴女がそうしない事は分かっていましたが、つい……」
「いや、分かっているさ。貴女がクロ殿や私を心配で言っている事はな。安心してくれ。私はクロ殿に“怒って貰えるような”家族になれるよう、“好きになって貰う”ように頑張るよ」
「……気付かれていましたか」
「なんの事かな?」

 どうやらヴァイオレット義姉様は私がなんとなく言いたかった事だけではなく、私が一番心配していた事も伝わっていたようだ。
 ……なんというか、私が学園を卒業して結婚しても、彼女のような余裕を持てる気がしないのは気のせいではあるまい。

「……では、私はそろそろ先程から寝て起きないブラウン君を家まで運びますので、私はこれで失礼します。失礼するよ、ブラウン君――よっ、と」
「むにゃ……それは本じゃなくってコンニャクだよグレイお兄ちゃん……」

 語りすぎたので私は若干に逃げるように、晩御飯の時から寝ていたブラウン君を彼の家の運ぶために彼を片腕で担ぐ。というか彼はなんの夢を見ているのだろう。

「う、うむ。ブラウンを運ぶのは構わないのだが……」
「……どうしました?」
「ブラウンは筋肉もあり身長も高い」
「……そうですね、意外と筋肉質で……八十キロぐらいでしょうか。着痩せするんですね」
「それでクリさんは片腕で担いでいるが……重く無いのか?」
「……ええ、彼くらいなら、片腕で運んで全力疾走も可能です。私の半分くらいですし」
「た、頼もしい限りだな。え、クリさんの半分……?」
「……あ、実際に運ぶ時は両腕で運ぶのでご安心を」
「そうか。……気をつけてな」
「……? はい。それでは」

 ヴァイオレット義姉様は私を不思議そうな……というよりは、クロ兄様の妹なんだな、的な視線で見ていたが何故だろうか。
 まぁ良いか。今は語りすぎて若干後悔している羞恥を誤魔化すために、さっさとこの場を離れるとしよう。

「半分とはまさか……クリさんは私の三倍以上あるという事なのか……? いや、まさかな……」

 そして教会から去る前に、ヴァイオレット義姉様はなにか気になる事を呟いた気がする。
 私の三分の一という事は……彼女の身長からして大分軽いが、大丈夫なのだろうか。





「……クロ殿はクリームヒルトと前世では血の繋がった兄妹。もしも根本が似ているとしたら……」

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